【凡作】レッド・ドラゴン(2002年)_面白いが薄味(ネタバレあり・感想・解説)

サスペンス

(2002年 アメリカ)
トマス・ハリス著『レッド・ドラゴン』二度目の映画化。マイケル・マンが監督した最初の映画化企画『刑事グラハム/凍りついた欲望』(1986年)と比較すると刑事ものらしさが減少し、犯人側のドラマもしっくりとこないものになっているのですが、他方で娯楽作としてのテンポは整えられており、見やすさや面白さは向上しています。

あらすじ

1980年。FBI捜査官グレアム(エドワード・ノートン)は連続殺人事件の犯人であるハンニバル・レクター博士(アンソニー・ホプキンス)を逮捕する際に重傷を負い、FBIを退職した。3年後、元上司のジャック・クロフォード(ハーヴェイ・カイテル)から新たな連続殺人事件への捜査協力を要求される。

スタッフ・キャスト

監督は『ラッシュアワー』のブレット・ラトナー

1969年フロリダ州出身。ニューヨーク大学卒業後に多くのミュージックビデオを監督し、チャーリー・シーンとクリス・タッカーが共演したアクションコメディ『ランナウェイ』(1997年)で映画監督デビューしました。

翌年には、同じくクリス・タッカー主演のバディアクション『ラッシュアワー』(1998年)を監督し、3000万ドルという中規模予算ながらアメリカだけで1億4000万ドルを稼ぐ大ヒットとなり、その続編『ラッシュアワー2』(2000年)はさらにヒットしてトップディレクターの仲間入りをしました。

本作後には、ブライアン・シンガーが『スーパーマン/リターンズ』(2006年)を監督するために降板した穴を埋めた『X-MEN:ファイナル ディシジョン』(2006年)がアメリカで2億3400万ドルを稼ぐという、その時点でのシリーズ最高成績を出しました。

ただし2017年に複数人の女優からセクハラを訴えられ、以降は目立った活動がなくなりました。

脚色は『羊たちの沈黙』のテッド・タリー

1952年ノースカロライナ州出身。最初は劇作家として出てきた人物であり、『テラ・ノヴァ』は1983-1984年のオビー賞を受賞しました。その後に映画の脚本も手掛けるようになり、ハンニバル・レクターシリーズ第2作『羊たちの沈黙』の脚色でアカデミー脚色賞を受賞しました。

実は本作の映画化企画が立ち上げられた際、アンソニー・ホプキンスを始めとしてエドワード・ノートン、レイフ・ファインズらに出演を断られていたのですが、後にタリーの見事な脚色によって俳優達が納得し、出演を承諾されたという経緯があります。

豪華キャスト

  • エドワード・ノートン(グレアム捜査官):1969年ボストン出身。イェール大で天文学や歴史を学んだ秀才ながらも、後に俳優を目指し、『真実の行方』(1996年)でアカデミー助演男優賞ノミネート、『アメリカン・ヒストリーX』(1998年)でアカデミー主演男優賞ノミネートと、短期間で演技派としての評価を確立しました。ただしその名声とは裏腹に、今までのところアカデミー賞を受賞はしていません。
  • アンソニー・ホプキンス(ハンニバル・レクター):1937年ウェールズ出身。『羊たちの沈黙』(1991年)でアカデミー主演男優賞を受賞。また『日の名残り』(1993年)、『ニクソン』(1995年)、『アミスタッド』(1997年)と、90年代にはアカデミー賞ノミネートの常連でした。
  • レイフ・ファインズ(フランシス・ダラハイド):1962年イングランド出身。舞台から映画界に進出し、『シンドラーのリスト』(1993年)に『イングリッシュ・ペイシェント』(1996年)と、アカデミー賞作品の常連でした。また両作では自身も演技部門にノミネートされています。21世紀に入ると『ハリー・ポッター』シリーズのヴォルデモートや『007』シリーズのMなど大作を支える重要な脇役を演じるようになりました。
  • ハーヴェイ・カイテル(ジャック・クロフォード):1939年NY出身。初期は舞台で経験を積む一方、学生時代のマーティン・スコセッシと出会って映画にも出演するようになりました。新人監督には嗅覚が利くらしく、タランティーノ監督のデビュー作『レザボア・ドッグス』(1992年)に主演し、同作の成功に大きく貢献しました。
  • フィリップ・シーモア・ホフマン(フレディ・ラウンズ):1967年ニューヨーク州出身。ポール・トーマス・アンダーソン、トッド・ソロンズ、スパイク・リー、コーエン兄弟といった実力ある監督たちの作品に次々と出演し、『カポーティ』(2005年)でアカデミー主演男優賞受賞。また『ザ・マスター』(2012年)でヴェネツィア国際映画祭男優賞をホアキン・フェニックスと共に受賞しました。

感想

ブレット・ラトナーらしい安定感が魅力

同一原作の最初の映画化企画『刑事グラハム/凍りついた陰謀』(1986年・以下、「マイケル・マン版」)は細部の描写にこそ目を見張るものがあれど、ミステリー映画として全体の流れを作り損ねていて、よく出来てはいるが面白くないという状態となっていました。

そこに来て本作ですが、監督のブレット・ラトナーは娯楽作に精通しているだけあって、全体のテンポや山場を持って来るタイミングなどには小慣れたものがあり、面白さではマイケル・マン版を確実に上回っています。

加えて情報整理もうまくいっており、ちょっと複雑な部分のある物語なのですが、これを観客が理解しやすい形で提示できています。

ブレット・ラトナーは薄味のラーメン屋のような監督であり、映画評論家のてらさわホーク氏は、芸術家としてのこだわりが一切ない仕事ぶりを揶揄して「業者」などと呼んでいましたが、本作ではそんなラトナーの無個性ぶりが作品に良い影響を与えています。

『羊たちの沈黙』(1991年)のジョナサン・デミもそうでしたが、これといった強い演出スタイルを持たない監督の方が、ハンニバル・レクターシリーズはうまくコントロールできるのかもしれません。

マイケル・マンやリドリー・スコットといった強力な監督が関わった回こそが問題を抱える点からしても、そう思います。

レクター博士の圧倒的存在感

レクター博士を演じるのはご存知アンソニー・ホプキンス。

『羊たちの沈黙』(1991年)でホプキンスが演じたハンニバル・レクターは、AFIが発表した「アメリカ映画100年のヒーローと悪役ベスト100」でダースベイダーやノーマン・ベイツといった強敵を下して堂々1位を獲得しており、悪役として比類なき地位を築いています。

そんなホプキンスは本作でも堂々たる演技を披露。彼のレクター博士は完成されきっており、相変わらずの存在感とクセ者ぶりで楽しませてくれます。

実は今回のレクターは脇役であり、後半はダラハイド(レイフ・ファインズ)の物語となっていくのですが、それでも全編を見た後に印象に残っているのはレクター博士。このインパクトは凄いと思います。

グレアム捜査官の魅力が減衰

グレアムを演じているのは演技派エドワード・ノートンですが、なで肩のノートンには凄腕捜査官らしさがなく、マイケル・マン版には確実に存在していた刑事ものとしての魅力は減衰していました。

加えて、本作ではレクター逮捕時に精神を病んだという背景には言及されず、そのために捜査官と犯罪者の同一化という要素も失われています。演技派エドワード・ノートンをもってしてこそ、そうした要素も追えたはずなのに、これをオミットしたことは残念でした。

ダラハイドのドラマが弱まった

そしてマイケル・マン版ともっとも違うのが犯人ダラハイドの設定です。

マイケル・マン版のダラハイドは女性経験に乏しいブサメンで、恨み辛みから裕福な家庭の美人奥さんを狙うという実に分かりやすいキャラ造形がありました。

一方、本作でダラハイドを演じるのはレイフ・ファインズ。華のあるイケメンであるため、幸せな家庭を逆恨みするブサメン設定は通用しなくなりました。

そこで本作のダラハイドは少年期に祖母から受けた厳格な躾によって自己肯定感を持てなくなった孤独な中年男であり、『大いなる赤き竜と日をまとう女』(The Great Red Dragon Paintings)という絵画の影響から、殺人によって人間を超えた存在になろうとする異常者という設定となりました。

実に理解しづらいキャラ造形です。このためにダラハイドに係る物語全般が訴求力を失っており、突然全裸で悶え苦しんだり、水彩画を食べたりするという異常行動もインパクトより違和感が勝っていました。

凶行に及ぶラストも、マイケル・マン版では恋愛経験の少なさゆえに恋仲になった女性を信じ切ることができず、裏切られたと誤解してすべてをぶち壊してしまうという悲しい流れがあったのに対して、本作では祖母とレッド・ドラゴンの幻影を振り払うためにすべてを終わらせようとするという、分かったような分からんようなものになっています。

せっかく俳優のレベルは上がったのに、設定のまずさゆえにダラハイドのドラマは随分と見応えのないものになりました。 ただし原作準拠なのは本作の方。それだけマイケル・マンの脚色が優れていたということでしょうか。

≪ハンニバル・レクターシリーズ≫
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