【駄作】沈黙の陰謀_セガールが世界的免疫学者って…(ネタバレあり・感想・解説)

災害・パニック
災害・パニック

(1998年 アメリカ)
今回のセガールは免疫学者なのだが、行動はいつも通りの武道家という理解に苦しむキャラクター像に、ウィルス感染して弱りきったテロ組織が相手というおかしな設定が組み合わされた、90年代セガールの最低作品でした。

作品解説

長年のパートナー ジュリアス・R・ナッソーとの訣別作

セガール映画に詳しい方なら、90年代のセガール作品には必ず「セガール/ナッソープロダクション」のクレジットが入ることにお気づきでしょう。

これは俳優スティーヴン・セガールと製作者ジュリアス・R・ナッソーが共同設立した製作会社で、90年代のセガール作品はすべてこの会社が製作していました。

この通り、セガールとナッソーはビジネスパートナーの関係にあり、その源流はセガールのデビュー作『刑事ニコ/法の死角』(1988年)でナッソーが国際マーケティング担当だったところにまで遡れます。

それほどの蜜月関係にあった二人なのですが、本作が最後のコンビ作になりました。

本作製作当時に何かの映画雑誌で読んだ記事をうろ覚えながら再現すると、本作『沈黙の陰謀』は長年セガール作品のリリースを行ってきたワーナーから離れ、セガール/ナッソーが独自で資金調達をした初の作品でした。

それだけにナッソーの意気込みもハンパなものではなかったのですが、一方セガールの遅刻癖が本作でもかなり酷く、時間の浪費は資金の浪費であるとしてナッソーは激怒。そのために二人の関係は崩壊したといいます。

記憶違いがあれば申し訳ないのですが、確かこんな感じだったと思います。

で、ドラマチックだったのがその後で、セガールはナッソーの元を去って行ったのですが、そうはいってもスタジオにはすでに企画段階に入っていた作品が4本も残されていました。

家族を殺されたセガールが現代の海賊と戦う”Blood on the Moon”や、セガールが高級車のみを狙う車泥棒に扮する”Black Top”などがそれです。

ナッソーとしてはこれらの製作のためにセガールを連れ戻したいし、もし戻る気がないのであれば違約金を払わせたい。

そこでナッソーはマフィアのガンビーノファミリーを雇い、ジョエル・シルバーの元で『DENGEKI 電撃』(2001年)を撮影中だったセガールをレストランに呼び出して脅迫。映画に出演するか1本15万ドルのペナルティを支払うかのどちらかを選ぶよう迫りました。

マフィアに殺すと脅されながらも、セガールは首を縦に振ることは決してせず、解放。アクションヒーローを地で行く根性を見せたのでした。

で、本件はかねてよりガンビーノファミリーをマークしていたFBIの知るところとなり、セガールは法廷での証言を依頼されました。

2003年3月、ガンビーノファミリーの構成員アンソニー・チッコーネと共にナッソーは恐喝罪で有罪判決を受け、1年間の服役と75,000ドルの罰金を課せられました。

デヴィッド・エアーが脚本を書いたらしい

本作は”The Last Canadian”という小説が原作であり、表面上はM・サスマンとジョン・キングスウェルという脚本家がクレジットされています。

ただしこの2名の脚本家に本作以外の履歴は見当たらず、アラン・スミシーではないかと言われています。

では一体誰が脚本を書いたのかというと、『クエスト』(1996年)と『ダブルチーム』(1997年)という2本のヴァンダム作品を手掛けたポール・モネスと、後に『U-571』(2000年)『トレーニング・デイ』(2001年)を手掛けるデヴィッド・エアーだったと言われています。

初期の宣伝資料には脚本家としてエアーの名前が記載されてたらしいし。

ただし脚本家がクレジットを拒否していることから、彼らの書いた脚本にかなりの改変が加えられているものと思われます。

セガールVシネ俳優化の先駆け

本作の製作費は2500万ドルで、全盛期のセガール作品と比べれば控えめではあるものの、それでもなかなかの金額がかけられています。

当初は劇場公開作品のつもりで製作されていたのですが、作品の出来が芳しくなかったためか、アメリカではケーブルテレビでの公開となりました。

90年代前半には全米No.1を連発するマネーメイキングスターだったセガールも、21世紀に入るとVシネ俳優にランクダウンしましたが、その先駆けとなったのが本作だったというわけです。

感想

セガールが世界的な免疫学者という無茶

本作のセガールが演じるのはウェズリー・マクラーレン医師。

かつての同僚をして「替えがいない」と言わしめるほどの優秀な免疫学者であり、例によってCIAで極秘のプロジェクトに参加していたのですが、危険性を訴えていたウィルス兵器の開発をCIAがやめなかったこともあって退職。

毎度毎度セガールはCIAの汚れ仕事を引き受けながらも、組織の汚れた体質に嫌気がさして退職するという「入社した時点で分からんかったか?」と言いたくなるような履歴を背負っているのですが、今回もそのパターンでした。

現在はモンタナの田舎で一人娘と共にカウボーイみたいなことをしたり、街の高齢者相手に赤ひげ先生みたいなことをしたりして、悠々自適の生活を送っています。

セガールが免疫学者、しかも物凄く優秀という時点で「そんな阿呆な!」と思ったのですが、彼に対して免疫学者らしくないとツッコむ者は特におらず、これはこれで納得しなければならないようです。

では免疫学者という設定を守って今回のセガールの戦力には抑制が効いているのかというとそうでもなく、いつも通りに強いので、このマクラーレンという人物をどう理解すればいいのかに迷いました。

世界的な免疫学者にして、マーシャルアーツや射撃の達人。謎ですね。

敵は弱った重病人

敵となるのは極右民兵組織。

1993年にFBIとの大銃撃戦を繰り広げたカルト宗教団体ブランチ・ダビディアンや、90年代に社会問題化していたネオナチなどのイメージの合成だと思われます。

この民兵組織はあっさりとFBIに投降するのですが、実はCIAから盗んだウィルス兵器に自分達を感染させており、しょっ引かれた先にウィルスをばらまくという計画を立てています。このウィルス兵器とは、セガールがCIAを退職するきっかけになったあれですね。

それほどのバイオテロをなぜ都市部ではなくモンタナの田舎街でやっているのかはよく分からないのですが、とりあえずそういうことらしいです。

で、彼らはウィルス兵器とセットでワクチンも入手しており、ターゲットだけを殺して自分達は生き残る作戦だったのですが、ウィルスが変異を遂げてワクチンが効かなくなったので万事休す。

ウィルス兵器の開発者マクラーレン博士が偶然にも同じ町内にいたことから(どんな偶然よ)、彼を誘拐して新しいワクチンを作れと迫っていきます。

しかし当然のことながらセガールがこちらの指示を聞いてくれるはずもなく、武力で言うことを聞かせようとするとセガール拳で返り討ちに合わされるという悪循環に陥ります。

よくよく考えてみると民兵組織とマクラーレンのやりとりは謎で、住民を救うためにワクチンを作る必要があるのはマクラーレン側も同じなので、実は両者の方法論にさほどの齟齬はありません。

無闇に敵対せず協力してワクチン開発すりゃいいんじゃないかと思うのですが。

あと、この民兵組織がそもそも強そうな敵ではない上に、強力なウィルスに感染していてセガールとの戦闘どころじゃないほど弱っているという別問題も発生しています。

テロリストが弱った重病人というアクション映画史上類を見ない構図には呆気にとられるしかないのでした。

免疫学者である意味がなかった

そんな敵の包囲網をいとも簡単に破ったマクラーレンは、物凄くかわいいんだけど目鼻立ちがセガールに似てるっちゃ似てる一人娘と、近所に住むベリービューティフルな医大生を連れて、政府の地下研究施設に向かいます。

モンタナの荒野のど真ん中という誰からも見られていない場所で、なぜわざわざ地下に作ったんだろうかと言いたくなる無駄さ加減が百戦錬磨。

そこでマクラーレンはワクチン開発に精を出すのですが、コロナ禍を経験した我々には、これが物凄く難しい課題であることがよく分かります。

セガールをもってしてもワクチン開発は困難で、結局開発できずに終わるのですが、ふとマクラーレンは、感染者といたのに俺は元気だ、娘も元気だ、医大生も元気だ、共通するのは地元のお茶を飲んでいることだというわけで、お茶の原料である自生する花が特効薬であることに気付きます。

地元のお茶が答えなのだとしたら、勘の鋭いいつものセガール捜査官でもそこに辿り着けたはずで、マクラーレンを免疫学者にする必要はなかったように思いますが。

セガールアクションかなり少なめ

とまぁ話はボロボロなのですが、そんなことを言い出せば『グリマーマン』(1996年)だって『沈黙の断崖』(1997年)だって褒められたものではありませんでした。

しかしそれらの作品には敵をぶん投げて骨をバキバキ折りまくるいつものセガールがいて、我々観客は、話がどれほどいい加減でもセガール無双を見れば満足できていたわけですが、一方本作にはそれがありません。

それが本作最大の欠点となっています。

敵が弱いこともあってセガールが大して暴れない。その上、セガール拳をカメラワークやカット割りで誤魔化す。そうした手抜きが始まってしまうと、やはり厳しいものがありますね。

セガールが90年代に出演した作品では、もっとも見ていられない作品となっています。かなりの不評を受けた『沈黙の要塞』(1994年)よりも酷いです。

≪スティーヴン・セガール出演作≫
【凡作】刑事ニコ/法の死角_パワーと頭髪が不足気味
【駄作】ハード・トゥ・キル_セガール初期作品で最低の出来
【凡作】死の標的_セガールvsブードゥーの異種格闘戦は企画倒れ
【良作】アウト・フォー・ジャスティス_セガール最高傑作!
【良作】沈黙の戦艦_実はよく考えられたアクション
【凡作】沈黙の要塞_セガールの説教先生
【良作】暴走特急_貫通したから撃たれたうちに入らない
【凡作】グリマーマン_途中から忘れ去られる猟奇殺人事件
【凡作】エグゼクティブ・デシジョン_もっと面白くなったはず
【凡作】沈黙の断崖_クセが凄いがそれなりに楽しめる
【駄作】沈黙の陰謀_セガールが世界的免疫学者って…
【駄作】DENGEKI 電撃_セガールをワイヤーで吊っちゃダメ
【まとめ】セガール初期作品の紹介とオススメ

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