【凡作】トータル・フィアーズ_全然恐怖を感じない(ネタバレあり・感想・解説)

軍隊・エージェント

(2002年 アメリカ)
若返ったジャック・ライアンの成長譚としてはなかなか面白かったのですが、米ロ全面戦争が迫るという巨大な物語である割にはスケール感も緊張感もなく、ポリティカルスリラーとしては失敗していました。

あらすじ

健康問題を抱えていたロシア大統領が急死し、国際的な知名度の高くないネメロフが新大統領に就任した。若いCIA分析官ジャック・ライアン(ベン・アフレック)は、過去にネメロフに関するレポートを書いた経験から閣僚会議に呼ばれ、CIA長官キャボット(モーガン・フリーマン)の助手としてロシアへ視察へと向かった。

その視察の際に、ロシアの核科学者が行方不明になっているという情報を掴む。その科学者を追う過程で、ライアンはアメリカ国内に核爆弾が持ち込まれたことを突き止める。

スタッフ・キャスト

監督は『フィールド・オブ・ドリームス』のフィル・アルデン・ロビンソン

1950年ニューヨーク州出身。テレビでの演出を経て映画界入りし、脚本・監督を務めたケヴィン・コスナー主演の『フィールド・オブ・ドリームス』(1989年)で高評価を受けました。その後、ロバート・レッドフォード主演のハイテクサスペンス『スニーカーズ』(1992年)がヒット。スピルバーグ製作のテレビドラマ『バンド・オブ・ブラザーズ』(2001年)の1エピソードも監督しています。

当初、本作の監督はフィリップ・ノイスに打診されていたのですが降板。その後はウォルフガング・ペーターゼンにも声がかけられていたのですが、最終的にロビンソンが選ばれました。

ロビンソンは90年代後半にハリソン・フォードと共に『The Age Of Aquarius』という企画に携わっており、結局この企画は没になったのですが、ジャック・ライアン俳優であるハリソン・フォードとの接点で本作の監督に選ばれたものと推測されます。

脚色は『フェイク』のポール・アナスタシオ

1959年NY出身。ハーバード大学ロースクール出身で、ワシントンポストで映画評論家として活躍した後に脚本家になった人物。

映画評論家から作り手側に回った人物は意外と多く、『脱出』(1971年)のジョン・ブアマンや『ラスト・キャッスル』(2001年)のロッド・ルーリーらがこれに当たります。

1990年代にはハリウッドでもトップクラスのスクリプトドクターとして知られるようになり、『スピード』(1994年)、『エアフォース・ワン』(1997年)、『アルマゲドン』(1998年)などを手掛けました。

また未映画化ながらリドリー・スコット監督、ロバート・レッドフォード主演のパンデミックサスペンス『ホットゾーン』の脚本も手掛けていました。この企画は後に形を変えてウォルフガング・ペーターセン監督の『アウトブレイク』(1995年)になりました。

ロバート・レッドフォード監督の『クイズ・ショー』(1994年)からクレジットされるようになり、アル・パチーノとジョニー・デップが共演した『フェイク』(1997年)で注目の監督となりました。

主演はベン・アフレック

1972年カリフォルニア州出身。1984年に両親の離婚を気にマサチューセッツ州ボストンに引越し、近所に住むマット・デイモン少年と知り合いになりました。

幼少期より子役として活動しており、90年代半ばよりケヴィン・スミス監督作品に常連となって『バッド・チューニング』(1993年)、『モール・ラッツ』(1995年)、『チェイシング・エイミー』(1997年)に出演しました。

マット・デイモンと共同執筆した『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(1997年)でアカデミー脚本賞を受賞し、翌年には超大作『アルマゲドン』(1998年)に出演し、世界的な名声を得ました。

本作に出演した2002年あたりがキャリアの第一次ピークでしたが、『デアデビル』(2003年)と『ジーリ』(2004年)が連続して失敗したことから一時低迷しました。

しかし、弟ケイシーを主演にした監督作『ゴーン・ベイビー・ゴーン』(2007年)が批評家から絶賛され、映画監督として復活を果たしました。続く監督2作目『ザ・タウン』(2010年)も批評家から好意的に受け入れられた上に初登場1位も記録し、監督3作目『アルゴ』(2012年)でアカデミー作品賞受賞。って、ベンすごすぎ。

ちなみにベン・アフレックはポーカープレイヤーとしても凄腕で、全米選手権に参加した際には賞金35万ドルをかせぎだしました。またブラックジャックが強すぎてカジノから禁止を言い渡されたほどであり、これらのエピソードから頭がめちゃくちゃに良いということが分かります。

『デアデビル』で共演したジェニファー・ガーナーと10年間の結婚生活を送っていたのですが、アルコールが原因で離婚。現在は世界で最も美しい顔第9位にも選ばれたことのあるアナ・デ・アルマスと交際中です。って羨ましすぎ!

作品解説

ジャック・ライアンのリブート

ジャック・ライアンシリーズ第3弾『今そこにある危機』の後、同作のフィリップ・ノイス監督×ハリソン・フォード主演で第4弾の企画が立ち上がりました。

当初の予定では小説3作目『クレムリンの枢機卿』を映画化するつもりだったのですが、映画化するには複雑すぎる内容だったために断念。小説5作目『恐怖の総和』を映画化することになりました。

しかしフィリップ・ノイスもハリソン・フォードも企画に納得できずに降板し、スタッフ・キャストを一新してのリブート企画として仕切り直されることが決定。

これに合わせてジャック・ライアンの年齢も大幅に引き下げられ、2002年を舞台にした作品において、当時29歳のベン・アフレックが駆け出しのCIA分析官として初の大仕事に挑むライアンを演じることになったのでした。

原作者のトム・クランシーは、過去にライアンを演じた3名の俳優の中でもっともお気に入りなのはベン・アフレックだと言っています。

小説版はイスラム系のテロリストが敵だったのですが、本作製作中に同時多発テロが起こって犯人像の変更を余儀なくされ、ドイツのネオナチを中心とした世界中の国家主義者達が国境の垣根を越えて団結するという矛盾した設定が置かれることとなりました。

なお本作で大統領役を演じたのはジェームズ・クロムウェルで、前作『今そこにある危機』で大統領役を演じたドナルド・モファットに似ていることで有名な人なので、両作の大統領が同一人物であると錯覚しがちなのですが、二人は別人という設定です。

『今そこにある危機』(1995年)のベネット大統領(ドナルド・モファット)
『トータル・フィアーズ』(2002年)のファウラー大統領(ジェームズ・クロムウェル)

2週連続全米No.1ヒット

本作は2002年5月29日に公開され、公開3週目を迎えていた『スター・ウォーズ エピソード2』(2002年)や5週目の『スパイダーマン』(2002年)といった爆発的なヒット作を抑えて全米No.1を獲得しました。

翌週にはアンソニー・ホプキンスとクリス・ロック共演のスパイアクション『9デイズ』(2002年)が公開されたのですが、これを寄せ付けずV2達成。

『スクービー・ドゥ』(2002年)、『ボーン・アイデンティティ』(2002年)、『ウィンドトーカーズ』(2002年)が公開された3週目にして4位に後退しました。って、この時期スパイアクションが公開されすぎですね。

全米トータルグロスは1億1890万ドルであり、製作費6800万ドルという夏の大作としては控えめな作品ながら興行的には健闘しました。

世界マーケットではやや勢いは鈍ったのですが、それでも全世界トータルグロスは1億9392万ドルという好成績を収めました。

感想

若返ったライアン像が新鮮

公開当時、ベン・アフレック演じるジャック・ライアンには賛否両論が起こったのですが、私は良かったと思います。

分析官としての能力には長けているものの、その他の面では若く未熟であり、海千山千の閣僚や軍人の前での発言や振る舞いを間違えてしまうライアン像には好感を持てました。

その経歴にも大幅な変更が加えられています。原作及び過去の映像化作品におけるライアンには軍歴があり、名誉の負傷で退役した後には民間企業に務め、それからCIA分析官になったという経歴が置かれていたのですが、本作では軍歴がないものとされています。

ライアンが銃撃をする場面がなく、ウクライナでクラークに合流した際には実戦ができない旨を伝えており、従前の文武両道のスーパーマンから、単なる分析官へと変更がなされています。

こうした等身大のヒーロー像への転換は概ね成功しており、無鉄砲な若造が国際的な危機の当事者となって奮闘するドラマとして真っ当な出来となっています。

この辺りは『フィールド・オブ・ドリームス』(1989年)など主にドラマ作品を手掛けてきたフィル・アルデン・ロビンソン監督の手腕が発揮されたと言えます。

CIA長官キャボットは理想の上司

ライアンのメンターとなるCIA長官キャボット(モーガン・フリーマン)との関係性もよく描けています。

キャボットはライアンを厳しくしつけるのではなく、分析官としてのライアンの意見を尊重した上で、失敗した場合にのみ「こんな言い方をすれば良かったんだよ」と自然なアドバイスを与えます。

ライアンの能力を買って様々な現場を経験させようとするものの、決して一人で仕事を抱え込ませるようなことはせず、自分の行き先に同行させたり、信頼している部下の一人であるジョン・クラーク(リーヴ・シュレイバー)の手伝いをさせたりして、何かあればフォローをするという姿勢を崩しません。

部下を尊重してチャレンジをさせるが、失敗しても過剰に委縮することのないよう後ろは万全に固めてあげるという、明日から真似をしたくなるような指導・育成方法を実践しています。なかなか勉強になりましたね。

良い上司と良い部下

見せ場が少ない上に迫力がない

はい、ここから文句です。

ジャック・ライアンシリーズ第4弾!パラマウント90周年記念作品!

と言われればスケールの大きな見せ場の連続する超大作を期待するところですが、本作は見せ場が少ない上に迫力もなくて、アクション映画としての見応えがほぼありませんでした。

開始1時間は会議や出張ばかりで見せ場がなく、ボルチモアへの核攻撃でようやっとアクション映画として立ち上がるのですが、大統領を乗せた車列が爆風で吹き飛ばされ、ライアンの乗ったヘリが墜落する場面しか描かれないので、破壊の快楽みたいなものが追及されていません。

製作時期が同時多発テロとモロかぶりだったので、都市破壊や一般市民への犠牲を直接的に描けなかったのだろうとは思いますが、それにしても都市が核攻撃を受けた深刻な場面である割にはアッサリしたものだと拍子抜けしました。

次いで米空母がロシアの航空隊に襲われる場面も、派手な見せ場はたった十数秒で終わるというケチ臭さにガッカリでした。ちゃんと演出すればスリリングこの上ない見せ場になったかもしれないのに、十数秒でササっと描いて終わりというのは勿体ない限りでした。

「恐怖の総和」を描けていない

原作及び原題の「恐怖の総和」が示す通り、本作のテーマは恐怖に駆られた先制攻撃です。

アメリカとロシア双方に戦争を起こす気はないのですが、相手が自国を攻撃してくるのではないかという恐怖の中で、やられる前にやるしかないという流れができあがります。

この危機に対しアメリカとロシアの情報機関が疑心暗鬼を解くために動き出すということが後半の見せ場なのですが、カギとなる「恐怖」をまったく描けていません。

アメリカ側は恐怖というよりも早とちり。どこの国が核攻撃したのかをちゃんと検証しないままに「多分、ロシアだ」「早く撃ち返そう」って感じなので、なんぼなんでも確認が無さ過ぎます。

爆心地で作業をしているチームは放射性物質からどこで生成されたプルトニウムであるかを突き止める超技術を持っているのだから、せめてその解析結果を待てばいいのに。

一方、ロシア側は諦めが早すぎ。米国本土に対する核攻撃の第一報が入った時、ネメロフ大統領たちは「多分、うちが疑われている」という認識を持ち、アメリカ大統領に関与していない旨を説明しようとするのですが、いきり立ったアメリカ側を説得しきれません。

そのうちウソ情報をきっかけとした米空母vs露航空隊の小競り合いが始まってしまい、こりゃ世界大戦は不可避だわと先制攻撃の腹を決めようとします。しかしこの時点でも国防総省とのホットラインは生きているのだから、もっと粘り強く交渉しろよと思いました。

結局、ネメロフはホットラインを通じたライアンからの説得で攻撃中止を決定し、アメリカ大統領もロシア側の反応を見て頭を冷やし、すんでのところで弾道ミサイル発射を思いとどまるのですが、一連の騒動が避けられない摩擦ではなく、普通に考える頭があればここまでの事態には至らないよなという感じなので、まったく手に汗握りませんでした。

≪ジャック・ライアンシリーズ≫
【良作】レッド・オクトーバーを追え!_シリーズで一番面白い
【駄作】今そこにある危機_長いだけで面白くない
【凡作】トータル・フィアーズ_全然恐怖を感じない
【凡作】エージェント:ライアン_役者は良いが話が面白くない