ゴリラ【駄作】爆破はノワールをかき消す(ネタバレあり・感想・解説)

(1986年 アメリカ)
それなりにきちんとした犯罪ノワールの脚本を、どうやっても危機には陥らなさそうなシュワが台無しにした映画。加えてアクションのキレもなく、見るべきところのまったくない駄作となっています。

あらすじ

元FBI捜査官で、現在は田舎町の保安官職を務めるカミンスキーに、元同僚ハリーからマフィアへの潜入の依頼が入る。ハリーは同じく捜査官である息子を殺されたが、マフィアへの内通者がいるFBIでは捜査が進展しないため、カミンスキーを個人的に雇うことにしたのだった。公的機関のバックアップのない危険な潜入捜査にカミンスキーは乗り出す。

作品概要

シュワ映画らしからぬシブいスタッフ

  • ジョン・アーヴィン(監督):英国の伝説的なテレビドラマ『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』(1979年)でメイン監督を務め、『戦争の犬たち』(1980年)で映画監督デビュー。
  • ルチアーノ・ヴィンチェンゾーニ(原案):マカロニウエスタンの傑作『夕陽のガンマン』(1965年)と『続・夕陽のガンマン』(1966年)の脚本家
  • セルジオ・ドナティ(原案):マカロニウエスタンの傑作『ウエスタン』(1968年)の脚本家。また『夕陽のガンマン』にもノークレジットで参加。
  • ゲイリー・デヴォア(脚色):『戦争の犬たち』(1980年)の脚本家。
  • ノーマン・ウェクスラー(脚色):『セルピコ』(1973年)、『マンディンゴ』(1975年)、『サタデー・ナイト・フィーバー』(1977年)などのヒット作の脚本家。

ラウレンティスの資金繰りのための映画

本作のプロデューサーはディノ・デ・ラウレンティス。80年代半ばのラウレンティスは『トータル・リコール』の巨額の製作費を必要としていました。そこでシュワルツェネッガーと交わしていた出演契約に目を付け、旬のアクション俳優を使って手っ取り早く稼げるアクション映画を作り、その収益を『トータル・リコール』に充てようとしていました。

シュワはシュワで、ラウレンティスとの出演契約を早く解消したかったので、そもそも気乗りのしなかった本作への出演を承諾。実はシュワは『トータル・リコール』に出演したかったのですが、ラウレンティスから「お前は会計士に見えない」と言われて申し出を一蹴されたという経緯がありました。

しかし本作は期待されたほど稼げず、『トータル・リコール』という重荷に耐えかねてラウレンティスのプロダクションは倒産。オーストラリアに建造中だった巨大セットが放棄されたほどだったので、よほど突然の倒産だったのだろうと思います。これを機と見たシュワルツェネッガーはマリオ・カサールに働きかけて『トータル・リコール』の権利を取得させ、念願の企画への出演を叶えたのでした。

栄華を誇った大プロデューサーの没落と、これから映画界を征することになるアクションスターのキャリアが交錯したポイントに本作はあったのです。

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感想

毒を抜かれた犯罪ノワール

上記の「作品概要」にもある通り、資金調達が目的の映画だったのでスタッフ・キャストの誰も本気を出していないように見えました。「これは勝負作じゃないんだから映像作家としてのこだわりみたいなことは捨てろ。問題視されそうな暴力や性描写は入れるな。主人公を一般大衆から愛される人間にしろ」という指示がラウレンティスから下ってでもいたかのような作りなのです。

あらすじのみに着目すると、犯罪ノワールとしてはそれなりに筋が通っています。田舎町でくすぶっている主人公に大仕事の依頼が入り、危険な潜入捜査の中で美しい女性との出会いがあったり、執拗な詮索を受けて身バレしそうになったりと、このジャンルの構成要素が過不足なく整っており、さすがは名脚本家達の仕事だなと感じます。

ただしこの脚本を具体化するに当たっては刺激的な部分が徹底的に取り払われ、代わって無駄に派手な見せ場がくっつけられたことで全体のバランスが完全に崩れています。

まず主人公カミンスキーの設定ですが、かつてはニューヨークのFBI捜査官だったものの、少女暴行の容疑者を半殺しにした件で職を追われて田舎町の保安官職に辛うじて流れ着き、5年間もくすぶっています。奥さんの方は退屈な田舎生活に先に音を上げ、今ではすっかりキッチンドランカーです。

この設定から考えるに、法も正義も自分自身も信じられなくなり、妻からの叱責に耐えるふがいない主人公像がそこにあるべきだったのですが、冒頭での偽白バイ警官との大捕り物や、家庭で酔いつぶれた奥さんを優しく介抱する様を見ると、当のカミンスキーは今の仕事にもそれなりのやりがいを見出し、奥さんに対しても紳士的な接し方をする、まだまだ心に余裕のある人物にしか見えません。これでは、危険な潜入捜査を引き受けてまで表舞台へのカムバックを目指すという動機部分に繋がっていきません。

犯罪組織への潜入後にも、正義を信じられなくなった主人公が悪を演じる中で、次第に悪に飲み込まれていくような危うさもなければ、美女との刹那的な恋もありません。美女から勝手に惚れられはするが、こちらからは一切手を出さない風紀委員長ぶりはヤクザの世界にまったく馴染んでいませんでした。

無駄に派手な見せ場が全体をぶち壊す

そんなマイルドな人物描写とは対照的に、破壊は徹底して派手になされます。

潜入前のカミンスキーが自身の死を偽装する場面では、可燃物が大量に貯蔵された工場を派手に吹き飛ばします。これはこれで捜査対象であるマフィアが犯している罪以上の別問題が発生しないかと思うのですが、そんなことはおかまいなしなのです。

潜入に当たってはライバル組織のカジノを潰して、それを手土産にしようとするのですが、店内で派手に暴れるだけではなく、重機で店を潰すという徹底ぶり。そこまでやれるんなら潜入なんてめんどくさいことなどせず、ターゲットのマフィアを直接襲えばいいんじゃないのかと思うのですが、その辺の道理は通らないのです。

そんな感じなので潜入後にもハラハラなどせず、何か起こっても腕力で解決するんだろうなという妙な安心感が終始漂っています。そしてこの映画が愚かなのは、実際、腕力で解決してしまうということです。

潜入の意味を帳消しにするラストの殴り込み

この任務の依頼主であり、友人でもあるハリーを襲われたカミンスキーはブチ切れ、完全武装でマフィアの拠点に殴り込みをかけます。まずはでっかい車を運転してマフィアが管理する採石場を襲い、「危険だから近寄るな」と言われていたほどの拠点を無傷で滅ぼします。続いてマフィアの本拠地を襲うのですが、銃で武装したマフィア十数人を相手にたった一人で銃撃戦を繰り広げ、一発も被弾することなく敵を全滅させます。

そもそもは潜入捜査で内部から組織を瓦解させる計画だったはずですが、これだけ強いのなら最初から正面切ってぶつかっておけばよかったんじゃないのかと思います。これまでやってきたことを全部ひっくり返してしまうラストって一体どうなんだと感じました。

まとめ

犯罪ノワールとしての面白さはほぼ放棄されているし、爆破アクションとしては中途半端というまったくもって困った映画。見ることがほぼ無駄な内容なので、未見の方はこのまま一生見ないままでも大丈夫です。

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