【凡作】ウルフ(1994年)_ホラーもドラマも中途半端(ネタバレあり・感想・解説)

クリーチャー・メカ

(1994年 アメリカ)
古典的なモンスターと企業のパワーゲームを絡めた切り口こそ新鮮なのですが、意図したほど面白くなっていないという印象です。中年男が狼のパワーを得て憎き上司や裏切り者の部下に反撃する話の割には爽快感がないし、制御できないパワーを恐れる男の話の割にはそのパワー描写にインパクトがなく、ドラマとホラーの二兎追って一兎も得なかったような映画でした。

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あらすじ

出版社の編集長ウィル(ジャック・ニコルソン)は、ある夜、雪道で狼に噛まれた。翌日からウィルの視覚・聴覚・嗅覚は研ぎ澄まされ、また若い頃のようなバイタリティや攻撃性を取り戻した。

その頃、会社はオーナーが入れ替わり、昔ながらの編集者であるウィルは左遷を言い渡されようとしていた。前日までのウィルは新オーナー(クリストファー・プラマー)の決定に黙って従うつもりでいたが、バイタリティを取り戻したウィルはオーナーへの反撃を画策する。

スタッフ・キャスト

監督は巨匠マイク・ニコルズ

1931年ベルリン出身。父親がユダヤ系ロシア人であり、ユダヤ人迫害から逃れるために7歳の頃にアメリカに移住。エンタメ界では当初は舞台演出に携わっており、グラミー賞やトニー賞を受賞。

『バージニア・ウルフなんかこわくない』(1966年)で映画界に進出し、『卒業』(1967年)でアカデミー監督賞を受賞。

グラミー賞、アカデミー賞、トニー賞、エミー賞の4賞受賞を実現した15人のうちの一人です。

脚本は『レジェンド・オブ・フォール』のジム・ハリソン

1937年ミシガン州出身。詩人、小説家として活躍し、『レジェンド・オブ・フォール』(1979年)がベストセラーになり、同作は1994年にブラッド・ピット主演で映画化されました。また、ケビン・コスナー主演のバイオレンス『リベンジ』(1990年)の原作者でもあります。

本作は獣化妄想症を患った自身の経験を元にした作品であり、10年来の友人であるジャック・ニコルソンと共に映画化企画を進めていました。

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製作は『グラディエーター』のダグラス・ウィック

1954年アメリカ出身。イェール大卒業後の1979年に映画界に入り、本作でも組むマイク・ニコルズ監督の『ワーキング・ガール』(1988年)で初めてプロデューサーを務めました。

リドリー・スコット監督の『グラディエーター』(2000年)でアカデミー作品賞受賞。他にトニー・スコット監督の『スパイ・ゲーム』(2001年)やレオナルド・ディカプリオ主演の『華麗なるギャッツビー』(2013年)などを製作しています。

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主演は名優ジャック・ニコルソン

1937年ニュージャージー州出身。両親の晩年の子であり、年の離れた姉のいる家庭環境で育てられたが、後に、姉と教えられていた人物こそが実の母で、両親だとされていたのは祖父母だったということが判明しています。いろいろ訳アリですね。

『イージー・ライダー』(1969年)でアカデミー賞助演男優賞にノミネート。『カッコーの巣の上で』(1975年)でアカデミー主演男優賞受賞。アカデミー賞においては現在に至るまでに主演8回、助演4回の合計12回ノミネートされており、これは男優としては最多ノミネート記録となっています。

『バットマン』(1989年)でジョーカー役を演じましたが、本作のヒロインであるミシェル・ファイファーはその続編『バットマン・リターンズ』(1992年)でキャットウーマンを演じており、バットマンのヴィランの共演作にもなっています。

感想

おっさんの覚醒に痛快さがない

主人公は中年の編集者ウィル(ジャック・ニコルソン)。

業界ではちょっと名の知られた編集者ではあるのですが、勤務する出版社のオーナーが変わり、それに伴い経営方針も一新されることから、東欧への左遷を言い渡されます。

親しい作家や部下達からは功労者であるウィルが切られるとはあんまりだという声が上がっているものの、ウィル自身は会社の判断を素直に受け入れるつもりでいます。

後に判明するのですが、ウィルが腹心だと思っていた部下のスチュアート(ジェームズ・スぺイダー)は、ウィル本人に対しては「あなたをお守りします」と言っていたのに、社主に対しては「私をウィルの後任に」と働きかけるという二枚舌を使っていたことが判明。さらに長年連れ添った妻(ケイト・ネリガン)も寝取られていました。

ウィルは上からのプレッシャーと下からの突き上げを受けるくたびれきった中年という風情なのですが、ある夜狼に噛まれたことから、体力も気力も超人的となります。業務スピードは大幅アップ、感覚は研ぎ澄まされ、自分を踏みつけにした者達への反撃を画策するだけの攻撃性も身に付きます。

加えて、自分よりも二周り以上も年の離れた美女ローラ(ミシェル・ファイファー)からも惚れられるという充実ぶりで、万事がスムーズに運び始めます。

こんな美人に惚れられるなら狼男になっていいかも
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思いがけずスーパーパワーを身に付けて生活が激変する主人公という構図は『スパイダーマン』(2002年)や『シャザム!』(2019年)と同様のものであり、後のアメコミ映画と似たような構造をとっています。

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ただし演出が突き抜けていないためか、「よくやった!ウィル」と拍手喝采したくなるような痛快さは伴っておらず、本来持つべき熱を帯びていないように感じました。

ホラーともドラマともつかない中途半端さ

ならばホラーとしての方向性が志向されているかというとそうでもなく、ゾッとするような場面は特にありません。

加えて、ドラマとホラーの間での相乗効果も発揮されていません。

この題材ならば、ウィルは会社内で登り詰めていくが、その一方で謎の殺人事件が多発するようになり、「ウィルが何かやってるんじゃないか?」と疑惑の目が向き始めるという内容にすることでドラマとホラーの統合を図るべきではなかったかと思います。しかし、思いのほか狼男ウィルの犯す殺人や暴力事件が少ないのです。

ウィルが「狼男になっちゃうかもしれない」と怯えているだけで、実害らしきものがあんまりないという。

終盤でようやく狼男vs狼男というモンスター映画らしい展開を迎えるのですが、これは試写の反応があまりに悪かったので撮り直したもののようです。

見せ場が驚くほど印象に残らない

で、その狼男の描写ですが、印象に残ったのはウィルが高い塀をジャンプで飛び越える描写くらいですかね。

90年代におけるゴシックホラーのリメイク企画は、新解釈と最先端の技術で往年のモンスターを蘇らせるということに主眼があったと思うのですが、驚くほどに視覚的なインパクトが少ない内容となっています。

特殊メイクには『ハウリング』(1980年)や『狼男アメリカン』(1981年)ですでに高い評価を得ていたリック・ベイカーが起用されているのですが、映像のインパクトでは10年以上も前の『狼男アメリカン』に負けています。

途中までは俳優に特殊メイクを施しただけの簡易狼男であっても、最後の最後で完全体モンスターが姿を現わすのかもという期待があったのですが、そうしたサービスもなし。ガッカリでした。

元祖ウルヴァリン
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どこがエロティックホラーなのか

この映画、公開当時はエロティックホラーとして宣伝されており、現在私の手元にあるBlu-rayのジャケットにもはっきりとそう書いてあるのですが、この映画のどこにエロの要素があったのでしょうか。

「ミシェル・ファイファーの裸が見られるかも!」と期待していただけに、虚偽に近い宣伝にはガッカリさせられました。

推測するに、ミシェル・ファイファーが演じた役には当初シャロン・ストーンがキャスティングされており、その時には結構がっつりめの濡れ場が予定されていたためだと思われます。

いずれにせよ、エロ要素のない映画にエロティックなんて書いちゃダメですよ。