【良作】暴走特急_貫通したから撃たれたうちに入らない(ネタバレあり・感想・解説)

軍隊・エージェント
UNDER SIEGE 2: DARK TERRITORY, Steven Seagal, 1995, ©Warner Bros.
軍隊・エージェント

(1995年 アメリカ)
現在の私たちが持つ「セガールらしいアクション映画」は本作が完成させたものでした。そのインパクトの強さは大いに評価すべきだし、見せ場がパンパンに詰まった内容でアクション映画としても充実していました。ただし、あまりにも荒唐無稽すぎて話に入っていけない部分があったことも事実ですが。

©Warner Bros. Entertainment, Inc.,

あらすじ

元CIAの天才エンジニアと傭兵部隊が最新の軍事衛星を乗っ取るためにロッキー山脈を行く列車を乗っ取ったが、その列車の乗客には戦闘のプロが含まれていた。

スタッフ

監督はニュージーランド出身のジェフ・マーフィ

1938年ウェリントン生まれ。1980年代に地元ニュージーランドでアクション映画のヒットメーカーとして活躍した後にハリウッドに招かれ、『ヤングガン2』(1990年)、『フリージャック』(1992年)、『ラストアウトロー』(1993年)などを監督しました。

しかし興行的にも批評的にも結果を出せなかったことから1990年代後半より第二班監督を務めるようになり、同じくニュージーランド出身であるロジャー・ドナルドソン監督の『ダンテズ・ピーク』(1996年)、ピーター・ジャクソン監督の『ロード・オブ・ザ・リング』三部作を手掛けました。

この人にはおかしな特徴があって、大自然が映る作品だと非常に素晴らしい画を撮る一方で、それ以外の素材はまったくダメ。その点で言うと、ロッキー山脈を突っ切る観光列車を舞台にした本作は彼の本領が発揮できる題材であり、大自然の中を進む列車や、緑の中をヘリが飛び回る場面には、なかなか美しく撮られていました。

後の実力者が揃った脚本

本作の脚本家としてクレジットされているのはマット・リーヴスとリチャード・ヘイテムですが、後に二人とも偉くなっています。

マット・リーヴス

まずマット・リーヴスですが、本作直後に監督に転向し、1996年にJ・J・エイブラハムが製作した『ハッピィブルー』で長編監督デビュー。

2008年に再度J・J・エイブラハムと組んだ『クロバーフィールド/HAKAISHA』が大ヒット。2010年代に入ると第一作の監督ルパート・ワイアット降板後の『猿の惑星』シリーズを引き継ぎ、『猿の惑星/新世紀』(2014年)と『猿の惑星/聖戦記』(2017年)を成功させました。

そして直近では『ザ・バットマン』(2022年)を大成功させ、新たなるヒットメーカーになりそうな勢いです。

リチャード・ヘイテム

次にリチャード・ヘイテムですが、21世紀にはいるとテレビ界に入り、『トゥルー・コーリング』(2005年)、『スーパーナチュラル』(2005年~2006年)、『デッドゾーン』(2007年)といった作品に脚本家兼プロデューサーとして参加。現在は、奇しくもマット・リーヴスの『ザ・バットマン』と同じくDCコミックの『タイタンズ』のテレビシリーズをNetflixで製作しています。

なお、二人が本作の脚本を書いたのは『沈黙の戦艦』(1992年)が製作される前であり、元は『沈黙の戦艦』とは何の関係もない独立した作品でした。

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ブライアン・ヘルゲランド(ノークレジット)

ワーナーはこれを『沈黙の戦艦』の続編として書き直す必要があり、そのために雇われたのがブライアン・ヘルゲランドでした。1997年に『L.A.コンフィデンシャル』でアカデミー脚本賞受賞。1999年には監督デビュー作『ペイバック』をヒットさせ、クリント・イーストウッドやトニー・スコットのお気に入りを経て、今やハリウッドトップクラスの脚本家となっています。

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作品解説

前作の興行成績には及ばず

本作は1995年7月14日に全米公開。3週目に入っても絶好調だった『アポロ13』(1995年)に敗れて初登場2位であり、4週目にはトップ10圏外へと弾き出されました。全米トータルグロスは5002万ドル、8356万ドルを稼いだ前作『沈黙の戦艦』(1992年)を大きく下回りました。

低調だったのは世界マーケットでも同じくで、全世界トータルグロスは1億432万ドル。前作の1億5656万ドルを大きく下回り、興行的には期待に応えられませんでした。

登場人物

ライバック陣営

  • ケイシー・ライバック(スティーヴン・セガール):前作での騒動後は、軍の仕事とレストラン経営の二足のわらじを履いている。疎遠だった兄を最近飛行機事故で亡くしたが任務のため葬儀に参列できず、その穴埋めのため残された姪のサラとの列車旅行に出かけた。列車のバーで回想録を書いたり、厨房に入ってケーキを焼いたりと、訳の分からん行動をとる。
  • サラ・ライバック(キャサリン・ハイグル):ライバックの兄の娘。父と疎遠にしていたライバックに対して辛く当たる。また大人ぶりたい年頃で飲酒しているフリをしたり、テディベアをプレゼントされて不機嫌になったりする。ライバックからの手ほどきで合気道の心得がある。どうすればセガールの親戚としてキャサリン・ハイグルが生まれるのかは謎。
  • ボビー・ザックス(モーリス・チェスナット):列車でポーターのバイトをしている大学生。サラを気に入るが、合気道で倒された。テロリスト襲撃後はライバックと行動を共にし、徐々に逞しくなっていく。

テロリスト一味

  • トラヴィス・デイン(エリック・ボゴシアン):元CIAのエンジニアで軍事衛星グレイザー1の開発者だが、人物に問題があって完成前にCIAを追い出された。その後に自殺を装っていたが実は生きており、傭兵を従えてグレイザー1の管制を乗っ取り、そのビーム砲でペンタゴン地下の原子炉を狙う。
  • マーカス・ペン(エヴェレット・マッギル):デインの作戦をサポートする傭兵のリーダー。催眠スプレーを顔にかけられても効果がないほどの常人離れした男だが、車内にライバックが居ると知ると「ヤバイ」という顔をした。反米勢力とのコネクションを持っており、グレイザー1によるペンタゴン攻撃に対して敵国から10億ドルの成功報酬を受け取るという形で、今回のテロをマネタイズした。

指令室の3バカ

  • ベイツ提督(アンディ・ロマーノ):たまたま近所に寄っていたことから、テロがあった際に管制センターに呼ばれ、そのまま対応の指揮を執ることとなった。ただし「ライバックが乗っているのか、助かった」と言っているだけで、前作に引き続き、結果に対して何の影響も与えていない。
  • ガーザ大佐(デイル・ダイ):ベイツ提督の腰巾着で、現役時代からライバックを知る男。『沈黙の戦艦』ではベイツと観客に対してライバックがいかに凄い奴かを説明する役割を果たしていたものの、ライバックがお馴染みとなった本作ではほとんどやることがなかった。
  • トム・ブレーカー(ニック・マンキューソ):CIA高官。美人の部下を休日デートに誘って断られる。ストラニクスの死を確認しなかった前作での手落ちを反省しておらず、今回もデインの死を確認しないというチョンボを犯してテロを招いた。こんな人物が要職に留まり続けているCIAはよほどの人材不足なんでしょうか。

感想

『沈黙』シリーズのイメージを決定した作品

前作『沈黙の戦艦』のレビューにて、あらためて見るとライバックは力押しをしているわけでもなく、正面切った戦闘を避けゲリラ戦法で劣勢を逆転させている点が意外だったと書いたのですが、ではありえないほどの無双状態という『沈黙』シリーズのイメージは一体どこから来たのかというと、本作でした。

  • ライバックの存在を知ってビビる敵
  • 「現場にライバックがいるのか。やったー!」と喜ぶ指令室
  • 圧倒的なパワーで雑魚をなぎ倒すライバック
  • どんな危機に陥っても顔色ひとつ変えないライバック
  • 怪我をしても痛がりもしないライバック

これらはすべて本作の要素であり、私たちは『沈黙の戦艦』までをこのイメージで記憶していたのです。それほどまでに本作のインパクトが強かったということであり、観客の心に確実に残っていたのだから、娯楽作としては優れた企画だったんだろうと思います。

特に凄かったのは、敵スナイパーから狙撃されたにも関わらず、ライバックが涼しい顔で「貫通したから撃たれたうちには入らない」と言い、実際、その傷が後の展開にまるで影響を与えないというくだりでした。

普通のアクション映画でこんなことをやればブーイングものですが、セガールが言うと不思議と「そんなものなのかな」と思わせる説得力があります。監督と脚本家が何を思ってこんな不思議な展開を入れたのかは分かりませんが、当時のセガールの持つ独特な存在感、理屈に縛られない強さを見事に表現した一幕だったと言えます。

沈黙の戦艦【良作】実はよく考えられたアクション(ネタバレあり・感想・解説)

アクション映画としてはなかなか優秀

壮大なメインテーマをバックにしたスペースシャトルの打ち上げというアクション映画らしからぬオープニングに、ライバック登場場面で高鳴る音楽と、訳が分からんがとにかく凄いことが起こりそうだというハッタリの利かせ方には、実に素晴らしいものがありました。

テロリストの襲撃を受けるや、一緒に厨房に居たコックたちが皆殺しにされる中でライバック一人が生き残り、「俺の出番だ」と超ノリノリで反撃を開始。以降、間断なく続く見せ場には十分に目を楽しませてくれました。

クライマックスではそれまでのステルス戦から一転して、ライバックがついに客車に突入して人質をとっているテロリストとの銃撃戦を繰り広げるのですが、ここでの盛り上がり方は尋常ではなかったし、かと思えばペンとの直接対決では西部劇のような間の取り方をしたりと、アクション映画としてのテンポの作り方が抜群にうまくいっています。基本的には勢いで押しているのですが、たっぷり間をとるべき部分も作っているので、単調にはなっていません。

ただし、話はかなり粗い

私は前作を「実はよく考えられたアクション」と評価したのですが、一転して本作の話は穴だらけ。そもそもグレイザー1の設定がめちゃくちゃで、地上を覗き見る高度なスパイ衛星のようなものかと思いきや、『機動戦士ガンダム00』のメメントモリのような強力な破壊力を持ったビーム砲を備えており、それを使えば地下深くまでを狙うことができるため、もし活断層を狙えば大地震を起こすことも可能という、やりすぎの遥か上を行くSFガジェットとなっています。さすがに非現実的過ぎて冷めました。

また、よくよく考えるとデイン達が列車を襲った理由もおかしいんですよね。彼らの大目的は軍事衛星の管制の乗っ取りなのだから、地上の軍事力は本来不要なのです。ただし、乗っ取りにはどうしてもコードの入力が必要であり、それを知っているCIA職員2名が乗っていたために列車が襲われたという話になっているのですが、わざわざ大規模な襲撃をかけなくても、乗車前の二人を拉致してコードを吐かせればよかったんじゃないの思えて仕方ありません。

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