【駄作】ボディガード_全員のメンタルがおかしい(ネタバレあり感想)

サスペンス・ホラー
サスペンス・ホラー

(1992年 アメリカ)
中学時代のゴールデン洋画劇場が初見なのですが、その時にはピンときませんでした。世界的な大ヒット作だし、自分の感性が合ってなかったんだろうなぁということでその時は処理したのですが、20年以上経って午後のロードショーで改めて見てみると、これがめちゃくちゃな映画だったことを認識しました。

©Warner Bros.

あらすじ

元シークレットサービスで、現在はフリーランスのボディガードであるフランク・ファーマー(ケヴィン・コスナー)の元に、人気歌手レイチェル・マロン(ホイットニー・ヒューストン)の警護の依頼が舞い込む。レイチェルの身辺では不審な事象が相次ぎ、殺害予告の手紙まで届いているという状況であり、フランクは急いで対策を取ろうとするが、当のレイチェルに危機感がなく、フランクは邪魔者扱いされる。

スタッフ・キャスト

監督は『ボルケーノ』のミック・ジャクソン

1943年イングランド出身。1970年代よりテレビの演出家として活動した後に、ゲイリー・オールドマンとデニス・ホッパーが出演した『理由なき発砲』(1989年)で映画監督デビュー。スティーヴ・マーティン主演の『L.A.ストーリー 恋が降る街』(1991年)を経て、本作の大ヒットで世界的な名声を得ました。

その後はトミー・リー・ジョーンズ主演のディザスター大作『ボルケーノ』(1997年)を監督したのですが、製作費9000万ドルに対して世界興収が1億2282万ドルと低調な結果に終わりました。

どんなジャンルでも堅実にこなす器用さこそあるものの、映画監督としては凡庸と言える人物であり、「この監督じゃなきゃダメ」と言わしめるほどの強烈な個性もないために、いつの間にかテレビ界に出戻っていました。

テレビ映画『テンプル・グランディン~自閉症とともに』(2010年)でプライムタイム・エミー賞演出監督賞受賞。

脚本は『帝国の逆襲』のローレンス・カスダン

1949年マイアミ出身。ミシガン大学卒業後には国語教師になろうとしていたのですが、職がなかったためにコピーライターとして広告代理店に入社しました。

1970年代より映画の脚本を書くようになり、製作中に急逝したベテラン脚本家リー・ブラケットのピンチヒッターとして参加した『スターウォーズ/帝国の逆襲』(1980年)が出世作となりました。

引き続きルーカスに起用された『レイダース/失われた聖櫃』(1981年)と『スターウォーズ/ジェダイの復讐』(1983年)も大ヒットしたことから一躍売れっ子脚本家となり、往年のノワールを思わせるサスペンス『白いドレスの女』(1981年)では監督デビューも果たしました。

売れていない頃からケビン・コスナーに注目しており、監督作『再会の時』(1983年)に起用したのですが、結果的にコスナーの出演シーン全カットという容赦のないことになりました。

ただしコスナーのスター性は確信していたようで、続く監督作『シルバラード』(1985年)では主要キャストの一人として起用。

また友人のブライアン・デ・パルマから『アンタッチャブル』(1987年)の主演として無名のコスナーを起用することへの不安を相談されたところ、彼は絶対に大物になるから大丈夫と答えたという逸話もあります。

主演はケビン・コスナー

1955年カリフォルニア州出身。高校時代には野球の全米代表に選ばれ、カリフォルニア州立大学フラトン校で経営学を学んだ後に、俳優の道に入りました。

長い下積みを経て映画への出演機会が徐々に増えていったのですが、『女優フランシス』(1982年)、『ワン・フロム・ザ・ハート』(1982年)、『再会の時』(1983年)と出演場面がことごとくカットされるという不遇を受けていました。

ただしハリウッド内での評判は年々増してきており、豪華キャストが出演する『アンタッチャブル』(1987年)の主人公エリオット・ネス役に抜擢されてブレイクしました。

その後は破竹の勢いで、監督デビュー作『ダンス・ウィズ・ウルブス』(1991年)ではアカデミー作品賞と監督賞を受賞、『JFK』(1991年)、『ロビン・フッド』(1991年)と出演する映画は軒並み大ヒット。90年代前半には世界最高のスターの一人となりました。

自ら製作も務めた『ウォーターワールド』(1995年)が、当時としては史上最高額の製作費を注ぎ込みながらもアレな出来だったことから残念なスターとして見られるようになり、その負けを取り戻すべく挑んだ監督・主演作『ポストマン』(1997年)の出来が輪をかけて悪かったことから、スターの座から転げ落ちました。

しばらく低迷が続いたのですが、『マン・オブ・スティール』(2012年)のジョナサン・ケント役や、『エージェント:ライアン』(2014年)のCIA高官役など、シブイ親父として復活しました。

作品解説

70年代から存在していた企画

本作の脚本を書いたのはローレンス・カスダン。1980年の『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』や1981年の『レイダース/失われた聖櫃』で有名な脚本家なのですが、この人がハリウッドから評価されるきっかけとなったのは、70年代に執筆した本作の原型となった脚本でした。

この脚本を買い取ったワーナーはスティーブ・マックィーンとダイアナ・ロスを主演に考えていたのですが、結局企画は流れて、15年後にようやくケビン・コスナーとホイットニー・ヒューストンのコンビで陽の目を見たのでした。なお、本作でケビン・コスナーが珍しく短髪にしているのは、マックィーンをイメージしたためです。

世界年間興行成績第2位

本作は1992年11月25日に全米公開されたのですが、初動は1661万ドルとめちゃくちゃ良かったわけでもなく、『ホーム・アローン2』(1992年)、『アラジン』(1992年)に敗れて初登場3位でした。

ただしその後の興行成績の落ち込みが少なく、10週に渡ってトップ10圏内に留まったことから全米トータルグロスは1億2194万ドルに及びました。

世界マーケットでは輪をかけて好調であり、全世界トータルグロスは4億1094万ドルという当時としては驚異的な金額に達しました。全世界年間興行成績ではディズニーの『アラジン』(1992年)に次ぐ第2位であり、『ホーム・アローン2』(1992年)、『氷の微笑』(1992年)、『リーサル・ウェポン3』(1992年)といった人気作を凌駕しました。

ケビン・コスナーは前年にも『ロビン・フッド』(1992年)で年間興収第2位を獲っており、まさにキャリアの絶頂期にあったと言えます。

感想

プロフェッショナリズムの欠片もないフランク

そんなビジネス面での大成功とは裏腹に、作品内容はかなり悲惨なものとなっています。まず気になるのは、ケビン・コスナー扮する主人公・フランクがやたら情緒的でプロらしくないという点です。

依頼主との色恋にすぐ発展しすぎ

死線をくぐり抜けるうちにフランクとレイチェルの間に連帯感が生まれ、いつしか恋愛に発展という筋書きは織り込み済だったのですが、かなり早い段階で二人が恋仲になるということは想定外でした。序盤でプロとは何ぞやとご高説を垂れていたのは一体何だったのかと。

感情の起伏激しすぎ

また、レイチェルとは結構すんなり夜を共にした割に、翌朝起きると「やっぱこういうのは良くないわ。プロに徹しなきゃ」とか言い出すし、困惑したレイチェルがフランクに焼きもちを妬かせたくてフランクの元同僚・ポートマンを当て馬に使うと、めちゃくちゃ機嫌を悪くしてたまたまパトロールルートにいたおっさんをボコボコに殴って八つ当たりするし、フランクの感情の起伏が激しすぎて付いて行けませんでした。

警護のことしか考えていない

あと、フランクの指示がめちゃくちゃなんですよね。危険だから予定されていた公演を全部キャンセルしろとか、主演女優賞と主題歌賞でノミネートされているアカデミー賞授賞式に出席するなとか、さすがにレイチェルがOKしようのない要求ばかりするわけです。

そりゃ外に出ずに引きこもっていれば外敵から襲われるリスクが軽減されるに決まってるのですが、それでは芸がありません。表舞台に出なければならない警護対象の安全をどう守るかという点にこそ、ボディガードの存在意義があると思うのですが。

情緒不安定にもほどがあるレイチェル

感情の起伏がおかしいという点では、ホイットニー・ヒューストン扮するレイチェルも負けてはいません。

最初はフランクの指示を完全無視。案の定、危険な目にあったところをフランクに救われると、今度はフランクにゾッコン・ラブになってグイグイ迫り始めます。えらい急ですなぁと思って見ていると、今度はフランクが「プロに徹しなきゃ」とめんどくさいことを言い出したので、レイチェルもフランクを遠ざけ始めます。

しかしまた脅迫電話がかかってきて怖くなったので、フランクの実家に匿われるという再度の蜜月に突入。その流れでクライマックスのアカデミー賞授賞式に入っていくのですが、会場の警護担当に対して「私はフランクに全幅の信頼を置いている」と言ったと思ったら、その次の場面にてステージ上で失態を犯すと、私を怖がらせたフランクのせいだと言い出します。フランクを頼りにしたり遠ざけたりを幾度となく繰り返すのでめんどくさくて仕方ありませんでした。

犯人の行動原理が不明 ※ネタバレあり

なぜレイチェルが執拗に命を狙われているのかというと、レイチェルの成功を妬んだ姉・ニッキーが酒場で偶然出会った男にレイチェルの殺害依頼をし、金も払ってしまったからだという理由が明かされます。今では殺害依頼を後悔しているが、相手の男の連絡先も知らないので止めようもないと。後に、殺害依頼を受けたのはフランクの元同僚のポートマンであったことが判明します。

ただし、このポートマンの行動原理がまったくの謎なんですよね。フランクの実家を襲撃した際にはレイチェルではなくニッキーを誤射して殺害してしまうんですが、雇い主であるニッキーを殺した後にもレイチェルを狙い続ける理由がないのです。そもそも、ニッキーには素性も連絡先も与えていなかったのだから、金だけ受け取って何もしないという選択肢もあったのに、なぜ真面目にレイチェル殺害計画を進めているのか。

例えばポートマンにもレイチェルに対する特別なファン心理のようなものがあって、レイチェルを逆恨みしていたという背景などがあればまだスッキリしたのですが、ポートマンに係る説明が少なすぎて、映画全体に説得力がなくなっています。

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