【凡作】遊星からの物体X ファーストコンタクト_なぜ犬追い人を主人公にしなかったのか(ネタバレあり・感想・解説)

クリーチャー・メカ

(2011年 アメリカ)
1982年版への敬意や愛情は理解できるものの、手間と金のかかった二次創作物の域を脱していませんでした。本作固有の何か強烈な要素があれば良かったのですが。

遊星からの物体X【良作】素晴らしい設定・特殊効果・演出

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あらすじ

1982年、南極大陸のノルウェー観測隊が氷の下にある巨大な人工物を発見し、これに対してノルウェー人とアメリカ人から成る観測チームが編成された。チームは氷漬けの生物を基地に持ち帰るが、蘇った生物は氷を粉砕して基地の外へと逃げ出した。

スタッフ・キャスト

監督はCF界出身のマティス・ヴァン・ヘイニンゲン・ジュニア

1965年アムステルダム出身。CMディレクターとしてトヨタ、プジョー、ルノー、ペプシといった大企業のCMを製作し、短編映画『Red Rain』(1996年)を監督。

『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)の続編の『Army of the Dead』の監督として起用されていたものの、企画自体が中止となりました。

本作の製作においては映画会社からの干渉があまりに多かったことからハリウッドに嫌気が差し、以降は母国オランダに戻っています。後に、本作と同じストライク・ピクチャーズで『ロボコップ』を製作したジョゼ・パジーリャも同じ経験をすることになります。

ロボコップ(2014年)【良作】大胆にアップデートされた21世紀版ロボコップ

脚本は『メッセージ』(2015年)のエリック・ハイセラー

1970年アメリカ出身。リメイク版『エルム街の悪夢』(2010年)や『ファイナル・デッドブリッジ』(2011年)の脚本で注目を集め、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『メッセージ』(2015年)でアカデミー脚色賞にノミネートされました。他に、Netflix製作で話題となった『バード・ボックス』(2018年)の脚本も書いています。『君の名は。』のハリウッドリメイクの脚本家としても起用されている注目株です。

バード・ボックス【5点/10点満点中_詰めの甘いパニック】

製作は『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)のコンビ

マーク・エイブラハム

ヴァージニア大学出身。80年代より映画やテレビ向けの脚本家として活動し、1990年に映画プロデューサーのアーミアン・バーンスタイン、不動産業のトム・ローゼンバーグと共に映画製作会社ビーコン・コミュニケーションズを立ち上げました。

ビーコンではハリソン・フォード主演の『エアフォース・ワン』(1997年)、デンゼル・ワシントン主演の『ザ・ハリケーン』(1999年)、ケヴィン・コスナー主演の『13デイズ』(2000年)、ブラッド・ピット主演の『スパイ・ゲーム』(2001年)と大スター主演作を次々とプロデュースしました。

スパイ・ゲーム_面白くてかっこよくて深い【8点/10点満点中】

2002年にビーコンの役員エリック・ニューマンと共にストライク・ピクチャーズを立ち上げ、『ゾンビ』(1978年)のリメイク『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)をプロデュースし、興行面でも批評面でも成功を収めました。

またストライクとビーコンで共同製作した『トゥモロー・ワールド』(2006年)は21世紀を代表するSF映画の一本となり、アカデミー賞3部門でノミネートされる高評価を受けました。リメイク版『ロボコップ』(2014年)も製作しています。

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エリック・ニューマン

南カリフォルニア大学出身。テレビプロデューサー、コメディ映画のプロデューサーとして活躍した後、1999年にビーコン・コミュニケーションズに製作担当役員として入社。

2002年にはエイブラハムと共にストライク・ピクチャーズを立ち上げました。エイブラハムと共に『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)、『トゥモロー・ワールド』(2006年)、『ロボコップ』(2014年)などを製作。

『ロボコップ』の監督ジョゼ・パジーリャのテレビドラマ『ナルコス』にはプロデューサー兼ショーランナーとして参加しています。

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特殊メイクはアマルガメイテッド・ダイナミクス社

1982年版はロブ・ボッティンによる特殊メイクこそが最大の見せ場でしたが、本作でそれを担ったのは1988年にスタン・ウィンストン、アレック・ギリス、トム・ウッドラフJr.という特殊メイク界の大物により設立された特殊メイク工房アマルガメイテッド・ダイナミクス社でした。

遊星からの物体X【良作】素晴らしい設定・特殊効果・演出

「物体」の表現にあたり、ユニバーサルはCGIの全面的な導入を主張したのですが、監督は俳優達から生のリアクションを引き出すためにもアニマトロニクスを使用すべきとし、CGIはあくまで補助的な役割に留めたことから彼らへの発注に至りました。

同社は『トレマーズ』(1990年)『エイリアン3』(1992年)『エイリアン4』(1997年)、『スターシップ・トゥルーパーズ』(1997年)、『スパイダーマン』(2002年)、『エイリアンVSプレデター』(2003年)などに関わっている業界大手であり、最近では『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019年)にも参加しています。

主演はメアリー・エリザベス・ウィンステッド

1984年ノースカロライナ州出身。90年代にはテレビ女優として活動し、『遊星からの物体X』(1982年)のカート・ラッセルも出演したディズニー映画『スカイ・ハイ』(2005年)に主要キャストの一人として出演。『ダイ・ハード4.0』(2007年)ではジョン・マクレーンの娘役を演じました。

最近では、テレビドラマ『FARGO/ファーゴ』(2017年)のシーズン3でユアン・マクレガーの相手役を演じています。

『影が行く』(1938年)3度目の映画化

ジョン・W・キャンベル Jr.著の同じSF短編小説を原作とし、しかも3作品のタイトルはすべて『The Thing』なのでリメイクと勘違いされやすいのですが、映画化された3作品はすべて異なる趣旨のもとで製作されています。

ハワード・ホークス製作『遊星よりの物体X』(1951年)

エイリアンの擬態能力という原作の重要な要素は技術的限界からオミットされ(デザインは書かれていたようなのですが)、それに伴い仲間内の疑心暗鬼という要素もなくなり、むしろ脅威に対して一致団結する話になって原作からは大幅に逸脱。科学者たちが密室で宇宙からの脅威に襲われるという設定部分だけを拝借した、ほぼ別物と考えるべき作品となっています。

ジョン・カーペンター監督『遊星からの物体X』(1982年)

ジョン・カーペンターは『遊星よりの物体X』(1951年)を見て映画界を志したほどのハワード・ホークス版のファンなのですが、1982年版はホークス版とまるで違う原作準拠に変更しました。要はホークス版のリメイクではなく『影が行く』の再映画化企画だったのですが、リメイクとして捉えていた当時の観客や批評家からは総スカンを喰らい、後にビデオの普及で再評価を受けました。

遊星からの物体X【良作】素晴らしい設定、素晴らしい特殊効果、素晴らしい演出

前日譚『遊星からの物体X ファーストコンタクト』(2011年)

ほぼ完璧だった『遊星からの物体X』(1982年)をリメイクしても劣化コピーにしかならないという意見で製作陣は一致し、リメイクではなく、1982年版でアメリカ隊の前に襲われたノルウェー隊の状況を描く前日譚として制作しました。

ただし、『The Thing』という同じタイトルだったことから1982年版のリメイクだと勘違いされるという不幸もあって、興行的にも批評的にも失敗しました。

登場人物

  • ケイト・ロイド(メアリー・エリザベス・ウィンステッド):アメリカ人の古生物学者
  • サム・カーター(ジョエル・エドガートン)アメリカ人のヘリコプター操縦士
  • ハルヴァーソン博士(ウルリク・トムセン):探査チームのリーダー。なぜかは分からないが、今回の調査が外部へ漏れることを嫌がっている。
  • アダム・フィンチ(エリック・クリスチャン・オルセン):ハルヴァーソン博士の助手
  • エドヴァルド・ウォルナー(トロンド・エスペン・サイム):基地の責任者
  • カール(カーステン・ビョーンルンド):地質学者
  • ジュリエット(キム・バッブス):女性地質学者
  • ラース(ヨルゲン・ラングヘラ):犬の世話をしている。英語を話せない。

感想

「物体」のインパクトは薄まった

前作の制作から30年近くも経過しているため技術レベルは上がっているのですが、「物体」のインパクトは弱まっています。

1982年版の「物体」の特徴は頭や手足などの地球上の生物の常識を完全に逸脱したデザインや動き方にあり、人間の腹の形をしていた部位が突然開いて大きな口になったり、人間の頭部だった部位から足が生えて蜘蛛のような別の生物に変化したりと、そのインパクトには計り知れないものがありました。他方で本作の「物体」は個々のデザインこそ悪くはないのですが、基本フォームらしきものがあるので意表を突かれるような驚きはありませんでした。

えらいこっちゃ~!

この違いの原因としては、「物体」に設定された性格に明確な違いがあることが考えられます。1982年版の「物体」は臆病で、隠れる・逃げるという動きが基本だったのに対して、本作では攻撃性を持っています。そうして積極的に攻めるという行動をとらせた結果、どの部位に牙があって、どの部位が足なのかという地球の生物のような常識的なデザインに収まってしまい、面白みが無くなってしまったのです。

また、CGIを使う場合には血や粘液の表現に困難性が伴うことからベチョベチョヌルヌルとした質感がなくなっており、生物のおぞましい変化に見えなくなった点もインパクトの弱さに繋がっていました。

主人公ケイトに魅力がない

男性の登場人物しかいなかった1982年版と異なり、本作の主人公は女性にされています。脚本家のエリック・ハイセラーは本作の主人公ケイトを1982年版のマクレディに似せないということに注意を払い、その人物造形にあたっては『エイリアン』(1979年)のリプリーを参照したそうです。

その着眼点は良かったと思います。『エイリアン』におけるリプリーは7名のクルーの一人として登場し、ラスト付近まで目立った活動をすることがありませんでした。それは、テンガロンハットをかぶった西部劇のヒーロー風のいで立ちで(ヘリが馬の代わり)、仲間からの反発を受けようが「物体」対策を押し進めた孤高のマクレディとは対照的であり、1982年版に似すぎないという方針の具体策としては妥当だったと思います。

問題は、そうして生み出されたケイトというキャラクターに魅力がなかったことでしょうか。腕っぷしで勝負しないのであれば科学者らしい知識や観察力で仲間達をまとめていくのかと思いきや、言ってることにさほどの説得力がないので、観客が期待するような活躍をしてくれません。

例えば、目の前の人物が「物体」に同化されたかどうかを見分けるために彼女は歯のインプラントのチェックを思いつくのですが、そもそもインプラントがない者やセラミック製の義歯で見た目での判別ができない者もいる中では、「物体」とは断定できないだろという当然のツッコミが入ります。ラストでは、ピアスをしていないという理由だけである人物を焼き殺すのですが、極寒の南極で外気に触れる際にはピアスを外すこともあるだろうにと思いました。彼女の立てる仮説は隙だらけで、全然頭がよさそうに見えません。

犬追い人を主人公にしなかったという誤り

そして、本作の構成における最大の誤りがこれでした。

本作のラストは1982年版の冒頭へと繋がっていきます。懐かしのテーマ曲が鳴り始め、何度も見たあの光景に移っていく際には鳥肌が立つほど興奮したのですが、同時に「そもそも、なぜ犬追い人ラースを主人公にしなかったんだ」という不満がわいてきました。

よくよく考えるとノルウェー隊は奮闘しています。アメリカ隊が「物体」もろとも全滅するしか道がなかったのに対して、ノルウェー隊には少数ではあるものの生存者がおり、「物体」が犬の姿をして逃げ出すところにまで追い込んでいたのです。1982年版との連携を考えると、それほど奮闘したノルウェー隊の生き残りが「物体」ではなくアメリカ隊に射殺されるという『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968年)みたいなバッドエンディングを迎えてこそ、作品の味わいが深まったはずです。

しかし、本作では犬追い人ラースは脇役であり、ケイトという別の主人公が立てられています。これが興行的理由だったことは容易に推測できます。1982年版で犬追い人が射殺されたのは英語を話せなかったためなので、その設定を引き継ぐと本作は全編ノルウェー語作品にするしかありませんでした。しかし、アメリカ人俳優の出ていないノルウェー語作品がヒットするとは思えないので、英語を話す別のキャラクターを主人公にせざるを得なかったんだろうなと。

それにしてもです。ラースが主人公ならばさぞかし後味の悪いホラー映画になったのにと、残念で仕方ありませんでした。

遊星からの物体X【良作】素晴らしい設定・特殊効果・演出