(1998年 アメリカ)
ブライアン・デ・パルマによる大規模なポリティカルサスペンスだが、監督の個性なのか舞台のスケールをさほど生かせておらず、妙にこじんまりとした印象に収まっている。ただしミニマルな内容となったことで主人公のドラマが際立っており、これはこれで悪くない作品ではある。

感想
デ・パルマとパラマウントの3度目のコラボ作品。
前の2作が『アンタッチャブル』(1987年)と『ミッション:インポッシブル』(1996年)という大ヒット作だったものだからデ・パルマへの信任は厚く、7,300万ドルもの巨費を与えられた。
嵐の夜のアリーナで国防長官が暗殺され、地元警察のリック・サントーロ刑事(ニコラス・ケイジ)と、長官の警備責任者だったケヴィン・ダン中佐(ゲイリー・シニーズ)が、その対応に当たるというのがざっくりとしたあらすじ。
リック・サントーロ役には、過去にデ・パルマと組んだことのあるケヴィン・コスナーやトム・クルーズの起用も検討されていたが、最終的には監督の友人フランシス・フォード・コッポラの甥であるニコラス・ケイジに決まった。
そしてケヴィン・ダン役にはウィル・スミスがオファーされていた。
もしもニコラス・ケイジとウィル・スミスの共演が実現していれば激アツだったのだが、ギャラが折り合わずスミスはトニー・スコット監督の『エネミー・オブ・アメリカ』(1998年)への出演を選んだ。
ケヴィン・ダンでもうひとネタ。
テレビリポーター役でケヴィン・ダンという名前の俳優が出演しているので、撮影現場はちょいと混乱したらしい。
ある日には、リアルの方のケヴィン・ダンがホテルのペントハウスに通されて「何で脇役の俺がこんな扱いなんだ?」と不思議に思っていると、ここはケヴィン・ダン役のゲイリー・シニーズ様用に準備したお部屋でした、なんてこともあったらしい。
内容面ではデ・パルマの映像ギミック全開で、ファンならば楽しめる出来となっている。
冒頭20分の長回しに始まり(適宜合成を使っており、実際の長回しは12分らしいが)、テレビ中継室のモニターを利用したスプリットスクリーン、覗き目線を意識した俯瞰映像、迷宮を思わせるホテルの廊下等々、デ・パルマは全くの出し惜しみなし。
ただしこれらのギミックが物語に貢献しているとは言い難く、映画としての出来はイマイチだ。
まったく生かされない巨大アリーナという密室
その顔を一目見ただけで犯人だとわかってしまうゲイリー・シニーズ
合理性に欠ける暗殺計画(国防長官に接触する前の時点で女を殺していれば済んだ話では?)。
絶体絶命の主人公の前に”偶然”突っ込んできて、都合よく事態を収拾してしまう警察車両・・・
ただしこの映画、一人の男の物語として見ると非常に味わい深い。
主人公リック・サントーロは、刑事であるにも関わらずヤクザみたいな派手なシャツを着て街のチンピラから金をむしり取り、妻子持ちであるにも関わらず堂々と愛人を囲っている。
エリート軍人に出世した親友ダンからはその差を見せつけられるものの、「俺はこの街じゃ顔が利くんだぜ!」と虚勢を張り続ける。
そんなニコラス悪徳刑事だが、国防長官暗殺にあたっては人が変わったかのように真剣に捜査に取り組む。
それは正義や真実のためではなく、手の届かない存在となっていた親友ダンを助けてやれるチャンスが来たことを素直に喜んでいるからだろう。
暗殺直後、「どうしよう、責任者である俺の手落ちだ」と狼狽するダンに対して、「大丈夫、この現場は俺が仕切る」「取り調べで嘘はつくな。けど都合の悪いことも言うな」とアドバイスをするリック。
この辺りから気持ちよくなっていたのだろう。
大事件をきっかけに、人生に問題を抱えた主人公が再起を図る物語は80-90年代の定番だったが(『リーサル・ウェポン』、『ダイ・ハード』、『LAコンフィデンシャルetc…)、本作はそこに意地の悪いひと捻りを加えてくる。
主人公が守ろうとしているダンこそが黒幕だったのだ。
事件の真相を聞かされた際に「そんな話は聞きたくなかった」と嘆く様には切実なものがあった。
親友を救い、大事件を解決し、自尊心も取り戻し、みんなから賞賛されてチャンチャン
リックが目指していたのはこうした物語だったのだが、真相を聞かされた以上、もうその筋書きは選べない。
ダンの手に落ちたリックは壮絶な暴行を受ける。
またリックはダンから完全に舐められており、間抜けなリックなら暗殺時のアリバイ役として丁度いいし、もしも真相に気付かれても金でコントロールできるから問題ないと考えられていた。
ちょっと前までのリックがダンを助けたい一心で行動していたことを考えると報われない展開だ。
その後、事件解決したことでリックは一時的に街のヒーローになるのだが、過去の悪行を暴露されて最終的には刑務所送りとなる。もちろん家庭も崩壊。
タイトルの『スネークアイズ』とは「最悪の結果」「不運」「万事休す」という慣用表現であり、リックにとっては痛みしかない物語だったことを示しているのだろう。
エンドロール後、意味ありげに映し出される柱に埋まったルビーの指輪は、初回鑑賞時には何のことだかさっぱりだったが、二度目の鑑賞で、暗殺のカムフラージュ役だった赤いドレスの女がしていたものだったことが分かった。
序盤で意味ありげに登場しながら、中盤から突如姿を消した女は、実は殺され埋められていたということであり、事件の真相は100%表に出ていないことを暗示していると思われる。
DVDの裏には「ラスト、物語をひっくり返すヒントが!」みたいなことが書かれていたけど、そこまでたいそうなトリックでもないと思うが、とりあえずそういうことでした。

