【良作】トリプルX ネクスト・レベル_低偏差値アクションの極み(ネタバレあり・感想・解説)

軍隊・エージェント
軍隊・エージェント

(2005年 アメリカ)
前作以上に低偏差値アクションを極めていて、私の大好物でした。主演が完全悪人面のアイス・キューブに交代したことで、前作では損なわれていた毒を以て毒を制すというコンセプトも復活しており、とても楽しめるアクション映画でした。

作品解説

メンバー総入れ換えの続編

『トリプルX』(2002年)は全米で1億4000万ドル以上を売り上げる大ヒットとなり、当然のことながら続編が企画されました。

製作にあたっては前作の脚本家リッチ・ウィルクスと新人脚本家サイモン・キンバーグに別々で発注がなされ、ウィルクス版は東南アジアの海賊を登場させる内容で、一方キンバーグ版はワシントンD.C.でクーデターが起こるという内容だったのですが、うちキンバーグ版が採用。

キンバーグは後に『Mr.&Mrs.スミス』(2006年)や『X-MEN』シリーズなどで売れっ子脚本家になるのですが、本作が初クレジットでした。

前作の主演ヴィン・ディーゼルと監督ロブ・コーエンは前作公開前から続編の出演契約を締結していたのですが、ディーゼルは脚本の不出来を理由に出演を拒否し、コーエンは『ステルス』(2005年)の製作と競合したので降板。

代わって主演には『ゴースト・オブ・マーズ』(2001年)のアイス・キューブ、監督には『007/ダイ・アナザー・デイ』のリー・タマホリが選ばれました。

前作は007への対抗心剥き出しの作品でしたが、その続編では本家007の監督が起用されたというわけです。

そして、共演のウィレム・デフォーもテレビゲーム『007/エブリシング・オア・ナッシング』(2004年)で悪役の声を担当しており、全体的に007シリーズへの融和姿勢が見て取れます。

これには配給を担当するソニー・ピクチャーズが007の権利を取得し、『007/カジノ・ロワイヤル』(2006年)を製作中だったことが影響していると思われます。

興行成績は前作の8割減という大コケ

本作は2005年4月29日に全米公開されたのですが、SFコメディ『銀河ヒッチハイクガイド』と社会派スリラー『ザ・インタープリター』に敗れて初登場3位と低迷。

その後も持ち直すことはなく、全米トータルグロスは2687万ドルで、1億4210万ドルを稼いだ前作から8割減という大コケとなりました。この不振を受けて日本での劇場公開は見送られました。

国際マーケットでも同じく不調で全世界トータルグロスは7102万ドルで、2億7744万ドル稼いだ前作を大幅に下回りました。

感想

気の良い悪党からガチの悪人顔へ

NSAの秘密基地が謎の武装集団に襲われ、また先代トリプルXことザンダー・ケイジも休暇先で暗殺。

ザンダーの死亡はヴィン・ディーゼルの降板によるものなのですが、それにしてもシリーズものにおいて先代が死亡したという話がここまではっきりと言及されるケースは少なく、彼の降板劇に対して製作陣が相当イラついていたことが伺えます。

ザンダーの死の直接的な描写も撮影されていたようなのですが、将来的にヴィン・ディーゼルが再演する可能性を考えて、当該場面は最終的にカットされました。

おかげで後に『トリプルX:再起動』(2017年)を製作する余地ができて、そちらはなかなかのヒットになったのだから、賢明な判断だったと言えます。

襲撃を生き延びたギボンズ(サミュエル・L・ジャクソン)は、「すぐに次のトリプルXを探さないと」と言って人選を開始するのですが、武装集団からの不意打ちをかわすほどの実力を持つあなたがトリプルXをやればいいんじゃないかと思いました。

そんなギボンズですが、「スノボやスケボーやってる奴じゃダメ。今回は本当にアブナイ奴じゃなきゃ」と、こちらも製作陣が前任者に対して抱く不信感を見事に代弁します。

そうして、元特殊部隊員で現在は刑務所に収監中のダリアス・ストーン(アイス・キューブ)に白羽の矢が立てられるのですが、演じるのは『ゴースト・オブ・マーズ』(2001年)のアイス・キューブなので、本当にイカついです。

前作ではヴィン・ディーゼルお得意の気の良い悪党ぶりによって、毒を以て毒を制すというコンセプトが半ば死んでいたのですが、今回は悪人顔のアイス・キューブのおかげでコンセプトがちゃんと生きています。

私はこの主役交代は良かったと思いますね。

話はあってないようなもの

今回の黒幕は国防長官のデッカート(ウィレム・デフォー)で、軍事費の予算縮小を公言する大統領(ピーター・ストラウス)への反発がその動機となっています。

並みのアクション映画の悪党ならば大統領暗殺計画を企てることが関の山なのですが、デッカートは大統領どころかその死後に大統領職を継承しうる閣僚もまとめて殺し、自分が大統領に就任するという大きな目標をぶち上げています。

しかも言うことを聞きそうな軍隊をワシントンD.C.付近に配置しておき、暗殺が起こるや緊急事態を宣言して軍隊に首都を掌握させ、すべての権限を握ろうと画策しています。

このハッタリや無駄なスケール感こそがトリプルXシリーズの醍醐味なのです。実にわんぱくでいいではありませんか。

で、暗殺をNSAのギボンズのせいにしようとしているので、冒頭の襲撃があったわけです。

NSAそのものがターゲットではなく、ギボンズ個人が狙いならば職場ではなく家を襲えばいいような気もするのですが、とりあえずスケールのデカイ暴れ方をしたいという真っすぐさは伝わってきました。

こうした目的と実際にやっていることとの著しい乖離こそが本作の特徴であり、結果的に話はあってないようなものという状況になっていきます。

なぜギボンズはNSA本部に駆け込まず追われる身となってまで少数メンバーで戦っているのか、あれだけ偉そうに振る舞ってたけど実は政治力皆無だったのかとか、なぜデッカートはギボンズの自宅を爆破したのか、ギボンズに罪を擦り付けたいなら生存を匂わせとなきゃダメだろとか、いろんな疑問が沸いてきます。

ダリアスはダリアスで、過去に個人的な因縁を抱えた仲とは言え、最初からデッカートが黒幕であると疑ってかかってるのは変だし。

とりあえず、話が成立していないわけです。

そして、上映時間の真ん中を過ぎた辺りで黒幕が目的やらこれからやろうとしている計画やらをご丁寧に説明するという、偏差値の低いアクション映画にありがちな話のまとめ方が始まります。

前半はミステリー要素で引っ張っておきながら、後半では突然どうでもよくなった感じで堰を切ったように情報が提供されるという投げやりな姿勢には笑ってしまいました。

それはそうと黒幕デッカートですが、決して彼は私利私欲で行動しているのではなく、彼なりの正義があって、大統領の言うやり方では国家が危ないという危機感なり使命感なりに突き動かされた悪役像だったのだろうと思われます。

やろうと思えば『スピード2』(1997年)のように振り切れた狂人も演じられるウィレム・デフォーが、本作では狂気を表現していない辺りからも、そうしたキャラクター像は垣間見えてくるし。

しかし脚本レベルでは存在していたであろうドラマツルギーなるものは現場判断で不要と見做されたのか、無駄なものはどんどん削ぎ落とされていって、最後には痛快な部分しか残らなかったというアクション映画としての最終形のような状態となっています。

この辺りは、本作と同じく黒人アクターによる痛快アクション『アクション・ジャクソン/大都会最前線』(1988年)と似たような空気を感じましたね。

気の狂ったような見せ場の連続

というわけで、本作がやりたかったのはほぼほぼアクションオンリーだったわけですが、これが壮絶なことになっています。

冒頭のNSA襲撃からリアリティよりも見てくれのカッコよさ、爆破の派手さ、観客が感じる面白さ重視であり、その姿勢は最後まで崩れることがありません。

空母に潜入したダリアスは、その正体がバレると格納庫に駐車してあった戦車に乗り込み、空母内で戦車同士がチェイスするという正常なマインドで考えたとは思えない見せ場が始まり、最終的には甲板のカタパルトで戦車を飛ばしてもう一方にぶつけるという、気の狂った終わり方をします。

その後、ワシントンD.C.に進駐してきた軍隊に対抗するためストリートの黒人を動員するというコール・オブ・デューティvsグランド・セフト・オートのような怒涛の展開を経て、軍用列車で逃げるデッカートをダリアスがスポーツカーで追い、さらにそれをヘリに乗ったギボンズが援護という素晴らしい流れで目を楽しませてくれます。

それにしても凄い顔面力だ。

クライマックスのチェイスでは車がほぼ飛ぶものとして扱われていたり、あまりにありえなさ過ぎてどう見てもCGだったりで、文句を言おうと思えばいくらでも言えるわけですが、チェイスと爆破と顔面力で数十分を維持したあのテンションは、アクション映画好きとしてはやはり堪らないものがあります。

前作レビューではCG臭さを批判したものの、ガチンコアクションを謳っていない本作では、その欠点も気になるほどの短所にはなっていないし。

面白かったです、とても。

≪トリプルX シリーズ≫
【凡作】トリプルX_気の良い悪党では盛り上がらない
【良作】トリプルX ネクスト・レベル_低偏差値アクションの極み
【良作】トリプルX:再起動_アクションの達人大集合

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