【凡作】トップガン_もっと話が面白ければ…(ネタバレなし・感想・解説)

軍隊・エージェント

(1986年 アメリカ)
トニー・スコットのかっこよすぎる映像や、キラッキラのトム様など見所の多い娯楽作なのですが、主人公の成長譚としてはまったく盛り上がりがなく、トップガン(エリート航空戦訓練学校)という舞台にもいろんな疑問が湧いてくるので、映画としての出来は程ほどだったと思います。

あらすじ

F-14パイロットのマーヴェリック(トム・クルーズ)は、同じ隊のエースパイロットの脱落によってエリート航空戦訓練学校(トップガン)への入学の道を得る。エリートパイロット同士の競争の中でも首位争いに食い込むほどの活躍を見せるマーヴェリックだったが、無謀な操縦や規則軽視の態度は多くの反感も生んでいた。そんな中で、模擬空戦中にマーヴェリック機が事故を起こし、脱出の際のトラブルで相棒の命を失う。

スタッフ・キャスト

トニー・スコット監督の長編2作目

1944年生まれ。兄のリドリーも映画監督。

若い頃は画家として生計を立てていたのですが、1970年代にリドリーが経営するCM製作会社に入り、CMディレクターとして活躍。その後、リドリーの後を追うように映画界入りし、デヴィッド・ボウイ主演のバンパイア映画『ハンガー』(1983年)で長編映画監督デビューしました。

本作『トップガン』(1986年)はジョン・カーペンターとデヴィッド・クローネンバーグに断られた後にトニー・スコットが監督に就任したのですが、『フラッシュ・ダンス』(1983年)より音楽と映像の融合を目指していたプロデューサー ジェリー・ブラッカイマーの方向性とスコットのスキルがピタリと一致しており本作に起用。

以降は『ビバリーヒルズ・コップ2』(1987年)、『デイズ・オブ・サンダー』(1990年)、『クリムゾン・タイド』(1995年)『エネミー・オブ・アメリカ』(1998年)、『デジャヴ』(2006年)とブラッカイマーの御用達監督となりました。

後年、トム・クルーズと共にトップガンの続編を製作しようとしていたのですが、2012年にカリフォルニア州サンペドロの橋から飛び降りて死亡。遺書はないものの自殺という見方が一般的です。

トム・クルーズ初のブロックバスター

1962年ニューヨーク州出身。

高校卒業後に俳優を目指してハリウッドに移り、『タップス』(1981年)、『アウトサイダー』(1983年)、『栄光の彼方に』(1983年)などの青春映画に次々と出演。『卒業白書』(1983年)でゴールデングローブ主演男優賞にノミネートされました。

リドリー・スコット監督のファンタジー『レジェンド/光と闇の伝説』(1985年)はコケたものの、その弟トニー・スコット監督の本作が年間第一位の大ヒットとなり、加えて同年に出演したマーティン・スコセッシ監督の『ハスラー2』(1986年)で共演のポール・ニューマンにアカデミー主演男優賞をもたらしたことで評価と人気を獲得。

以降も『カクテル』(1988年)や『デイズ・オブ・サンダー』(1990年)のような若者向けの軽い作品と、『レインマン』(1987年)や『7月4日に生まれて』(1989年)のような賞レース向けの映画の両方にバランスよく出演し、スターの中のスターとなりました。

40歳を過ぎた辺りからアクションスターとして開眼し、近年は『ミッション:インポッシブル』シリーズの無茶なスタントで名を馳せています。

『アナコンダ』(1997年)のコンビ脚本家

本作の脚本を書いたジム・キャッシュ&ジャック・エップス・ジュニアは25年間にも渡ってコンビを組んできた脚本家であり、マイケル・J・フォックス主演の『摩天楼はバラ色に』(1987年)やトム・ハンクス主演の『ターナー&フーチ すてきな相棒』(1989年)などの脚本を書いています。1997年には『アナコンダ』で一部映画ファンからの熱い注目を浴びました。

作品解説

年間興行成績No.1の特大ヒット

1986年5月16日に公開されてオープニング興収は1221万ドルと、2位の『ショートサーキット』(1986年)の売上高539万ドルの2倍以上というぶっちぎりの1位を獲得しました。

本作が凄かったのはこの高い売上高が1か月に渡って落ちなかったことであり、公開2週目こそシルベスター・スタローン主演の『コブラ』(1986年)と人気シリーズ第2弾『ポルターガイスト2』(1986年)に敗れて3位に甘んじたものの、3週目と4週目には1位に返り咲いています。

公開後25週に渡ってトップ10に居座り続け、全米トータルグロスは1億7665万ドル。2位の『クロコダイル・ダンディ』(1986年)の売上高1億1684万ドルに大差をつけて年間興行成績No.1となりました。

世界マーケットでも同じく好調であり、全世界トータルグロスは3億5381万ドル。こちらでも年間No.1なのですが、製作費が1500万ドルと大作としては控えめな金額に抑えられていたことまでを考慮すると、パラマウントに莫大な利益をもたらした作品となりました。

ここからトム・クルーズとパラマウントの蜜月が始まるのですが、これほど圧倒的な成果を収めたのであれば納得です。

感想

トニー・スコットのビジュアルセンス炸裂

朝日をバックに空母のデッキでF-14の発艦準備をするクルー達。夜明けかつ出撃前という状況に合わせたようにスローテンポの音楽とややスローモーションの映像から始まるのですが、いざF-14が発艦というところでアップテンポな主題歌”Dager Zone”に切り替わり、一気に上がるテンション。

このオープニングは何度見ても最高過ぎますね。これだけでごはん三杯いけるくらいイイです。

またこのOPは空母の甲板の構造や、航空機を発艦・着艦させる際の仕組みなど、素人があまり知らない情報を伝達する役割も果たしており、なかなかよく出来ています。

続く公海上でのF-14とミグの小競り合いでは、全方位に視界が開けているキャノピーごしに見える空中の描写、特に前方から迫って来た敵機が後方へと突き抜けていく様は美しくも大迫力でした。

米軍パイロットが目で演技をしているのに対して、敵パイロットはヘルメットのバイザーを下ろして表情をうかがい知れず、いかにも悪役ですというルックスになっている点も分かりやすくて良かったです。

本作は稀代のビジュアリストであるトニー・スコットの手腕が冴えまくっており、そのキメキメのかっこいい映像には目を奪われっぱなしでした。

「『トップガン』ってこういう映画」を一目で表現した映像
©Paramount Pictures

トム・クルーズのスターオーラが眩しい

主人公はF-14パイロットのピート・ミッチェル(トム・クルーズ)。コールサインはマーヴェリックと言います。

ミグとの空中戦で初登場した際には頭部をヘルメットと酸素マスクで覆われており、太い眉毛しか印象に残らなかったのですが、着艦後、艦長室に呼び出された際に映し出されるトム・クルーズのご尊顔は男性の私でも惚れそうになるほどキラッキラ。この場面で、これがトム・クルーズの映画であることを世界中の観客が認識しました。

マーヴェリックは高いスキルを誇るエースパイロットだが、その自信と、自らのパフォーマンスを見せつけたいという欲求から向こう見ずな部分もあるという、この手のキャラクターとしてはかなり類型的なものです。

しかしトム・クルーズがこれを演じたことで、キャラクターは陳腐にならずに済んでいます。

トニー・スコットもトム・クルーズの魅力を見抜いていたのか、シャワー室のトム、上半身裸でビーチバレーを楽しむトム、ブリーフ一丁で上官と話すトムと、通常であれば女優さんがこなすはずのポジションまでをトム・クルーズ一人に担わせています。もはやトムのプロモーションビデオ状態。

その割を食ったのが相手役のケリー・マクギリスで、彼女の印象は恐ろしく薄いものとなっています。

恐るべし、トムのスターオーラ。

トム様の圧倒的イケメンぶり
©Paramount Pictures

マーヴェリックの成長譚として機能していない

そんなわけで見てくれは限りなく満点に近い映画だったのですが、肝心の話が薄っぺらで未消化の部分も多くあり、内容が伴っていなかったことが作品の足を引っ張っています。

向こう見ずなマーヴェリックが協調性を獲得するというテーマこそかなり早くから打ち出されていたのですが、物語がその方向に向かって動いていないように感じました。

マーヴェリックが自身の弱点と向かい合っているわけではなく、相棒の死や実戦への参加など、心の成長とは関係なく周囲の状況が勝手に流れていっており、そんな中でマーヴェリックが適応していっているだけみたいな。

己の過ちに気付き、苦しみ、克服するという主人公の内面での葛藤がかなり希薄なので、ドラマ的にはまったく盛り上がりどころがありませんでした。

加えて、海軍内では不名誉な存在とされているマーヴェリックの父に係るエピソードも、本筋とうまく馴染んでいませんでした。

マーヴェリックの父は作戦中に戦闘機と共に行方不明となり、「操縦ミス?」「もしや敵国側に亡命?」という疑いを持たれ、マーヴェリックまでが汚名を着ていました。

後半にて、思わぬ人物から父の死の真相が明かされるのですが、この情報の前後でマーヴェリックの心境に際立った変化がなく、だったらこのエピソード自体が無くても良かったんじゃないかと思います。

トップガンの仕組みがおかしい

タイトルにもなっているトップガン(エリート航空戦訓練学校)の仕組みも何だか変でした。

マーヴェリックは隊のエースだったグースの除隊によって繰り上げ当選的に入学となったのだから実力的には下位のはずなのに、入学当初からアイスマンとトップ争いをしているのはどうかと思いました。他の生徒が弱すぎるだろと。

マーヴェリックに対して規律重視とか協調性とか言ってる割に、生徒同士を競わせているというカリキュラムをとっていることは矛盾しているし、相棒の死をきっかけに自信喪失し、満足に模擬空戦も行えなくなったマーヴェリックを実戦投入するという判断も滅茶苦茶でした。あの場面では別のパイロットを選ぶべきでしょ。

実戦でのサポートがマーヴェリックと聞かされた時に「ヤバイ」という本音を覗かせたアイスマンの表情のみが論理的に正しいものでした。