【良作】猿の惑星:創世記_人間より猿を応援したくなる(ネタバレあり・感想・解説)

SF・ファンタジー
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(2011年 アメリカ)
架空の戦記ものとしては破格の完成度を誇っている。猿達を組織化して人類に対抗しうる軍隊を作り上げる過程や、不意打ちで勝利を収めるという戦術など、シーザーの策士ぶりが最高だった。

作品解説

『猿の惑星 征服』のアップグレード版

『猿の惑星』(1968年)のリメイク企画『PLANET OF THE APES/猿の惑星』(2001年)は興行的に成功し、フォックスは続編の検討に入ったが、その一方でラジー賞2部門を受賞するなど作品評は悪く、最終的に続編はハイリスクと見做されて企画は立ち消えとなった。

2006年、『レリック』(1998年)の脚本家であるリック・ジャッファとアマンダ・シルヴァー夫妻が、新たな物語を思いつく。

彼らは、ペットとして飼育していたチンパンジーを持て余してしまった飼い主についての新聞記事から着想を得て、旧シリーズで革命を起こしたシーザーのオリジンストーリーを構築。その内容は『猿の惑星 征服』(1972年)のアップグレード版と言えるものだった。

完成した脚本は20世紀フォックスに買い取られ、フォックスは『ダイ・ハード4.0』(2007年)のマーク・ボンバックにリライトさせた。

監督にはキャスリーン・ビグローやロバート・ロドリゲスが検討されたが、有名監督のもとを転々とするうちに企画地獄状態に陥った『PLANET OF THE APES/猿の惑星』(2001年)の二の舞は避けたかったのか、最終的には新人監督が起用された。

ルパート・ワイアット監督は『DATSUGOKU~脱獄~』(2008年)がサンダンス映画祭で絶賛されたばかりの新人で、本作が監督2作目だった。

『DATSUGOKU~脱獄~』(2008年)はセガールのVシネっぽい邦題のせいで割を喰っているが、刑務所からの脱獄というオーソドックスなテーマを意表を突く構成で見せた大傑作なので、ぜひともご覧になっていただきたい。

感想

がんばれ!シーザー

実験動物として人間社会で酷い扱いを受けてきた猿達が、高度な知能を持つシーザー(アンディ・サーキス)の下に団結し、革命を成し遂げるまでの物語。

猿が主人公で人間が悪者という捻りこそ加わっているものの、基本的には抑圧からの蜂起という武装闘争ものの基本に忠実な物語ではあるので、燃えるアクション映画となっている。

前半のシーザーは不憫で仕方ない。

製薬会社の実験動物だった母猿から生まれたシーザーは、実験薬の影響で生まれながらに高度な知能を身に着けていた。

いろいろあって開発者ウィル(ジェームズ・フランコ)の家庭で育てられたシーザーは愛に満ちた少年期を送るのだけど、そのうち住宅地にはいられなくなって猿山に入れられる。

猿山の猿達は一応同属とはいえ、生まれてこの方人間としか接してこなかったシーザーにとっては衝撃的なまでに乱暴かつ不潔な連中で、一緒に居ることも苦痛。進学校のお坊ちゃんが、いきなり地方の工業高校に入れられたかのような状態となる。

最初は番長(チンパンジーのロケット)からのいじめを受けるシーザーだったが、下っ端たちをクッキーで買収したり、停学中の喧嘩番長(ゴリラのバック)を味方につけたりで猿山におけるプレゼンスを徐々に高めていき、最終的にはロケットとのタイマンに勝利して猿山のトップに立つ。

本作と同じ物語を描いた『猿の惑星/征服』(1972年)でもっとも不満を感じたのは、シーザーが猿を組織化するプロセスが割愛されていた点なんだけど、本作ではシーザーが猿山の頂点に立つまでの物語が丁寧に描写されているので、とても納得できた。

シーザーの最終目的はこの汚い猿山を脱出し、ゴールデンゲートブリッジの向こう側にあるセコイアの森に猿の国を作ることなんだけど、その実現のためには今の手勢だけでは不足。

そこでシーザーは自分を賢くした実験薬を盗んできて仲間たちの知能を高める、製薬会社や動物園にいる猿達を開放して兵力を増強するなど、人間に対抗しうる軍隊を作り始める。

このあたりの合理的な戦略にも燃えた。本作は戦記物としてよくできている。

ついに始まった反乱では、デジタルの威力に物言わせたド派手なアクションの連続で目を楽しませてくれるし、意表を突くシーザーの戦略や英雄的な自己犠牲なども織り込まれており、盛り上げどころもバッチリ。

とにかく燃えた。

製薬会社と主人公が阿呆すぎる

と、猿の物語としては非常に充実していたんだけど、相対的に人間側が馬鹿に見えていることは欠点だといえる。

事の発端はというと、アルツハイマー治療薬の開発をしていたジェネシス社が研究を途中で打ち切ったことなんだけど、その理由というのが、実験動物の猿が脱走してしまい、取締役会で暴れてしまったというもの。

開発の成果と実験動物の管理は本来別問題であり、実験動物が事故を起こしたとしても、試験薬自体に有用性が認められるのであれば開発を続けるべきなのに、それを混同して捉えているのだから、この会社の役員は愚かとしか言いようがない。

愚かと言えば研究を担当していたウィルも同じくで、会社でのプロジェクトを打ち切られたウィルは、なんと実験動物のシーザーを無断で家に持ち帰り、個人的に開発を継続しようとする。

もしも開発に成功しても知財絡みで会社から訴えられるのが関の山で、そんな方法で開発された薬品が世に出る可能性も低くなってしまう。もっと社会的に許容される方法で開発を継続すべきだったのに、考えが浅はかすぎる。

それはシーザーの管理方法も同じくで、賢いとは言え彼はチンパンジー。

住宅街のど真ん中で飼っていればそのうち問題を起こすに決まっているわけで、早いうちにシーザーの生育環境を整えるべきだったのに、それをしなかった。

その結果、最悪の形でシーザーと別れることとなり、その別れのショックが原因でシーザーが人間を見切って反乱を起こすに至るのだから、本件のかなりの部分はウィルの身勝手さと怠慢が引き起こしたことだといえる。

演じるジェームズ・フランコの魅力もあって観客から好感を抱かれる人物像にこそなっていたものの、よくよく考えるといらんことばかりする主人公だった。

そういえば、本作のプロットはレニー・ハーリン監督の『ディープ・ブルー』(1999年)とよく似ている。

同じくアルツハイマー治療薬の開発チームの話で、動物の脳を肥大化させたら逆に攻撃を受けましたという点も共通しているんだけど、『ディープ・ブルー』では開発者が悪者として描かれていた。

同じことをしたウィルが本作では善人側で描かれているのだけど、この構図にはさすがに無理があったように思う。

≪猿の惑星≫
【良作】猿の惑星_言論封殺の恐ろしさ
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【凡作】新・猿の惑星_猿が動物園の檻に入れられただけ
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【良作】最後の猿の惑星_戦争を起こすメカニズム
【良作】猿の惑星:創世記_人間より猿を応援したくなる
【傑作】猿の惑星:新世紀_戦闘と独裁のリアル
【凡作】猿の惑星:聖戦記_迷走するシーザーと脚本

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