【凡作】ボーン・レガシー_シリーズで一番つまらない(ネタバレあり・感想・解説)

軍隊・エージェント
軍隊・エージェント

(2012年 アメリカ)
新主人公アーロン・クロスはポンコツという新機軸は興味深かったのだが、この設定をドラマや見せ場に繋げることには失敗している。CIAを上回る悪の組織を生かせなかったこともあって、いろいろと企画倒れ。シリーズ最低作だと思う。

作品解説

ギルロイ兄弟総出で製作

ジェイソン・ボーンシリーズは第三弾『ボーン・アルティメイタム』(2007年)で完結するはずだった。

しかし『アルティメイタム』が全世界で4億4410万ドルも稼ぎ、アカデミー賞を3部門も受賞するという、純然たるアクション映画としてはこれ以上ないほどの成功を収めたことから、ユニバーサルはシリーズを続けたくなった。

『アルティメイタム』のジョージ・ノルフィが脚本を書き、ポール・グリーングラス監督と主演のマット・デイモンも続投する計画で話を進めていたのだが、2008年12月にグリーングラスが降板し、その手腕に絶対の信頼を置くマット・デイモンも追従した。

ただし新作を作らないとオプション切れになるという事情もあって、ユニバーサルは続編を作る必要性に迫られており、3部作すべてを手掛けた脚本家トニー・ギルロイに任せることにした。

トニー・ギルロイはジョージ・クルーニー主演の『フィクサー』(2007年)で監督としてもデビュー済であり、当該作品でアカデミー監督賞にもノミネートされる高評価を獲得したことから、本作の監督も務めることに。

なのだが、シリーズに戻るつもりのなかったギルロイは、当初は何を作ればいいのか皆目見当も付かなかった。

同じく脚本家である兄ダン・ギルロイ(『リアル・スティール』、『ナイトクローラー』)も交えつつ2週間かけて基礎的な検討作業を行い、より大きな陰謀を背景とした新章を作り上げた。

また、アカデミー編集賞を受賞したシリーズだけあって編集マンも重要となるのだが、そのポジションにはダンの双子の兄弟であるジョン・ギルロイ(『パシフィック・リム』、『スーサイド・スクワッド』)を起用。

ギルロイ兄弟総出で製作に臨んだわけである。

その他の主要スタッフも、ボーンシリーズの常連からトニー・ギルロイ馴染みのメンツに変更した。

なお、撮影監督のロバート・エルスウィットは『007/トゥモロー・ネバー・ダイ』『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』も手掛けており、三大スパイシリーズ(筆者命名)を制覇したことになる。

興行的には並みレベルだった

7月下旬から8月上旬に公開されるというシリーズの通例に従い、本作は2012年8月8日に全米公開された。

同週公開の『俺たちスーパー・ポリティシャン めざせ下院議員!』や4週目に入った『ダークナイト・ライジング』を押さえて初登場1位を獲得。

全米トータルグロスは1億1320万ドルで、アクション大作としては並みレベルのヒットとなったが、前作の売上からは50%減だった。

全世界トータルグロスは2億7614万ドルで、こちらは前作から37%減だった。

感想

敵はCIAだけではなかった

本作は『ボーン・アルティメイタム』の裏側で起こっていた話である。

『アルティメイタム』は新聞記者にブラックブライアー作戦の暴露記事を書かれた上、はぐれ工作員のジェイソン・ボーンまでが動き出してCIAがてんやわんやする話だったが、その頃てんやわんやしていたのはCIAだけではなかった。

実はトレッドストーンやブラックブライアーの工作員を作っていたのは国家調査研究所という機関であり、彼らはCIAや陸軍に対する工作員の供給をおこなっていた。

その責任者はリック・バイヤー(エドワード・ノートン)という男なのだが、CIAがやらかしたヘマがこっちにまで飛び火するとかなわんということで、現在進めている作戦をいったん中止し、すべての証拠を隠滅しようとする。

『アルティメイタム』のレビューにて、トレッドストーン作戦のモデルはMKウルトラ作戦ではないかと書いたが、MKウルトラ作戦においても、発覚を恐れたCIAが証拠隠滅を図るということが実際にあった。

本作はその史実を踏まえているものと思われる。

ただしエドワード・ノートンが行う隠滅はかなり激しいもので、文書やデータの破棄に留まらず、作戦の成果物である工作員や実験に協力した科学者といった、生きた証拠の隠滅までを図る。

なのだが、工作員アーロン・クロス(ジェレミー・レナー)だけはノートンの虐殺を生き延びるというのが、本作の概要となる。

前作の後日談ではなく、同時進行で起こっていた物語という設定がまず面白い。ギルロイ兄弟はなかなかしゃれたことを考えてくれるものである。

なお、設定年代が分かりづらいので整理しておくと、本作は2004年に起こったことである。

『ボーン・アルティメイタム』(2007年)は『ボーン・スプレマシー』(2004年)の直後から始まるストーリーだったので、2004年に起こった出来事という設定だった。

で、本作はその『アルティメイタム』と同じ時点の話なので、これもまた2004年ということになる。引っかけ問題みたいなややこしい設定である。

そして国家調査研究所という機関は、CIA長官までがへいこらしてくるほどの強力な権限と実力を持った組織であるという設定も燃える。

『アルティメイタム』ではラスボス風だったCIA長官スコット・グレンが、本作では涙目でエドワード・ノートンに相談に来て、「CIAはどうしようもねぇなぁ」なんてなじられるわけである。

悟空とピッコロが2人がかりでようやく倒したラディッツに対し、ベジータとナッパが「情けないやつ」だの「弱虫」だの散々な評価をした時のような威圧を感じた。桁違いに強い敵が現れたという。

ただし、本編に入るとエドワード・ノートンが特段強力なわけでもないという肩透かしはあったが。フリだけは良かったんだが、肝心の中身が伴っていなかった。これではいけませんな。

工作員がほぼユニバーサル・ソルジャー

そして工作員達の設定だが、こちらはSFの領域に突入している。

オリジナル3部作の時点では、マインドコントロールを受けて凶暴さが増した殺し屋程度の扱いだったものが、本作では薬剤の投与により肉体と頭脳のレベルが高められているという設定となっている。

薬剤を摂取し続けなければ体を維持できない、定期的な医療チェックを受けている、番号で呼ばれるなど、その扱いは『ユニバーサル・ソルジャー』に出てくる改造人間と変わらない。

クライマックスに登場する殺し屋に至ってはLARX-03という名称で、その登場場面ではターミネーターのような演出を施されており、ほぼほぼ人間扱いをされていない。

もはや特殊工作員の領域を出ており、これはやりすぎ。逆に冷めた。

ならばこのLARX-03がターミネーターばりの強敵かというと、そういうわけでもない。最後はレイチェル・ワイズの蹴りで絶命するのだから、その活躍はこれまでのシリーズに登場した殺し屋達以下であった。

なお、LARX-03を演じるのは『プレデターズ』(2010年)でプレデター相手に真剣勝負を挑むヤクザを演じたルイ・オザワだが、本作では彼のスキルがほとんど生かされていない。これも残念だった。

フォレスト・ガンプな主人公

そして主人公アーロン・クロス(ジェレミー・レナー)の個性だが、差別化のためか、徹底してジェイソン・ボーンとは対照的な設定が与えられている。

  • 元はイラク戦争の志願兵だが、入隊試験にもパスしないほどIQが低かった
  • 少年院出身で、他に行き場がないので工作員になることを自ら志願
  • 何かしらをやらかしてアラスカの研修施設に戻されている

ちなみに米軍の採用基準がIQ85で、それより12低かったとのことなので、アーロンのIQは73。いわゆる境界知能というやつである。フォレスト・ガンプのIQが75なので、フォレストよりも2低いということになる。

この通り、本来はポンコツなんだが、肉体と頭脳の機能を高める薬剤の投与によって、特殊工作員に相応しいレベルが維持されているという設定となっている。

ニッキー・パーソンズをして「絶対に失敗を犯さない」と言わしめたジェイソン・ボーンとは対照的に、弱みを抱えた戦闘マシーンに設定されている点が興味深い。

なもんだから、その行動原理も稚拙。

被験体である彼の面倒を見てくれていた研究員のマルタ(レイチェル・ワイズ)に片思いしているのだが、彼女に危険が迫っていることを知って、その自宅へ救出にやってくる。好きだからが理由なのである。

それを受けたマルタは「窮地を救ってくれてありがとう。ところであなたは何?」という感じで戸惑いまくっている。

どうやら二人が会ったのは4年間でたったの13回で、採血をしたり数値を測定したりするだけの関係性だった。マルタからすれば、アーロンは知っている相手ではあるが、なぜ彼が助けに来たのかが分からない。

一般企業で言えば、数か月に一度顔を合わせる程度だった他部署の人が、ある日突然「一緒に帰ろう」とか「ごはんどうする?」とか言って馴れ馴れしくしてくるようなものである。これは戸惑って当然。

だから、アーロンが「死にたくないなら俺の言う通りにしろ」とカイル・リースばりの決め台詞を言っても、マルタの反応はイマイチ。

逃走中の車中でも二人の会話は噛み合わず、しびれを切らしたアーロンは「降りたければ降りろ」と言うのだが、マルタが本当に降りそうな感じになると「一人で奴らから逃げるのは無理だ」と言って粘る。

ヒーローらしい言動がことごとくスベるのが、アーロンという男なのである。

そして知能の低いアーロンが、研究者なので知能は高いマルタとタッグを組んで戦うということが本作のドラマ要素だったと思われる。

この通り、主人公に係る設定やドラマはなかなか興味深いのだが、それがうまく流れていたかと言われると、そうでもない。

やはり演じているのがホークアイことジェレミー・レナーなので、ヒーロー然としすぎている。フォレスト・ガンプ入ってる殺し屋に見えないのである。

また当時すでに41歳だったジェレミーでは、イノセントな役をやるには歳をとりすぎていたことも大きい。

もっと若く、アクションヒーローのイメージのない俳優であるべきだった。それこそ、『ボーン・アイデンティティ』に出演した当時のマット・デイモンのような。ジミー大西に似てるって言われてたしね。

アクションの質低下

そして物語は、特に知能面での弱みを抱えているアーロンが、その頭脳を向上させている薬剤がどうしても必要だとなり、フィリピンにある製薬工場へ向かうことに。

エドワード・ノートンとしても予測可能な場所だったため、そこには殺し屋LARX-03が待ち構えているというのがクライマックスとなるのだが、アクション演出の経験のなかったトニー・ギルロイ監督では、アクションの質がハッキリと低下していた。

格闘場面には達人同士の戦いという雰囲気がなく、アーロンもLARX-03もさほど強そうに見えない。

またジェイソン・ボーンのような洞察力や、周囲を見渡して逃走経路を見極めるような小技もないので、ただ逃げたり戦ったりしているだけ。

ポール・グリーングラス監督のような臨場感もなく、クライマックスのバイクチェイスなんて本当につまらなかった。

脚本家としてはともかく、監督としてトニー・ギルロイを起用したのは失敗だったと思う。

≪ジェイソン・ボーン シリーズ≫
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