【良作】ザ・ワイルド_一流経営者の成功術を学べる映画(ネタバレあり・感想・解説)

災害・パニック
災害・パニック

(1997年 アメリカ)
邦題の通り表面上は大自然でのサバイバル劇を扱った作品なのですが、その実態は困難を乗り切る際にできる人ははどう考え、どう仲間を使いこなすのかという一般的な成功術を取り扱った内容なので、実に興味深く楽しめました。以下、「一流はどうのこうの」とプレジデントみたいな口調でこの作品の魅力を解説します。

あらすじ

大富豪のチャールズ(アンソニー・ホプキンス)は、妻でモデルのミッキー(エル・マクファーソン)の撮影に付き添ってアラスカの山小屋へとやってきたが、移動中にバードストライクで飛行機が湖に墜落する。

カメラマンのロバート(アレック・ボールドウィン)とその助手スティーヴ(ハロルド・ペリノー・ジュニア)と共に生き延びるが、そこは人里離れた山奥である上に、ヒグマによる襲撃もあり、生存のため3人は下山を試みる。

スタッフ・キャスト

監督は『007/ダイ・アナザー・デイ』のリー・タマホリ

1950年ニュージーランド出身。

ニュージーランドの映画産業はさほど大きいわけでもないにも関わらず、『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソンをはじめとして『ジョジョ・ラビット』(2019年)のタイカ・ワイティティ、『007/カジノロワイヤル』(2006年)のマーティン・キャンベル、『ダンテズ・ピーク』(1997年)のロジャー・ドナルドソンら優秀な監督を多く輩出しており、タマホリもそのうちの一人です。

大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』(1983年)で助監督を務め、監督デビュー作の『ワンス・ウォリアーズ』(1994年)はニュージーランド国内で大ヒットを記録しました。

クライムサスペンス『狼たちの街』(1996年)でハリウッドに進出し、本作がハリウッド進出2作目となります。

『007/ダイ・アナザー・デイ』(2002年)の監督に抜擢されて大ヒットを飛ばし、同じくスパイアクションである『トリプルX ネクスト・レベル』(2005年)も手掛けました。

その後、売春容疑で逮捕されるというスキャンダルを起こしました。買う方ではなく売る方での検挙というセレブとしては非常に珍しい事例であり、おとり捜査中の警察官に女装をしたタマホリが声をかけて御用になったとのことです。

以降はハリウッドでの仕事が厳しくなったようで、ニュージーランドに戻って監督業を続けています。

脚本は『アンタッチャブル』のデヴィッド・マメット

1947年イリノイ州出身。大学時代より劇団を旗揚げして活動しており、オフ・ブロードウェイで活躍。1992年にアル・パチーノ主演で映画化される『摩天楼を夢見て』(1984年)でピューリッツァー賞を受賞し、現代アメリカを代表する劇作家とまで言われました。

映画界では『郵便配達は二度ベルを鳴らす』(1981年)と『評決』(1982年)の脚本を書き、両作とも話題となりました。彼の脚本作品にはロバート・デ・ニーロが出演することが多く、『アンタッチャブル』(1987年)、『俺たちは天使じゃない』(1989年)、『ウワサの真相/ワグ・ザ・ドッグ 』(1997年)、『RONIN』(1998年)などはそのパターンです。本作の主演にもデ・ニーロが検討されていました。

本作と同じくアンソニー・ホプキンスが主演する『ハンニバル』(2001年)の脚色も手掛けます。

主演はアカデミー賞俳優アンソニー・ホプキンス

1937年ウェールズ出身。元は舞台俳優で60年代後半より映画界に進出。『羊たちの沈黙』(1991年)でアカデミー主演男優賞を受賞し、『日の名残り』(1993年)、『ニクソン』(1995年)、『アミスタッド』(1997年)と、90年代にはアカデミー賞ノミネートの常連でした。

『ミッション:インポッシブル2』(2000年)にイーサン・ハントの上司役で出演した辺りから娯楽作に軽い気持ちで出演してくれる大御所俳優になり、マイケル・ベイ監督の『トランスフォーマー/最後の騎士王』(2017年)に出演した際には「第一作は良い出来らしいね。よく知らんけど」という投げやりなコメントをしていて驚きました。

共演は『レッド・オクトーバーを追え!』のアレック・ボールドウィン

1958年ニューヨーク州出身。1986年に映画デビューし、『レッド・オクトーバーを追え!』(1990年)のジャック・ライアン役でブレイク。個人的には、現在に至るまで最高のジャック・ライアンはアレック・ボールドウィンだと思っています。

1993年には人気女優キム・ベイシンガーと結婚し、主演クラスの俳優として活躍していたのですが、リメイク版『ゲッタウェイ』(1994年)、『シャドー』(1994年)、『ヘブンズ・プリズナー』(1996年)と主演作が立て続けにコケたことから、本作に出演した90年代後半から脇役が増えてきました。

最近では『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』(2015年)『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』(2018年)のCIA長官役で印象を残しました。って、アンソニー・ホプキンスとアレック・ボールドウィンの両方がイーサン・ハントの上司役を演じることになるんですね。

作品解説

興行成績

本作は1997年9月26日に全米公開されましたが、ジョージ・クルーニー主演の『ピースメーカー』(1997年)などに敗れて初登場4位という低調なスタートでした。

翌週にはモーガン・フリーマン主演のサスペンス『コレクター』(1997年)に敗れ(その続編の『スパイダー』は本作の監督リー・タマホリが手掛けることになる)、4週目にしてトップ10圏外へとフェードアウト。全米トータルグロスは2787万ドルでした。

国際マーケットでも同じく低調であり、全世界トータルグロスは4331万ドルでした。劇場の取り分や広告宣伝費を考えると、製作費3000万ドルは未回収だと考えられます。

登場人物

  • チャールズ・モース(アンソニー・ホプキンス):実業家で大富豪。物静かで感情を表に出さないタイプであり、一人で読書をしていることが多い。妻ミッキーとロバートの不倫を疑っている。
  • ミッキー・モース(エル・マクファーソン):親子ほども年が離れているチャールズの妻。ファッションモデルであり、今回のアラスカ旅行は彼女の撮影が目的だった。
  • ロバート・グリーン(アレック・ボールドウィン):カメラマンでミッキーの撮影を担当している。仲間と群れることが好きといういかにもな業界人。
  • スティーヴ(ハロルド・ペリノー・ジュニア):ロバートの助手。
  • スタイルズ(L・Q・ジョーンズ):チャールズ達が泊まる山小屋の管理人。若くて美人の奥さんを連れているチャールズを羨む。

感想

一流経営者はどの方面でも能力を発揮する

アラスカで遭難した経営者+2名が過酷な大自然でサバイバルすることが本作の骨子。

アクション映画に登場する経営者とは、役に立たなかったり(『インセプション』)、エゴを剥き出しにしたり(『バーティカル・リミット』)、他人の忠告に耳を貸さなかったり(『デイライト』)と、たいていの場合はロクでもない人間、足を引っ張る人間として描かれるのですが、本作はかなり趣が異なります。

主人公のチャールズ(アンソニー・ホプキンス)は、アラスカの秘境で山小屋を管理する親父にまで顔を知られている程の一流経営者。どの分野で成功したのかは分からないのですが、ともかく社会的な大成功者であることに間違いありません。

チャールズは本が大好きであり、アラスカの秘境を訪れるとあってはサバイバル本を熱心に読み耽ります。ただし根っからのインドア派であり、小屋の外が盛り上がっていても本人はテラスからその様子を眺めるようなタイプなので、サバイバルはおろかキャンプ経験すらなさそうです。

そんなチャールズがアラスカで遭難し、未経験ながらも事前にインプットされていた知識とその場の機転のみを武器にして大自然の脅威に立ち向かうことが本筋。

後で詳しく述べますが、経済界で大成功を収めた人は勘や偶然を信用せず思考プロセスをきちんと踏んで正しい筋道を歩もうとするし、どんなに厳しい場面でも冷静に状況を見極めてから意思決定をするという姿勢を崩さないので、その基本スタイルは大自然のサバイバルでも生きてきます。

こうなってくると、作品全体がベンチャー企業のスタートアップを見ているようでもありました。アラスカの大自然は過酷なビジネス環境であり、執拗に襲い掛かってくるクマは競合他社、感情的になって不満ばかりを言うその他2名は使えない従業員といった具合に。

そんな感じで、表面的にはサバイバル劇のようなのですが、実はどの分野でも使える思考術が詰まった映画であり、私はとても興味深く鑑賞しました。

一流経営者は常に冷静

サバイバル劇のきっかけはチャールズ達が乗る飛行機がバードストライクで湖に墜落することなのですが、墜落の瞬間から一流と二流の差が出ています。

ロバート(アレック・ボールドウィン)は沈みゆく飛行機から我先にと脱出し、スティーヴ(ハロルド・ペリノー・ジュニア)はパニくってシートベルトを外せず溺死しかけます。

そんな中でチャールズだけはスティーヴを助け、手に取れる荷物を持って脱出するという行動をとります。緊急事態であっても冷静さを失わず、この極限状態でもやれることを咄嗟に判断して実行しているのです。

命からがら岸に上がった3人は寒さに震えるのですが、暖を取るために発煙筒を使おうとするロバートに対して、チャールズは助けを求めるために必要だから今ここで発煙筒を消費すべきではないと主張します。

結局、スティーヴが衰弱していることもあって発煙筒は使うのですが、目先の寒さ対策しか考えていない近視眼的な思考のロバートとの対比によって、無事生還というゴールに達するためには手持ちのリソースを適切に配分しなければならないというチャールズの巨視的な思考が際立つ仕組みとなっています。

ここで興味深いのがロバートという男であり、演じているのはジャック・ライアンなどを演じてきたアレック・ボールドウィンなのでいかにも頼りになるリーダーっぽい風格をしています。

ボールドウィンに決定する前にはリチャード・ギアやジョン・トラボルタの起用が検討されていたらしいので、ロバートが一般的なヒーロー像を投影したキャラクターであることは間違いないと思います。

ただしこいつがまったく役に立たないので、作品全体が一般的なヒーローものに対するアンチテーゼとなっています。

一流経営者は他人の知識も大事にする

濡れた服が渇いてひとまず寒さ問題が片付いたところで、3人はどうやって帰還するのかを考え始めます。

ここでもロバートは「とりあえず前に進むんだ」と一般的なアクション映画の主人公のようなことを言うのですが、それに対してチャールズは「待て待て、どの方角を目指すのかを考えようじゃないか。本にはこういうことが書いてあって…」とまず作戦を立てようとします。

ここでチャールズが持っているのは本で読んだだけの他人の知識であり、彼自身に実践経験などありません。だからあとの二人はチャールズの理屈を机上の空論くらいにしか思っていないのですが、チャールズはあくまで知識に忠実にという姿勢でいます。

一流経営者は常人以上に直感の鋭い人が多いのですが、それでも他の専門家の知見や集合知なるものを軽視していません。本はその分野で成功を収めた人の経験やスキルが集約されたものなのだから、今の自分に思い浮かぶことよりも余程正しいはずだというわけです。

また一流経営者は一般論としての知識を個別事象に応用することを得意としています。ロバートのような凡人は抽象的・概括的な知識を目の前の問題にどう繋げるのかの筋道を見いだせず、「今は特殊な状況だから本に書いてある通りにはならない」という感覚でいます。しかしチャールズはどうやって本の知識というインプットを、問題解決というアウトプットに転換するのかを考えているのです。

余談ですが、私はコンサルとして活動することもあるのですが、その際に「うちの会社は特殊だから」と言って一般的な解決方法をなかなか受け入れてくれないクライアントに出会うことが多々あります。

そういうクライアントは一般的な知識を軽視しているのと同時に、それをどうやって自社の経営課題の解決に繋げればいいのかという思考方法を知らないのです。だから「我流が自分達には一番合っている」という見解にとどまっているわけです。

しかし一般的な解決方法というのは長年にわたって様々な課題を抱えた何万社という会社が試行錯誤を重ねた末に導き出された現時点での最適解なのだから、道理からすらばこれを利用しない手はありません。「使い方が分からないから」という理由で無視するのは勿体ない限りです。

話は逸れてしまいましたが、並のアクション映画であれば知識をこねた奴はたいてい判断ミスをおかし、本能に従った肉体派の主人公が結果的に正しい道を歩んでいたという結末を迎えることが多いのですが、その定石を崩したのが本作の面白いところです。

一流経営者は他人を巻き込むことがうまい

ここまで見てくると、高いレベルで解決策を見出そうとするチャールズと、目先のことでいっぱいいっぱいになってパニくる後の二人との格差が切なくなってきます。

しかしチャールズは彼らに対しても冷静な態度を取り続け、アホ二人に対して粘り強く説明をします。この辺りは、チャールズの生来の穏やかさと、二人を協力させなければ自分自身も生き延びられないという計算の両方がはたらいたものだと思われます。

そもそもチャールズはカリスマ性やリーダーシップがあるタイプでもなく(むしろそれはロバートの方)、アホ二人を問答無用で従わせるような迫力ある人格でもありません。武器は高い知性と冷静さであり、イライラしたりせず二人が分かるまで話し続けるというわけです。

いよいよクマとの決戦という正念場でロバートが怯み始めると、「俺達ならやれる!やる!やるしかないんだ!」と珍しく激しい表情と言葉で彼を鼓舞します。この辺りは完全に部下に発破をかける経営者でしたね。

世の経営者の皆さまは部下が優秀ではないとか、自分の熱意が下にまで届かないということにお悩みですが、ナントカとハサミは使いようで、部下のレベルに合わせて熱心に伝える努力というものは大事なのです。

そして一流の経営者は他人を巻き込んで使いこなすことも得意なのです。

一流経営者は人間が見えている ※ネタバレ

こうしたアラスカでのサバイバル劇が作品の経糸だとすると、ロバートが妻ミッキーと不倫しているのではないかというチャールズが抱える疑念と、そんなチャールズとロバートとの間の緊張関係が作品の横糸となっています。

加えて、チャールズはロバートが自分を殺すつもりではないかという疑念も抱いています。理由はロバートとミッキーの関係の障害が自分であるということと、自分が死ねば莫大な財産をミッキーが所有することとなり、その結果、ロバートまでが潤うという図式が思い浮かんだことです。

ただし二人の不倫関係を示す客観的な証拠は一切なく、ロバート自身が不倫をはっきりと否定します。一連の疑義はチャールズの直感に過ぎないのです。

で、その真相はというと、これがチャールズの推測していた通りでした。クマという大きな脅威が去って一休みできる山小屋を見つけたところで、ロバートは不倫を認めた上で、チャールズに襲い掛かってきます。

先ほど一流経営者は冷静に物事を捉えると書きましたが、それと同時に直感にも優れており、何となく感じていたことは結構当たっているものです。直感と論理の両輪で走ってこそ一流なのです。

直感と論理は矛盾するじゃないかという意見もあるかもしれませんが、実はそうではありません。彼らは直感をリスク管理のきっかけとして利用しているのです。ふと感じた部分には本当に何かがあるかもしれないので注意を払い、客観的な証拠を集めて現状認識をし、論理的な解決策を導き出してから動く。直感だけでは動かない、客観性と論理性が伴ってはじめて動くということがポイントです。

そして他人の発する気配というものに敏感ですぐに異変を察知したり、自分の前では本音を言わない人間達が裏でどうしているのかを見抜いたりといったことに長けています。人間というものが見えているのです。

同時に、自分というものも見えています。

クライマックス、たった一人生還したチャールズは大勢の記者の前で亡くなった二人に対する感謝を述べます。自分が生き延びたのは彼らのおかげだったと。

チャールズがアホ二人を引っ張る光景を見てきた観客からすると「え?」という感じのコメントなのですが、あれはマスコミ向けの綺麗事ではなく、チャールズの本心だったと思います。

チャールズがどれだけ立派な作戦を考えたところで一人ではその実現に限界があっただろうし、常に冷静でいられたのは仲間がいるという安心感あってこそだったのかもしれない。立派な作戦を考えられたことだって、意見や反論を述べてくる相手がいるからこそ思考が洗練されていったおかげかもしれません。

確かにチャールズはパーティの中心人物ではあったが、一人では成し遂げられなかった。そのことがよく分かっているのです。

成功を自分一人の手柄だと思い込むリーダーもいますが、チャールズの様に「チームあってこそ」という思考ができる経営者こそが一流なのです。

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