【駄作】乱気流/タービュランス_愚か者しか出てこないパニック映画(ネタバレなし・感想・解説)

災害・パニック

(1997年 アメリカ)
90年代に流行したサイコスリラーと航空パニックを組み合わせた異色作なのですが、あまりにも無理のある組み合わせだったためか観客を納得させられる流れを生み出せておらず、バカな人がバカなことをしでかしたために状況が悪化していくという、パニック映画でもっとも好ましくない内容となっています。

あらすじ

連続殺人犯ライアン・ウィーバー(レイ・リオッタ)と強盗犯スタッブス(ブレンダン・グリーソン)が民間旅客機で移送されることになったが、離陸後1時間ほどでスタッブスが監視役の連邦保安官を襲い、その際に起こった激しい銃撃戦で4名の連邦保安官は死亡。

その直後にライアンがスタッブスを射殺したことでいったん騒動は収まったが、当初は無害に見えたライアンが徐々にその本性を現し始める。

スタッフ・キャスト

監督はテレビ界の大ベテラン ロバート・バトラー

1927年LA出身。1950年代からテレビドラマ界で仕事をしている大ベテランであり、『アンタッチャブル』(1962-1963年)、『ベン・ケーシー』(1963年)、『トワイライト・ゾーン』(1964年)、『バットマン』(1966年)、『宇宙大作戦』(1966年)、『刑事コロンボ』(1973-1974年)など数多くのテレビドラマを演出しています。

ピアース・ブロスナンを一躍スターダムに押し上げた『探偵レミントン・スティール』(1982-1987年)では原案も担当。

映画界では、一部で熱狂的な支持を得ているクライムアクション『ジャグラー/ニューヨーク25時』(1980年)とコメディ『史上最悪のボートレース ウハウハザブーン』(1984年)を監督しており、本作が13年ぶり3度目にして最後の長編映画となりました。

主演は『グッドフェローズ』のレイ・リオッタ

1954年ニュージャージー州出身。生後6か月で養子に出されて養父母の元で育ち、マイアミ大学で演技を学び、そこで同じく俳優のスティーヴン・バウアーと友人になりました。

初期はテレビ界で仕事をし、ジョナサン・デミ監督のブラックコメディ『サムシング・ワイルド』(1986年)で映画初出演。マーティン・スコセッシ監督の『グッドフェローズ』(1990年)が出世作となり、以降はその怖い顔を生かして悪人役を多く演じています。

共演はジム・キャリーの元妻ローレン・ホリー

1963年ペンシルベニア州出身、NY育ち。父は大学教授、母は著名な美術史家というインテリ一家に生まれ、23歳からテレビに出演するようになりました。

『ジェニファーの恋愛同盟』(1986年)で映画デビュー。ロブ・コーエン監督の『ドラゴン/ブルース・リー物語』(1993年)ではブルース・リーの妻リンダ役を演じ、ヒロインを演じた『ジム・キャリーはMr.ダマー』(1994年)は世界興収が2億4727万ドルという大ヒットと、90年代前半には注目されていた女優さんでした。

『ジム・キャリーはMr.ダマー』での共演がきっかけで1996年にジム・キャリーと結婚しましたが、僅か8か月で離婚。本作はキャリーとの婚姻があったころに製作されたものと推測されます。

本作でゴールデンラズベリー賞最低女優賞にノミネートされたあたりから勢いが衰え始め(受賞は『G.I.ジェーン』のデミ・ムーア)、その後はカナダ人の夫と結婚して住居もカナダに移しているとのことです。

作品解説

全米大コケ作品

本作は1997年1月10日に全米公開されましたが、ピーター・ハイアムズ監督のSFホラー『レリック』(1997年)やウェス・クレイブン監督の『スクリーム』(1996年)と似たような客層を狙っているライバルが複数ランクインしていた週にあって完全に埋没し、初登場8位と低迷しました。

公開2週目にしてトップ10圏外へとフェードアウトし、全米トータルグロスは1153万ドル。5500万ドルとなかなかの製作費がかかっているにも関わらずまったく儲かりませんでした。

レンタルで大人気→シリーズ化へ

そんな興行的不振の一方でなぜかビデオレンタルは好調であり、アメリカでは年間もっともレンタルされた作品の一つとなりました。その原因は不明なのですが、ともかくレンタルで取り戻したのでした。

レンタル市場での大成功によって本作の価値は見直され、『タービュランス2』(1999年)、『デンジャーゾーン/タービュランス3』(2001年)と、スタッフ・キャストを入れ替えながら2本の続編が製作されるに至りました。

登場人物

  • テリー・ハロラン(ローレン・ホリー):トランス・コンチネンタル47便のキャビンアテンダント。凶悪犯と連邦保安官のサービスを担当することとなり、殺人犯ライアンのどんぴしゃのタイプだったことから目を付けられる。トラブル発生後には飛行機の操縦をせざるをえなくなる。
  • ライアン・ウィーバー(レイ・リオッタ):連続殺人で死刑を言い渡されているが、逮捕の過程で証拠のねつ造などがあったとして無罪を主張している。LAへの護送のために47便に乗せられる。
  • スタッブス(ブレンダン・グリーソン):ライアンと共に47便で護送される銀行強盗犯。狂暴な性格であり、連邦保安官を倒して機を乗っ取ろうとする。
  • アルド・ハインズ警部補(ヘクター・エリゾンド):ライアンを逮捕した警察官。
  • レイチェル・テーパー(レイチェル・ティコティン):空港管制官で、トラブルに見舞われた47便をナビゲートする。
  • サミュエル・ボウエン(ベン・クロス):偶然47便の近くを飛行していた航空機の機長で、操縦せざるを得なくなったテリーに無線で操縦方法のレクチャーをする。

感想

サイコパス×航空パニック

『羊たちの沈黙』(1991年)が大ヒットした影響からか、90年代はサイコスリラーが多数製作された時代でした。

『セブン』(1995年)『コピーキャット』(1995年)辺りまではオーソドックスな捜査官とサイコパスの攻防戦だったのですが、そのうち法廷劇×サイコパスの『真実の行方』(1996年)、スラッシャー×サイコパスの『スクリーム』(1996年)、爆破アクション×サイコパスの『絶対×絶命』(1998年)など、他のジャンルとサイコパスを組み合わせるというパターンに進化していきました。

そんな中でも一番の珍品と言えるのが本作であり、なんとサイコパスと航空パニックを組み合わせるという荒業を披露しています。よくこんな無茶を思いついたものだと感心する反面、そもそもの方向性に無理があり過ぎて観客を納得させられる話にまで落とし込めていないことが問題でした。

魅力的な犯人像ではない

サイコスリラーの魅力とはサイコパスの魅力でもあります。レクター博士(『羊たちの沈黙』)、ジョン・ドゥ(『セブン』)、アーロン・スタンプラー(『真実の行方』)など、高評価を受けているサイコスリラーには必ず魅力的なサイコパスが登場します。

そこに来て本作のサイコパスはレイ・リオッタ扮するライアン・ウィーバー。身長170cmのブロンド美人のみを専門に狙う連続婦女暴行殺人鬼であり、死刑執行のためロサンゼルスへと移送されようとしています。

そんなライアンですが、表面上は紳士にしか見えないという設定が置かれています。加えて殺人場面の決定的な描写がない上に、逮捕にあたって警察が証拠のねつ造までを行っており、監督と脚本家は「こいつは本当に殺人鬼なのだろうか?」という疑念を観客に対して抱かせたかったのだろうと思います。

ただし演じているのが悪人にしか見えないレイ・リオッタなので、彼が紳士的に振る舞ってる場面が猫を被っているようにしか見えず、見ている側からすると「いつ本性を表すんだ」という状態にしかなっていません。

サスペンスがサスペンスとして機能していない序盤はすっかり茶番になってしまっているし、タガが外れた後のリオッタの演技が悪い意味でスパークしすぎていて、これはこれで見ていられない状況となっています。

レイ・リオッタさんの行き過ぎた熱演
©Metro-Goldwyn-Mayer

なぜこんなことになったのかと考えると、サイコパス像がさほど突き詰められていなかったためではないかと思います。

サイコパスと言ってもライアンの専門分野は婦女暴行なので機内で暴れ回るタイプでもないし、170センチのブロンド美女という狭いターゲットのみを狙っているので、無差別殺人を楽しむタイプでもありません。

にも関わらず機内で人を無闇に殺したり、市街地に飛行機を墜落させるテロを起こそうとしたりで、設定上での彼の狂いどころと本編中での所業に壮絶なギャップが生じているのです。

このギャップに演じるレイ・リオッタは戸惑い、とりあえず派手に狂った演技で誤魔化しておくことにした。こんな舞台裏があったのではないかと勝手に推測しています。

クルーが壮絶にアホ

そんな殺人鬼ライアン以上に問題なのが飛行機のクルー達です。

一般に飛行機のクルーとは事故やハイジャックなど様々なリスクに対応すべく訓練をされた人々のはずなのですが、本作に登場するクルー達は素人以下の行動で事態をどんどん悪化させていきます。

客室で犯罪者と連邦保安官の揉み合いが発生。こういう時にパイロットは操縦室から絶対に出ちゃいけないと思うのですが、本作の機長は「下で何か起こってるようだ」と言ってノコノコと様子を見に出て行きます。案の定、銃撃を受けて死亡。

その頃、操縦室に残された副操縦士はというと、目の前に乱気流が迫っている状況なのにベルトを外して席から立ち上がろうとします。その瞬間に乱気流が発生し、窓に頭を叩きつけて気絶。

もはやハイジャックとかサイコパスとか関係なく、パイロットとして絶望的に間違った行動で負傷するわけです。もうアホかと。

そして客室では、まだ猫を被った状態のライアンと客室乗務員のテリー(ローレン・ホリー)が親しくなり、テリー的にも「本当にこの人は犯罪者かしら?」と心を許し始めます。

そんな中でライアンが「操縦室の様子を見に行ってあげるから、操縦室の鍵(そんなもの存在するのか?)を貸して」と要求し、テリーは素直に鍵を渡してしまいます。いくら感じの良い相手とは言え、操縦室へのアクセスを部外者に許してしまう客室乗務員っているんでしょうか。

その後いろいろあってライアンは本性を剥き出しにし、副操縦士を殺して自分もろとも飛行機を墜落させようという暴挙に出始め、一方テリーは操縦室に閉じこもってライアンからの妨害を受けながらも飛行機を空港に着陸させようとするという流れとなります。

そんな中、どうしても操縦室からテリーをおびき出したいライアンは、彼女の同僚が大怪我をしていて早く手当てしないと大変だとバレバレのウソをつきます。

操縦室を守るという機内でもっとも重要な役割を担っているテリーがよもやこんなウソに騙されることはないよなと思って見ていると、なんと操縦室からノコノコと出て行ってしまいます。こんなアホな客室乗務員がこの世にいるのでしょうか。

私はバカなキャラクターがバカなことをしでかした結果として事態が悪化していく映画を見ることに強いストレスを感じるタイプなのですが、本作はまさにそのパターンに陥っています。何とも酷い内容の映画でした。

スタッフに『シャイニング』ファンがいた?

ちょっと気になったのは、ライアンがドアを破ってテリーに話しかける場面がスタンリー・キューブリック監督『シャイニング』(1980年)の有名な”Here’s Jonny!”にそっくりということでした。

『シャイニング』みたいな場面
本家『シャイニング』(1980年)
©Warner Bros.

そういえばテリーのファミリーネームは『シャイニング』(1980年)の重要キャラクターと同じハロランだし、『シャイニング』ネタは恐らく意図的なものだと思います。

スタッフの中に『シャイニング』ファンでもいたんでしょうか。