(2021年 アメリカ)
メタ的要素をぶち込んだ実験的な作風であり、かなり冒険しているのに、それでもちゃんとマトリックスになっているというバランス感覚はお見事でした。また3部作の後日譚としても筋の通った世界観を構築できており、概ね満足できました。万人が満足する映画ではないものの、これはこれでいいんじゃないでしょうか。
※ネタバレしているので、鑑賞前の方はご注意ください。
感想
狐につままれたような序盤
第一作公開当時、『マトリックス』はトーマス・アンダーソンの夢説がまことしやかに囁かれていました。ダメサラリーマン アンダーソンが、自分は特別な存在であると妄想しているだけではないかと。
幸いなことに、その後に製作された2本の続編はこうした禁じ手を使うこともなく、救世主ネオがマトリックスに革命を起こす話として完結してくれました。
そして本作ですが、何とアンダーソンの夢説が22年ぶりに復活します。
歳を食ったトーマス・アンダーソン(キアヌ・リーブス)はゲームクリエイターで、大ヒットゲーム『マトリックス』3部作を作った実績で、世界にその名を轟かせています。
すなわち、前3作はトーマス・アンダーソンの創作物だったというわけです。
スミス社長(ジョナサン・グロフ)からは『マトリックス4』を作れと言われており、ワーナーブラザースは我々抜きでもやるつもりだろうから、だったら我々で作るべきであると、その意図の説明を受けます。
あまりに強烈なメタ的要素に、私は面食らってしまいました。
そして、本作はどの方向に転がっていくのかがまったく見えなくなりました。
従前シリーズの流れを引き継ぐならば、これはマトリックスに見せられている夢であり、その後トーマスがネオとして目覚めるという話になるのでしょう。
しかし、ゲームクリエイター トーマス・アンダーソンこそが現実であり、彼が『マトリックス4』を製作するにあたって再度妄想を膨らませるという筋でも、全然いけそうなのです。
この騙され方は気持ちよかったですね。マトリックスに係る認識をシェイクされる序盤は最高でした。
そんなトーマスの前に、派手なスーツを着て随分と若返った(というか同名の別人なんですが)モーフィアス(ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世)が現れ、するとスミスは本性を現してトーマスを攻撃してきて、やっぱりここは仮想空間なんだということが判明します。
かくしてトーマスはネオとしての人格を取り戻し、人間発電所から解放されて工作船に回収されます。
この辺りは完全に第一作の焼き直しなのですが、映像技術の革新によってビジュアルの迫力や説得力は向上しており、ほぼ同じ内容なのに新鮮な気持ちで見ることができました。
レボリューションズ後の世界が興味深い
ネオが覚醒したのは『レボリューションズ』のラストから60年後のようで、その間に世界はこのように変化していました。
- 機械はネオとの協定を守って希望者をマトリックスから解放
- その結果、深刻な電力不足が発生。再度人類に侵攻をかけるべしとする主戦派と、協定を守るべしとする反戦派とに機械が分裂し、機械同士の戦争が始まる。
- 一方、ザイオン内のネオ信者達はネオが結んだ協定が破られるとは考えておらず、その結果、機械による再侵攻を受けてザイオンは壊滅
- 侵攻を予期して脱出していたグループは、平和的な機械やプログラム達と合流して新天地アイオを建設
- マトリックスは先代のアーキテクトからアナリスト(ニール・パトリック・ハリス)に設計者が交代し、新たなバージョンで運用されている。
これらの後日譚もよく考えられていて、私は「ほ~」っと納得し通しでした。機械の仲間割れなんて完全に想定外で、「その発想はなかったわ」と板尾の嫁のように驚きました。
また人類vs機械という二項対立を捨て、方向性を同じくするのであれば人類と行動を共にする機械やプログラムも出現するという新機軸に表されるメッセージ性も良かったですね。
今やボーダーレスの時代であり、機械だから、人間だから倒さねばならないという考え方は古いのですよ。
マトリックス新劇場版:Q
そしてモーフィアスを始めとしたネオ信奉者達の頑固さのせいでザイオンが壊滅し、ネオが何となく悪いことをしたような空気になっている辺りは『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(2012年)みたいでしたね。
アイオの世論は、ネオを絶対に許せないか、ネオにもいろいろあったんだし許しましょうよのどちらかであり、ネオと機械は元々グルで革命という幻想を人類に抱かせ、結果的にザイオンを壊滅にまで追い込んだのではという陰謀論までが流布されている様子。
伝説の人物ネオへの敬意を表明する者は少数派であり、本人に耳打ちするレベルで言ってくるほど、その支持を大っぴらに表明できないような空気があります。
ネオからすれば、悪いことが起きるよう仕向けたわけでもなし、新生マトリックスに繋がれている間に起きたことも認識していない中で、何かみんなの視線が厳しくてやりづらいという。
身を賭してまでザイオンを守ったネオの姿を知っている私としては、実に切ない気持ちになりました。
同窓会的な雰囲気が楽しい
で、人類の新たな拠点アイオを統治しているのは、第二作からお馴染みのナイオビ(ジェイダ・ピンケット・スミス)。
そしてネオの覚醒を機にスミスは彼に対する愛憎入り混じる思いを発言し、再登場したメロヴィンジアン(ランベール・ウィルソン)は、落ちぶれる原因を作ったネオを逆恨みして襲い掛かってきます。
こういた懐かしいキャラを、思いもよらぬ形で再登場させる演出も心憎いですね。
同窓会的な雰囲気があって、シリーズのファンである私は特に楽しめました。
クライマックスの超絶アクションでおなか一杯
その後、ネオ一行はマトリックスに閉じ込められているトリニティ(キャリー=アン・モス)の救出に向かいます。
一方、アナリスト(ニール・パトリック・ハリス) からすると、新生マトリックスはネオとトリニティの観察により作り上げているものであり、ネオに続いてトリニティまで失ってしまうとマトリックスの存続の危機であるとして、これを阻止しようとします。
ここからネオ一行vsアナリストの戦いが始まるのですが、前3部作ほど荒唐無稽ではないが、それでも達人同士の衝突を具体化した、素晴らしい見せ場が目を楽しませてくれます。
白眉は新マトリックスに仕掛けられたボットと呼ばれる機能で、これはマトリックス内の人々の意識を奪い、一時的にアナリストがコントロールするモードであり、終盤ではネオとトリニティは街全体から追い掛け回されることとなります。
一般大衆が敵に回るという展開はこれまでのシリーズになかったので新鮮だったし、ネオの足止めをするために高層ビルから雨あられのように人を落とす「ボット爆弾」も、滅茶苦茶なんだけど盛り上がりました。
よくあんな見せ場を考えたものですね。
最後の最後にも第一作を思わせるヘリとの戦闘が入るのですが、こちらも迫力十分で目を楽しませてくれました。
バカバカしくも盛り上がる見せ場があってこそのマトリックスなのですが、その点では本作も合格点を出せます。
語り口の難しさは相変わらずの欠点
そんな感じで概ねは満足できたのですが、シリーズ全体の欠点である語り口の難しさは本作でも健在。これは残念でしたね。
肝心な部分では小難しい表現が使われるので半分くらい何を言ってんだか分からないし、これが長々としたモノローグのみで語られ、ストーリーを絵で見せるという工夫がないことも、見辛さの原因となっていました。
もっと分かりやすく説明はできなかったんでしょうか。
≪マトリックス シリーズ≫
【良作】マトリックス_ボンクラ社員が世界の救世主だった
【凡作】マトリックス リローデッド_下品なロマンス部分
【良作】マトリックス レボリューションズ_ド迫力の全面戦争
【良作】マトリックス レザレクションズ_上出来なセルフパロディ