【凡作】追跡者(1998年)_面白さ半減、興行収入は7割減(ネタバレあり・感想・解説)

サスペンス・ホラー
サスペンス・ホラー

(1998年 アメリカ)
『逃亡者』の続編。主人公に昇格したジェラード捜査官は前作から引き続き素晴らしいのですが、逃亡者側の物語が希薄であることと、陰謀の正体に面白みがないことから、サスペンスアクションとしては失敗しています。

作品解説

前作よりスタッフ総入れ替え

1993年8月に公開された『逃亡者』(1993年)は年間興行成績第2位の大ヒットとなり、また娯楽アクションとしては異例のアカデミー賞6部門ノミネートという高評価も受けましたが、本作ではスタッフの大半が入れ替わっています。

まず監督はアンドリュー・デイヴィスからスチュアート・ベアードに変更。本職は編集技師で『スーパーマン』(1978年)から『007 カジノ・ロワイヤル』(2006年)までを手掛ける腕利きであり、監督としてはデビュー作『エグゼクティブ・デシジョン』(1996年)に続く2作目となります。

撮影は前作でアカデミー賞にノミネートされたマイケル・チャップマンからアンジェイ・バートコウィアクに変更。1980年代にはシドニー・ルメット監督の社会派作品を多く手掛けていた人で、90年代に入ると『スピード』(1994年)『スピーシーズ 種の起源』(1995年)などの娯楽作に比重を移したところでした。

音楽も前作でアカデミー賞にノミネートされたジェームズ・ニュートン・ハワードからジェリー・ゴールドスミスに変更。言わずと知れた映画界の大御所で、アカデミー賞には実に18回もノミネートされ、うち『オーメン』(1976年)で受賞しました。

編集も前作でオスカーにノミネートされたチームからテリー・ローリングスに変更。『エイリアン』(1979年)や『ブレードランナー』(1982年)など初期のリドリー・スコット作品を支え、『炎のランナー』(1980年)でアカデミー賞受賞経験も持つベテランです。

興行収入7割減

本作は1998年3月6日に全米公開されたのですが、12週連続全米1位を記録していた『タイタニック』(1997年)に敗れて初登場2位でした。なお『タイタニック』の連続1位記録は15週目まで続くこととなります。

一方本作はというと、その後も持ち直すことはなく5週目にしてトップ10圏外へと消え、全米トータルグロスは5716万ドルでした。

国際マーケットでも同じく苦戦し、全世界トータルグロスは1億236万ドル。3億6890万ドル稼いだ前作から7割以上減少という期待外れの結果に終わりました。

感想

トミーリーは相変わらず良いが…

『逃亡者』(1993年)の続編ですが、キンブル医師(ハリソン・フォード)をもう一度逃亡させるわけにもいかないので、主人公はジェラード連邦保安官(トミー・リー・ジョーンズ)に変更されています。

前作でアカデミー助演男優賞を受賞したトミーリーにとってジェラード連邦保安官は一世一代の当たり役であり、幸いなことに本作でもその魅力は健在。

素早い状況判断と的確な対応策の提示、そして窮地に陥っても慌てない冷静さと、依然としてジェラードは有能であり続けています。

そして部下との結束も相変わらずで、軽口を叩き合いながらも締めるべきところはきちっと締めるし、部下に対する惜しみない愛情も見て取れます。この父性の塊のようなキャラクターを演じるにあたって、トミーリー自身が持つ特性が生かされています。

一見すると何気ないやりとりの中にも個性を覗かせるなど、ただ演技がうまいだけではなく、スターとしての華を併せ持っているからこそ可能な小技が利いているのです。

さらに今回はその熱血漢ぶりにもスポットが当てられています。もし部下に手を出されれば絶対に容赦はしないという姿勢を貫いており、「僕は仕事に私情を持ち込まない主義だ」と言う外交保安局員のロバート・ダウニー・Jr.に対して「俺は持ち込む主義だ」と言い返し、熱い一面を覗かせます。

そんなわけでトミーリーは相変わらず良いのですが、キャラクターが良いだけではサスペンスアクションは面白くなりません。大事なのは脚本なのですが、そこに難があるために、映画全体としてみると今一つという結果となっています。

陰謀に面白みがない

今回の逃亡犯となるのはウェズリー・スナイプス扮する元CIA工作員シェリダン。

医師を追っていた前作に対し、本格的な戦闘要員を逃亡者にしたことが本作のブローアップ要素であり、シェリダンは凄まじい身体能力を駆使して追跡者たちを手こずらせます。

実際、ウェズの参戦によってアクション要素は確実に強化されているのですが、問題はシェリダンに個性らしい個性がなかったことであり、そのために壮大なアクションもただのアクロバットショーに終わっています。これは残念でした。

実はシェリダンには正義が通らなかったために犯罪者にされたという壮絶な過去があり、観客からの同情を受ける余地は十分にあったのですが、情報の出し方のまずさからそのようにはなっていませんでした。

そして、ジェラードとは別の目的からシェリダンを追っているのがロバート・ダウニー・Jr.扮するロイス捜査官。

彼は外交保安局に所属しており、いかにも何かありそうなのですが、実際、訳アリだったので何の意外性もありませんでした。むしろ観客の先読みの裏をかいて、本当に善意で捜査協力しに来ただけという設定にした方が、まだ面白かったのではないでしょうか。

こんな感じでシェリダンとロイスという新キャラに面白みがないし、陰謀のからくりや黒幕にも魅力がないので、すべて分かった後にも「なるほど!」という感情よりも「こんなことをだらだらとやってきたのか」という感覚の方が先に来てしまいました。

複雑な陰謀など絡めず、今回は悪の逃亡者を追うというシンプルな話にしても良かったのではないでしょうか。

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