【駄作】サドン・デス(1995年)_ヴァンダム版ダイ・ハード(ネタバレなし・感想・解説)

クライムアクション
クライムアクション

(1995年 アメリカ)
ヴァンダム版『ダイ・ハード』なのですが本家ほどの緻密さがなく、見ている間には疑問点が多数わいてきました。主人公がやることは何でもうまくいき、あまり強くない敵を大した苦労なく倒すという内容も面白みを欠いており、90年代に多数製作された『ダイ・ハード』(1988年)のエピゴーネンの中でも下層レベルの作品に終わっています。

©Universal Pictures

あらすじ

アイスホッケーの試合を開催中のアリーナにテロリストが現れ、観戦中の副大統領らを人質にとった。彼らの要求は6億ドルの資金が眠る口座の凍結解除であり、合衆国政府が要求を飲まない場合、アリーナを爆破して観客全員を殺すと脅迫する。

幼い娘エリーを人質に取られたスタジアムの消防責任者マッコード(ジャン=クロード・ヴァン・ダム)は、持ち前の知識を生かしてテロリストの計画の阻止に動く。

スタッフ・キャスト

監督は『カプリコン・1』のピーター・ハイアムズ

1941年NY出身。監督・脚本を兼任した刑事アクション『破壊!』(1974年)でデビューし、ポリティカルアクション『カプリコン・1』(1978年)が代表作。

監督、脚本の他に撮影までを兼任できる器用な人であり、並みの監督であれば作りようのなかった『2001年宇宙の旅』(1968年)の続編である『2010年』(1984年)を完成させ、それほどの駄作にもしなかったという実績を持っています。

その他、『エンド・オブ・デイズ』(1999年)や『サウンド・オブ・サンダー』(2004年)など、完成が危ぶまれるほど荒れた作品を、質はともかく一応は完成まで導くという点で重宝されてきました。

『タイムコップ』(1994年)で組んで以来、半ばヴァンダム御用達監督となっており、息子のジョン・ハイアムズ共々、『ユニバーサル・ソルジャー』(1992年)の続編2本に携わっています。

主演はジャン=クロード・ヴァン・ダム

1960年ブリュッセル出身で、1980年に全欧プロ空手選手権でミドル級王座を獲得した本物の格闘家でした。

チャック・ノリス主演の『地獄のヒーロー』(1984年)にスタントマンとして参加した縁でノリスのスパーリング・パートナーや奥さんのレストランの運転手などを務めました。

そして、ノリスの伝手でプロデューサーのメナハム・ゴーランに売り込みをかけて『ブラッドスポーツ』(1988年)の主演を獲得したという頑張り屋さんです。後の『エクスペンダブルズ2』(2012年)には師匠ノリスと一緒に出演しました。

作品解説

サドン・デスとは

直訳すると「突然死」という意味になるのですが、スポーツにおいては同点で試合が終了した場合の延長戦において、先に得点した方が勝利するという勝敗決定方法を指します。

「突然死亡」という直訳にも程があるタイトルの台湾版ポスター

「サドンヴィクトリー方式」や「ゴールデンゴール」、「ゴールデンスコア方式」などなど競技によって様々な呼称がありますが、次の1点が入った時点で試合終了という点ですべて共通しています。

なお、延長戦において先攻がゴールを決めても直後に後攻も決めれば勝利を阻止できるというルールはサドン・デスには該当しません。

本作においては、試合終了が起爆のきっかけになるという設定が置かれている中で、当該試合が延長戦に突入。次のゴールが入った時点でアリーナが爆破されるというサスペンス要素が意図されています。

スポーツのルールとしてのサドン・デスと、元来の意味である「突然死」のダブルミーニングになっているというわけです。

元はアクション映画のパロディだった

閉鎖空間での戦い、金目的のテロリスト、建物外部の警官隊と建物内部で孤軍奮闘する主人公etc…

本作はあまりにも『ダイ・ハード』(1988年)と似通っているのですが、それもそのはず、本来はアクション映画のパロディ企画でした。本作の脚本を執筆したジーン・クインターノは『ポリス・アカデミー』シリーズや『ローデット・ウェポン1』(1993年)で知られるコメディ脚本家であり、主人公がマスコットの着ぐるみと戦うという展開は、初期脚本の名残のようです。

ただし製作のどこかで真剣なアクション映画の企画に切り替わり、パロディのはずが本物のアクション映画になりました。その結果、やたらと既視感のある、パクリと言われても仕方のないほどの内容となったというわけです。

監督のピーター・ハイアムズも、あまりに『ダイ・ハード』に似通っていることから本作の監督には乗り気ではなかったのですが、前作『タイムコップ』(1994年)でも組んだジャン=クロード・ヴァン・ダムが主演に決まったことに伴い、この仕事を引き受けることにしました。

興行成績は低迷した

本作は1995年12月22日に全米公開されたのですが、初登場8位と低迷しました。その後も持ち直すことはなく3週目にしてトップ10圏外へとフェードアウトし、全米トータルグロスは2035万ドルにとどまりました。

これはヴァンダムとハイアムズの前作『タイムコップ』(1994年)の半分以下の金額であり、興行的には惨敗したと言えます。

世界マーケットではやや持ち直したものの、それでも全世界トータルグロスは6435万ドルであり、劇場の取り分や広告宣伝費を考慮すると、3500万ドルという製作費の回収は出来ていないものと思われます。

感想

焦点を絞り切れていないサスペンス・アクション

主人公のマッコード(ジャン=クロード・ヴァン・ダム)は警察関係者ではなく消防関係者であり、対するテロリストは試合終了と共にアリーナの爆破を計画。そしてマッコードはアリーナ中に仕掛けられた20個のC-4を解除するというあらすじになっています。ここから、テロリストvsマッコードの争点は時間内のC-4解除にあったものと考えられます。

そうであれば、試合終了までの残り時間はどの程度なのか、あと何個のC-4を解除しなければならないのかという点を強調すべきだったのですが、本編ではそうした数量的な情報が全くと言っていいほど整理されておらず、このあらすじから考えられる山場を作り損ねていました。

特に終盤は、延長戦に突入した試合でゴールが決まれば即爆破というギリギリの状況の下、マッコードによる解除が先か、試合上でのゴールが先かというサスペンスで引っ張るべきだったのに、どうにもこれを生かせていません。

主人公の設定がほぼ死んでいる

マッコードは戦闘員ではなく火災や爆発物のプロという設定になっているのだから、基本はステルス戦であるべきだったと思います。

すなわち『ザ・ロック』(1996年)『エグゼクティブ・デシジョン』(1996年)のように敵の監視網を掻い潜りながら爆弾を解除するという内容であるべきだったのに、マッコードは格闘も銃撃もプロの戦闘員以上にこなしてしまうスーパーマンなので、キャラクターの基本設定がほぼ埋没しています。

敵と正面切って渡り合えるほど強い主人公だと、サスペンス要素はほぼ機能しません。ここにアクション俳優ジャン=クロード・ヴァン・ダムを主演に迎えたことの弊害が現れています。

加えて、消防士時代に火災現場で少女を救えず現場からの引退に至ったというトラウマ設定が置かれているにも関わらず、この設定が本編に何らの影響も与えていない点も気になりました。

戦いの中でトラウマを克服するという定番の流れが作られておらず、だったらなぜこの設定を置いたのだろうかという状態になっています。

敵の設定が未整理

マッコードと対決することになるテロリストの設定も未整理でした。

彼らの目的は金の強奪ではなく、何らかの事情で政府に口座を凍結されて動かせなくなった資金6億ドルの流動化であり、そのために副大統領を人質にとって政府を恫喝します。

テロリスト側の動機に新奇性を求めたようですが、何だか直感的に分かり辛い目的だと感じました。

また、すでに6億ドルもの資金を持っているということは、その背後にはかなりの規模の組織がいると考えられるのですが、彼らの正体は最後まで不明。どうもCIA絡みっぽいのですが、最後までその素性は説明されません。

あえて説明を排することで脅威の度合いを高めたかったのかもしれませんが、一人一人の戦闘員がさほど有能ではないことや、組織としての長所が見当たらなかったことから、結局はさほど強い敵には見えませんでした。

こんなことならばアクション映画として通り一辺倒の説明をしておいて、観客に余計な疑問を抱かせないようにしておいた方が、全体の流れが良くなったのではないかと思います。

リーダー格の男(パワーズ・ブース)にしても、クレジット上はフォスという名がつけられているのですが、本編でその名前は一度も言及されません。

このフォスという男、普通のアクション映画のテロリストであれば脅し文句を言うだけでなかなか人質を殺さないところ、何となく重要人物っぽく登場した料理長とその奥さん、事態を引っ掻き回す要員っぽかった市長夫人などをアッサリと殺害するというあたりはなかなか見所があったのですが、まぁベラベラとよく喋って自分の手の内を晒すようなことをするので、トータルではさほど強いリーダーには見えませんでした。

敵方の設定・描写はほぼほぼ失敗していたと思います。

その他にもおかしな点

副大統領監禁はかなり早く明るみに出てアリーナの周辺をシークレットサービスや地元警察が包囲している状態であり、中盤では駐車場での派手な爆破までが起こるのに、アイスホッケーの試合が普通に行われているのはどうかと思いました。

百歩譲ってアリーナ内の観客や選手達は事件発生を知らないにしても、外部の状況を当然知りうるテレビ中継までが普通に実施されていることは変でしょ。ここには何か合理的な説明が欲しいところでした。

中盤にてテロリストから追い込まれたマッコードが選手に化けて試合に出場するという展開では、近くにいる他の選手達がその中身は選手本人ではないことに気付いていないのに対して、遠くから見ているテロリスト達があれをマッコードだと見抜くというおかしなことになっています。

テロリスト達の脱出方法は安直で、爆破直前のアリーナ上空に脱出用ヘリを来させるという予定だったようなのですが、警察が出動することも織り込んだ計画において、現場空域にヘリを自由に飛ばすことができるという前提がそもそも成立していません。

すべてにおいてユルい、当然詰めるべきことが詰められていない残念なアクション映画でした。 当時山ほど作られた『ダイ・ハード』(1988年)のエピゴーネンの中でも、かなり下の部類に入ると思います。

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