【良作】ブロンディー/女銀行強盗_主人公に感情移入しまくり(ネタバレあり・感想・解説)

クライムアクション
クライムアクション

(1993年 アメリカ)
公開時には大コケした映画ではあるのですが、娑婆に出た元犯罪者の苦境からスタートして、乗らざるを得なくなった犯罪計画を遂行する場面での緊張感も高く、常に主人公に感情移入しながら見ることができました。なぜこんなに不人気なのかがよく分からない映画。

作品解説

興行的には失敗した

本作は1993年9月10日に全米公開されたのですが、ハリソン・フォード主演の『逃亡者』(1993年)やトニー・スコット監督の『トゥルー・ロマンス』(1993年)といった類似作に完敗し(なぜ似たような映画が同時期に複数公開されていたのかも謎ですが)、初登場5位と低迷。

翌週はさらに売上高が落ち込んで10位となり、全米トータルグロスはわずか648万ドルに留まりました。

キム・ベイシンガーとヴァル・キルマーという人気俳優の共演作でありながらこの金額は異例の低さであり、興行的には惨敗しました。

感想

主人公に感情移入しまくり

本作の主人公はカレン・マッコイ(キム・ベイシンガー)。そういえばベイシンガーは翌年の『ゲッタウェイ』(1994年)でもマッコイ姓の犯罪者を演じますね。そちらの名前はキャロルですが。

邦題では女銀行強盗と書かれていますが、カレンは閉店後の銀行に侵入することを手口としているので、強盗と言うよりも金庫破りに近そうです。

で、冒頭にてその鮮やかな手口が描かれるのですが、何かのミスで彼女は警官隊に囲まれてそのまま刑務所送りに。

6年後、カレンは辛い刑務所暮らしを経て仮出所を果たすのですが、前科者の彼女の身には娑婆でも辛いことばかり起こります。

金はない、仕事は見つからない、保護観察官には高圧的な態度をとられる。何より耐えられないのは9歳の息子に会えないことで、6年前、彼女は3歳の息子パトリックを残して入所したのですが、夫ロイは彼女の金で建てた家に再婚相手と暮らし、パトリックに対しては「本当のお母さんは死んだ」と説明しています。

弁護士を頼っても「仮釈放中のあなたが親権を主張しても、月に2時間の面会を勝ち取るのがせいぜいですよ」と言われてしまい、やりようがありません。

前半部分ではカレンの苦境がこれでもかと描かれるのですが、くたびれた美人であるキム・ベイシンガーが前科者の女性に実によくマッチしており、大変感情移入しながら見ることができました。

後半、彼女は逮捕されたのと同じヤマを狙いに行くことになるのですが、娑婆でこれだけ大変な目に遭っているのだから、私は止める気にはなりませんでした。むしろ「得意なことをやってこの社会から高飛びしなさい」と応援したくなったほどであり、前半部分のフリは後半に向けて実によく機能しています。

ドキドキの銀行潜入場面

そんなわけで後半では銀行への潜入が描かれるのですが、このパートは緊張感の連続で楽しめました。

計画段階で銀行のセキュリティを見たカレンは、最新式の警報器を切ることは不可能と判断。そこで「警報を鳴らさない」という通常の対応策ではなく、こちらのタイムスケジュールに「警報が鳴る」という手順を入れ込んでしまい、コントロール可能な状態でこれを鳴らすという驚天動地の作戦を立てます。

すなわち、彼女らが銀行潜入中に警察が数度来てしまうのです。

本作の脚本家はよくこんなアイデアを思いついたなぁと感心すると同時に、通常ではありえない強盗計画には特有の緊張感が宿っていました。

加えて全体の空気づくりもよくできており、ハッピーエンドとバッドエンドのどちらでもありそうな微妙な空気感が作り上げられているので、見ている側に先読みをさせていません。

おかげで最後の最後まで固唾を飲みながらみることができました。特に最後のアレには本当にやられましたね。

テレンス・スタンプのキャラが未完成すぎる

そんなわけで全体的にはとても楽しめたのですが、堅気で生きようとするカレンを無理やりに犯罪計画に引き込む犯罪組織のボス ジャック・シュミット(テレンス・スタンプ)のキャラクターがよくわからなかった点だけは、本作の欠点でした。

ジャックは地元の名士として振る舞い、豪邸で2頭の虎を買っているほどの金持ちなので、どうしても金に困っているようには見えません。彼が悪事によって財を成した人間であるにせよ、満ち足りた現在のジャックがリスクを冒してまで銀行の金を盗もうとする動機が見えてこないのです。

加えて、ジャックは6年前のカレン逮捕劇に関与していたようで、その時の悪感情もカレンが計画に乗ってこない理由の一つになっているようなのですが、具体的に二人の間で何が起こったのかの説明が最後までないので、両者のドラマも見えづらくなっています。

ネットを調べても二人の関係性についてはいろんな意見があって、多いのは「6年前、カレンはジャックに裏切られた」という解釈なのですが、劇中におけるジャックの「あの時、俺と組んでれば刑務所になど入らずに済んだのに」というセリフから考えるに、身内の裏切り説は違うような気がします。

カレンはジャックと組んでおらず、仲間に入らなかったカレンをジャックが警察に密告し、それが冒頭での逮捕劇に繋がったと考えることがもっともしっくりきます。

いずれにせよ、劇中でちゃんと説明してくれればこんなことで悩まずに済んだところを、登場人物同士の関係を理解するために必要な情報が欠けた状態になっているのは作品の欠点だと思います。

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