【良作】トロン:アレス_トロンは出てこないよ(ネタバレあり・感想・解説)

SF・ファンタジー
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(2025年 アメリカ)
シリーズで一番面白かった。現実世界で繰り広げられるライトサイクル・バトルの迫力と美しさには一見の価値があり、クライマックスに向けてきっちり盛り上がっていく展開はアクション映画の理想とも言える。

難産だったシリーズ第3弾

2010年12月に公開された『トロン:レガシー』は全世界で4億ドルの収益を上げ、ディズニーは続編製作を早々に発表。前作の監督ジョセフ・コシンスキー、脚本家のアダム・ホロウィッツ&エドワード・キッツィスが再結集した。

ホロウィッツ&キッツィスがTVドラマ『ワンス・アポン・ア・タイム』(2011-2018年)に、コシンスキーが『オブリビオン』(2013年)に入ったことによる中断を挟みつつも、2015年3月にディズニーは第3弾の製作を承認。

撮影開始は2015年10月に決まり、前作よりギャレッド・ヘドランドとオリヴィア・ワイルドが続投することとなった矢先の5月、突如としてディズニーはプロジェクトの中止を決定した。

ジョージ・クルーニー主演の『トゥモローランド』(2015年)が、1億9千万ドルもの巨額製作費に対し全世界で2億ドルしか稼げない大爆死となり、実写映画の製作に対して一斉にブレーキがかかったことが原因だと言われている。

その後も細々とではあるがトロン続編の検討は続き、その中で生み出されたキャラクター「アレス」を中心としたソフトリブートへと移行し始めた。

2017年3月にはアレス役をジャレッド・レトが演じることとなり、2020年8月には『LION/ライオン 〜25年目のただいま〜』(2016年)のガース・デイヴィスが監督に就任した。

が、その後数年は音沙汰がなくなり、いつの間にやらガース・デイヴィス監督は降板していた。2022年3月、心配になったレトがディズニーに確認したところ、まだ作る気はあるとのことだった。

『コン・ティキ』(2012年)でのアカデミー賞ノミネート経験を持つノルウェー人ヨアヒム・ローニングが監督に就任。

『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』(2017年)や『マレフィセント2』(2019年)などディズニーで微妙な続編映画をいくつか手掛け、監督としての腕前には疑問の残るローニングだが、プロジェクトを仕切る能力は高いのか、ここから話は一気に進展する。

『ワンダー 君は太陽』(2017年)のジャック・ソーンが執筆した新たな脚本を元に、2023年8月の撮影開始が決定。

全米脚本家組合のストライキによる中断を挟みつつ、2024年1月に本格的な製作が開始。2017年から関わっているレトにとっては、7年も待ってのようやくの撮影開始だった。

大きな遅れもなく2024年5月には撮影を終了し、長い長いポストプロダクション期間を挟んで、2025年10月に晴れて全世界同時公開となった。

シリーズで一番面白かった

IMAXを見に行ったけど、公開初日のレイトショーでもあるにも関わらずガラガラで、劇場主ではなくとも心配になってくる客入りだった。

『トロン』(1982年)『トロン:レガシー』(2010年)はちゃんと予習して行ったがどちらもハマらず、本作も微妙なのかなと思っていたら、意外や意外、これがメチャクチャ面白かった。

作品の世界観は冒頭のナレーションで説明されるし、シリーズ続投の登場人物はたった1名しかいない。前作・前々作を見ていなくても十分に理解できる、初心者にとっても安心な内容となっている。

1982年にエンコム社内でケヴィン・フリン(ジェフ・ブリッジス)とエド・ディリンジャー(デヴィッド・ワーナー)がトラブったこと、1989年にエンコム社CEOのケヴィンが突如失踪したこと

これら本シリーズにおける”歴史”はきちんと織り込みつつ、物語はスタートする。

かつてフリンが率いていたエンコム社と、エンコムを追い出されたディリンジャーにより設立されたディリンジャー社は、ソフトウェア大手としていまだしのぎを削る関係である。

ディリンジャー社の現CEOジュリアン・ディリンジャー(エヴァン・ピーターズ)は会社の活路を軍事に見出し、デジタル世界に生きるAIプログラムを現実世界に転送、無敵の軍隊を作ろうとしている。そこで登場するのが最強のAIプログラム「アレス」(ジャレッド・レト)である。

一方、エンコム社の現CEOイヴ・キム(グレタ・リー)は、デジタル世界のテクノロジーを医療や食糧問題といった人道分野で使いたいと考えている。

そんな両社を悩ませているのは「29分の壁」問題

デジタル空間のものを現実世界に転送してきても29分で消滅してしまうので、現状ではほとんど使い道がない。

その解決のカギはケヴィン・フリンが開発し、どこかに隠したとされる「永続コード」であり、その争奪戦が本作のメインプロットとなる。

前作、前々作はグリッドからの脱出劇だったが、それをコードの争奪戦に置き換えたことで、シリーズには新たな風が入った。

また生身の人間がグリッドを訪れる物語を反転させ、現実世界にデジタルの産物がやってくる物語としたことで、映画のルックスは大きく変わった。

現実世界のハイウェイで繰り広げられるライトサイクル・バトルは、まさにセンスオブワンダー。光の帯を残しながら走るバイクが、あんなにも夜景に映えるなんてね。

見せ場は測ったように巨大化していき、クライマックスでは都市上空に飛来したデジタルの大戦艦を、米空軍の戦闘機が迎撃するという、夢のような見せ場も準備されている。この圧倒的スペクタクルには燃えた。

ドラマもよくできている。

ケヴィン、アラン、ローラの緩やかな三角関係が描かれていた第一作を踏襲し、本作においてはアレス、アテナ、イヴの三角関係が描かれる。

アレスとアテナは、共にディリンジャー社製プログラムとしてパートナー関係にあったのだが、現実世界に出て行ったアレスは、そこで出会ったイヴに惹かれる。

2人に襲い掛かってくるアテナは、表面上は会社からの命令で行動しているのであるが、そのしつこさ、執念深さには、恋人を奪われた怒りが反映されている。

この3人の関係性が物語に緊張感を生んでおり、クライマックスの展開には息を飲むものがあった。

見せ場だけが凄かったこのシリーズだが、第3弾でついにアクションとドラマの華麗なる融合に成功したと言える。

なおタイトルロールであるにも関わらず第一作の時点から脇役扱いだったトロンは、本作でついに影も形もなくなってしまった。この状況で「トロン」のタイトルを続ける意味って何なんだろうか笑。

ラストでは『レガシー』の登場人物クオラ(オリヴィア・ワイルド)の写真が写る。

彼女は、おそらく史上初めて現実世界に転送された電子生命体で、アレスの同類である。

またミッドクレジットでは、グリッドに逃げ込んだジュリアン・ディリンジャーがサークのコスチュームを身に着ける。

サークとは第一作『トロン』の悪役であり、ジュリアンの祖父エドによって生み出された。

これら小ネタも気が利いていて、シリーズのファンを喜ばせてくれる。

IPの扱いに長けたディズニーという会社の強みを垣間見たような気がした。

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