【良作】エクスペンダブルズ_タフガイのギャップ萌え(ネタバレあり・感想・解説)

軍隊・エージェント
軍隊・エージェント

(2010年 アメリカ)
80年代アクションのダイナミックさやおおらかさを再現した作風には、当時のことをよく知る観客にとっては実家のような居心地の良さがある。映画としては完ぺきではないし、話におかしな部分もあるが、そこにツッコむのは野暮というやつである。

作品解説

スタローンが監督・脚本・出演

本作の元になったのは、脚本家デヴィッド・キャラハムが2005年に書いた”Barrow”という傭兵アクション。

キャラハムは後に『ワンダーウーマン1984』(2020年),『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(2021年),『モータルコンバット』(2021年)などを手掛ける売れっ子となるが、この時点では駆け出しの脚本家だった。

“Barrow”はキャラハム自身の手による数度の書き直しを経た後、シルベスター・スタローンの目に留まって本企画の出発点となり、スタローン自らが脚本の手直しを開始。

スタローンは監督を務めることにもなったが、彼が『ロッキー』『ランボー』以外の監督を務めるのはジョン・トラボルタ主演の『ステイン・アライブ』(1983年)以来のことだった。

そして『トップガン』(1986年)『リーサル・ウェポン2』(1989年)『ミッション:インポッシブル2』(2000年)などアクション映画の経験豊かなジェフリー・L・キンボールを撮影監督に指名。二人は『スペシャリスト』(1994年)で一緒に仕事をした経験があった。

また音楽には、ジェリー・ゴールドスミス亡き後のランボーシリーズを引き継いで『ランボー/最後の戦場』(2008年)を担当したブライアン・タイラーを起用した。

エクスペンダブルな面々

スタローンが「タフガイたちの同窓会にする」と発言したことから、本作の企画は撮影開始前の時点でアクション映画ファン達の期待を集め、スタローンもその顔とコネを全力で駆使してファンの度肝を抜くキャストをかき集めた。

特に、かつてスタローンが「トランスポーターの禿げ」と呼んだジェイソン・ステイサムが本作に参戦したことには、大きな驚きと感動があった。

  • シルベスター・スタローン(ささきいさお)/バーニー・ロス
  • ジェイソン・ステイサム(山路和弘)/リー・クリスマス
  • ジェット・リー(池田秀一)/イン・ヤン
  • ドルフ・ラングレン(大塚明夫)/ガンナー・ヤンセン
  • ブルース・ウィリス(中村秀利)/チャーチ
  • アーノルド・シュワルツェネッガー(玄田哲章)/トレンチ:当時はカリフォルニア州知事だったが、公務の合間を縫って撮影に参加。その義理堅さで、州知事の支持率は爆上がりした(はず)。
  • ミッキー・ローク(安原義人)/ツール:『アイアンマン2』に出演中だったが、かつて俳優として困窮していた時期に手を差し伸べてくれたスタローンへの恩義から撮影に参加。この感動の逸話に、世界中の男子が震えた。
  • エリック・ロバーツ(大塚芳忠)/ジェームズ・モンロー
  • ランディ・クートゥア(木下浩之)/トール・ロード
  • テリー・クルーズ(西凛太朗)/ヘイル・シーザー

日本語吹替版では各キャストのフィックス声優が起用されて、こちらも実に豪勢なことになったのだが、それは日本に留まらず世界的な流れだったらしい。

そこで問題が生じたのがドイツ語吹替で、スタローンとシュワルツェネッガーのフィックス声優が同一人物だったために、一人の声優が声色を変えて二人の吹替をするという特殊なことになった。

エクスペンダブらなかった面々

そんな夢のプロジェクトであり、シュワやロークのように多忙の中でもわざわざ時間を作って参戦してくれたメンバーがいる一方、出演を辞退した不埒な奴らもいた(※不可抗力から泣く泣く出演を諦めたウェズを除く)。

  • ジャン=クロード・ヴァン・ダム:スタローンから直々にオファーを受けたが、キャラクターに魅力を感じないとの理由で辞退。ヴァンダムが魅力的なキャラクターを演じたことなんて今まで何度あったっけと、全世界の男子がポカーンとした。
  • スティーヴン・セガール:本作プロデューサーであるアヴィ・ラーナーと過去にひと悶着あったので辞退。セガールって恨みを忘れなさそうだしねと、みんながちょっと納得できた回答だった。
  • カート・ラッセル:チャーチ役をオファーされていたが、アンサンブルの演技には興味がないとして辞退。タランティーノに相手されるようになってからスネークもいけ好かない奴になったなと、慕い続けた先輩への憧れが壊れた瞬間だった。
  • ウェズリー・スナイプス:ヘイル・シーザー役をオファーされており、本人も出演を希望していたが、脱税絡みの裁判で海外ロケに参加できなくなり、泣く泣く辞退。誤った司法制度に全世界の男子が憤った。
  • フォレスト・ウィテカー:ウェズの代わりにヘイル・シーザー役にキャスティングされたが、スケジュールの都合で出演できなくなった。この報道に多くの男子は「ぶっちゃけどっちでもいい」と思った。

2週連続全米No.1ヒット

本作は2010年8月13日に全米公開され、初登場1位を記録。これにより、スタローンは70年代、80年代、90年代、2000年代、2010年代の5つの年代ですべて1位を取った最初の人物となった。

翌週も引き続き1位で、全米トータルグロスは1億30万ドルとなった。

国際マーケットでも同じく好調であり、全世界トータルグロスは2億7447万ドルという、純粋な爆破アクションとしては久方ぶりのヒット作となった。

感想

ファン感涙のドリームチーム

冒頭、ソマリアの海賊に乗っ取られた商船にエクスペンダブルズが乗り込むのだが、そこにズラっと並んだ面々に、まず面食らう。

スタローン、ステイサム、ラングレン、ジェット・リー、一人でもテロ組織を壊滅できる人間が何人も集まっているという圧倒的安心感と、この勝負には勝てるという絶対的余裕。それが彼らの表情から滲み出ているのである。

実際、戦闘になっても彼らは圧倒的に強い。赤子の手をひねるとはこのことを言うのかと思うほど、いとも簡単に海賊を制圧してしまう。

21世紀と言えばイーサン・ハントやジェイソン・ボーンがひいこら言いながらスタントや格闘をこなすことがスタンダードとなり、元祖圧倒的に強いヒーロー ジェームズ・ボンドすら、路線変更を余儀なくされていた。

そんな時代に突如舞い戻って来た、問答無用に敵を制圧する異様に強い男達。

そうそう、アクション映画とはこういうものだったよなと、この冒頭の時点で感極まった。

あらためて見ると、この場面でエクスペンダブルズは戦闘ではなく交渉に来ていたことに気付く。

しかしエクスペンダブルな交渉とは、一度だけ条件を提示し、それを飲まなければ交渉決裂と判断して相手を即射殺という前のめりなもの。

ヤクザやテロリストでもそこまで強引じゃないだろという程のストロングスタイルで、ほぼ殺すつもりで来ているという辺りが80年代流なのである。

みんな強くてみんな弱い

そんな最強チームだが、国に帰ると随分と状況が違う。

チームの若頭リー・クリスマス(ジェイソン・ステイサム)は、出張帰りの足で惚れた女の家に直行する。アクションヒーローがそんなやわなことでいいのかと思った矢先、留守にし過ぎて彼女には新しい彼氏ができていたことが発覚し、海よりも深く落ち込むステイサム。

ヤン(ジェット・リー)は子供の教育資金のために次のミッションの報酬は弾んで欲しいと言い出すし、トール・ロード(ランディ・クートゥア)はセラピー通いをしている。

そしてエクスペンダブルズ卒業生で、今はみんなにたまり場を提供しているツール(ミッキー・ローク)は、戦ってると女なんてできないよなぁとしみじみと自分語りを始める。

戦場では圧倒的強者だったエクスペンダブルズも日常生活では弱者であり、どいつもこいつも悩みを抱えているのである。

唯一、仕事に生きがいを感じているのはガンナー(ドルフ・ラングレン)くらいだが、こいつはこいつでイカれていて使い物にならないレベルになっている。

かつてのニックネーム”人間核弾頭”は言い当て妙で、今の時代、核弾頭のような物騒な兵器は手に余るしかないのである。

いよいよマトモなのはリーダーのバーニー(シルベスター・スタローン)だけかとなるのだが、バーニーはバーニーで後に正常ではないことが分かる。

CIA工作員のチャーチ(ブルース・ウィリス)から、南米の小国の独裁者を暗殺せよとの依頼を受けたバーニーは、クリスマスと二人で現地調査に飛ぶ。

しかしそこは隠密行動など一瞬で忘れることで定評のあるスタローンのこと、潜入初日にして現地でドンパチを始め、景気よく部隊をひとつ焼き払って帰ってくる。

その際に出会った現地人女性サンドラ(ジゼル・イティエ)に惚れたバーニーは、「ミッションの成功可否を判断する」という現地調査の目的も忘れ、このミッションを引き受けることにするのである。

もはや全員が正気ではない。

正直なところ、初見時にはこの男たちのドラマがグダグダに感じた。『コマンドー』(1985年)のように、何の理屈も葛藤もなしに敵をなぎ倒す話で良かったのにと。

しかし何度も見返すうちに、マッチョ達の不器用な生き方が味として感じられるようになってくるのである。

屈強な肉体を持っているのにメンタルは滅茶苦茶に弱く、高度な殺人スキルとは裏腹に恋愛スキルは中学生以下。

こういうのをギャップ萌えと言うのだろう。違う?

誰に頼まれた→お前の美容師だ

かくして、戦場に再度乗り込むエクスペンダブルズだが、バーニーは惚れた女を探すことに夢中で、ミッションの大事な部分はほぼクリスマスに任せている。

仲間達から「あれ?バーニーはどこ行った?」と言われるほどの徘徊をした結果、敵に捕らえられるバーニー。もはやグズグズの展開だが、スタローンがやっているとなぜか許したくなるのだから、キャスティングとは重要なのである。

ここで捕まったバーニーは敵からの尋問を受けるのだが、そのやりとりが最高すぎて日常会話でも使える場面を探したくなる程だった。

仲間は何人だ→お前のママだ

誰に頼まれた→お前の美容師だ

この手の尋問でお母さん回答はよくあるが、意表を突いたのは美容師回答だった。尋問してくるスティーヴ・オースティンはスキンヘッドで、どう見ても美容室に行ってないし。

この返しは本当に神がかっていて、映画の途中でもこの場面に差し掛かると三度は巻き戻して見て、都度笑ってしまう。それくらい好き。

しかも、美容師回答をきっかけにエクスペンダブルズの壮絶な反撃が始まる。スタローンは元プロレスラーのオースティンに対して技を決めまくり、他のメンバー達は銃弾の雨を降らせる。

この流れはアクション映画として100点満点だった。

こんなに盛り上がったのは、『トゥルーライズ』で尋問を受けていたシュワルツェネッガーが、「もう手錠は外れている」と言って自由になった拳を見せ、焦る尋問者の首をへし折ってから大反撃に移る場面以来のことである。

そこから先は絶え間ない爆破の連続で目を楽しませてくれる。少数の部隊が一国の軍隊を壊滅させるという、80年代アクションのアップデート版がここに繰り広げられ、その映像的興奮はもはや沼。

筋肉と汗と銃弾の洪水に、私は完全に飲まれた。最高だった。

恋愛よりも仲間!

悪党を倒して引き揚げようとするバーニーの元に、サンドラがやってくる。

明らかにキスをする流れで、サンドラ本人も完全にその感じで来ているのだが、バーニーはハグで終わらせる。

傭兵稼業と恋愛は両立しないことは前半で語られた通りだが、バーニーは恋愛よりも仲間達を選んだのである。

そしてバーニーが断腸の思いで決断したことを察したクリスマスは、「お前のタイプじゃなかっただろ?」とナイスなフォローを入れる。

やっぱりここが俺の居場所だと感じ、満面の笑みを浮かべるバーニー。

このやりとりがさりげなくもアツかった。

その後、ツールの店で打ち上げが始まるのだが、チームを外された上に、ヤンを殺そうとしたガンナーも普通に混ざっている。

「殺す気はなかったのを知ってるよな」と爽やかに弁明するガンナーに対して笑顔で答えるヤンだったが、あの時は確実に串刺しにしようとしてたよね。

そんなガチの殺し合いすら、喉元過ぎれば良い思い出になるのが真の男なのだろう。

キン肉マン、孫悟空、バーニー・ロス、仲間を殺しかけた相手すら、改心すれば味方に引き入れるという無節操さが男子力ということだ。早く私もその領域に到達したい。

エクスペンダブルズシリーズ
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