【良作】ボーン・スプレマシー_ハードな弔い合戦(ネタバレあり・感想・解説)

軍隊・エージェント
Film Title: The Bourne Supremacy
軍隊・エージェント

(2004年 アメリカ)
恋人を殺されたボーンが弔い合戦を開始するという、シリーズ随一のハードボイルド編。かつての諜報スキルを行使するボーンの圧倒的手際と、それを追うCIAパメラ・ランディの攻防戦が激熱だし、物語の着地点も良かった。個人的にはシリーズでベスト。

作品解説

ポール・グリーングラスが新監督就任

もともと『ボーン・アイデンティティ』(2002年)に続編を製作する予定はなかったのだが、前作が興行的にも批評的にも成功を収めたことから、スタジオは続編を求めた。

しかし前作の監督ダグ・リーマンとプロデューサー陣との間には深い溝があり、双方が再結集を望まずリーマンが降板。とはいえスタジオはインディーズ監督の手腕が必要であることを認識していたようで、英国人監督ポール・グリーングラスが新監督に抜擢された。

グリーングラスはドキュメンタリー出身で、1998年に長編監督デビュー。1972年の血の日曜日事件をドキュメンタリーさながらの映像で再現した『ブラディ・サンデー』(2002年)でベルリン国際映画祭金熊賞を受賞した当時の俊英だった。

一方で脚本では前作のトニー・ギルロイが続投し、ロバート・ラドラム著『殺戮のオデッセイ』(1986年)を脚色した。

とはいえ、東西冷戦時代に執筆された『殺戮のオデッセイ』を21世紀に映画化するには不自然な部分も多々あって、脚色には苦労したらしい。ギルロイはその作業を再構築だったと述べている。

なのだが、とっくに崩壊していたソ連が存続していることになっているなど、ギルロイ版の脚本にも依然として理解に苦しむ点があり、グリーングラスは『L.A.コンフィデンシャル』(1998年)のブライアン・ヘルゲランドに書き直しを依頼した。

ヘルゲランド版の脚本は撮影開始5日前にスタジオに提出され、問題となったソ連に係る設定が改められたほか、インドでマリーを失う場面もギルロイの脚本から変更されている。

映画ではマリーは殺し屋キリルに狙撃されたが、ギルロイの脚本では運転を誤ってバスに衝突して死亡することになっていた。そして、怒り狂ったボーンがバスの運転手を半殺しにして、インドの刑務所で服役→脱獄というのが前半の展開だったらしい。

前作を上回る大ヒット

本作は2004年7月23日に全米公開され、2位の『アイ,ロボット』(2004年)に2倍以上の金額差をつけての1位を獲得。全米トータルグロスは1億7624万ドルで、前作の記録を上回った。

国際マーケットでも同じく好調で、全世界トータルグロスは2億9063万ドル。7500万ドルというアクション大作としては控えめな製作費を考えると大成功だったと言える。

感想

殺伐としたポリティカルスリラー

個人的にはジェイソン・ボーン初期三部作の中で、一番好きな作品。

本作に影響され過ぎた私は、ボーンが着ているのと似たコートを買って愛用していた。もう大人だったのに。それほど本作が好き。

本編開始早々ヒロインを殺してしまい、一般人不在の殺伐とした物語と化す。

前作でのボーンとマリーの初々しい関係性も良かったのだが、やはり殺し屋には孤独が似合うもので、ボーンがヒロインを失ったことでスパイ映画らしい苦みが増した。

そして前作では専ら受け身だったボーンが、本作ではマリーの死に関与した黒幕を探し出そうと積極的な攻めに転じ、元工作員としての本領を発揮し始める。

あえてCIAの手に落ちる、こちらからコンタクトをとる。そうして相手を搔き乱し、反応を引き出し、誰がシロで誰がクロなのかを探り出そうとする。

前作は体に染み付いたスキルにより、半ば本能的に追っ手をかわすという内容だったが、本作にてボーンは条件反射的なスキルと併せて知略も行使し、縦横無尽の大活躍を見せる。

これぞ元CIAの殺人マシーンである。

甘い部分のない苦み走ったドラマに、ハードな陰謀劇と、興味深いインテリジェントゲーム。70年代のポリティカルスリラーのような雰囲気があって最高だった。

キレ者 パメラ・ランディが良すぎる

対するCIA側も興味深い。

前作はあくまでコンクリンという一部長の暴走であり、組織にも上司にも伝えずに行った暗殺作戦を隠蔽するためにボーンを捕まえようとしていたのだが、本作ではついにCIAという巨大組織が動き出す。

CIAはベルリンでの作戦を何者かに妨害され、2名のエージェントを殺される。そして事件現場でジェイソン・ボーンの指紋が見つかったことから、行方不明のボーンを追いかけ始める。

その陣頭指揮を執るのが現場責任者のパメラ・ランディ(ジョアン・アレン)なのだが、明晰な頭脳と切れの良い発言で邪魔な上司を牽制し、部下に発破をかける様が勇ましい。

ボーンとはまた違った彼女のやり手具合は、このシリーズの新たな見せ場となっている。

そしてランディは、表面上はボーンと敵対するポジションに置かれるのだが、彼女もまた陰謀に巻き込まれた側であり、ボーンとは違う角度から真相に迫っていく。

当初は追う側と追われる側だったランディとボーンが、事件の真相に迫る中で緩やかな協力関係に移行していくという動的なドラマも面白く、キャラクター劇としてもよく出来ていた。

グリーングラスの超絶アクション

そして、前作の時点から凄かったアクションはさらに強化されている。

ファイト・スタント・コーディネーターとしてカリ(フィリピンの伝統武術)の達人であるジェフ・イマダを召喚し、格闘場面は前作に輪をかけて凄いことになっている。

加えてポール・グリーングラス監督は手持ちカメラと素早い編集によって、見せ場の臨場感を強化した。

本作のショットの平均的な長さはわずか1.9秒、観客に瞬きする暇すら与えない。本作を初めてみた時には、未体験のスピード感に驚かされた。

その真骨頂と言えるのがクライマックスのカーチェイスで、自分自身がその見せ場の当事者であるかのような臨場感には恐れ入った。

陰謀に魅力がある ※ネタバレあり

また、前作ではミステリーの真相が面白くなくてガッカリだったのだが、本作ではその点の補強もできている。陰謀が魅力的なのである。

上述の通りボーンもCIAも手玉に取られており、謎の第三極がいるのだが、その正体が興味深い。

何年も前にロシアの石油王グレツコフが、採掘利権を得るために改革派の政治家ネスキーを暗殺したことが、事の発端。

その際にグレツコフから高額報酬と引き換えに暗殺業務を引き受けたのが、CIAの高官アボット(ブライアン・コックス)だった。

また現在のグレスコフは、元KGBの殺し屋キリル(カール・アーバン)を配下として使っており、国家の垣根や政治的主張などとは無関係な、欲望のネットワークが形成されているようだ。

そしてCIAがベルリンで行っていた冒頭の作戦により、事の真相が明るみに出そうになったことから、グレツコフとアボットはボーンに罪を着せる形ですべてを闇に葬ろうとしていたのである。

ボーンを暗殺して口封じをすれば完了だったところ、キリルがボーン殺害をミスったばかりか、恋人マリーを殺してボーンの怒りに火をつけたことが、緻密なはずだった彼らの計画の綻びとなった。

そして、ボーンもまたネスキーの一件とは無関係ではなかったことも明らかになる。

アボットからの指令を受けてネスキー暗殺を実行した殺し屋こそ、ボーンその人だったのだ。

被害者でもあり加害者でもあるという微妙な立場に置かれたボーンの贖罪というテーマも加わったことで、本作はドラマ性も大きく増した。

当初、ボーンはマリーの弔い合戦をしていたわけだが、そうであるならば自分自身も復讐を受けねばならない立場であることを思い知り、復讐では何も解決しないという結論に至るのである。

だからボーンは、マリーを殺したキリルを追い込んでもとどめを刺さなかった。

アボットの言い分を拝借するならば、殺し屋とは「錐(きり)の尖った先端部分」である。それは確かに人を傷つけるが、そこに意思があるわけではないし、その者が動かなかったところで、他の殺し屋が代わりをするだけだ。

だから、殺害をした当事者を罰しても仕方がないのである。自らの罪を知ったことでそのことを痛感したボーンは、無益な復讐を思いとどまる。

血にまみれた者のドラマという点で、本作は最良の着地点を見出したのではないだろうか。

≪ジェイソン・ボーン シリーズ≫
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