【良作】プルーフ・オブ・ライフ_玄人の人質交渉術(ネタバレあり・感想・解説)

(2000年 アメリカ)
ラッセル・クロウとメグ・ライアンが映画の内容さながらに不倫した映画として有名なのですが、実際にはプロの交渉人の技が描かれた硬派なサスペンス映画であり、クライマックスには一大コマンドアクションも繰り広げられ、なかなか見ごたえのある作品となっています。

あらすじ

南米テカラ共和国にダム建設のエンジニアとして赴任していたピーター・ボーマン(デヴィッド・モース)が地元ゲリラ組織に誘拐された。ゲリラは身代金を要求し、その交渉のために誘拐身代金保険会社より交渉人テリー・ソーン(ラッセル・クロウ)が送り込まれてくる。

夫が誘拐されたことに狼狽する妻アリス(メグ・ライアン)を落ち着かせつつソーンはゲリラとの交渉を開始するが、まもなく誘拐保険が切れていることが発覚し、ソーンは仕事を切り上げて帰国することとなる。

スタッフ・キャスト

監督は『愛と青春の旅立ち』のテイラー・ハックフォード

1944年カリフォルニア州出身。南カリフォルニア大学で国際関係学と経済学を学んだ後に、平和部隊のボランティアとしてボリビアに滞在。そこで8mmカメラでの撮影を行ったことで製作に興味を持ち、ロサンゼルスの小さな公共テレビ局に入社しました。

ドキュメンタリー制作者として活動を開始し、リチャード・ギア主演の『愛と青春の旅立ち』(1982年)が全米興行成績1億2979万ドルの大ヒットとなって人気監督の仲間入りを果たしました。

その他に、スティーヴン・キング原作のサスペンスドラマ『黙秘』(1995年)、アル・パチーノとキアヌ・リーブスが共演した『ディアボロス/悪魔の扉』(1997年)、アカデミー作品賞にノミネートされた『Ray/レイ』(2004年)などを監督しています。

奥さんは女優のヘレン・ミレンで1985年に結婚し、現在まで婚姻が継続しています。

製作・脚本は『ジェイソン・ボーン』シリーズのトニー・ギルロイ

1956年NY出身。『ナイトクローラー』(2014年)の監督ダン・ギルロイと、『パシフィック・リム』(2014年)の編集技師ジョン・ギルロイは弟です。

90年代より脚本家業を開始し、『黙秘』(1995年)や『ディアボロス/悪魔の扉』(1997年)など初期には本作でも組むテイラー・ハックフォード作品をよく手掛けていました。

『ボーン・アイデンティティ』(2002年)からスタートしたジェイソン・ボーンシリーズには4作目の『ボーン・レガシー』(2012年)にまで関わりました。

ただし第3弾『ボーン・アルティメイタム』(2007年)でトニー・ギルロイが出したシナリオはあまりに酷い出来で見るに堪えないものだったと、アカデミー脚本賞受賞経験のあるマット・デイモンは酷評しましたが。

監督デビュー作の『フィクサー』(2007年)はアカデミー賞で作品賞を含む7部門にノミネートされるという高評価を獲得し、監督としてクレジットされているギャレス・エドワーズが途中降板した『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016年)では監督を引き継ぎ、公開半年前に半分もの場面を撮り直すという過酷な条件を乗り越えて奇跡的な完成度を実現しました。

ロマコメの女王ことメグ・ライアンが主演

1961年コネチカット州出身。名門ニューヨーク大学でジャーナリズムを専攻していたのですが、在学中にコマーシャル出演をするようになったことから大学は中退しました。

1981年に映画デビューし、『トップガン』(1986年)で注目を集めました。翌年にはスティーヴン・スピルバーグ製作のSFコメディ『インナースペース』(1987年)に出演し、共演したデニス・クエイドとは1991年に結婚しました。テレビドラマ『ザ・ボーイズ』(2018年-)に出演しているジャック・クエイドは二人の間に生まれた息子です。

『恋人たちの予感』(1989年)と『めぐり逢えたら』(1993年)の大ヒットで人気女優の地位を確立し、90年代にはロマコメ映画の女王とも呼ばれていました。

ただし本作撮影中のラッセル・クロウとの不倫によって健全だった従前のパブリックイメージが著しく毀損し、その後に出演した『イン・ザ・カット』(2003年)も不評で、そこから先はロクな映画に出演しないまま現在に至っています。

オスカー俳優ラッセル・クロウが共演

1964年ニュージーランド出身、オーストラリア育ち。

高校を中退してロックバンドの道を目指し、オーストラリア映画『ザ・クロッシング』(1990年)で映画デビューしました。

シャロン・ストーンからの熱烈な希望で出演した西部劇『クイック&デッド』(1995年)でハリウッドに進出し、犯罪ノワールの傑作『L.A.コンフィデンシャル』(1997年)、マイケル・マン監督の『インサイダー』(1999年)、リドリー・スコット監督の『グラディエーター』(2000年)と、作品選びの良さもあって短期間で大スターになりました。うち『グラディエーター』ではアカデミー主演男優賞を受賞しています。

リドリー・スコット監督作品の常連であり、『グラディエーター』(2000年)のほかに『プロヴァンスの贈りもの』(2006年)、『アメリカン・ギャングスター』(2007年)、『ワールド・オブ・ライズ』(2008年)、『ロビン・フッド』(2010年)に出演しています。

作品解説

波乱の撮影現場

本作の撮影は2000年3月にエクアドルで開始というスケジュールでしたが、その半年前の1999年10月にエクアドルのトゥングラワ火山が噴火し、その1か月後には別の火山も噴火したことから首都キトは火山灰で覆われました。

2000年1月にはクーデター発生。数日で鎮圧されたものの政情不安は続き、本作制作関係者が滞在していたホテルのわずか1ブロック先で映画の内容を地で行くような誘拐事件が発生しました。

さらには記録的な大雨に見舞われてセットも道路も水浸しになり、本作スタントマンが死亡する事故も発生。製作現場は荒れに荒れていました。

メグ・ライアンとラッセル・クロウの不倫ゴシップ

そんな中で、主演のメグ・ライアンとラッセル・クロウが世界中にゴシップを提供するという事態までが発生。

荒れた現場で慰めあったのかどうかは知りませんが、主演俳優二人が映画の内容さながらに恋の炎を燃やしました。ただし当時のメグ・ライアンは俳優デニス・クエイドと婚姻関係にあった上に、90年代にはドラッグで身を崩していたクエイドを支える良妻というイメージが強かっただけに、この不倫報道はかなりの注目を集めました。

翌2001年にライアンとクエイドは離婚。世間的にはここでのライアンの不倫が原因と見られていますが、ライアン自身によるとクエイドの不倫が原因だということです。

興行的には苦戦した

2000年7月28日に撮影終了。そんなこんながありつつもスケジュールはわずか3週間の遅れ、予算超過は1000万ドルに抑えており地獄の現場でテイラー・ハックフォード監督はしっかりと持ちこたえていました。

ただし興行的な成果は別。メグ・ライアンの不倫騒動の現場になった映画としてしか世間的な認知が進んでおらず、興行的には苦戦しました。

2000年12月8日に全米公開されましたが、公開4週目にして絶好調だったロン・ハワード監督のクリスマス映画『グリンチ』(2000年)や、客層が重複していると思われる山岳アクション『 バーティカル・リミット』(2000年)に敗れて初登場3位。

その後も作品は持ち直すことがなく、全米トータルグロスは3259万ドル、全世界でも6276万ドルと低迷し、製作費6500万ドルにすら到達しないという大惨敗でした。

登場人物

  • アリス・ボーマン(メグ・ライアン):エンジニアの夫ピーターの仕事に合わせて南米のテカラ共和国で生活している。1年前、同じく夫の赴任先だったアフリカで流産した経験がトラウマになっている。
  • テリー・ソーン(ラッセル・クロウ):元SAS隊員で、現在は保険会社からの要請に従って身代金目的での誘拐における人質解放交渉を行う民間企業に所属している。
  • ピーター・ボーマン(デヴィッド・モース):クアド石油に所属するエンジニアで、ダム建設のためにテカラ共和国に赴任している。現地ゲリラに身代金目的で誘拐され、山岳地帯のゲリラ拠点に捕らえられた。
  • ジャニス・グッドマン(パメラ・リード):ピーターの実姉で、誘拐事件に対応するためにテカラ共和国にやってきた。神経質で感情的な人物像であり、事件解決にはほぼ役に立たない。
  • ディノ(デヴィッド・カルーソ):テリーの元仕事仲間で、現在は別の民間企業に所属して人質解放交渉を行っている。ピーターと似たような誘拐事件を抱えていることから、テリーと共同で対応に当たる。

感想

三角関係が機能していない

作品は、仕事で赴任中の国で地元ゲリラに誘拐されたエンジニアのピーター(デヴィッド・モース)、その妻アリス(メグ・ライアン)、会社がかけていた誘拐保険に基づき人質解放交渉に送り込まれた交渉のプロ テリー・ソーン(ラッセル・クロウ)の三角関係を描いたものなのですが、どうにもこれがうまく機能していません。

そもそもピーターとアリスは仲が良かったんだか悪かったんだかがよくわからないし、ピーター救出に向けて協力する中でアリスとソーンの間には恋愛感情が芽生えるのですが、何がきっかけで二人の感情に火が点いたのかが整理されていないので、許されざる愛に身を焦がすような感覚もありませんでした。

また、中盤においてピーターの会社が経費削減のために誘拐保険料を払っていなかったことが発覚。そのうえ会社はM&Aによって消滅することが決まっており、ピーターの命に対して責任を持つ組織がいなくなるという事態が訪れ、商売で交渉にあたっていたソーンは交渉を打ち切り、いったんロンドンに引き上げるという展開を迎えます。

なかなか面白い展開だとは思ったのですが、その直後にソーンは会社を辞めて無報酬でピーター解放交渉に戻ってきます。ただしソーンがそこまでやる合理的な理由が提示されないので、物語に無理が生じてしまっています。

こうなってくると感情移入可能なキャラクターが不在となってしまい、アリスは夫の一大事に他の男に心奪われる節操のない女性に見えてくるし、そんなアリスと潜在的な恋敵であるピーターのためにすべてを投げ打つソーンはお人よしに見えてきます。交渉のプロだというのに。

犯人との知的な駆け引きが面白い

この通りメインプロットは全然ダメだったのですが、では何が良かったのかというと、知的な駆け引きとして描かれていた人質解放交渉がとにかく面白かったのです。

夫の誘拐に動揺するアリスに対し、ソーンは「これは強制参加のゲームだ」と説明します。犯人は汚い言葉を使って脅しをかけてくるが、実のところ彼らは金が欲しいだけで人質に対して特段何の感情も抱いておらず、交渉で優位に立つために心理的な揺さぶりをかけてきているに過ぎません。

彼らはビジネスでやっているのだから大事な商売道具である人質をむやみに傷つけることはしないし、特に私怨などもないので条件面での交渉は可能であり、その言いなりになる必要はない。

イーブンの立場で話し合いをして双方が納得できる落としどころを見つければいい、これがソーンの姿勢なのです。

誘拐事件や交渉事を扱った作品は多く存在していますが、ここまで明確に割り切った上で、商談をまとめるような姿勢で交渉に臨むネゴシエイター像は初めてであり、その斬新さには関心を惹かれました。

また斬新なだけではなくその言葉にはシャープな切れ味や論理に裏打ちされた自信が宿っており、ゲリラ側交渉人との無線を介したやり取りは、それだけだけで一つの見せ場として機能していました。

クライマックスの人質奪還ミッションに燃える

数か月に及ぶ交渉を続けるソーンですが、ゲリラの拠点から脱出してきた別の人質からの情報や、マルコと呼ばれるゲリラ側交渉人との直接交渉の中で、取引によりピーターを解放させることは困難な状況に陥っていることを悟ります。

そこでソーンは、同様の誘拐事件にあたっている元仕事仲間のディノ(デヴィッド・カルーソ)と共同で奪還作戦を実施することを決意します。

ここから映画は人質奪還ミッションを帯びたコマンドアクションに転じていくのですが、元特殊部隊のソーンとディノが緻密な作戦を立て、部下と共にそれを実行していく様は燃える見せ場として機能しています。

多勢に無勢で立ち向かうミッションにあってはあらゆるツールが有効活用されており、スナイパーの配置の仕方やクレイモアの使い方などには説得力がありました。

このラストのアクションだけでも一見の価値ありです。

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