【良作】逃亡者(1993年)_ジェラードは理想の上司No.1(ネタバレあり・感想・解説)

クライムアクション

(1993年)
逃げるハリソンを追うトミーリーが完全に食ってしまったサスペンスアクション。頭脳明晰で部下達からも慕われえているジェラード捜査官がとにかくカッコよく、ほぼトミーリーの独壇場となっていました。

作品解説

突貫作業で製作された

本作は1963-1967年に放送され人気を博したテレビドラマ『逃亡者』をベースにしています。当該テレビシリーズは1953年に起こった実際の冤罪事件(サム・シェパード事件)を脚色したものです。

そのリメイクにあたり、1990年頃にバイオレンス映画の雄ウォルター・ヒルが監督に就任。

ヒルは自身の監督作の常連俳優であるニック・ノルティを主演に希望していましたが、キンブル医師を演じるには年齢が行き過ぎているとして却下され(といってもハリソン・フォードとは1歳違い)、次にプライベートで親交のあったアレック・ボールドウィンを希望しました。

しかし長年のパートナーであるデヴィッド・ガイラーと共に執筆していた脚本がなかなかまとまらず、ヒルはドロップアウト。

ケビン・コスナーが主演し、監督もするという話もあったのですが、結局コスナーは『ワイアット・アープ』(1994年)を製作するために離脱。奇しくも本作が公開されたのと同年、コスナーは『パーフェクト・ワールド』(1993年)で逃亡犯役を演じることとなります。

後の『エアフォース・ワン』(1997年)でもケビン・コスナーが断った役をハリソン・フォードが演じるということが発生するのですが、両作品ともに興行的な成功を収めていることから、ハリソン・フォードの作品選別眼がいかに優れているかが分かります。

その他、『ベスト・キッド』(1984年)のロバート・マーク・ケイメン、『俺達に明日はない』(1967年)のデヴィッド・ニューマンらも脚本を執筆したのですがいずれもうまくいかず、合計で25本ものドラフトが生み出されました。

その後、本作のプロデューサー アーノルド・コペルソンとホラーファンタジー『ワーロック』(1989年)で仕事をしたデヴィッド・トゥーヒーが最終稿に繋がるバージョンを執筆。1992年頃に脚本がハリソン・フォードの手に渡り、彼が関心を示したことから、今度は企画が急激に進み出しました。

ワーナーは1993年夏の公開を目指して動き出したのですが、ハリソン・フォードが出演契約にサインしたのが1992年9月で、その時点では他のキャストも監督も未定。

1992年10月にワーナーが公開した『沈黙の戦艦』(1992年)が評判を呼んだことからアンドリュー・デイヴィス監督の名前が浮上し、ハリソン・フォードもその手腕を評価したことから、本作の監督に決定しました。

そして『沈黙の戦艦』と『ザ・パッケージ/暴かれた陰謀』(1989年)に出演し、デイヴィス監督のお気に入りだったトミー・リー・ジョーンズが主人公を追う捜査官役にキャスティングされました。

そんな感じで急ピッチで製作準備が進んでいったのですが、あまりにも急ピッチすぎてデイヴィスは脚本を書いたトゥーヒーに会ったことすらないと言っています。ロクな打合せもなしに作業だけがどんどん進んでいく現場だったというわけです。

1993年2月より撮影開始。しかしその時点では脚本が完成しておらず、ハリソン・フォードとトミー・リー・ジョーンズの台詞の多くは彼らのアドリブでした。

最後に雇われた脚本家は『ダイ・ハード』(1988年)のジェブ・スチュワートでしたが、スチュワートはセットで新しい場面を書くという突貫作業で脚本を仕上げていったといいます。

そして撮影監督が製作途中で降板し、『タクシードライバー』(1976年)のマイケル・チャップマンが急遽雇われたのですが、アンドリュー・デイヴィス監督との関係は非常に険悪なものだったとのことです。

その他、ハリソン・フォードが撮影中に足のじん帯を負傷するトラブルも発生するなど大変な現場だったのですが、大幅な遅延などは発生せず1993年5月に撮影終了。

ただしワーナーが設定した全米公開日は8月で、撮影終了から公開まで10週間しか残っていませんでした。その短期間で編集・ミキシング・仕上げをしなければならなかったことから7つの編集ブースを同時稼働させ、24時間体制でポストプロダクションをこなしていくという壮絶な現場となりました。

そんな感じで何から何まで突貫作業で、十中八九は駄作ができ上がるであろう製作工程だったのですが、そうした作業の末にデイヴィスが持ってきたバージョンは奇跡的な仕上がりであり、ワーナーはこれを完璧であると評価しました。

興行的には大成功した

1993年8月6日に全米公開され、同時期に強力なライバルがいなかったこともあって2位の『ライジング・サン』に2.6倍もの金額差をつけてのぶっちぎりの1位を記録。

その後も好調は続き、なんと6週連続1位というロングランに。7週目にしてブルース・ウィリス主演の『スリー・リバーズ』(1993年)に敗れたものの、全米トータルグロスは1億8387万ドルで、全米年間興行成績第2位という大ヒットとなりました(1位は『ジュラシック・パーク』)。

国際マーケットでも同じく好調で、全世界トータルグロスは3億6890万ドル。製作費4400万ドルの9倍弱を売り上げるという高収益作品となりました。

トミー・リー・ジョーンズがアカデミー助演男優賞受賞

本作は批評的にも高い評価を受け、その年のアカデミー賞では作品賞を含む6部門にノミネートされました(作品賞、助演男優賞、撮影賞、作曲賞、音響賞、音響効果編集賞、編集賞)。

娯楽アクションが賞レースに絡むのは異例のことなのですが、それは作品の完成度のみならず、あれだけ滅茶苦茶な現場でよくこれだけのことをやり切ったという加点要素もあったのではないかと思います。

うち、トミー・リー・ジョーンズがアカデミー助演男優賞を受賞。レオナルド・ディカプリオ(ギルバート・グレイプ)、レイフ・ファインズ(シンドラーのリスト)、ジョン・マルコヴィッチ(ザ・シークレット・サービス)、ピート・ポスルスウェイト(父の祈りを)ら、錚々たるメンツがノミネートされた中での受賞でした。

なお、ハリソン・フォードも最初はジェラード捜査官役を希望していたことから、トミーリーの演技に加えてそもそものキャラクターも優れていたということになります。

感想

息詰まる逃亡劇

妻殺しの冤罪をかけられたリチャード・キンブル医師(ハリソン・フォード)が逃亡するという、タイトル通りの素直な映画なのですが、最も重要な逃亡劇が恐ろしくよく出来ているので、これが描かれる序盤で一気に引き込まれました。

護送車横転からの列車激突、そして全力疾走とダイレクトにスリリングな場面もあれば、すれ違った警官から素性を見抜かれるのではないかというハラハラドキドキの場面もあって、なかなかに手数は豊富。

この辺りは、サスペンス(『ザ・パッケージ/暴かれた陰謀』)とアクション(『沈黙の戦艦』)の両方の実績を持つアンドリュー・デイヴィス監督ならではの強みですね。

そんな中でも、主人公は医師という設定から銃撃や格闘はさせないという制約条件はきちっと守っており、決して荒唐無稽な内容にはしていません。これは『ダイ・ハード』(1988年)にて生身の男の戦いを描いた脚本家ジェブ・スチュワートの成果でしょうか。

そして、アカデミー賞にもノミネートされたジェームズ・ニュートン・ハワードのスコアが場面を容赦なく盛り上げます。あのメインテーマが高鳴ると「いよいよだな」という高揚感がありますね。

これら素晴らしい仕事の積み重ねにより、前半部分は怒涛の面白さとなっています。

理想の上司 ジェラード

そして、逃亡するキンブルを追うのがジェラード連邦保安官(トミー・リー・ジョーンズ)。

逃亡の起点となった列車事故現場にやってくるや、現場の状況をすぐに把握し、生存した警護官の証言の矛盾を見抜くという抜群の観察眼を披露します。

すると直属の部下ではない地元警察官たちが自然とジェラードの周りに集まってきて、次の言葉を聞こうとします。すかさず合理的な論拠と的確な言葉により、捜索範囲や捜索方法の指示を出すジェラード。

この一連の流れで、ジェラードがとんでもない腕利きであることが分かります。

そうしたキレッキレの采配をした直後に、直属の部下に対しては「やることないなら俺にドーナツ持って来てくれ。チョコレートのかかったやつな」と妙にリラックスしたことを言うので、このおっさんに夢中になってしまいます。

かっこよくて可愛げがあって最高すぎやしないかと。

彼のチームは鉄の結束で結ばれており、部下達とは軽口を叩き合うフラットな空気感を漂わせつつも、ここぞという場面では厳しい言葉で引っ張っていく頼もしさも披露。

映画界の理想の上司No.1ではないでしょうか。

かと思えば、初遭遇場面で潔白を主張するキンブルに対して「知ったことか」と切り捨てる非情な一面も覗かせるので、逃亡劇の緊張感を高めることにも貢献しています。

本作の表面上の主人公はキンブル医師なのですが、その実たった一人で逃亡するキンブルには好感を抱けるような場面が少なく、観客からの注目を浴びる実質的な主人公ポジションにいるのはジェラードだと言えます。

そして、味のある顔、味のある演技をするトミーリーがジェラードに完璧にハマッているわけですよ。最高のキャラクター、最高のキャストでした。

ミステリーが雑過ぎる

そんなわけでジェラードが引っ張るアクション映画としては実に面白かったのですが、キンブルが妻を殺害した真犯人を探す後半部分に入ると、やたら雑なところが目に付いてきます。

地元シカゴに潜伏したキンブルは、軽く髪を染める以外の変装はしていないにも関わらず誰からも顔を刺されず、部屋までを借りられてしまいます。そんなお気楽な潜伏生活でいいのかと。

その軍資金はというと信頼できる友人から恵んでもらったポケットマネーなのですが、一定期間の衣食住を確保するだけの資金とは結構なものであり、本当にあれで足りたの?という疑問もわいてきます。

そして殺害現場で鉢合わせた男が義手だったことを手掛かりに、キンブルは犯人の絞り込みを行うのですが、明晰な頭脳で謎を解いていくキンブルよりも、この程度のことすら捜査していなかった警察の無能ぶりの方が気になってくる始末。

そもそもキンブルが有罪判決に至った経緯も謎で、殺害現場であれだけ揉み合ったにも関わらず、殺害犯の髪の毛や服の繊維の一本も現場に残っていなかったのでしょうか。

そんな感じで後半に入ると平凡な内容になってくるので、全体としてみると「よく出来た娯楽作」という水準かなと思います。もしも後半が前半と同等の完成度なら驚異の傑作だったところですが。