【凡作】レッドプラネット_見た目はいいけど面白くない(ネタバレあり・感想・解説)

SF・ファンタジー
SF・ファンタジー

(2000年 アメリカ)
ビジュアルはなかなかかっこいいのだが、演出力不足のせいか連続活劇として盛り上がらない。また関心を持てるキャラクターもいないのでドラマとしての推進力にかけており、見所がないわけではないが、面白いとも言えない凡作に終わっている。

作品解説

『ミッション・トゥ・マーズ』との競合

本作の撮影は1999年8月から12月に行われたのだが、それとほぼ同時期に、ディズニーが同じく火星を舞台にしたアドベンチャー映画『ミッション・トゥ・マーズ』(2000年)を製作していた。

この頃のディズニーは企画の当たり屋状態で、ドリームワークスの『ディープ・インパクト』(1998年)に対してディズニーは『アルマゲドン』(1998年)、ドリームワークスの『アンツ』(1998年)に対してディズニーは『バグズ・ライフ』(1998年)と、他社とのバッティングが酷かった。

そんな中で本作もディズニーと被ってしまい、ロケ地まで同じという状況で、当初のタイトル”Mars”をミッション・トゥ・マーズとの混同を避けるために『レッドプラネット』に変更させられるなど、何かと割を食った。

また科学考証にこだわった作品ではあるのだが、宇宙飛行士が殺人をするという内容が問題視されて、NASAのロゴの使用を禁止されるというトラブルもあった。

興行的には大失敗

本作は2000年3月31日公開を予定していたのだが、6月16日に延期。その後さらに延期されて11月10日公開となった。

延期の理由は視覚効果に時間がかかったためだと説明されたのだが、2000年3月10日公開の『ミッション・トゥ・マーズ』とのバッティングを避けるためだったような気もする。

『ミッション・トゥ・マーズ』はそこそこ話題になって全世界で1億ドル以上稼いだのだが、作品評は最悪に近く、火星ものはヤバいという空気が出来上がった。

そんな中で公開された本作は苦戦を強いられ、全米初登場5位と低迷。

全米トータルグロスは1748万ドル、全世界でも3346万ドルしか稼げず、8000万ドルの製作費の回収すら夢のまた夢という大惨敗を喫した。

感想

ビジュアルはいいけど面白くない

DVDがリリースされた時に見て、その時には「悪評ほど悪くはない」と感じたものの、それ以降に一度も見返すことはなかったので、やはり面白くなかったのかなと思う。そんな映画。

Amazonプライムのもうすぐ配信終了コーナーに入ってたので20年ぶりの再見となったが、思いのほか面白くなかった。

21世紀、地球は滅びかけているため人類は火星テラフォーミング計画を進めており、数十年前に放った藻が光合成して大気が形成されつつあった。

しかし、ある時から大気中の酸素濃度が下がり始めたので、宇宙飛行士と民間の科学者がその調査のために火星に送り込まれるというのが、ざっくりとしたあらすじ。

ヴィレッジ・ロードショー・ピクチャーズ製作ということで、同社の代表作『マトリックス』(1999年)関係のスタッフが多く参加しており、メカデザインや衣装デザインなどはなかなかカッコイイ。

また科学考証にも拘っていて、無重力状態での炎の動きなどはリアルに作り込まれている。

監督はコマーシャル界出身で、カンヌでの受賞経験も持つアントニー・ホフマン。

当時は『コン・エアー』(1997年)のサイモン・ウエストや『リプレイスメント・キラー』(1998年)のアントワン・フークアなどコマーシャル界出身の監督が多くデビューしており、ホフマンは期待の大型新人という扱いだったようだ。

ホフマンの作り上げるビジュアルは確かに美しい。見てくれだけで言えばAクラスの作品と言える仕上がりであり、決して甘い作りの映画というわけではない。

では一体何が問題だったのかというと、連続活劇としての面白さを打ち出せていないことと、魅力的なキャラクターが不在であることではなかろうか。

宇宙船が火星に到着すると太陽フレアに襲われ、クルー達は機内からの緊急脱出を図る。ロクな準備もなく火星大気圏に突入した着陸船は峡谷に突っ込み、ほぼ墜落とも言える着地をする。

この通り危機また危機の連続なのだが、全く手に汗握らない。なぜこんなにもハラハラドキドキさせられないんだと不思議になるほど、感情を持っていかれない。

盛り上がらないサバイバル劇

火星の大地に放り出されたクルー達は、数十年前に建設されたまま放置された前哨基地を目指すのだが、その道中で早々にテレンス・スタンプが脱落。

それまでの言動からチームの精神的支柱になると思われたスタンプの脱落はサプライズとして仕掛けられた展開だと思うのだが、これまた特に驚きがない。

続いて副操縦士のベンジャミン・ブラットが仲間同士の諍いから谷間に突き落とされ、残ったのは機関士のヴァル・キルマー、民間研究者であるトム・サイズモア、予備要員のサイモン・ベイカーの3名だけとなる。

サバイバルの主軸を担うであろう宇宙飛行士が相次いで脱落し、その道の専門ではない3人が生き残るという展開によってサバイバルのハードルは高くなるのだが、こちらもまた「この先大丈夫なのか!?」という危機感が生まれてこない。

なぜこんなことになったのかというと、キャラクターの描写不足のせいだと思う。

冒頭にて各キャラのスペックや専門分野が駆け足で説明されるのだが、本当にそれだけで済ませている。チーム内での役割分担がさほど明確に描写にされないので、「彼が死ぬとこの機能を果たす者がいなくなる」ということが観客に伝わっていない。

そんな状態で人が死んだとしても、その影響がどの程度深刻なのかを観客が理解できなくなっているのである。

加えて、生き残って欲しいと思える人物が一人もいなかったことも辛かった。

ヴァル・キルマーは常に冷静なのはいいのだが、ボソボソと喋っているだけなので人間らしさをあまり感じない。直前に両想いになったトリニティの所に帰りたいという思いは持っているのだが、それが生存意欲に繋がっているようにも見えないし。

一方トム・サイズモアは饒舌な面白キャラではあるのだが、サバイバルのための知恵出しに参加せず文句ばかり言ってる感じなので、役立っている風には見えない。

キルマーとサイズモアは『ヒート』(1995年)に続く共演なのだが、本作撮影中に掴み合いの喧嘩になるほど揉めに揉めたらしい。

喧嘩に勝ったのはそのイカツイ見た目通りサイズモアだったのだが、「顔はやばいよ、ボディーにしな!」の三原じゅん子精神を継承し、キルマーの顔だけは殴らなかったらしい。妙に喧嘩慣れしてるっぽい点もさすがサイズモアである。

なおドキュメンタリー映画”Val”(2021年)では、本作の撮影現場で二人が仲良く俳優論について語り合っている場面が収録されているらしい。

殺人ロボットがラスボス ※ネタバレあり

ともかく生き残った3人は、かつてロシアが残したロケットを使って火星軌道上にいる宇宙船に戻ろうとする。

なのだが火星探査用として持って来ていたロボットが墜落の衝撃でおかしくなり、敵と認識した3人に襲い掛かってくる。

このロボット、元は軍事用だったのものを転用しており、誤ってサーチ&デストロイモードのスイッチが入ってしまったってことらしい。

なんで軍事モードをインストールしたままにしておいたんだろうかと、本作のエンジニアのうっかりさんぶりにはため息が出てしまう。

このロボットとの攻防戦がクライマックスとなるのだが、人類存亡の危機を背景にした壮大なSFとして始まった物語が、最終的に殺人ロボットとの戦いで終わるというガッカリ感は半端なかった。竜頭蛇尾とはこのことである。

『ハード・ターゲット』(1993年)『ヴァイラス』(1999年)のチャック・ファーラーが脚本を書いているので仕方ないか。

スポンサーリンク
公認会計士のB級洋画劇場