【良作】エクソシスト 信じる者_カトリック以外が取り憑かれたら大変だった(ネタバレあり・感想・解説)

サスペンス・ホラー
サスペンス・ホラー

(2023年 アメリカ)
シリーズ第5弾にしてソフトリブートともいえる作品。悪魔祓いは簡単にやれるものじゃないという、主題を揺るがしかねないストーリー展開は斬新で、個人的にはめちゃくちゃハマった。世評は良くないらしいけど。

感想

かれこれ50年以上も断続的に続いている『エクソシスト』(1973年)シリーズの第5弾。

『3』以降を製作したモーガン・クリークに加え、21世紀ホラーの台風の目ブラムハウスも参戦し、三部作構想の第一弾という鼻息の荒い企画だったが、興行的にも批評的にも期待値に届かず、早々にリブートが発表されたという曰くつきの映画でもある。

そもそもシリーズにさほどの思い入れのない私は、その悪評を聞いた時点でスルーを決め込んでいたのだが、最近『エクソシスト3』(1990年)を30年ぶりに見たもので、ついでにと思って本作も鑑賞したら、あまりに面白くてびっくりした。

もしかしたら『1』よりも良いかもしれない。

つくづく思うことだけど、映画とは自分の目で見るまで分からないものだ。

もともと本作は『1』のリブート企画だったということもあり(その後、続編に変更)、ストーリーは第一作をなぞらえたものになっている。

親子仲が良好だったはずの片親家庭で、突然子供が異常を来す。

焦った親は各所を頼るものの一向に改善せず、最後にやってきた宗教家によって、この子は悪魔に取り憑かれてますよというのが、ざっくりとしたあらすじ。

オリジナルが白人母子家庭だったのに対して、本作は黒人父子家庭、そして娘のお友達もセットで取り憑かれるというダブル悪魔憑きであることが、今回の追加・変更点となる。

娘たちがおかしくなったことへの対策にあたる両家のコミュニケーションが描かれることで、思春期で変貌した子供への対応に追われる親たちというシリーズの裏テーマがより強固なものとなった。

よく言われていることだけど、第一作は育児に行き詰った親の焦燥感を表現した作品でもある。

『2』以降はそうした要素が取っ払われて善vs悪の対決路線になったわけだが、50年ぶりの第5弾で原点回帰したことは大いに評価したい。

そして本作最大の特徴が、取り憑かれたのが非カトリック教徒であるということだ。

主人公ヴィクター(レスリー・オドム・Jr.)は、ハネムーンで行ったハイチで大地震に見舞われ、愛する奥さんを失った経験から無神論者になっていた。

またもう一つの家庭は敬虔なクリスチャンであるものの、バプテスト派なのでカトリックではない。

悪魔に取り憑かれるのはカトリック教徒に限らないという視点は斬新で、「そう来たか!」と感動した。

で、無神論のヴィクターではどうすることもできず、過去の類似事例をいろいろ調べているうち、50年前の一件に行き着く。

そこで登場するのが第一作の主人公エレン・バーンステインということで、過去のキャラクターを絡ませる口実もばっちりだ。実によくできた脚本である。

エレン・バーンスタインからの助言もあってやっぱり悪魔祓いよってことになり、ご近所のカトリック教徒アンさんからのご紹介で若い神父が呼ばれるんだけど、「最近は悪魔祓いに対する世間の風当たりが厳しくて、教会からの許可が下りない」とめちゃくちゃ後ろ向きなことを言われる始末。

『エクソシスト』なのに悪魔祓いができないという緊急事態(悪魔祓いは明確な様式の定められた宗教的儀式であるため、カトリックの神父さんしか取り行えないのだ)。

命がけで除霊したメリン神父やカラス神父は過去のものであり、今や宗教家が悪魔よりも世間に怯えているのである。そりゃ悪魔も好き放題できるはずだ。

21世紀的な切り口として、この展開は実に面白かった。

こうしてエクソシズムという軸を失った一行は、バプテストの牧師さん、若い頃にカトリックの教育を受けたご近所のアンさん、アフリカの土着宗教のアレンジ版の巫女さんという、訳の分からん混成部隊で悪魔に挑むこととなる。

もう滅茶苦茶なんだけど、『エクソシスト』というタイトルの裏をかいたこの展開には大いに盛り上がった。

そして無神論の親父では悪魔相手に手も足も出ないという辺りも良かった。

親子の愛情でどうのこうのという展開が個人的には好きではないので(笑)

で、ここからネタバレになるのだけれど、一度は退場したカトリックの神父が戻ってきた展開には、『スターウォーズ』の第一作でハン・ソロが戻ってきたときくらい燃えた。

さすがはブラムハウス製作、盛り上げどころを的確に突いてくるあたりは憎たらしいほどにうまい。

そしてハッピーエンドとバッドエンドが同居したビターな結末は、犠牲者を二人にしたことでこそ得られた成果だ。やはりこの映画、構成が抜群にうまくいっている。

そして懐かしのリーガン(リンダ・ブレア)投入に、有名なテーマ曲の援護射撃で容赦なく観客のテンションをアゲにかかってくる。

特にテーマ曲の使い方は完璧で、本編中で安売りをせず、観客の集中力がピークに達したクライマックスで盛大に流してくるという扱いにはもんどり打ってしまった。

前述のとおり、ブラムハウスは早々にリブートを発表したということで、本作はなかったことにされた。

この続きを見られないのは残念で仕方ない。

ファンの署名運動でも起こらないかな。

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