【良作】パーフェクト・ストーム_男には行かねばならない時がある(ネタバレあり・感想・解説)

災害・パニック
災害・パニック

(2000年 アメリカ)
身もふたもない言い方をすると判断ミスをして嵐に突っ込んでいった漁師の話なのですが、そうまでしてでも金を持って帰んなきゃいけない男たちの物語として見ると、実に熱く切ないものがあります。そこに素晴らしいVFXが被さり、人間ドラマとスペクタクルの優れたハイブリッド作品となっています。

作品解説

ノンフィクション小説の映画化

本作の原作はジャーナリストのセバスチャン・ユンガー著『『パーフェクトストーム -史上最悪の暴風に消えた漁船の運命』(1997年)。1991年の大嵐で行方不明になったアンドレア・ゲイル号をテーマにした作品です。

ワーナーはこの企画をスティーヴン・スピルバーグに持ちかけたのですが、『ジョーズ』(1975年)で苦労した経験を四半世紀引きずっていたスピルバーグは、水を扱う撮影を嫌ってオファーを断りました。

そして『U・ボート』(1981年)で水を使った撮影の経験があり、直近では『エアフォース・ワン』(1997年)を手掛けて最新テクノロジーの扱いにも長けたウォルフガング・ペーターゼン監督に決定。

主人公のビリー船長役にはメル・ギブソンを希望したのですが、ビックリするような金額のギャラを要求されて断念。代わりにメルギブは2500万ドルものギャラを受け取ってソニーの『パトリオット』(2000年)に出演しました。

また若手船員ボビー役にはニコラス・ケイジが考えられていたのですが、こちらはディズニーの『60セカンズ』(2000年)に持っていかれてしまいました。

そこでワーナーはジョージ・クルーニーをビリー船長役にキャスティングし、さらにクルーニーからの推薦でボビー役にウォルバーグがキャスティングされました。二人は戦争アクション『スリー・キングス』(1999年)で共演したばかりでした。

なお、クルーニーが最初に希望していたのはボビー役だったのですが、「君もそろそろ深みのある役柄に挑戦した方がいい」というペーターゼンの勧めもあって船長役になりました。

興行的には大成功した

本作は2000年6月30日に全米公開され、本作のオファーを断ったメル・ギブソン主演の『パトリオット』(2000年)に大差をつけて初登場1位を獲得。

全米トータルグロスは1億8261万ドルで、年間第4位の大ヒットとなりました。

国際マーケットでも同じく好調で、全世界トータルグロスは3億2871万ドルでした。

感想

男には行かねばならない時がある

公開時に今はなき梅田東映パラスで見て、その時には全然面白くなかったのですが、20年後の現在の目で見ると物凄く楽しめました。

本作のポイントって嵐に突っ込んでいった漁師達に共感できるどうかなのですが、若い頃には分からなかった「何をしようが金を持って帰らなきゃいけない」という感覚が、中年になると痛いほど理解できたので物凄くドラマに入り込めました。

ビリー船長(ジョージ・クルーニー)の船 アンドレア・ゲイル号はここんところ不漁続き。給料は取れ高からの歩合であるため単純に実入りが減る上に、職業人としてのプライドも傷ついています。

こんな稼ぎじゃ生活できないということで離れていく船員もいるし、船主(マイケル・アイアンサイド)からのプレッシャーもある。

そして恋人の女船長(メアリー・エリザベス・マストラントニオ)は絶好調なので、彼女に不甲斐ないところを見せ続けることもしんどかったりします。

そんな中で「今度こそは!」という意気込みで出港し、普通なら行かない遠洋にまで出て行ってようやく大漁をゲットするのですが、よりによってこのタイミングで船の製氷機が故障した上に、史上最大規模の嵐が発生。

魚を持って帰るためにはすぐに引き返さなければならないが、今帰れば嵐と鉢合わせになるという、究極の二択を突き付けられます。

合理的に考えれば「命あってこそ」なので魚は諦めて嵐が去るのを数日待つべきところなのですが、雇われの漁師なんてみんな裕福ではない上に、離婚問題などを抱えている者もいて、とにかく今、金を持って帰んなきゃいけないわけです。

加えて、また不漁だとなじられることが嫌だ、俺らだってできることを見せつけたいという感覚も理解できます。特にビリー船長はこの要因が強いのではないでしょうか。

突き放して見れば漁師たちは判断ミスをしたのですが、このミスの背景にある事情には真に迫るものがあって、リスクを負ってでも嵐に突っ込まなきゃいけなかったという部分にこそドラマ性が宿っています。

かっこよすぎる沿岸警備隊員

そんな漁師たちのドラマと並行して描かれるのが、災害救助を行う沿岸警備隊員たちの活躍です。これが実に見ごたえがあったし、世の中にはこんなに大変な仕事があるのかと驚かされました。

まず彼らは、嵐に巻き込まれたヨットの救助に向かいます。

このヨットの船主である津川雅彦みたいなおっさんがどうしようもない奴で、「俺は何十年もヨットに乗ってるんだ」「俺のヨットで勝手なことするな」とか言って事態をどんどん悪化させ、最終的に転覆という事態にまで至るのですが、沿岸警備隊の人たちはこういうおっさんでも命がけで救ってくれるわけです。

その献身的な活動には頭が下がる思いがしました。

そしてヨットを救った直後にはアンドレア・ゲイル号の救助要請を受け、ヘリの燃料もギリギリなので行くかどうかの判断は現場隊員に委ねられるのですが、彼らは「また漁師かよ」とあきれ顔をしつつも救助には行くという選択をします。

身を挺してでも人命救助をしなければならないという強い使命感を持っているわけです。

ただし、嵐の中で空中給油に失敗したために彼らのヘリは墜落し、隊員たちは嵐の海に投げ出されます。それでも最後までヘリを操縦し続ける者、荒れる海で見当たらない仲間を探す者など、自己の生存以上にチームや仲間を思いやる行動連発で熱くなりました。

それは彼らを救助に来た巡視船も同じく。「仲間を残してはいかない」という姿勢が徹底されており、船自体が転覆する危険を冒してでも最後の一人まで救おうとします。これまた激熱でしたね。

VFXは驚異のレベル

そして記録的な嵐を再現するVFXも驚異のレベルであり、製作から20年以上経った現在の鑑賞にも耐えうる水準に達しています。

これを担当したのはジョージ・ルーカスが設立したVFX工房ILMで、『ツイスター』(1996年)を製作したスタッフが本作にも集められました。

彼らは波のうねりをCGで作り上げると同時に、スタジオでのライブ撮影との合成も行って、漁船が大波にもてあそばれる光景を作り上げました。

その威力は凄まじく、クライマックスでは荒れ狂う自然との対比で人間の非力さを見事表現するに至っています。

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