【駄作】エイリアン3_絶望的につまらないシリーズ最低作(ネタバレあり・感想・解説)

クリーチャー・メカ
クリーチャー・メカ

(1992年 アメリカ)
再評価する向きも一部であるようなのですが、それは後に巨匠になったデヴィッド・フィンチャー監督作品ということで肯定的な視点が加わっただけで、作品が不出来であることに変わりはありません。人物描写の不備、アクション演出の悪さなど明確な問題点が多すぎます。完全版ではちょっとマシになったものの、全体を救えるレベルではありません。シリーズ最低作品は本作だと思います。

© 1992 Twentieth Century Fox

あらすじ

前作の生存者達を乗せたスラコ号に謎の事故が発生し、脱出艇は流刑惑星フィオリーナ161に墜落する。そこは数十人の凶悪犯達が宗教的な戒律を守りながら労働に勤しむ惑星だったが、リプリーとエイリアンの登場で惑星の秩序は一変する。

作品解説

本作は、製作が極めて難航した作品として有名です。多くの脚本家が入れ代わり立ち代わり書いた脚本がいずれも却下され、話が決まらないうちに撮影に入らざるを得なくなったというグダグダぶりが大混乱をもたらしました。

監督・脚本家が次々に入れ替わる

まず監督として雇われたのはフィンランド出身のレニー・ハーリンでした。これは、監督は新人であること(『1』のリドリー・スコットは監督2作目、『2』のジェームズ・キャメロンは3作目だった)、非アメリカ人であること(リドリー・スコットはイギリス人、ジェームズ・キャメロンはカナダ人)というシリーズの伝統を踏襲した人選でした。

ハーリン体制の元で脚本執筆が開始され、高名なSF作家のウィリアム・ギブスン、『ヒッチャー』(1986年)が評価されたばかりの気鋭の脚本家エリック・レッド、ゴリゴリのSFオタクで後に『ウォーターワールド』(1995年)や『アライバル-侵略者-』(1996年)の脚本を書くデヴィッド・トゥーヒーらが雇われたのですが、『エイリアン2』の二番煎じみたいな内容ばかりで没にされ続けました。そんな中でハーリンは時間切れとなり、『ダイ・ハード2』の現場へと移っていきました。

次に監督に雇われたのはニュージーランド出身のヴィンセント・ウォード。ウォードは自ら脚本も書く人物で、木製の惑星を舞台にし、中世風のコミュニティにリプリーとエイリアンがやってくるという物語を考えていました。

当初その独創性は高く評価されていたのですが、想像力の飛躍が極限にまで達してもはやウォードのビジョンを理解できる者がいなくなり、解任されました。後の関係者へのインタビューによると、「木製の惑星という設定は面白いけど、なぜ惑星が木である必要があるんだ?」という問いに、ウォードは答えられなかったようです。

フォックスが定めた公開日が迫る中で、最後に雇われたのがデヴィッド・フィンチャー。

後に『セブン』(1995年)や『ファイト・クラブ』(1999年)といった歴史的傑作を撮る監督ですが、この時点ではMTV出身で長編映画の経験のない26歳の新人でした。

脚本が完成しないまま撮影に入る

脚本は出来上がっていないけど、もう作り始めないと間に合わないという中で、製作が始まりました。

ただし何を作るのかが決まっていないので集められた視覚効果のクルー達はやることがなく、仕方がないのでヒックスとニュートの死体をせっせと作り込むという作業に精出したり、700万ドルかけて作った巨大セットが撮影に使われなかったりと、もうめちゃくちゃでした。

撮影が開始されても脚本は仕上がっておらず、プロデューサーのウォルター・ヒルとデヴィッド・ガイラー(共に脚本家であり監督でもある)が執筆することになりました。来週撮影する分の脚本がロンドンの撮影スタジオにファックスされてくるような突貫ぶりであり、演出プランや演技プランなんて言っていられる状況ではありませんでした。

加えてフィンチャーはフォックスからの激しい干渉に遭い、何一つ思い通りにはできませんでした。現在から振り返れば天才監督フィンチャーの自由にさせとけばよかったのにと思うのですが、当時の感覚ではこれだけ荒れた現場を新人監督が仕切れるはずがなく、自分達がコントロールするしかないと考えたフォックスのお偉方たちの焦りも理解できます。

狂った歯車を修正しなきゃとみんな必死で、でも最後まで立て直しができなかった現場だったのです。

興行的には悪くなかった

1992年5月22日に全米公開。大ヒット作『リーサル・ウェポン3』(1992年)と競合したために全米No.1こそ逃したものの、オープニング興収2314万ドルは悪くない数字でした。

ただし2週目以降の減少率が高く、全米でのトータルグロスは5547万ドルで、8516万ドルを稼いだ『エイリアン2』(1986年)を大きく下回りました。

しかし世界マーケットでは前作を上回る売り上げとなり、全世界トータルでは1億5981万ドルでした(前作は1億3138万ドル)。

その年の世界年間興行成績12位であり、期待には応えられなかったが及第点はクリアしていたと言えます。

感想

上記の通りプロダクションに大きな問題のあった映画なので好意的に見て上げようという気にはなるのですが、それでも不出来であることは間違いありません。

群像劇としての完成度の低さ

前作『エイリアン2』は植民地海兵隊員1人1人のキャラクターが立っており、群像劇としても優れていました。本作もフィオリーナ161の囚人達を脇役とした群像劇が志向されていたようなのですが、魅力的なキャラクターがいない上に、キャラクターの描き分けができておらず誰が誰だか分からないという状態で、全然ダメでした。

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ヒーロー然としていたクレメンスがかなり早い段階で殺される場面なんて本来はかなりのサプライズになるはずだったのに、人物描写の積み上げがなく観客がクレメンスに感情移入していなかったので、これがまったくサプライズになっていませんでした。

まったく意味のなかった宗教要素

囚人たちは宗教で更生したという設定となっており、口々に信仰心を発するのですが、この宗教要素がまるで本編に影響を与えていませんでした。宇宙怪獣vsキリスト教原理主義という構図は興味深いと感じただけに、そこに何もなかったことには落胆させられました。

製作の裏側にちょっとだけ触れると、決定稿がない段階から現場ではセットを作り始めており、宗教色の濃い初期稿に引っ張られたデザインになったことから、今度は物語をセットデザインに合わせざるを得なくなったということらしいです。

アクション映画としての出来の悪さ

本作は見せ場の数が少ない上に、いよいよ始まるクライマックスの見せ場が面白くなくて、特に見るべきもののない作品となっています。

溶鉱炉にエイリアンを誘い込むために囚人たちが囮になって狭い廊下を走り回るのですが、位置関係や距離感が分かりづらく、作戦が成功しているのか失敗しているのかすら判然としないため、まったく手に汗握りませんでした。

エイリアンのVFXの質が悪い

本作に登場するのは犬(完全版では牛)から生まれた四本脚のエイリアンで、人間から生まれた『1』『2』のエイリアン達との差別化が図られています。従前のエイリアンには着ぐるみが使われていたのですが、さすがに四足歩行の表現は不可能ということで本作ではパペットが使われています。このパペットが画面で浮きまくりであり、エイリアンに実在感がありませんでした。

加えて全身像はパペット、アップは着ぐるみという使い分けのために、全身像とアップではとても同じ生物には見えないほど質感も動きも異なるという問題も発生していました。アカデミー賞を2度も受賞したリチャード・エドランドが視覚効果を担当しているのに、なぜこんなにVFXのレベルが低いんだろうかと不思議になりました。

完全版について

2004年に発売されたアルティメット版DVDより、ディスクメディアでは劇場版よりも31分長い145分の完全版が収録されるようになりました。この完全版のために日本語吹替も新録されており、なかなか気合の入ったバージョンとなっています。

劇場版との相違点

全体的に会話が増えて人物描写が細かくなったこと、劇場版では犬から誕生したエイリアンが牛に変更されていること(元の脚本は牛だったが、温厚な牛ではインパクトがないとして劇場版は犬の設定にされていた)、中盤にてエイリアンの捕獲に成功する展開が増えたことが、大きな相違点となっています。

  • 導入部が大きく異なる。劇場版では墜落した脱出艇からリプリーが救出されるのに対して、完全版では脱出艇から海に投げ出され砂浜に打ち上げられたリプリーをクレメンスが発見する。ニュートの死因が溺死であるとする後の展開との整合性が保たれているのは完全版の方。
  • ニュートの死体を解剖する場面でクレメンスがリプリーに娘かと尋ね、リプリーは否定する。
  • 牛の死体からバンビバスターが誕生する。
  • ボッグスとレインズ(後にエイリアンの2番目の犠牲者となる囚人)が、共に作業をするゴリック(後にボッグスとレインズが殺される様を目撃して発狂する囚人)についての苦情をリーダー格のディロンに伝える。
  • ボッグス、レインズ、ゴリックが作業のためトンネルに入る場面の追加。そこでディロンは3人に対して、第一の犠牲者であるマーフィーのためにロウソクを灯せと言う。
  • 所長とクレメンスがリプリーの処遇について議論する場面が長い。
  • ゴリックがタバコの自販機を蹴って大量のタバコを入手する。
  • ボッグスとレインズがエイリアンに襲われた後、血まみれのゴリックが食堂でシリアルを食べているところを発見される。ゴリックは拘束衣を着せられて医務室に連れて行かれる。
  • リプリー、クレメンス、ゴリックが医務室で会話し、エイリアンに襲われる場面の編集が違う。
  • 所長を失った後のリプリーと囚人たちとの会話がやや長い。
  • リプリーと囚人たちがエイリアン対策の罠を仕掛ける場面がやや長い。
  • 罠を仕掛ける際の火災事故の顛末が劇場版と大きく違う。劇場版はスプリンクラーで消化して終わりだったが、完全版では火事場にエイリアンが現れて囚人たちを襲う。そして前半でリプリーを襲ったジュニアと呼ばれる囚人の自己犠牲により、エイリアンを廃棄物保管庫に閉じ込めることに成功する。
  • リプリーが85に対して、会社はエイリアンを殺す気がないと言う。
  • 拘束を解かれたゴリックは、エイリアンをもう一度見たいと訴える。廃棄物保管庫にやって来た彼は扉を守る囚人の喉を切り、扉を開けてエイリアンを解放してしまう
  • リプリーは会社がエイリアンを殺すつもりがないので我々で殺すべきとディロンに主張するが、自分達がリスクを冒してまで世界を救う必要がないとディロンから反論される。
  • 囚人たちはエイリアンの弱点が火であったことを思い出し、救助隊到着までの間は溶鉱炉に避難することにする。
  • 最終決戦直前、やけくそになった囚人たちが信仰について話す。
  • 85に後頭部を殴られたビショップⅡが血を流し、彼が人間であることが分かる。
  • 溶鉱炉に身を投げる場面で、リプリーの体からチェストバスターが飛び出さない(リプリーとエイリアンの遺伝子が融合したという『エイリアン4』(1997年)の設定への配慮)

改善はしたが、不出来を克服するレベルではない

細かい描写の追加により、人物描写は改善しています。特に囚人ゴリック関係の描写は充実しており、劇場版ではその他大勢のうちの一人だった彼が、随分と目立つようになりました。ただしあくまでマシになったというレベルであり、完全版を見れば劇場版で抱えていた不満が解消するという程ではありません。

また、いったん囚人たちはエイリアンの捕獲に成功するという展開が中盤にあって、これにより囚人たちはエイリアンを閉じ込めたまま救助隊を待つのか、悪用しようとする会社の手に渡る前に自らの身を危険に晒してでも殺すのかの判断を迫られます。ただ逃げるのみだった『1』『2』とは違い、ここで初めて主体的な判断が加わるという興味深い展開が準備されています。

ただし、これも議論が深まらないままゴリックがエイリアンを逃がしてしまうという勿体ない終わり方をするので、せっかく設けた流れが活かされていませんでした。

エイリアンの親が犬か牛かは、別にどっちでもいいです。

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