(1999年 アメリカ)
優秀な特殊効果技師が何人も集まって作った映画だけに、VFXは素晴らしい出来で楽しめます。ただし演出が平板で盛り上がりに欠けるために、映画としては良い出来ではありませんでした。

作品解説
特殊効果技師ジョン・ブルーノ唯一の監督作
本作の監督はジョン・ブルーノ。
『アビス』(1989年)でアカデミー視覚効果賞を受賞した特殊効果技師であり、その他、『ターミネーター2』(1991年)、『トゥルーライズ』(1994年)、『タイタニック』(1997年)、『アバター』(2008年)と、ジェームズ・キャメロン作品には必ずと言っていいほど参加しています。
本作のプロデューサー ゲイル・アン・ハードはキャメロンの元嫁であり、『アビス』と『ターミネーター2』のプロデューサーも務めたので、ブルーノとは旧知の仲だったと考えられます。
本作はVFXを多用する作品であるため、その扱いに長けた者に現場を仕切らせるべきと考えてブルーノが選任されたのでしょう。
ただしブルーノに監督としての腕前はなかったようで、主演のジェイミー・リー・カーティスは公然とその手腕を批判し、『ハロウィンH20』(1998年)のスティーヴ・マイナー監督に交代させようとしていました。
結局、マイナーのスケジュールが合わずブルーノが最後までやりきったのですが、ブルーノ自身にも思い当たることがあったのか、本作以降は一度も監督業に手を出していません。
興行的には惨敗した
本作は1999年1月15日に全米公開。強い競合のいない週だったにも関わらず初登場9位と低迷し、2週目にしてトップ10圏外へと弾き出されました。全米トータルグロスは1403万ドルとかなりのコケ具合でした。
国際マーケットでも同じく苦戦し、全世界トータルグロスは3065万ドル。7500万ドルという高額な製作費は回収できませんでした。
感想
ジョン・カーペンター好き好き映画
電波状の宇宙生命が「人類はこの星のウィルスだ」と勝手に判断。ロシアの研究船に取り憑いて人類抹殺のためのマシン軍団を製造し始めるのですが、そこに別の船乗り達が乗り込んでしまって大変な目に遭うというのがざっくりとしたあらすじ。
「そんな漫画みたいな話」と思っていたら、原作はダークホースコミックでした。
そして、登場人物達が未知との一次接触者ではないという点や、この脅威を人類社会と接触させるわけにはいかないので救援隊が来るまでに片付けなければならないという点は『遊星からの物体X』(1982年)みたいでした。
舞台は小規模ながら人類の存亡をかけた広大な背景を持つ物語は『物体X』を始めとして『パラダイム』(1987年)や『ゼイリブ』(1988年)など多くのカーペンター作品に共通しているし、カーペンターが生み出した初代スクリーミング・クィーンであるジェイミー・リー・カーティスが主演だし。
とにかくジョン・カーペンター作品が好き!という思いが溢れ出た作品であり、私はとても好感が持てました。
怒涛のマシン軍団
そして本作の見どころはVFXの素晴らしさです。
監督のジョン・ブルーノ自身がオスカー受賞経験のある特殊効果技師だし、VFXスーパーバイザーとしては『ロボコップ』(1987年)、『ジュラシック・パーク』(1993年)などハリウッド随一の視覚効果マンとして尊敬されるフィル・ティペットを召喚。
さらには特殊メイクに『ゴースト・バスターズ』(1984年)や『スピーシーズ』(1994年)のスティーヴ・ジョンソン、ロボット担当に『ショート・サーキット』(1986年)のエリック・アラードと、天才と称される視覚効果マンを何人も集めて製作しています。
その甲斐あって、敵のマシン軍団は怒涛の迫力。大中小揃えたバリエーションの豊富さに加えて、生体と機械をミックスさせた特異なデザイン、思わぬところに武器が仕込まれたギミックなど、とても楽しい仕上がりとなっています。
その他、船がハリケーンに遭う場面の特撮も見事な出来。
現在ほどCGが万能ではなかった時代なのでロボットやミニチュアが多用されているのですが、そうした職人的な技能を見る映画としても機能しています。
キレのない演出
そんなわけでVFXは良かったのですが、ジェイミー・リー・カーティスの主張通り、監督の演出力が全然追いついていませんでした。
「どのタイミングで見せるか」「どうやって見せるか」みたいな妙技が感じられないので、せっかくのVFXがうまくない演出で浪費されていく感じがします。
作品全体を眺めてみても、仲間内のトラブルやタイムリミットの設定など脚本レベルではいくつもの山場が設けられているにもかかわらず、見せ方がうまくないのでそれらがまるで有効活用されていません。
また登場人物達の描写にも失敗しており、それぞれのキャラクターには面白い個性が設定されているにも関わらず、それが物語の進行に絡んでいかない、キャラクター同士の化学反応も起こらないという残念なことになっています。
その結果、短い上映時間であるにも関わらず見る側の集中力が切れるという問題が発生しています。
ドナルド・サザーランドは素晴らしかった
そんなグダグダ状態の中、唯一気を吐いていたのがドナルド・サザーランド扮するエバートン船長でした。
冒頭、ハリケーンの中を進む運搬船にて「このままじゃ沈没だから積み荷を捨てよう」というクルー達に対し、「あれが俺の全財産だ」と主張するエバートン。ここに彼の個性が集約されています。
リスク愛好家でありギャンブラーであり、人が行かぬ方向に先行投資して大きな利益を得ようとするのが彼の行動原理なのです。
結局積み荷は失うのですが、自殺を考えたその時に舞い込んだマシン騒動。
これに対しエバートンは、この勝負は人類の負けだから今のうちにマシン側に付いておこうと考えます。そしてマシンの拠点に足を運び、お仲間に加えてくださいとお願いするエバートン。
この発想がぶっ飛んでて最高でした。変な方向に張る奴っていますよね。
で、念願かなってロボに改造されるのですが、上半身がドナルド・サザーランドで下半身でマシンという異常なデザインも最高でした。
しかもこいつが弱くてアッサリ倒されるという。
ドナルド・サザーランドが出ているところだけは映画としてきっちり面白くなっていました。