【良作】スターシップ・トゥルーパーズ_戦争とアメリカを嘲笑した問題作(ネタバレあり・感想・解説)

クリーチャー・メカ
クリーチャー・メカ

(1997年 アメリカ)
人類とエイリアンの戦争を壮大なスケールで描いた面白いSFアクションなのですが、それだけにとどまらず国家がいかにして愛国心を育み、世論を戦争肯定へと導き、若者達を戦士に変えていくのかを描いた、社会派な側面もあります。見応え十分でした。

あらすじ

未来、地球連邦は軍役を果たした者のみに市民権が与えられる社会となっており、高校卒業を控えたリコ(キャスパー・ヴァン・ディーン)は、恋人カルメン(デニス・リチャーズ)からの勧めもあって起動歩兵隊への入隊を志願する。

入隊後のリコは厳しい訓練に耐えて分隊長を任されるほどに成長したが、実弾を用いた訓練中に死亡事故を起こしてしまい、除隊を決意する。

その直後、人類と一触即発の状態にあったバグズと呼ばれる昆虫型エイリアンの放った小惑星がリコの故郷であるブエノスアイレスを直撃し、都市は壊滅。復讐に燃えるリコは軍隊に戻り、バグズの母星への侵攻作戦に参加する。

スタッフ

監督はポール・バーホーベン

言わずと知れた大先生。性や暴力を扱った悪趣味映画をメインフィールドとしつつも、なぜかSFとの相性が良くて『ロボコップ』(1987年)や『トータル・リコール』(1990年)を大ヒットさせるという、他に類を見ない特性を持った監督です。

第二次世界大戦に兵士として参加した原作者のロバート・A・ハインラインに対して、少年期に一市民として第二次世界大戦を経験したバーホーベンは軍国主義を唾棄すべきものとして捉えており、もしハインラインが存命だったら激怒されるような、原作とは正反対のメッセージを掲げた作品に仕上げています。

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『ロボコップ』(1987年)のスタッフ再結集

バーホーベンを中心に、名作『ロボコップ』(1987年)のスタッフが本作で再結集しています。

  • ジョン・デイビソン(製作)
  • エド・ニューマイヤー(脚本)
  • ヨスト・バカーノ(撮影)
  • フィル・ティペット(VFX)
  • ベイジル・ポールドゥリス(音楽)

なお、プロムの場面でステージ上で歌っている青いドレスのシンガーは音楽を担当したベイジル・ポールドゥリスの娘さんだということです。

作品概要

原作『宇宙の戦士』(1959年)とは

アメリカのSF作家ロバート・A・ハインラインの代表作です。第二次世界大戦に従軍したハインライン自身の経験を元に書かれたSF小説であり、軍事教練を是とし、暴力を肯定するかのような内容が議論を呼びました。

映画化企画はこの小説のあらすじをほぼ踏襲しているのですが、極端に描くことでむしろ戦争を批判するという正反対の作品に仕立て上げた辺りが、さすがバーホーベンという感じです。

『機動戦士ガンダム』との関係

小説に登場するパワードスーツは多くの模倣を生み、ここからモビルスーツのアイデアが生まれて『機動戦士ガンダム』(1979年)へと繋がっていきました。

また内容面においても、『宇宙の戦士』は主人公が最後まで一兵卒に過ぎず、戦況に対して何の影響も与えないという点がSF小説としてはかなり斬新だったのですが、このアプローチは『機動戦士ガンダム』に引き継がれました。

主人公アムロはガンダムという最新鋭機に乗って各地で小規模な勝利こそ収めているが大勢には影響を与えておらず、ア・バオア・クーでも片隅でシャアと決闘しているだけという点が、『宇宙の戦士』っぽくありました。

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感想

つまらない前半部分は我慢

本作の構成は、バグズと呼ばれるエイリアンとの開戦前の前半部分と、開戦後の後半部分とに分けられるのですが、前半部分はとにかくつまらないので我慢が必要です。

主要登場人物を演じるキャスパー・ヴァン・ディーン(ジョニー・リコ役)、ディナ・メイヤー(ディジー・フローレス役)、デニス・リチャーズ(カルメン・イバネス役)はみなテレビドラマ『ビバリーヒルズ高校白書』への出演経験があり、ニール・パトリック・ハリス(カール・ジェンキンス役)はテレビドラマ『天才少年ドギー・ハウザー』の主演。

このキャスティングから察するに、バーホーベンは青春ドラマの俳優達が戦場での地獄巡りをする映画として全体を組み立てており、その主眼は後半にこそあったので、前半は捨て石同然のパートとなっています。

ここで描かれるのは高校生活を送る主人公達の日常であり、彼らはアメフトやプロムに興じており、描写は紋切り型で面白みがありません。監督が意図してそうしているのだから仕方ないのですが。

ここがつまらないからと言って、鑑賞をやめないようにしてください。後半は死ぬほど面白くなるので。

後半は見せ場の連続

バグズが隕石攻撃でブエノスアイレスを破壊したことから、人類とバグズは戦争状態へと突入。銀河系の反対側にあるバグズの母星から放たれた隕石が地球に届くまでに何億年かかるんだよというツッコミはさておき、ここから映画のテンションは急激に上がっていきます。

一度は除隊申請をしたリコが撤回を申し出る場面の熱さ、初めてバグズの大群とまみえる場面の緊張感、自己犠牲の場面のかっこよさなど、戦争映画のキモとなる演出の一つ一つが実に気持ちよく決まっていきます。そして見せ場はラストまで間断なく続き、飽きる暇がありません。

白眉は廃墟と化した前哨基地で分隊がバグズの大群に包囲される場面であり、ありったけの銃弾を敵にぶちこむ人間側に対して、同族の屍を乗り越えて進撃してくるバグズ達という構図は、まさに死闘の様相を呈していました。

殺すことでバグズが減るどころか、どんどん集まってきて敵の数が膨大になっていき、味方の救援が間に合わなければ全滅するしか道がないという逼迫感も見事なものでした。さらには救援が来るタイミングも素晴らしく、実に完成された見せ場となっていました。

驚くべき予見性

ブエノスアイレスへの攻撃が開戦の直接原因になったという点や、その後に起こる人類とバグズのどちらが先に手を出したのかという論争は、911とその後の対テロ戦争を予見したかのような内容となっています。

また、本作の軍隊は最新兵器を持っているにも関わらず、結局は生身の歩兵頼みで戦争しているという点には公開当時揶揄される向きもあったのですが、現実世界での対テロ戦争の経過を見ると、この展開はあながち間違いでもなかったと言えます。

現実のアメリカ軍は無人爆撃機や地中貫通爆弾を持っているものの、それらはだだっ広い荒野のどこに隠れているのか分からない敵に対しては有効ではなく、若い兵士を犠牲にしながら人海戦術で対応せざるを得ませんでした。

どれほど科学が進んでも、戦争とは人が戦うものでしかない。その真理を本作は見事に描けていたというわけです。

パロディだと分かりづらかったことが敗因

こんなに面白い映画であり、かつ、『タイタニック』(1997年)に次ぐ製作費をかけた勝負作だったにも関わらず、本作は劇場公開時には興行面でも批評面でも苦戦しました。

本作が広く受け入れられなかった原因は、パロディと分かりづらかったことにあるのではないでしょうか。

私は、スタンリー・キューブリック監督の『博士の異常な愛情』(1964年)が本作最大の類似作だと思っているのですが、それと比較すると本作の失敗はよく分かります。

戦争を真正面から取り扱った真面目な原作小説の存在や(片や『破滅への2時間』、片や『宇宙の戦士』)、監督がその内容をバカバカしく感じてアイロニカルなアプローチを試みた点で両作は共通しています。

ただし、キューブリックがはっきりとブラックコメディだと分かる演出を施したのに対して、バーホーベンは本気なのか冗談なのか分かりづらい演出を施しており、それが両作の評価の違いを決定的にしたと思います。

『博士の異常な愛情』が、一応はコメディではあるものの、その根底には現実世界の切実な問題が含まれており、笑って済ませられないという複雑な感覚を観客に与えて大成功したのに対して、本作については本物の大政翼賛映画だと思った人が多数いて、公開時の評価は否定的なものが目立ちました。

興味深いのは、バーホーベンは過去にもこういう失敗を犯した監督だということです。

『トータル・リコール』(1990年)はフィリップ・K・ディックの原作を脳筋映画に変えたとして公開時には批判が起こりました。SF的なアプローチがほぼ切り捨てられているじゃないかと。

しかし映画をよく見ると、前半部分でリコール社から提示されるサンプル画像には後半の舞台がほぼ含まれており、本編は「火星の青い空」というプログラムを見ている主人公ダグ・クエイドの脳内世界として構築されていることが分かります。ただし、その意図が観客に伝わっていなかったのです。

『トータル・リコール』の話に脱線してしまいましたが、バーホーベンの映画はメッセージ性を汲み取りながら見る必要があるので、ちょっと厄介だということです。本作についても、バーホーベンがなぜこんな描写にしているのかを考えながら鑑賞してください。

≪ポール・バーホーベン監督作品≫
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