(1988年 アメリカ)
後の大脚本家フランク・ダラボンが手掛けたB級モンスター映画なのですが、ラストに向けて測ったように盛り上がっていく展開や、要所要所での小技の利かせ方等、フランク・ダラボンの資質の高さを知ることができる良作です。公開時には全くヒットしなかったのですが、このジャンルでは頭一つ抜けた完成度だと思います。

あらすじ
田舎町の森に隕石が落下した。隕石にはアメーバ状の生物が付着しており、たまたま現場にいたホームレスの腕にくっついて離れなくなった。不良少年ブライアン(ケヴィン・ディロン)がパニックに陥るホームレスを発見して病院へ運び込んだが、普段の素行から警察は彼を犯人だと疑い拘束する。その間に生物はホームレスを捕食し、巨大化していくのだった。
スタッフ・キャスト
大脚本家フランク・ダラボンの若い頃の作品
本作の脚本を書いたのはフランク・ダラボン。今やハリウッド一の脚本家であり、IMDBで不動のNo.1を誇る『ショーシャンクの空に』をはじめとして監督業でも成功を収めていますが、本作制作時点ではまだ20代後半であり、当時クレジットされていた唯一の作品は1987年の『エルム街の悪夢3 惨劇の館』でした。
ただしハリウッドでは脚本家としての実力を認められるようになった時期であり、本作前後にはジャンル映画の脚本家として『コマンドー2』(後の『ダイ・ハード』)、『ザ・フライ2 二世誕生』『ロケッティア』『フランケンシュタイン』などに関わりました。
またテレビシリーズ『インディ・ジョーンズ/若き日の大冒険』の脚本に参加したことからルーカスやスピルバーグとの関係も持つようになり、『プライベート・ライアン』にオマハビーチの場面を書き足しました。また、チャック・ラッセルが監督した『イレイザー』の脚本のリライトもしています。
共同脚本・監督はチャック・ラッセル
そんなダラボンの才能に一早く気付いたのは、本作の監督でもある一歳年上のチャック・ラッセルであり、1980年代中頃、まだ実績がなかった頃のダラボンに脚本のパートナーになって欲しいと持ち掛けました。
そしてモンスター映画のファンだった二人は本作の脚本を執筆したのですが、先に製作されたのは『エルム街の悪夢3 惨劇の館』(1987年)でした。
脚本を2週間でリライトせねばならないという厳しい現場を乗り切って『エルム街の悪夢3』が無事ヒットしたことから二人はスタジオに実力を認められ、本命だった本作の製作が開始されたという経緯があります。
出世していくダラボン同様に、ラッセルも90年代にはハリウッドの売れっ子監督になり、1994年の『マスク』と1996年の『イレイザー』が大ヒット。
『イレイザー』の脚本にはノークレジットでフランク・ダラボンも参加しています。21世紀に入ってからは、『ハムナプトラ2/黄金のピラミッド』のスピンオフでドウェイン・ジョンソンがロック様名義で出演した2002年の『スコーピオン・キング』以降、名前を聞かなくなっていたのですが、2016年にジョン・トラボルタ主演の『リベンジ・リスト』で突如復帰しました。
主演はマット・ディロンの弟
主人公の不良少年・ブライアンを演じるのはケヴィン・ディロン。マット・ディロンの弟です。マット・ディロンをケヴィン・ベーコンで薄めたような顔をしていますね。
本作以前には『プラトーン』に出ており、兄の威光もあって80年代半ばにはまぁまぁ注目されていた形跡はあるのですが、その後はパっとせず、『24-TWENTY FOUR-』シーズン2でキム・バウアーを騙して家に住まわせようとする森の異常者役で久しぶりにお見掛けして以降は、一体何をしてるんだか分かりません。
ゴールデン洋画劇場でのオンエアでは坂上忍が吹替をしていました。今回、録画テープを再見したのですが、坂上忍はめちゃくちゃ上手というわけでもないものの、違和感をおぼえるレベルでもありませんでした。このクォリティならタレント吹替も叩かれることはないと思うんですけどね、剛力彩芽さん。
ヒロイン役は『ソウ』シリーズのショウニー・スミス
勇ましくブロブと戦うメグ役には、本作撮影時点でまだ10代だったショウニー・スミス。本作の後には、マイケル・チミノ監督、ミッキー・ローク、アンソニー・ホプキンス共演という訳の分からん豪華メンバーのサスペンス『逃亡者』にアンソニー・ホプキンスの娘役で出演したのですが、後が続かず、以降は目立たない脇役ばかりとなりました。
しかし2004年からの『ソウ』シリーズでまさかの復活。同作の脚本家リー・ワネルがスミスの大ファンで、低予算のこの映画には出てもらえないだろうと思いつつも駄目もとでスミスに出演依頼をしたらOKをもらえたとのこと。
ファンだからこそワネルはスミスが演じるアマンダをどんどん大きな役柄にしていったのでした。

© Tri-Star Pictures
作品解説
『マックィーンの絶対の危機』(1958年)のリメイク
80年代中頃には、50年代のモンスター映画を当時の最先端技術と新解釈を用いてリメイクすることがちょっと流行っていました。本作もそんな中で製作された作品です。
- 蠅男の恐怖(1958年)→ザ・フライ(1986年)
- 惑星アドベンチャー スペース・モンスター襲来!(1953年)→スペースインベーダー(1986年)
- リトル・ショップ・オブ・ホラーズ(1960年)→リトル・ショップ・オブ・ホラーズ(1986年)
- ユニバーサル・モンスターズ→ドラキュリアン(1987年)
- 英国製怪奇映画→スペースバンパイア(1985年)
オリジナルの『絶対の危機』はスティーブ・マックィーンの初主演作ということでギリギリ映画史に名を残していますが、そうでなければまず顧みられることのないレベルのB級映画です。これは貶しているのではなく、ドライブインシアターで上映することが目的のお気楽なB級モンスター映画として作られた映画なので、しばらく消費されたらそれで終わりのつもりの映画でしかなかったのです。
しかし、フランク・ダラボンとチャック・ラッセルはこの『絶対の危機』を全力でブラッシュアップし、モンスター映画として奇跡的なレベルにまで引き上げています。
興行的には不調だった
本作は1988年8月5日に全米公開。フランク・ダラボンが脚本家としての持てるスキルをすべて投入した自信作であり、続編は自分で監督したいという思いもあったのですが、そんな思いとは裏腹に初登場8位という惨憺たるスタートでした。
なお、その週のトップ10がゴールデン洋画劇場のラインナップみたいで面白かったので、以下に書き出しておきます。
- カクテル
- ロジャー・ラビット
- ダイ・ハード
- 星の王子ニューヨークへ行く
- ワンダとダイヤと優しい奴ら
- ミッドナイト・ラン
- ビッグ
- ブロブ 宇宙からの不明物体
- ダーティハリー5
- レスキュー(日本では劇場未公開作)
本作の興行成績はその後も上向くことがなく、2週目にしてトップ10圏外へと弾き出されました。全米トータルグロスは824万ドルで1900万ドルの製作費にすら及ばず、完全に期待外れな結果に終わりました。
登場人物
高校生
- ブライアン(ケヴィン・ディロン):ヤンキーだがつるむ仲間はいない。ブロブに襲われたホームレスを発見した。バイクが趣味。頭は良く、街中が微生物対策チームにコロっと騙される中で、唯一彼らの嘘を見抜いた。
- メグ(ショウニー・スミス):高校のチアリーダー。初デートでポールの車に乗った際にホームレスをはねてしまったために、騒動に巻き込まれた。ブロブを見たと主張したが、当初は誰にも信じてもらえなかった。
- ポール(ドノヴァン・リーチ):高校のアメフト選手。メグとのデートの最中にはねたホームレスを病院へと連れて行ったが、その病院でブロブに襲われて死亡した。
街の人々
- フラン(キャンディ・クラーク):街の食堂のウェイトレス。ブライアンに親切に振る舞う数少ない人物。排水管からブロブが飛び出して来た際に、よりにもよって電話ボックスに入って逃げ場を失って死んだ。
- ミーカー牧師(デル・クローズ):フランが襲われた直後の現場を通りかかり、結晶化したブロブの一部を拾った。元は穏やかな人柄だったが、騒動で死にかけたショックからクライマックスでは人が変わったようになっていた。
- ハーヴ保安官(ジェフリー・デマン):街の保安官で、比較的話が分かる人物。フランに惚れている。
- ブリッグス保安官補(ポール・マクレーン):ハーヴ保安官の部下で、不良のブライアンを毛嫌いしている。ホームレスとポールがブロブに食われて行方不明になった際に、ブライアンを犯人だと決めつけた。演じているのは『ロボコップ』のエミール。
微生物対策班
- メドウス博士(ジョー・セネカ):隕石が運んでくる未知の微生物への対策班のリーダーだと名乗っているが、実際には誤って田舎町に落としてしまった生物兵器の回収と隠蔽に来た。市民に犠牲が出ても構わないと思っている。
感想
脚本ギミックのすごさ
ハリウッド最強の脚本家が関わっているだけあって、本作の脚本は細かいギミックが利いています。観客の先読みを逆手にとったり、完璧なタイミングでどんでん返しを炸裂させたりと、その華麗な技の数々には魅了されました。
主人公が途中で変わる
アメフト選手の爽やかイケメンが序盤をリードしており、彼が物語の主人公と見せかけているのですが、彼をかなり早いタイミングで退場させ、以降は街の誰からも相手にされていない不良少年が主人公になるという意外性のある展開を見せます。
『絶対の危機』の主人公は良い子タイプだったので、オリジナルを知る人ほど爽やかイケメンが主人公だと錯覚することを逆手にとっています。
また、これはヒッチコックが『サイコ』で用いた手法なのですが、モンスター映画でこれをやってみせたという点も、観客に対する不意討ちのひとつになっています。
伏線が利いている
冒頭、ブライアンは切れた橋をバイクで飛び越えようとするのですが、手前でビビッてスリップしました。この橋は中盤で再登場し、対策班の正体に気付いて逃げるブライアンと、追う対策班のチェイスの際に、今度のブライアンはこの橋を飛び越え、橋が切れているとは知らない対策班の車両は崖に落ちました。
また、序盤では映画館に向かう少年の上着のファスナーの滑りが悪いという何気ない場面が出てくるのですが、後半にて映画館が襲われる場面で、扉に挟まったこの上着をなかなか脱ぐことができずにハラハラさせられるという見せ場を作っています。
こうした小技の利かせ方もうまいなと感心させられました。そこいらのB級映画とは作りの丁寧さが違うなと。
ドンデン返しのさせ方が理想的
命からがらブロブから逃れたブライアンとメグはヘリや軍事車両を従えた政府の対策班に遭遇し、彼らは地球外の微生物に対応するためのチームだと名乗ります。
ここからブロブと人類の全面戦争かと思いきや、この対策班にも裏があって、ブロブを作り出したのは彼らだったことが判明します。実は「宇宙からの不明物体」ではなかったというオチが炸裂するのですが、このネタの明かし方が実によくできています。
ブロブを運んできた隕石を掘り起こすと、地中に埋まっていて今まで見えなかった部分が球体となっており、観客もブライアンも今まで隕石だと思っていたものが実は人工物だったことが分かるという、なかなかインパクトのある見せ方をしてくるのです。
ドンデン返しをセリフではなく視覚で決めてみせるというのは実に映画的な表現なのですが、その実、これができている作品というのはほとんどありません。
後半の畳みかけの凄さ
対策班がやってきた辺りから、映画はノンストップ状態となります。
対策班の指示の下で街中の住民が広場に集められるという規模の拡大のさせ方には否応なしに燃えるものがあったし、怪奇映画の雰囲気を残していた前半とのコントラストも利いています。加えて、対策班の正体に気付き孤軍奮闘するブライアンの物語と相まって、大きな流れを作り出します。
ブライアンと対策班が銃を突きつけ合って緊張が走り、そこに巨大化したブロブが割って入って群集を巻き込む大パニック映画に変容していくという燃える筋書き。
そんな中で意外な人物が大活躍するという捻りの加え方。そして爆破による決着と、後半の出血大サービスぶりには大満足でした。