【良作】トレーニング デイ_激やば!デンゼル先輩(ネタバレあり・感想・解説)

クライムアクション
クライムアクション

(2001年 アメリカ)
デンゼルのいや~な先輩ノリと、それに対して「やめてくださいよ~」というイーサン・ホークの後輩ノリが見事に噛み合った良作。ヤバイ先輩に絡まれた感じは凄くリアルで、どの国にもこういう面倒くさい先輩後輩関係ってあるんだなぁという勉強にもなりました。

作品解説

脚本はサウスセントラル育ちのデヴィッド・エアー

本作はデヴィッド・エアーのオリジナル脚本を映画化しています。

エアーは米海軍で潜水艦乗組員として勤務したという異色の経歴を持つ脚本家であり、またL.A.でも特に治安の悪いサウスセントラル育ちで、本作に出てくるような有色人種ギャングとも親交がありました。

そんな「悪そうな奴は大体友達(©ZEEBRA)」を地で行く経歴ゆえかクライムアクションと戦争ものを得意とし、『U-571』(2000年)、『ワイルド・スピード』(2001年)、『ダーク・スティール』(2002年)などが代表作。

後に映画監督としてもデビューし、『エンド・オブ・ウォッチ』(2012年)や『フューリー』(2014年)を製作しています。またDCEUの『スーサイド・スクワッド』(2016年)の最初の映画化もこの人が行っています。

彼が知り合いのギャング達から聞いた「警察に搾取されている」という話に着想を得て、1995年頃に本作の初期稿を執筆。

ただし内容に信ぴょう性なしとして最初は脚本が売れなかったのですが、1998年にロス市警ランパート署の刑事が殺人に関与した等の事件が現実に発生したことから脚光を浴び、大手ワーナー・ブラザーズが製作することとなりました。

監督はMTV出身のアントワン・フークア

監督はアントワン・フークア。

デヴィッド・フィンチャーとドミニク・セナが設立し、マイケル・ベイも所属していた映像制作会社プロパガンダ・フィルムズでMTV監督をしていた人物です。

なお、本作でデンゼル・ワシントンとイーサン・ホークが初めて会話をするレストランは、デヴィッド・フィンチャー監督作品『セブン』(1995年)に登場したのと同じ店舗です。

ジョン・ウー製作のアクション『リプレイスメント・キラー』(1998年)で映画監督デビューし、ジェイミー・フォックス主演のアクションコメディ『ワイルド・チェイス』(2000年)を挟んで、本作が長編3作目となります。

MTV出身ではあるもののマイケル・ベイのような派手な映像表現を好まず、本作でも写実的な描写でクライム・サスペンスらしい雰囲気を作り上げています。

デンゼル・ワシントンがアカデミー主演男優賞受賞

本作で悪徳警官を演じるのはデンゼル・ワシントン。

人気と実力を兼ね備えたスーパースターで、『グローリー』(1989年)でアカデミー助演男優賞を受賞。

正義や真面目が顔に書いてあるかのような実直な役柄を得意としてきたのですが、本作ではそんなパブリックイメージを覆す悪徳警官役を演じて絶賛され、アカデミー主演男優賞を受賞しました。

アフリカ系俳優としては『野のユリ』(1963年)のシドニー・ポワチエ以来2度目の快挙でした。

アントワン・フークア監督とはよほど気が合ったのか、後の『イコライザー』(2014年)、『マグニフィセント・セブン』(2016年)、『イコライザー2』(2018年)でもタッグを組んでいます。うち『マグニフィセント・セブン』にはイーサン・ホークも出演しています。

なお、イーサン・ホークも本作ではアカデミー助演男優賞にノミネートされたのですが、構成上の主演はイーサン・ホークであるにも関わらず、デンゼルが主演と見做されていることに誰も異議を唱えなかったあたりが泣かせます。頑張れ!イーサン。

『コラテラル・ダメージ』のピンチヒッターとして公開

本作は2001年10月5日に全米公開されたのですが、本来この日に公開される予定だったのはアーノルド・シュワルツェネッガー主演のアクション『コラテラル・ダメージ』(2002年)でした。

しかし約1か月前に起こったアメリカ同時多発テロ事件のショックが大きい中、反米テロリストがアメリカ本土に爆弾テロを仕掛けるという『コラテラル・ダメージ』の内容はタイムリーすぎて上映できないとの判断により、急遽本作に差し替えられたのでした。

そんなわけでまともな宣伝も行われずに全米公開されたのですが、厳しい状況下でも健闘して2週連続全米No.1ヒットを記録。

全米トータルグロスは7663万ドルであり、米社会全体が「エンタメなんて言っていられない」という自粛ムードの中での上映だったことを考慮すると、上々の成績を収めました。

感想

激やば!デンゼル先輩

主人公はイーサン・ホーク扮する若手警官ジェイク。

ジェイクはつい最近までパトロール警官をやっていたのですが、署内の花形である麻薬取締課への転属希望が叶い、配属初日の早朝から期待に胸膨らませています。

麻薬課での手柄次第では署長だって目指すことができるし、麻薬課の刑事たちは豪邸に住んでおり、俺もああなれるかもしれないと夢も膨らみます。その後、なぜ麻薬課の刑事達が潤っているのかをジェイクは知ることになるのですが。

本作で描かれるのは見習いとして配属されたジェイクの初日(トレーニングデイ)の様子であり、とんでもないものを見せられたジェイクの地獄巡りが一日に凝縮されています。

ジェイクの上司になるのはベテラン刑事のアロンゾ(デンゼル・ワシントン)。アロンゾは署内でも腕利きとして知られているのですが、いざ本人にお目にかかるとギャングのような服装、アクセサリー、車でヤバいオーラを全開にしています。

「何か面白い話をしてみろ」と言うアロンゾに対し、ジェイクはパトロール中にたまたま止めた車が、これから人を殺しに行こうとするところであり、自分たちは殺人を未然に防いだという話をします。

しかしアロンゾが興味を示したのは話の本筋部分ではなく、その時のジェイクの相棒が女性警官だったことで、「そいつは白人なのか?」「美人なのか?」「やったのか?」と、初対面の相手に対しては不適切なノリで質問を連発します。

ジェイクが嫌がる空気を出して話を本筋に戻そうとしても下品な質問をやめず、次第に地元のヤバイ先輩にしか見えなくなってくるアロンゾ。朝っぱらから「えらいところに来てしまった」と思い始めるジェイク。短いながらもこのやりとりは秀逸でした。

そこからデンゼル先輩のヤンキーノリはどんどん加速していき、「仲間に入りたければこれをやれ」と無茶な要求をしてくるアロンゾと、対応に困るジェイクという画が繰り返されるのですが、主に走行中の車内を舞台にした密室劇は、俳優二人の熱演によって高い緊張感を保ち続けます。

ジェイクが「もうやめてくださいよ~」と言いながら会話を別の方向に持って行こうとするのに対し、ひとしきり話に乗った後で「さっきのアレは終わってないからな」としつこく釘を刺すアロンゾの返しを見ていると、自分が10代の頃を思い出しましたね。

こういうめんどくさい先輩いたなぁと。

後輩のマジギレには弱い

なぜアロンゾがこんな態度なのかというと、自分たちの不正行為にジェイクを巻き込むためなのですが、それならそれで数か月かけてゆっくりと篭絡していけばいいものを、たった一日ですべてのものを見せてくることが不思議でした。

こんなことやられれば誰だって抵抗するだろと。

その背景は中盤にて明かされるのですが、アロンゾは狂暴なロシアン・マフィアとトラブっており、しかもロス市警の威光の及ばないラスベガスでの揉め事だったことから、何かしら口実を見つけて逮捕することもできず、その身に危険が迫っていました。

マフィアからは手打ちとして100万ドルを要求されており、しかもその期日が今日であるため、猫かぶりながらゆっくりとやっていくわけにもいかなかったのです。

早いところ新人を巻き込んで金策を手伝わせるつもりであり、ジェイクが断ったり報告したりできないよう、事前にいろんな不正をやらせていたわけです。

この日でなければもっと丁寧な新人教育があったはずなのですが、ジェイクは最悪のタイミングで配属されてしまったということ。返す返すもツイていない男です。

最終的にアロンゾはジェイクの篭絡を諦め、知り合いのギャングに処刑させることにします。しかしその日の午前にジェイクが助けた女子学生がそのギャングの親戚だったという蜘蛛の糸みたいな話になり、処刑は中止。

そこからブチきれたジェイクvsアロンゾの戦いになるのですが、「早く金を届けに行かなきゃいけないし、絡まないでくれるかなぁ」というアロンゾの態度によって、昼間とは両者の立場が逆転する当たりが面白かったです。

こういう先輩って後輩からのマジギレに遭うと弱いもので、どんどん追い込まれて行きます。そこにも逆転のカタルシスが宿っていました。

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