【良作】沈黙の戦艦_実はよく考えられたアクション(ネタバレあり・感想・解説)

軍隊・エージェント
軍隊・エージェント

(1992年 アメリカ)
豪快なセガールアクションのようでいて、スケールの大きな舞台や魅力的な悪役、実際の兵士ならどう動くのだろうかという点が追及されたプロットと、非常によく作り込まれた映画でした。

©Warner Bros.

あらすじ

退役前の最終航海に出た米戦艦ミズーリ号がテロリスト一味にハイジャックされた。彼らの目的は核弾頭の奪取だったが、ただのコックだとして艦内で見落としていた男が、実は戦闘のプロだった。

スタッフ

監督は『逃亡者』のアンドリュー・デイヴィス

1947年シカゴ生まれ。70年代にカメラマンとして映画界入りした後に監督へ転向し、チャック・ノリスの空手を最小限にとどめてハードボイルドテイストにした『野獣捜査線』(1985年)のヒットで注目され、セガールのデビュー作『刑事ニコ/法の死角』(1988年)や、トミー・リー・ジョーンズの初メジャー作品『ザ・パッケージ/暴かれた陰謀』(1989年)などを監督して、手堅い成功を収めてきました。

1987年にはシュワルツェネッガー主演の『バトルランナー』の監督にも就任していたのですが、撮影開始後たった4日で800万ドルもの予算超過を起こしたことから、当時は映画会社の重役で、後に監督に転向して『ワイルド・スピード』(2001年)や『トリプルX』(2003年)を撮ることになるロブ・コーエンの判断で解雇されました。

脚本は『プリティ・ウーマン』のJ・F・ロートン

1960年生まれで、父親は著名な作家ハリー・ロートン。

80年代に映画のポストプロダクションを請け負う会社に勤務しながら書き溜めた脚本の中から”Three Thousand”という作品が注目され、ウォルト・ディズニー・カンパニーの実写映画部門であるタッチストーン・ピクチャーズに買い取られて『プリティ・ウーマン』(1990年)になりました。

同作は1500万ドルの製作費に対して全世界で4億6300万ドルを稼ぎ出し、1990年でもっとも売上の高い作品になったのですが、『沈黙の戦艦』のプロデューサーのアーノン・ミルチャンによると、同作でロートンが受け取ったギャラはたったの2500ドルだったとのことです。

”Dreadnaught”というタイトルの次回作には100万ドルの値がつき、これが本作『沈黙の戦艦』となりました。ただしこの人の得意分野はコメディのようで、ロバート・デ・ニーロ率いるトライベッカ初のコメディ映画『ミストレス』(1992年)や、コメディアンのデイモン・ウェイアンズが主演した『ブランクマン・フォーエバー』(1994年)なども手掛けています。

作品解説

セガール主演第5弾

1988年の『刑事ニコ/法の死角』でデビュー。短期間で4本の主演作をリリースしヒットさせてきたセガールですが、そのどれもがコテコテの男性映画であり、広く大衆に支持される性質のものではありませんでした。

そんな中で、大物プロデューサー・アーノン・ミルチャンの元、当時の売れ筋だった大規模な爆破アクションに挑んだのが本作であり、アクション俳優として先行していたスタローンと張り合える位置にまでセガールを押し上げました。実際、ジョエル・シルバーは『デモリションマン』(1994年)の主演として、スタローンよりも先にセガールにアプローチをかけたと言います。

モロに『ダイ・ハード』(1988年)の影響を受けた作風ではあるのですが、セガールとトミー・リーというスパイスがうまく効いており、また二人と仕事をしたことのあるアンドリュー・デイヴィスによる演出も的確で、二番煎じを越えた作品となっています。

本作の大ヒットは、洋上が舞台という設定ですでに初期稿が書かれていた本家『ダイ・ハード3』の企画をストップさせるという思いも寄らぬ事態も引き起こしました。ボツにされた『ダイ・ハード3』の初期稿は、後に『スピード2』(1997年)として復活しました。あの出来なら、脚本をボツにして正解でしたね。

4週連続全米No.1ヒット

本作は1992年10月9日に公開され、3週目を迎えていた『ラスト・オブ・モヒカン』(1992年)の2倍近い興行成績をあげてぶっちぎりの1位を記録。

その後も好調は続いて4週連続No.1となり、5週目にしてスカイアクション『パッセンジャー57』(1992年)に敗れて2位に後退。セガールの連続No.1記録を打ち破ったのがウェズリー・スナイプスという時代がかつて存在していたのです。

ただしその後も売り上げは好調で、合計10週に渡ってトップ10圏内に残り続けました。全米トータルグロスは8356万ドルで、その年の年間興行成績でも10位という大ヒットとなりました。

世界マーケットでも同じく好調で、全世界トータルグロスは1億5656万ドル、製作費が3500万ドルだったことを考えると大変儲かった作品となりました。

登場人物

戦艦ミズーリ艦内

  • ケイシー・ライバック(スティーヴン・セガール):戦艦ミズーリのコック長だが、元はネイビーシールズの指揮官。情報ミスで部下を戦死させたことが原因で情報士官を殴り、軍隊内での居場所を失っていたところをアダムス艦長に拾われたという経緯がある。情報士官との折り合いが悪いという設定には、後の『エグゼクティブ・デシジョン』に通じるものがあります。
  • ストラニクス(トミー・リー・ジョーンズ):元はCIAの破壊工作員だったが、北朝鮮の潜水艦破壊に送り込まれた際に敵国側へ寝返り、事態に気付いたCIAが差し向けた殺し屋を返り討ちに遭わせて地下に潜っていた。ミズーリ号の核弾頭を北朝鮮に売ることが目的で、アダムス艦長の誕生日パーティーのバンドメンバーを装って乗艦した。
  • クリル中佐(ゲイリー・ビジー):ミズーリ号副艦長。ストラニクスと通じており、一味がミズーリ号に乗艦する手引きをした。アダムス艦長とは折り合いが悪く、また乗務員への態度も悪いため艦内では嫌われている。ライバックとの関係も悪かったが、その経歴の確認を怠っており特に警戒をしていなかった。クリルの詰めの甘さがストラニクスの計画の綻びとなった。
  • ジョーダン・テート(エリカ・エレニアック):元プレイメイト。ストラニクスらと共にミズーリに乗艦したが、彼女はカムフラージュ用でストラニクスの一味ではない。鎮静剤を飲み過ぎてサプライズ用のケーキの中で眠ってしまったために、テロ集団からは見落とされていた。その後出会ったライバックからは黙って隠れていろと言われたが、一人にはなりたくないと言ってライバックに付いて行くことにした。元の脚本には居なかったキャラなのですが、サイドキックが居た方がいいというセガールの提案によって付け加えられたようです。
  • アダムス大佐(パトリック・オニール):戦艦ミズーリ艦長。戦艦乗っ取りの際に、クリルに真っ先に射殺された。

ペンタゴン指令室

  • ベイツ提督(アンディ・ロマーノ):本件への対応責任者。ストラニクスとの交渉や制圧作戦の指示を出した。その威厳の割には役立たずで、結果から振り返るとライバックの手助けをすることも、ストラニクスにダメージを与えることもできなかった。ライバックがいなければ、たぶん終わっていた。
  • ガーザ大佐(デイル・ダイ):ベイツ提督の部下。現役時代のライバックを知っており、実力は一番だとか、人物は保証するとか、ファンかというくらいライバックを褒めまくる。
  • トム・ブレーカー(ニック・マンキューソ):CIA高官。ストラニクスの上司だったためペンタゴンに呼ばれた。かなりいい加減な人間で、異常の兆候が見え始めていたにも関わらずストラニクスを作戦で使ったり、そのストラニクスからの「北朝鮮の潜水艦は破壊した」という報告を信じて裏を取っていなかったり、暗殺に失敗したままストラニクスを放置したりと、やることがいちいち穴だらけ。

続編の『暴走特急』(1995年)にも登場する人たちで、何もできずに事態を眺めているだけなので、私は3バカと呼んでいます。

感想

意外と緻密なアクション映画

ただ強いだけではないセガール

コックだと舐めていたセガールが実は殺人マシーンで、テロリストをバッタバッタとなぎ倒す映画として記憶していたのですが、改めて見ると本作のセガールは力押しではなく、劣勢をゲリラ戦法やチームワークで克服するという構図になっています。

確かにライバックは元シールで格闘や銃撃をさせると圧倒的に強くはあるのですが、そこで勝負していません。

地の利を活かしてテロリストに気付かれないように動き回り、着艦中のヘリに工作をして爆破したり、ストラニクスが核弾頭運搬用に呼んだ北朝鮮の潜水艦の舵を破壊したりと、正面衝突を避けながら敵のスケジュールに干渉し、徐々に計画を崩壊させるという動き方をしています。

これにはなかなか説得力がありました。

テロリストの動きも合理的

対するストラニクスもバカで間抜けなテロリストではなく、これだけ大それたテロ計画を立案し実行に移すことのできるだけの力量を持った人間という描かれ方となっています。

当初クリル副艦長がライバックを甘く見ていたのに対して、ストラニクスは万全を期すために腕利きの部下2名を差し向けました。

ライバックからの反撃が本格化した後には、容易に勝てる相手ではないのだからライバックを深追いせず援軍を待てと部下に指示を出したり、強敵ライバックを仕留めるのではなく、彼を作戦に支障のないエリアに閉じ込めておくという方針を打ち出したりと、相手の能力を把握した上でこちらの犠牲を最小限に留めるという考え方で対応していました。

ストラニクスが魅力的すぎる

加えて、ストラニクスというキャラクター自体が非常に魅力的だったことも、作品に貢献しています。

ストラニクスは、アンドリュー・デイヴィス監督の前作『ザ・パッケージ/暴かれた陰謀』(1989年)にてトミー・リー・ジョーンズが演じた悪役トーマス・ボイエットを膨らませたものとして見たのですが、狂気と冷静さのバランスが実によくできています。

彼は交渉相手をかく乱するためにアナーキストを装って突飛な言動を繰り返すのですが、実際には敵国に核弾頭を売るという現実的な利益のために動いており、感情的な判断を下すことはただの一度もありません。

戦いに対しては一定の美学を持っている様子で、クリルがライバックをおびき寄せるために数百人の兵士を溺死させる作戦を提案した際には、「お前の部下じゃないのか?」と不快感を示しました。

しかし、彼の指摘に対してクリルが動じないと見るや、手法を巡って味方であるクリルと口論することは得策ではないとでも思ったのか、「ははは、お前もワルだなぁ」と言ってクリルのやり方に賛同します。

利害の計算がめちゃくちゃに素早く、その場に合った反応を即座に選択することができる人物なのです。

最後にまみえた際には、ストラニクスとライバックは過去にも面識があったことが判明。国のために尽くしてきたのに組織から冷遇を受けたという点でライバックとストラニクスは共通しており、両者はネガとポジの関係にありました。この因縁の持たせ方も良かったと思います。

セガールの所作の美しさ

また、本作では痩せていてよく動いていた頃のセガールの美しい所作を拝むことができます。

ライバックが船倉の兵士達を救うため敵の罠にあえて飛び込む際に、二丁のウージーをクロスさせた両手で構え、右から来た敵には左手で、左から来た敵には右手で撃つという特殊な射撃をするのですが、セガールがやるとそれっぽく見えるのだから、彼の所作には不思議な説得力がありますね。

≪スティーヴン・セガール出演作≫
【凡作】刑事ニコ/法の死角_パワーと頭髪が不足気味
【駄作】ハード・トゥ・キル_セガール初期作品で最低の出来
【凡作】死の標的_セガールvsブードゥーの異種格闘戦は企画倒れ
【良作】アウト・フォー・ジャスティス_セガール最高傑作!
【良作】沈黙の戦艦_実はよく考えられたアクション
【凡作】沈黙の要塞_セガールの説教先生
【良作】暴走特急_貫通したから撃たれたうちに入らない
【凡作】グリマーマン_途中から忘れ去られる猟奇殺人事件
【凡作】エグゼクティブ・デシジョン_もっと面白くなったはず
【凡作】沈黙の断崖_クセが凄いがそれなりに楽しめる
【駄作】沈黙の陰謀_セガールが世界的免疫学者って…
【駄作】DENGEKI 電撃_セガールをワイヤーで吊っちゃダメ
【まとめ】セガール初期作品の紹介とオススメ

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