【傑作】イヤー・オブ・ザ・ドラゴン_暴走刑事ものの最高峰(ネタバレあり・感想・解説)

クライムアクション

(1985年)
初見時から大好きで、好きすぎて見る回数をセーブしているほどの心の映画。世評は振るわないようなのですが、個人的には暴走刑事ものとしては最高の作品だと思っています。

スタッフ・キャスト

製作はディノ・デ・ラウレンティス

1919年イタリア王国出身。1940年から150本以上の映画をプロデュースしており、インディペンデントのプロデューサーとしては最高峰に君臨していました。

特に1970年代から1980年代前半にかけては、『キングコング』(1976年)、『ハリケーン』(1979年)、『フラッシュ・ゴードン』(1980年)、『コナン・ザ・グレート』(1982年)『デューン/砂の惑星』(1984年)と、質はともかくかける金は凄まじい映画を多く手掛けていました。

しかし1980年代半ばになると資金繰りが思わしくなくなり、『トータル・リコール』の製作途中に一度破産(脚本はマリオ・カサールとアーノルド・シュワルツェネッガーに引き取られた)。以降はかつてほどの大作は作れなくなりました。

2010年にロサンゼルスで逝去。

監督・脚本はアカデミー賞監督マイケル・チミノ

1939年ニューヨーク出身。イェール大卒業後に広告業界に入り、TVコマーシャルの監督となりました。1971年に映画脚本家に転身し、『サイレント・ランニング』(1972年)と『ダーティハリー2』(1973年)の脚本を執筆。

『ダーティハリー2』でのご縁かイーストウッド主演の『サンダーボルト』(1974年)で監督デビューを果たし、長編2作目『ディア・ハンター』(1978年)がアカデミー作品賞を始めとした5部門を受賞し、自身も監督賞を受賞しました。

次いで製作した『天国の門』(1980年)が「史上最悪の赤字を出した映画」としてギネスブックに掲載されたほどの大コケをして(後にレニー・ハーリン監督の『カットスロート・アイランド』(1995年)が記録を更新)、製作会社ユナイテッド・アーティスツを倒産に追い込みました。

その後しばらくはチミノを使うスタジオは現れなかったのですが、本作『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』(1985年)で5年ぶりに監督復帰。

ラウレンティス×チミノ×ロークのトリオは『決死の逃亡者』(1959年)のリメイク企画『逃亡者』(1990年)でも顔を合わせるのですが、両作品ともヒットはしませんでした。

結果、チミノは『ディア・ハンター』『天国の門』ほどの映画を作ることは2度となく、2016年に自宅で逝去。

共同脚本はアカデミー賞監督オリバー・ストーン

1946年NY出身。裕福な家庭に生まれ名門イェール大に進学したお坊ちゃんでしたが、ベトナム戦争が始まると陸軍に入隊し、もっとも死傷率の高かった空挺部隊に所属。1年の兵役後に映画の道に入ったという変わり種です。

ベトナム戦争での自身の経験を元に書き上げた脚本『プラトーン』がハリウッド界隈で話題となったことから、1970年代に脚本家としてキャリアをスタートさせました。

『ミッドナイト・エクスプレス』(1978年)の監督探しをしている際にマイケル・チミノと出会ったのですが、チミノは自身の企画『ディア・ハンター』(1978年)を優先。

結局、チミノは『ディア・ハンター』でアカデミー監督賞、ストーンは『ミッドナイト・エクスプレス』でアカデミー脚本賞を受賞し、どちらも大成功作になったのだから大したものです。

本作『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』(1985年)の製作に当たり、チミノは自分で脚本を書くつもりでいたのですが、時間がなかったことから旧知の仲だったストーンに依頼したということです。

1986年にようやく実現した『プラトーン』(1986年)では監督も務め、従軍経験者ならではのリアリティ溢れる演出が好評で大ヒットを記録。同年に監督した『サルバドル/遥かなる日々』(1986年)も同じく好評であり、アカデミー脚本賞ではこの2作品で同時にノミネートされるという快挙を成し遂げました。

そして『プラトーン』(1986年)は作品賞、監督賞、編集賞、録音賞を受賞し、その年でもっとも評価を受けた作品となりました。

主演はミッキー・ローク

1952年NY出身。スティーヴン。スピルバーグ監督の『1941』(1979年)で映画デビューし、マイケル・チミノ監督の『天国の門』(1980年)にも出演。バリー・レビンソン監督の『ダイナー』(1982年)で全米映画批評家協会賞助演男優賞を受賞しました。

80年代のセックスシンボルで、ロバート・デ・ニーロと渡り合うほどの演技力も併せ持ったスターでした。90年代には低迷したものの、ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞受賞のドラマ『レスラー』(2008年)の主演で復活を遂げました。

作品解説

興行的・批評的失敗

本作は1985年8月16日に全米公開されたのですが、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年)や『バタリアン』(1985年)に敗れて初登場5位と低迷。製作費2400万ドルかかった大作であるにもかかわらず、全米トータルグロスは1870万ドルにとどまりました。

また批評的にも苦戦し、ゴールデンラズベリー賞で5部門(作品賞・監督賞・脚本賞・主演女優賞・新人賞)にノミネートされました。

ただしフランスでは高評価

しかしなぜかフランスでは高評価を獲得し、セザール賞では最優秀外国映画賞にノミネート(受賞は『アマデウス』)。また老舗映画批評誌『カイエ・デュ・シネマ』の年間ベスト10にも入りました。

なおクエンティン・タランティーノも本作のファンを公言しており、一部で評価の高い映画であることは強調しておきます。

感想

暴走刑事の最終形 スタンリー・ホワイト

主人公スタンリー・ホワイト(ミッキー・ローク)はチャイナタウンの新任署長。刑事ものにおいて警察署長は脇役であることが多いので、これを主人公にした映画って新鮮です。

スタンリーはNYPDでの最多表彰記録を持つ敏腕であり、闇社会とベッタリだった前任署長の方針を覆してチャイナタウンの浄化を掲げます。

上司にあたるルイス・ブコウスキー刑事部長(レイ・バリー)からは「今の立場は腰掛みたいなものなんだから、あまり熱くならず適当にやり過ごせ」と言われるものの、「この街は腐ってる!俺が絶対に何とかする!」とスタンリーはまったく譲りません。

このスタンリーのやる気が一体どこから来るのかと言うと、アジア人に対する激しい差別感情と、私生活がうまくいかないことから来るむしゃくしゃでした。

スタンリーはポーランド系(原作における姓はウィジンスキーだった)。マイケル・チミノの前々作『ディア・ハンター』(1978年)、前作『天国の門』(1980年)でも描かれていた通り、東欧系移民はアメリカ社会で苦労してきた歴史を持っています。

スタンリー自身もベトナム戦争に従軍し、NYPDでも突出した実績を収めたことで今の地位にまで登り詰めており、移民たるものアメリカ社会で認められる努力をしてナンボという感覚を持っています。

しかし中国系移民ときたら社会に馴染む努力もせずNYの一角を異世界のように変えてしまい、賄賂や癒着によって法律すら捻じ曲げてしまう。

「もう我慢ならん!あいつらに一発喰らわせてやる!」というのがスタンリーの思いなのです。

また、スタンリーは妻コニー(キャロライン・カヴァ)とうまくいっていません。

妻に対する愛情はあるものの、あまりに粗野な振る舞いが多いため結果的に妻を裏切り続けており、関係が破綻寸前なのです。

子宝に恵まれないコニーは妊活を頑張っているのですが、一方のスタンリーは摂生に努めないし、妻の排卵日も覚えていない。それどころか自分達夫婦は妊活をしているのだという意識すら希薄です。

コニーの機嫌を直すため中華レストランに行っても、目の前に捜査対象が現れると躊躇せず席から離れ、20分もほったらかしにしてしまいます。

そんな感じなのでコニーは常にスタンリーに怒っており、怒られたスタンリーは家庭に尾心地の悪さを感じて余計に仕事に執着し始めます。

その上、スタンリーは差別主義者でありながらも中国人のテレビレポーター トレイシー(アリアーヌ・コイズミ)と不倫関係になります。しかもうまく隠せていないのでコニーにバレバレという。

もう滅茶苦茶なのですが、このスタンリーという男の不完全さがクセになってきます。

『ダーティハリー』(1971年)『L.A.大捜査線/狼たちの街』(1985年)など、理想的な人格ではない主人公が大暴れする刑事ものには特有の味があります。アンチヒーローは自分に対しても社会に対しても正直なので魅力的なのです。そんなアクの強い主人公達の中でもスタンリーは最終形と言えるほどの荒れ具合。

相手がヤクザだろうが上司だろうが誰彼かまわず喧嘩を売り、むしゃくしゃするとより過激な捜査に打って出る。さすがにやりすぎだとして警察組織が止めに入っても暴走は止まらず、周囲の人々をどんどん不幸にしていく。

しかし演じるミッキー・ロークの魅力もあってこの主人公を嫌いになることはできず、ダメなんだけど応援したくなってきます。

のし上がろうとする若手ヤクザ ジョーイ・タイ

そのスタンリーとやり合うことになるチャイニーズ・マフィアのボス ジョーイ・タイ(ジョン・ローン)も負けず劣らずの暴走ぶり。

ジョーイはかなり若く、ビジネスマンのような風貌と洗練された話し方をするのですが、実はヤクザとしてはかなり狂暴な部類に入ります。

それまでのチャイニーズマフィアは長老たちが仕切り、隣町のイタリア系マフィアとの協定や警察との密約の中で、節度を守りつつ発展してきました。

しかし「そんなんじゃ手ぬるい!」というのがジョーイの主張であり、彼は子飼いのストリートギャングを使って長老を暗殺してトップの座を簒奪し、周辺マフィアとの協定を無効化して自由に闇取引をするようになり、また商売敵になりそうなライバル組織を容赦なく潰しにかかります。

スタンリー刑事が直上的なタイプならば、ジョーイは緻密な計画の元に動くタイプであり、障害物を排除する際には躊躇をしないという方向での狂暴性を発揮します。

そんな感じなので一見するとジョーイは人の命を軽んじる冷血漢のようなのですが、中盤にて実はそうでもないということが分かります。

麻薬の仕入れルートを作るためジョーイはタイの麻薬地帯ゴールデン・トライアングルを訪れるのですが、そこでは若い頃に世話になった「将軍」と呼ばれる老軍人が組織内のクーデターにより実権を失い、ヘロイン漬けにされた上で殺されかけていました。

その様に胸を痛めたジョーイは、金を支払って将軍を引き取ることにします。そこはヤクザ者同士のハードな商談の場であり、将軍に対する思いを覗かせることが不利に働く局面だったのですが、それでもジョーイは損得勘定を抜きにして恩人を救おうとしたのです。

実はジョーイにも人としての心は宿っており、彼なりの正義はあるということが分かります。それまでの蛮行も「組織を強く大きくしたい」という改革派的な思いを急ぎ過ぎただけのものだったのかもしれません。

しかし性急な改革は周囲との軋轢を生み、「あいつにやらせていたら組織が疲弊する」という雰囲気が漂い始めてジョーイの権力基盤は怪しくなっていきます。

この辺りはビジネス映画のような趣もあって、実に見応えがありました。

男同士の血みどろの対決

組織の論理をはみ出して暴走するという点でスタンリー刑事とジョーイは似た者同士であり、初顔合わせの時点から二人は敵対関係となります。

双方、所属する組織からは「やりすぎるな」「そろそろ手を引け」と言われているものの、当事者二人は「あいつをぶっ殺さなきゃ気が済まん!」くらいに高ぶっているので、もう止まりません。

常軌を逸した泥仕合を繰り広げるうちに二人は共に組織内での立場を失い、「警察署長vsマフィアのボス」という構図はクライマックスを前に崩れるのですが、それでも二人は戦いをやめることはなく、最終的には男同士の対決へとなだれ込んでいきます。

抑えきれない闘争心がぶつかり合うクライマックスの熱さは異常なことになっており、走って逃げていたジョーイがスタンリー刑事の叫びに応じて踵を返し、決着をつけに戻る場面の妙な息の合い方なんて最高でした。