ロング・キス・グッドナイト【良作】アクションとドラマの融合(ネタバレあり感想)

(1996年 アメリカ)
8年以上前の記憶がない田舎街の主婦・サマンサが自分の正体を探る旅に出ると、CIAの壮大な陰謀に行き着くというサスペンスアクション大作。

本作を日本で配給したギャガの人から聞いた話では、本作の興行的不振によって会社がえらい目に遭い、同時期に買い付けていた『セブン』のおかげで何とか助かったとのことで、ギャガの社内ではロクでもない映画扱いされているようなのですが、私はよくできたアクション映画だと思いますよ。

定番の記憶喪失ものに一工夫

『トータル・リコール』『ペイチェック』そして直近の『アリータ:バトル・エンジェル』等、記憶喪失ものはさほど珍しいジャンルではないのですが、たいていの映画が記憶喪失直後から始まるのに対して、本作は記憶喪失になってから8年が経過しており、主人公に新しい人格が上書きされた状態からスタートします。

これにより、自分は一体誰なのかを探るサスペンス要素に、記憶喪失前と記憶喪失後の二つの人格がせめぎ合うドラマ要素も追加されており、なかなか充実していたと思います。

ドラマの充実ぶり

サマンサとチャーリー(ジーナ・デイヴィス)

記憶喪失後の人格・サマンサが良妻賢母タイプなのに対して、記憶喪失前の人格・チャーリーはセクシーで危険なタイプ。記憶が蘇った際に、チャーリーはサマンサを否定します。家族の写真を破り捨て、あれはサマンサの家族であって私の家族ではないとまで言ってのける始末。

しかし、成人前から殺しの訓練を受けてきたチャーリーの方が作られた人格であり、サマンサこそが彼女本来の人格に近いということが判明し、誘拐された娘の救出のために戦う中で、両人格が統合されていきます。チャーリーに母性が宿っていく様、娘が捕らわれている敵のアジトへ死を覚悟して潜入する様は、なかなか感動的でした。

私立探偵ヘネシー(サミュエル・L・ジャクソン)

登場場面では女性助手を美人局にした詐欺を働いており、別れた奥さんからは息子と関わるなと言われているダメ人間。シェーン・ブラック作品ではお馴染みの、ダメ人間が最後のプライドをかけて闘うという部分は、彼が担っています。

どんどん過酷になっていく旅から何度も逃げ出そうとするものの、その度にサマンサ/チャーリーに引き留められ、いやいや旅のお供をしていたのですが、娘を救い出す際のチャーリーの覚悟を見て彼の心にも炎が灯り、捨て身の戦いを開始する様には熱いものがありました。

『ボーン・アイデンティティ』との類似点

記憶喪失の人物がCIAの殺し屋だったという話は、2002年の『ボーン・アイデンティティ』とよく似ています。危険に対して主人公の体が勝手に反応し、常人離れした殺人技に主人公自身が驚くという点や、いやいや付いてくる旅の同伴者の存在、かつて所属していた組織に命を狙われるという点も共通しています。

『ボーン・アイデンティティ』の劇場公開時、私は「『ロング・キス・グッドナイト』とえらくよく似た映画だなぁ」と思ったのですが、『ボーン・アイデンティティ』の原作の『暗殺者』は1980年に出版されており、もし両作間で影響があるとしたら、『暗殺者』→『ロング・キス・グッドナイト』→『ボーン・アイデンティティ』の順番なのでしょう。

レニー・ハーリンのハイテンション演出

本作の監督を務めたのはレニー・ハーリン。彼は主演を務めたジーナ・デイヴィスの当時の旦那であり、かつ、90年代にはハリウッドのトップ・ディレクターでした。

『ダイ・ハード2』『クリフハンガー』とVFXを駆使した大掛かりな見せ場が連続するアクション大作を得意としてきた監督であり、本作でもその手腕が遺憾なく発揮されています。見せ場にはどれも平凡なものがなく、クライマックスでは笑ってしまうほど大掛かりな爆破までを炸裂させ、見応えのある仕上がりとなっています。

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本作が製作された1996年はCGによって映像表現の幅が一気に広がった時期にあり、『チェーン・リアクション』『スペシャリスト』『ブローン・アウェイ/復讐の序曲』など、ありえないほど大掛かりな爆破を売りにしたアクション映画が多く製作されましたが、そんな中でも本作のクライマックスのインパクトは突出していたと思います。

史上最高額がついた脚本

ハリウッドでは脚本がオークションにかけられるのですが、その際に当時としては史上最高額の400万ドルという値が付けられたのが本作の脚本でした。

確かに、脚本のクォリティはめちゃくちゃに高かったと思います。ドラマ部分がよくできている上に、クライマックスに向けて計ったように盛り上がっていく見せ場の配置、伏線の回収などすべての要素がよく作り込まれており、アクション・サスペンス・ドラマの関連のさせ方も良く、加えて適度なユーモアも含まれており、アクション映画の脚本としては理想的な仕上がりとなっています。

これを書いたのはシェーン・ブラック。『リーサル・ウェポン』や『ラスト・ボーイスカウト』ですでに評価を受けていた人物ですが、そのキャリアにおける最高峰の脚本だったと思います。

なお、脚本オークションには裏話があって、当時はまだホラーを主力にしたインディーズスタジオだったニュー・ライン・シネマがこれを買い付けようとした際に、メジャースタジオが嫌がらせをして脚本料が吊り上がったと言われています。同様の現象は、カロルコがジョー・エスターハスの『氷の微笑』を落札した際にも起こっており、メジャーもなかなかえげつないことをするもんですね。

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