【良作】ツイスター_常軌を逸した見せ場が楽しい(ネタバレあり・感想・解説)

災害・パニック
災害・パニック

(1996年 アメリカ)
見せ場は今見ても大迫力であり、本当にトラクターを落下させて撮影しているライブアクションなんて、むしろ現在の目で見る方が新鮮に映りました。自らの意思で竜巻に突っ込んでいくストームチェイサーが主人公なので緊張感を欠くという根本的な問題を抱えているのですが、芸達者な俳優陣のおかげで何とか血の通った映画として踏みとどまっています。

©Universal Pictures & Warner Bros.

あらすじ

気象予報士のビル(ビル・パクストン)は、妻のジョー(ヘレン・ハント)から離婚届けを受け取るために、現役ストームチェイサーであるジョーの「職場」である竜巻追跡の現場を訪れる。ジョーのチームは画期的な竜巻観測システム「ドロシー」の実用化に向けた運用実験を行うところであり、その発案者であるビルも内容には興味がある。そんな中で竜巻が発生し、ビルもジョーのチームに同行することにする。

スタッフ・キャスト

監督は『スピード』のヤン・デ・ボン

1943年オランダ生まれ。オランダ時代にはポール・バーホーベン監督作品の撮影の常連で、トム・クルーズ主演の青春映画『栄光の彼方に』(1983年)辺りからハリウッド映画の撮影も手掛けるようになりました。

1980年代後半から1990年代前半にかけての仕事は『ダイ・ハード』(1988年)、『ブラック・レイン』(1989年)、『レッド・オクトーバーを追え!』(1990年)、『氷の微笑』(1992年)、『リーサル・ウェポン3』(1992年)という物凄い状態となっていました。

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レニー・ハーリンに監督を断られた後にデ・ボンの手元にやってきた『スピード』(1994年)で監督デビュー。同作と本作の連続大ヒットで一躍ハリウッドトップクラスの監督になったのですが、『スピード2』(1997年)での失速以降はロクな映画を撮っていません。

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脚本は『ジュラシック・パーク』のマイケル・クライトン

1942年シカゴ出身。ハーバードメディカルスクール在学中に作家デビューし、主に最先端のサイエンストピックをモチーフにした娯楽小説で人気を博しました。映画化された小説で最大のヒット作は『ジュラシック・パーク』(1993年)。

なお、本作には原作となる小説は存在しておらず、クライトンとその妻アン・マリー・マーティンによるオリジナル脚本となっています。

他に、『ライオン・キング』(2019年)のジェフ・ネイサンソン、『アベンジャーズ』(2012年)のジョス・ウェドン、『シンドラーのリスト』(1993年)のスティーヴン・ザイリアンもノークレジットで本作の脚本に参加しています。

製作総指揮はスティーヴン・スピルバーグ

泣く子も黙るヒットメーカー。ただし本作はスピルバーグ自身の企画というよりも、彼のプロダクションであるアンブリンの企画という色合いが濃く、クリエイティブ面ではほぼ関与せず、製作総指揮として名義だけ貸していることが実体だったようです。

主演のビル・パクストンによると、スピルバーグに初めて会えたのは映画が完成してから1年半も経ってからだったとのことで、その時のスピルバーグの言葉は「大金を稼いでくれてありがとう」でした。

感想

夫婦の再生の物語が良くできている

元ストームチェイサーで都会への転職を控えた気象予報士のビル(ビル・パクストン)が、現役ストームチェイサーの妻ジョー(ヘレン・ハント)の離婚届けを受け取りに現場へとやってくるところから本筋が始まります。

メリッサ(ジェイミー・ガーツ)という新恋人もいて一刻も早い離婚を望むビルに対して、どうやら未練があって離婚届けへのサインを先延ばしにしているジョー。

危機を迎えた夫婦の再生の物語はディザスター映画の定番なのですが(『アビス』『アウトブレイク』)、未練を抱えているのが女性側で、男性側は目の前に新恋人を連れてくるほど無神経という構図は目新しいものでした。

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「離婚届にサイン頼むよ」と事務的に言ってくる無神経なビルに合わせてジョーは「うんいいわよ」と答えてしまい、「別れたくない」の一言が言えない。翌年の『恋愛小説家』(1997年)でアカデミー主演女優賞を受賞するヘレン・ハントの芸達者ぶりのおかげでジョーの女心が透けて見えてきて、見ているこちらも切なくなりました。

男勝りなんだけど肝心のことを言い出せない女子
©Universal Pictures & Warner Bros.

ビルはビルで思いがけず現場に舞い戻ったことでかつてのバイタリティを取り戻し、新恋人そっちのけでどんどん仕事に打ち込んでいく様が相変わらず無神経だったのですが、同時に少年っぽさも表現できており、なぜジョーが彼への未練を持っているのかが見えてきます。

大人のラブストーリーとしてなかなか良くできているのです。

とは言え問題がないわけでもなく、あのイカれたストームチェイサー達から「過激先生」と呼ばれ、おそらくは輪をかけたイカれっぷりであったであろうビルが、なぜ現場を離れることになったのか。さほど関係が悪いようにも見えないジョーとの結婚生活がなぜ終わったのかといった前提部分が端折られているので、ドラマに入り込みづらくなっています。

なお当初はトム・ハンクスがキャスティング候補で、他にカート・ラッセルやマイケル・キートンも考慮されていたのですが、最終的に南部らしいということでビル・パクストンが選ばれたとのことです。

ド迫力の竜巻描写

見せ場は今見てもド迫力。

竜巻は都合6つ出てくるのですが、サイズやパワーなどでそれぞれの竜巻に個性のようなものが付けられており、クライマックスに出てくる竜巻のラスボス感は凄かったです。この辺りの丁寧な仕事はILMらしいなと思いました。

加えて、ただ竜巻を描くだけではなく、何が飛んでくるのかという点で見せ場の色合いを変えており、意外と工夫がされています。

有名な牛が飛ぶ場面なんてよく考え付いたなと感心するし、トラクターが空から降ってきたり、横転したタンクローリーが爆発したり、吹き飛ばされた民家が道路を塞いだりと、いろんなものが障害物になって盛り上がります。

公開時に話題をさらった牛
©Universal Pictures & Warner Bros.
タンクローリーも横転する
©Universal Pictures & Warner Bros.

見せ場はCGによる竜巻とライブアクションの組み合わせとなっているのですが、公開時に注目を集めたCGよりも、結構無茶しているライブアクションの方が今となっては新鮮だったりします。

トラクターなんてヘリで吊るして本当に地面に落としているので、頭がおかしいとしか言いようがありません。

ストームチェイサーが緊張感を損ねている

ただし竜巻に突っ込んでいくストームチェイサーが主人公だと、何があっても自業自得感が出てしまい、緊張感や悲壮感が損なわれていたことは残念でした。

神出鬼没の竜巻を題材にする場合、被災民を主人公にしづらいという設定上の問題があったことは理解できるものの、もうちょっと何とかならなかったのかなと。

立派なディザスター映画ではあるが、パニック映画にはなっていないという残念な結果に終わっています。

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