【良作】ザ・フライ2 二世誕生_ティーン向けホラー(ネタバレなし・感想・解説)

クリーチャー・メカ
クリーチャー・メカ

(1989年 アメリカ)
前作の出来には及ばないが、ホラー映画としては依然として高水準を維持している。脚本家フランク・ダラボンの構成力が光っており、ティーン向けホラーとして生まれ変わった本作には本作の良さがある。

作品解説

難産だった第2弾

前作『ザ・フライ』(1986年)は批評家からも観客からも支持され、製作費1500万ドルに対して全世界で6062万ドルを稼ぎ出す大ヒットとなったことから、20世紀フォックスは続編の製作を決定した。

オリジナルの『蠅男の恐怖』(1958年)にも『蠅男の逆襲』(1959年)、『蠅男の呪い』(1965年)という続編があることから、シリーズ化は必然だったと言えるが、問題は、前作公開からの数年でフォックス幹部がほぼ入れ替わっていたことだった。

新任の製作責任者は前作を見てもいなくて、若者向けの標準的なスラッシャー映画にしろと言い出した。また大企業を悪者にするというアイデアは、同じくフォックスの『エイリアン2』(1986年)に由来しているらしい。実に安直だ。

プロデューサーのメル・ブルックスは、ここまでスタジオからの干渉が激しかった作品は初めてだったと述べており、フォックスのこの姿勢が嫌われたのか、デヴィッド・クローネンバーグもジーナ・デイヴィスも続編には戻ってこなかった。

クローネンバーグの後任には、前作でアカデミー賞 メイクアップ賞を受賞したクリス・ウェイラスが就任。彼の監督デビュー作となった。またジーナ・デイヴィスの後任には、顔が似ているという理由でサフロン・ヘンダーソンという無名女優がキャスティングされた。

脚本家として雇われたのはミック・ギャリスで、後にスティーヴン・キング原作の映像化作品に多く関わる人物だが、80年代当時はテレビドラマ『世にも不思議なアメージング・ストーリー』(1985-1987年)や『ニューヨーク東8番街の奇跡』(1987年)など、スピルバーグ製作作品に多く関わっていた。

ギャリスはセス・ブランドルの息子マーティンがカルト教団で育てられるが、異能を持つ他の子供達と共に教団を逃れるという話を思いついた。またセス・ブランドルがクローン技術で復活するという『エイリアン4』(1997年)を先どったようなドラフトも執筆したが、いずれもクリス・ウェイラス監督に却下された。

ウェイラスが「ミック・ギャリスの脚本を使うなら自分は降板する」とまで言い出したので、やむなくフォックスはギャリスを解雇し、後任としてフランク・ダラボンを雇った。

フランク・ダラボンは後に『ショーシャンクの空に』(1994年)や『グリーンマイル』(1999年)を監督することになる映画界の重要人物だが、この時点では『エルム街の悪夢3』(1987年)や『ブロブ/宇宙からの不明物体』(1988年)など若者向けホラー専門の脚本家だった。

脚本は当時人気のあったイケメン俳優 エリック・ストルツの当て書きだったようだが、最初のオファーでストルツからは断られている。

その後はキアヌ・リーブスに依頼をしたがこちらからも断られ、一時期はヴィンセント・ドノフリオと契約寸前にまでいったが、スクリーンテストがうまくいかなくて流れた。

また若い頃のジョシュ・ブローリンがオーディションを受けに来たが、こちらはシンプルに落とされたらしい。

そんなこんなをしているうちに気でも変わったのかエリック・ストルツが戻ってきて、当初の希望通りのキャスティングが実現した。

ヒロイン役には当時ストルツと交際していたジェニファー・ジェイソン・リーの名前が挙がった。

前作のジェフ・ゴールドブラムとジーナ・デイヴィスがリアルでも恋人関係だったことを踏襲したキャスティング案だったのだろうが、さすがに二度目は実現せず、プロデューサー メル・ブルックスの監督作『スペースボール』(1987年)でヒロインを務めたダフネ・ズニーガがキャスティングされた。

批評的・興行的失敗

1989年2月10日に全米公開され初週こそ1位をとったが、2週目以降の下落が激しく、全米トータルグロスは2002万ドルに留まった。

国際マーケットでも同じく不調で、全世界トータルグロスは3890万ドルと、前作から35%以上減少した。

なお本作が唯一ヒットしたのがドイツ市場で、クリス・ウェイラス監督はドイツの劇場に感謝状を送っている。

また批評家レビューも低調であり、褒めている記事を探すことの方が困難な状況となっている。

感想

日曜洋画劇場常連映画

本作を初めて見たのは日曜洋画劇場で、まだ小学生の頃だった。

子供にホラー映画を平気で見せるわが実家の家庭環境は実に素晴らしかったと思う。『スペースバンパイア』(1985年)を見たのも小4だか小5だかだったし。

日曜洋画劇場での本作の放映回数は尋常ではなく、数年に一度は放送されていたと思う。

放送されるたびに見たし、録画したビデオでも見ていたので、鑑賞回数は結構なものだった。私はこの映画が好きだったのだ。

実は第一作を見たのが中学生になってからで、続編である本作の方を先に見ているのだが、その順番が良かったのだろう。

デヴィッド・クローネンバーグという異常天才が関わった第一作は80年代に製作されたすべてのホラー映画の中でもトップの出来だと思っていて、あの第一作との比較に晒されれば、どんな続編でも霞むと思う。

しかし第一作の存在を前提とせずフラットな視点で見れば、本作も十分によくできているのだ。

これは脚本を手掛けたフランク・ダラボンの構成力の為すところなのだろうが、青年が目覚め、欺瞞に満ちた大人社会と対峙するという、王道のストーリーが実に効果的に組み込まれている。

そしてハエ男に変貌した主人公は、その力を悪を挫くために行使する。本作は勧善懲悪ものでもあるのだ。

確かに前作にあったような深いドラマ性は失われた。主人公の人物造詣も薄っぺらだ。

しかし80年代のティーン向けホラーの黄金律を踏まえた端正な構成となっており、上映時間中はきちんと楽しませてくれる。世評は芳しくないようだが、これはこれでイケる続編だと思う。

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