【良作】ラスト・ボーイスカウト_尋常ではない荒み方(ネタバレなし・感想・解説)

クライムアクション
クライムアクション

(1991年 アメリカ)
ダークでハードなサスペンスアクションであり、メジャー大作とは思えないほど荒れたキャラ設定には驚きました。そして負け犬達が最後の意地をかけて巨悪に挑むという構図には燃えるものがあったのですが、後半になると突如角が取れて普通のアクション映画になったことが残念でした。前半の勢いのままでいけば傑作だったのに。

©Warner Bros.

作品解説

史上最高額の脚本

本作の脚本を書いたのは『リーサル・ウェポン』(1987年)のシェーン・ブラックであり、この人は1996年の『ロング・キス・グッドナイト』の脚本が4百万ドルで売れたことで有名なのですが、それに先駆ける本作にも、当時としては史上最高額の175万ドルの値が付けられました。

なお、本作には金に糸目をつけていなかった頃のカロルコも関心を示しており、そちらからは225万ドルという金額が提示されていたのですが、ブラックはすでに関係のあったジョエル・シルバーに対して義理立てをし、提示額は低かったものの(それでも史上最高額でしたが)ワーナーを選択したのでした。

荒れた撮影現場

いざ撮影に入ると現場は荒れに荒れました。

後年、ジョエル・シルバーは本作の製作を「人生で最悪の経験のひとつ」と語っているし、トニー・スコットもまた酷い現場だったと振り返っています。

シルバーとウィリスが現場を乗っ取り、ダークで素晴らしかったシェーン・ブラックの脚本をどんどん変更。スコットは映画としてどちらが正しいのかが分かっていたにも関わらず、クビにされたくないのでシルバーの言いなりになってしまったとのことです。

スコットは次回作『トゥルー・ロマンス』(1993年)にて、モロにジョエル・シルバーにしか見えないリー・ドノウィッツという悪徳プロデューサーを登場させています。

余談ですが、タランティーノ監督の『イングロリアス・バスターズ』にイーライ・ロス演じる「ユダヤの熊」と呼ばれる軍曹が登場しますが、その役名はドニー・ドノウィッツ。リー・ドノウィッツの実の父親という裏設定があるようです。

また、ブルース・ウィリスと共演者デイモン・ウェイアンズの関係も悪かったようです。

最終的に、ワーナーはスチュアート・ベアードを送り込んで取っ散らかった現場の収集に当たらせました。スチュアート・ベアードとは編集の神様と呼ばれる編集マンなのですが、バラバラの素材をうまく繋ぎ合わせる能力が高いために、混乱した映画の補強によく使われます。

≪スチュアート・ベアードが直した作品≫
デッドフォール【凡作】撮影現場は地獄だった
リトルトウキョー殺人課【駄作】彼女を見捨てて修行するドル
ラスト・ボーイスカウト【凡作】荒み方が最高な前半とブチ壊しの後半
デモリションマン【凡作】期待しすぎなければ楽しめる
ミッション:インポッシブル2【駄作】シリーズ随一の駄作
ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー

興行成績は期待外れだった

本作は1991年12月13日に全米公開されたのですが、同時期に公開されたスティーヴン・スピルバーグ監督の『フック』(1991年)に2倍近い差をつけられて初登場2位でした。

翌週にはスティーブ・マーティン主演の『花嫁のパパ』(1991年)に敗れて3位、さらにその翌週には『サウス・キャロライナ/愛と追憶の彼方』(1991年)などに敗れて5位とどんどん順位を落としていき、全米トータルグロスは5950万ドルにとどまりました。

2900万ドルという大作としては控えめな製作費を考えると決して悪い売り上げでもないのですが、『トップガン』(1986年)『リーサル・ウェポン』(1987年)『ダイ・ハード』(1988年)など、このメンバーが過去に関わってきた作品と比較するとかなり落ちる数字であり、期待値には届きませんでした。

感想

胸焼けしそうなハードボイルド

80年代に流行したバディ・ムービーの形をとりつつも、通常ならばハードなキャラとソフトなキャラの組み合わせとすべきところを、ハードとハードの組み合わせとしていることが本作の特徴。

それはさながらそれはリッグスが二人いる『リーサル・ウェポン』。胸焼けを起こしそうなほどのハードボイルドが炸裂します。

主人公の私立探偵ジョー(ブルース・ウィリス)は元凄腕のシークレットサービスで、大統領の命を救ったこともある英雄。しかし大物政治家ベイナードを警護していた際に、女性に過剰な暴力プレイを強要するベイナードを殴って解雇されました。

それからの人生は終わりのない下り坂で、正しい行いをしたのに報われなかった経験からジョーは世間も自分自身も憎むようになり、アルコール依存症の負け犬になりました。

その相棒となるジミー(デイモン・ウェイアンズ)は元プロフットボールのスター選手でしたが、交通事故で家族を失ったことで身を持ち崩し、心身の耐えがたい痛みから逃れるためヤク中になり、最終的には賭博でフットボール界を追放されました。

彼には同情すべき背景が多分にあるものの、世間からの評価は「不正にまみれて選手生命を断った負け犬」でしかない点が泣かせます。

このボロボロになった二人が、最後の意地をかけて巨悪に挑む物語。何とも胸が熱くなります。

容赦なく関心を惹かれる冒頭

冒頭のたった20分でこれだけのことが起こります。

  • 明るくハイテンションな主題歌” Friday Night’s A Great Time For Football”でアゲアゲ
  • 電話を受けて暗い顔をしたアメフト選手が土砂降りのフィールドに出てくる
  • 試合の最中に銃をぶっ放して相手チームの選手を殺傷し、自殺
  • 舞台がかわり、酔い潰れて車で寝ているジョーが子供達にイタズラをされる
  • ジョーが帰宅すると、親友が奥さんと不倫している
  • 親友の車が何者かに爆破される

何やら大変なことが進行しているというサスペンスとしては上々の出だしであり、かつ、ストーリーを前進させながらもジョーの人となりの紹介も併せて処理できており、シェーン・ブラックの職人的なうまさが光っています。

意外性に溢れた人物描写

例えば中盤でジミーがジョーの家を訪れる場面。通常の映画であれば家族との絆、相棒との絆を深める場面のはずなのですが、本作はまったく違います。

娘のダリアンはジョーをクソ親父呼ばわりして親子の口論が始まり、その過程で、奥さんも陰でジョーを負け犬と呼んでいることが分かります。そして、人んちのヤバイものを見ちゃったジミーは気まずい感じに。

その後、傷を持つ者同士で感じるものもあったのか、ジミーはジョーに奥さんと息子を事故で亡くした話をします。この瞬間、二人の間では絆が強まったのですが、次の場面ではバスルームでジミーが薬物をやっている様をジョーが目撃し、二人の関係には再度緊張感が走ります。

離れると思えばくっつき、くっつくかと思えば離れるという一筋縄ではいかない人物描写がドラマ性と緊張感を高めており、常に予想を裏切ってくる展開には目が釘付けになりました。

平凡な娯楽作に変わる後半

ただし、ジョーの娘・ダリアンが本格参戦する後半から、突如普通の娯楽路線に入ります。これがとても残念でした。

そもそもダリアンはジョーに対して猛烈な反発を示しており、父親を救出するためにジミーと行動を共にする理由がありません。事前に二人の和解、もしくは激しく口論し合っていても心の底では相手を思い合っていることを示す描写は必要だったと思います。

見せ場は派手になって行くものの、壮絶な人間ドラマの上に立脚していた中盤までの湿っぽいアクションとは明らかに異質な、ただド派手なだけの見世物になってしまった点は残念でした。

トニー・スコットが撮っているおかげでアクション映画としての一定水準を越えてはきているものの、前半とほとんど別物の映画になっているのはいかがなものかと。

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