ポセイドン【良作】前作の欠点を修正した悪くないリメイク(ネタバレあり・感想・解説)

(2006年 アメリカ)
豪勢な見せ場の連続でディザスター映画としてはなかなか楽しめる作品。ただしドラマ要素が極限にまで削ぎ落されており、もはや誰が生き残ったのか、誰が死んだのかにすら関心が向かないレベルにまで到達しているので、傑作の類では断じてありません。その一方でオリジナルのまずかった点は修正されており、それなりに考えて作られていることは分かります。まぁ何とも不思議な味わいの映画です。

ポセイドン・アドベンチャー【凡作】作劇に古さを感じる
ポセイドン・アドベンチャー2【駄作】緊張感ゼロ

©Warner Bros.

あらすじ

航行中の豪華客船ポセイドン号は、突如現れた巨大津波に飲まれて転覆する。上下逆さまになりつつも浮かんでいる船内において、船長(アンドレ・ブラウアー)は全員がその場に留まり救助を待つよう指示するが、プロのギャンブラー ディラン(ジョシュ・ルーカス)は行動を起こさねば助からないと直感的に判断する。また、元NY市長で元消防士でもあるラムジー(カート・ラッセル)はディスコにいる娘ジェニファー(エミー・ロッサム)を探しに行こうとしており、二人に賛同する者達と共に脱出を図る。

スタッフ・キャスト

監督は『U・ボート』(1981年)のウォルフガング・ペーターゼン

1941年ドイツ出身。70年代より西ドイツのテレビ映画を手掛けるようになり、テレビ時代の上司からの誘いで監督した『U・ボート』(1981年)が非英語圏作品ながら監督賞を含むアカデミー賞6部門でノミネートされる高評価を獲得。

続いて製作費2700万ドルの大作『ネバー・エンディング・ストーリー』(1984年)を監督。これは巨大マーケットを持つハリウッドと、国策として映画を製作していたソ連以外の国の映画としては史上最大規模という勝負作だったのですが、全世界で1億ドルを稼ぐ大ヒットとなり、ペーターゼンはこの博打に勝ったのでした。

前任者の解雇により監督に就任したSFドラマ『第5惑星』(1984年)でハリウッド進出。前任者のフィルムを一切引き継がず、セットも新造するというこだわりで製作したのですが、これが製作費4000万ドルに対して1200万ドルしか稼げなかったことから、ペーターゼンは芸術家としてのこだわりを捨てるようになりました。

以降は『ザ・シークレット・サービス』(1993年)、『アウトブレイク』(1995年)、『エアフォース・ワン』(1997年)、『パーフェクト・ストーム』(2000年)、『トロイ』(2004年)と、この監督ならではという意匠の特にない娯楽作を連発するようになり、そのクセのない作風からハリウッドを代表する職人監督となりました。

1億6000万ドルをかけた本作を失敗させたくなかったワーナーは、その堅実な実績を買ってペーターゼンを監督に指名。しかしアメリカで6000万ドルしか稼げなかったことからペーターゼン二度目の大敗北となり、以降はハリウッドで仕事をしていません。

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『マイティ・ソー』(2011年)のマーク・プロトセヴィッチが脚色

1961年シカゴ出身の脚本家で、身長198cmという長身。ターセム・シン監督の『ザ・セル』(2000年)で脚光を浴び、『フレディvsジェイソン』(2003年)の脚本家の一人となって、フランチャイズものへの強さを示しました。

本作の後には小説『地球最後の男』(1958年)の三度目の映画化企画『アイ・アム・レジェンド』(2007年)、MCU第4弾『マイティ・ソー』(2011年)、韓国映画のリメイク『オールド・ボーイ』(2013年)などの脚本を手掛け、原作ものの翻案で実績をあげています。

『ステルス』(2005年)のジョシュ・ルーカスが主演

1971年アーカンソー出身。高校卒業後に俳優を目指してハリウッドに移り、イーサン・ホーク主演の『生きてこそ』(1993年)のアンサンブルキャストの一人として映画デビュー。

『ハルク』(2003年)で悪役タルボットを演じた辺りから大作で重要な役割を担うようになり、1億3500万ドルの製作費をかけた軍事アクション大作『ステルス』(2005年)と、1億6000万ドルをかけた本作『ポセイドン』(2006年)で主演を務めました。

ハルク、ステルス、ポセイドン…すべて失敗作として認識されている映画ですね。

ルーカス自身が悪かったのではなく、関わった大作がことごとく失敗作だったという不運もあるのですが、大コケ映画でよく見る顔ということになって、以降は露出のチャンスが激減。

『フォードvsフェラーリ』(2019年)の嫌味な会社幹部役で久しぶりにお見掛けした次第です。

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登場人物

ディランとジェームズ親子

  • ディラン・ジョーンズ(ジョシュ・ルーカス):プロのギャンブラーで、マギーをナンパした関係でマギーとコナーのジェームズ親子の保護者的な立場となる。オリジナルのスコット牧師(ジーン・ハックマン)に相当する人物だが、説教臭さはない。
  • マギー・ジェームズ(ジャシンダ・バレット):一人息子のコナーを育てるシングルマザー。それなりに苦労している様子のジェームズ親子がどういう経緯で豪華客船に乗り込んだのかは謎。ナンパされた関係でディランと親しくなる。オリジナルのスーザン・シェルビー(パメラ・スー・マーティン)に相当する人物。
  • コナー・ジェームズ(ジミー・ベネット):マギーの息子。オリジナルのロビン・シェルビー(エリック・シーア)に相当する人物だが、海や船には詳しくない。演じるジミー・ベネットは#MeToo運動が巻き起こった2017年に、女優アーシア・アルジェントからのセクハラを告発した人物。加害者が男性で被害者が女性という構図が圧倒的に多かったハリウッドのセクハラ告発で性別が逆転した事例だったことや、アーシア・アルジェントがハーヴェイ・ワインスタインからのセクハラ被害を訴えている側でもあったことから、彼の告発は物議を醸した。

ラムジー親子と娘の彼氏

  • ロバート・ラムジー(カート・ラッセル):元NY市長で、それ以前には消防隊員だったので災害への心得を持っている。NY市長は任期半ばで辞職したらしく、その失敗が原因で妻とは離婚。気晴らしのために娘ジェニファーとクルーズ旅行に出かけた。オリジナルのマイク・ロゴ(アーネスト・ボーグナイン)に相当する人物だが、文句よりも先に行動に出る良心的な性格に変更されている。
  • ジェニファー・ラムジー(エミー・ロッサム):ロバートの娘。彼氏のクリスチャンも乗船しており、親の目も憚らずイチャイチャするというデリカシーの無さを披露する。オリジナルのリンダ・ロゴ(ステラ・スティーヴンス)に相当する人物で、リンダはやたら足を露出していたが、ジェニファーはやたら胸の谷間を見せるおっぱい要因として大活躍する。演じるエミー・ロッサムは『ミスティック・リバー』(2003年)で惨殺されるショーン・ペンの娘役を演じたり、ローランド・エメリッヒ監督の『デイ・アフター・トゥモロー』(2004年)で大怪我をするヒロインを演じたりと、幸薄い役が多い。
  • クリスチャン(マイク・ヴォーゲル):ジェニファー・ラムジーの彼氏。婚約者というわけでもないクリスチャンがなぜラムジー親子の家族旅行に同行しているのかは謎。水泳が得意ということでオリジナルのベル・ローゼン(シェリー・ウィンタース)に相当する人物であり、リメイクにあたっての改変がもっとも大きかったキャラクター。

独り身同士ネルソンとエレナ

  • リチャード・ネルソン(リチャード・ドレイファス):高名な建築家。電話でゲイの恋人から別れ話を切り出され、投身自殺しようとしたところでポセイドン号が転覆し、おかしな話だが命拾いした。オリジナルのジェームズ・マーティン(レッド・バトンズ)に相当する人物だが、マーティンが親子以上に歳の離れたノニーと恋愛っぽくなって気持ち悪かったという反省を踏まえ、ネルソンはゲイなのでエレナとの関係に恋愛要素が入らないという改変が加えられている。これは良い改変。
  • エレナ・モラレス(ミア・マエストロ):病気の兄を見舞うためにNYへ行こうとしているが、渡航費用がないために乗組員マルコの船室に潜り込んでいる密航者。マルコを亡くした後には同じく独り身のネルソンと親しくなった。オリジナルのノニー・バリー(キャロル・リンレイ)に相当する人物。
  • マルコ・バレンタイン(フレディ・ロドリゲス)ポセイドン号乗務員で、船室にエレナを匿っている。転覆後には船長命令に背いてディランのパーティーの道案内を引き受けたが、このままでは共倒れという事態に陥ってネルソンに蹴落とされて死亡。オリジナルのエイカーズ(ロディ・マクドウォール)に相当する人物。

分からず屋の船長

  • ブラッドフォード船長(アンドレ・ブラウアー):ポセイドン号船長。オリジナルの船長(レスリー・ニールセン)に相当する人物だが、その場に留まるよう主張して主人公一団と対立することから、その他に船主やパーサーもこの人物に集約されていると思われる。演じるアンドレ・ブラウアーは『ミスト』(2007年)でも分からず屋の弁護士を演じており、偏屈なエグゼクティブを演じさせると実に様になる。
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感想

見応えのある娯楽作

本作は劇場公開時に見たはずなのですが、ほとんど内容を覚えていませんでした。

つい最近になってNetflixで見返したのですが、その際にはたまたま隣に座っていた小学2年生の息子がテレビの前からまったく動かなくなり、結局最後まで見て「面白かった!」と言った、そんな映画でした。

後述の通り人間ドラマやテーマ性といったものは省かれており、生存を祈りたくなるような登場人物もいないのでパニック映画としては未熟なのですが、そうは言っても1億6千万ドルをかけた大作であり、スペクタクルに長けたウォルフガング・ペーターゼンが監督しているので、確かに見応えがあります。

加えてドラマを省いたことの恩恵で展開が異様に速く、見せ場の連続で気付けばクライマックスという歯切れの良さもあって、これはこれで娯楽作の在り方としては合格だと思います。

子供の頃に本作に触れた人達にとっては、案外我々にとっての『コマンドー』(1985年)のような捉えられ方になるのかなと、息子の反応を見ていて思いました。成長したら「『ポセイドン』って失敗作と言われてるけど、あれは名作だぜ」とか熱弁をふるいそうです。

コマンドー【傑作】人間の心を持ったパワフルな男

コスパの良い見せ場

ハイライトの転覆シーンはより派手に、より残酷になっているし、水に襲われる、火に襲われる、足場が悪いという各種トラップは有効に機能しています。

上下逆さまになったセットはオリジナル以上の作り込み。特に凄かったのが豪華客船の吹き抜けを再現し、かつそれをひっくり返した巨大セットであり、その圧倒的な迫力、本物にしか見えない再現度の高さには驚きました。

吹き抜けセットは驚異の完成度
©Warner.Bros.

本作には1億6千万ドルもかかっていますが、キャメロンが『タイタニック』(1997年)を作るのに2億8600万ドルも使ったことを考えれば、むしろこの程度の金額に抑えられたと言えるほどであり、『U・ボート』(1981年)以来、金の使い方に長けたペーターゼン監督の手腕が活きています。

U・ボート(劇場公開版)_史上最高の潜水艦映画【8点/10点満点中】

人間ドラマはもう少し何とかならなかったのか

本作の最初のバージョンは123分であり、テストスクリーニングの結果を見て98分にまで短縮されました。カットされたフッテージの大半は転覆前のシーンであり、かつ、ファイナルカットの権限はウォルフガング・ペーターゼンが持っていたので、監督自身の意思で人間ドラマを削ぎ落としたということになります。

このドラスティックな決定には一長一短あって、映画のテンポを加速させてスペクタクルに特化したというメリットがある反面、心情的に馴染んでいないキャラクター達の生存劇に観客が関心を持ちづらいというデメリットも発生しています。

特に問題だったのは主人公ディラン(ジョシュ・ルーカス)が何者か判然としないままに圧倒的なスーパーマンぶりを発揮することであり、なぜ彼がここまで強いのかはよく分からないが、ともかくディランが動けば何とかなるという安心感はこの手の映画には不要でした。

また元消防士という経歴を持つ割にラムジー(カート・ラッセル)が運営側の事情を汲んでいない点も気になりました。転覆直後、船長は全員この場に留まるよう生存者全員に命令し、各自勝手な判断で家族を助けに戻らないようにと言います。

災害時においては至極まともな発言だと思うのですが、元消防士のラムジーが率先して船長の指示を無視し、娘を助けに行くから道を教えろとか言い出すのは、さすがにどうかと思いました。災害時の集団行動がいかに大事であるかを最も理解している人物のはずなんですが。

片やディランは正体不明なのに滅法頼りになり、片やラムジーは消防士らしい判断をしない。最低限の設定すら揺らいでいる状態はまずかったと思います。

またネルソン、エレナ、マルコの関係性は中途半端でしたね。ネルソンは、このままでは共倒れという状況に陥って泣く泣くマルコをエレベーターシャフトに蹴落として死なせます。その後に出会ったエレナと親しくなるのですが、よくよく話してみるとエレナはマルコの同乗者であるということが判明。

仕方なかったとは言え、ネルソンがマルコを死なせてしまったことをいつエレナに告白するんだろうかと思って見ていたのですが、最後まで触れず終いだったので、なぜあんな設定を置いたのかが分かりませんでした。

全部ひっくるめて「人間には墓場まで持っていく秘密がある」というドラマだったのなら、それはそれで究極のリアリティと言えなくもありませんが。

オリジナルの欠点は解消されている

とはいえ、私はオリジナルと比較して本作を腐す気はありません。

『ポセイドン・アドベンチャー』(1972年)の話も現在の目で見ると結構ボロボロで、結果から振り返ると偶然にも正解ルートを選んでいただけで、どの道を行くのかを選択する時点で論理的に答えを導いていたわけでもないという詰めの甘さや、パーティーを率いるスコット牧師(ジーン・ハックマン)の独善的な姿勢には肯定しがたいものがありました。

ポセイドン・アドベンチャー【凡作】作劇に古さを感じる

その点、本作ではオリジナルの欠点がきちんと解消されています。船底を目指し、プロペラシャフトから外に出るというゴールが示された後は、たったひとつの細いルートを辿るのみで、分岐した道から正解ルートを探るということをさせていません。

その結果パーティー内でのコンフリクトや、従わない者を無理やりにでも引っ張っていこうとする乱暴なリーダーシップは発生せず、全員が緩やかな協力関係で結束するというストレスフリーな構成になっています。

後半にて、それまでリーダーだったディランがコナー救助のため一時的にパーティーを離れても、メイン集団は依然として有効に機能し続けている点からも、リーダーシップに頼らない集団であることは明確です。

この切り口は現代的で面白かったと思います。

まとめ

この映画の評価はなかなか困難なものです。全体としてドラマ要素が欠けていることは間違いないが、オリジナルにあった欠点を解消するという工夫もなされており、そこには一定のインテリジェンスも感じます。

方向性としては見せ場偏重のバカ映画なのかもしれないが、細部にインテリジェンスも感じるので、バカと切って捨てることもできない不思議な映画であり、初見時にはあまり心に残らなかったものの、今はそこそこ気になる映画になっています。

≪ディザスター映画≫
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