【良作】第5惑星_社会派SFの佳作(ネタバレあり・感想・解説)

クリーチャー・メカ

(1985年 アメリカ)
21世紀末、外宇宙に進出した地球人は先行者のドラコン星人との戦争状態にあった。そんな中、地球人パイロットのダビッジとドラコン人パイロットのジェリバはドッグファイトの末に辺境の惑星に墜落し、生存のために共同生活を送ることとなる。

©20th Century Fox

作品概要

原作はヒューゴー賞受賞作

ヒューゴー賞とはSFやファンタジーの作品および関連人物に贈られる賞であり、1953年に創設された現存する中でもっとも歴史の古いSF・ファンタジー文学賞です。このジャンルとしてはネビュラ賞と並ぶ権威を持っているのですが、ネビュラ賞が選考委員の投票により選ばれるのに対して、ヒューゴー賞はファン投票により選ばれることに特徴があります。

本作の原作『わが友なる敵』(バリー・B・ロングイヤー著)は1980年にヒューゴー賞 中長編小説部門賞を受賞しており、従前よりSFファンより評価の高かった作品だったというわけです。

難航したプロダクション

本作の製作にかかった費用は4000万ドル。当時これだけの金がかかった映画は、あまりの高コストにユナイテッド・アーティスツの経営を傾かせたマイケル・チミノ監督の『天国の門』(1980年)と、イケイケ状態のカロルコが製作した『ランボー/怒りの脱出』(1985年)くらいだったと思います。

天下の『スター・ウォーズ/ジェダイの復讐』(1983年)でも3250万ドル、本作と同じく外宇宙を舞台にしたSF『エイリアン2』(1986年)が1850万ドルですからね。『エイリアン2』を二本作ってもまだお釣りがくるほどの巨費がかけられているのです。

ただし、FOXは本作の予算を当初1700万ドルと見積もっており、元は標準サイズの娯楽作に過ぎなかったのですが、現場の混乱が本作の製作費を倍増させていきました。

クレジットされている監督はウォルフガング・ペーターゼンなのですが、実は前任者がいます。本作撮影開始時点の監督はテレビ界出身の英国人監督リチャード・ロンクレインという人物で、ロケ地のアイスランドで金のかかる場面をバンバン撮っていました。

しかしフォックスの製作部門のトップだったローレンス・ゴードン(『コマンドー』や『ダイ・ハード』を製作した偉人)と意見が合わず、プロダクションの最中に降板。この時点ですでに1400万ドルがかかっていました。

その後、後任者として白羽の矢を立てられたのが『U・ボート』(1981年)でアカデミー賞にノミネートされた西ドイツの映画監督ウォルフガング・ペーターゼンでした。本作は彼のハリウッド進出作となります。

ペーターゼンはロンクレインのフッテージを一切使わないことを決定。加えて、建設されたセットも引き継がずに丸ごと新造することにし、ロケ地もアイスランドから西ドイツのミュンヘンに変更。1400万ドルかけた前任者の仕事を丸々捨てて、すべてを一から作り直すという途方もないことになったのでした。

スタッフ・キャスト

監督はウォルフガング・ペーターゼン

1941年西ドイツ出身。非英語圏の映画ながら『U・ボート』(1981年)でアカデミー賞6部門ノミネート(監督、撮影、視覚・音響効果、編集、音響、脚色)という快挙を成し遂げた上に、非ハリウッド映画としては史上最大規模で製作された 『ネバー・エンディング・ストーリー』(1984年)も全世界で1億ドルを稼ぐ大ヒットさせてのハリウッド進出でした。

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特殊メイクは『ザ・フライ』のクリス・ウェイラス

デヴィッド・クローネンバーグ監督の『スキャナーズ』(1981年)での頭部爆発場面で世界中を驚かせた人です。これに感動した残酷大将スピルバーグは『レイダース/失われた聖櫃』(1981年)でナチスの顔がドロドロに溶ける場面を依頼。その出来も素晴らしかったことから『グレムリン』(1984年)も任せて、トップクラスのメイクアップアーティストとなりました。

代表作は再度クローネンバーグと組んだ『ザ・フライ』(1986年)であり、アカデミー賞メイクアップ賞を受賞。あまりに素晴らしい仕事ぶりだったことから、続編の『ザ・フライ2 二世誕生』(1989年)では監督も兼任しました。

本作でのウェイラスの仕事ぶりにも素晴らしいものがありました。ドラコン星人のデザイン及びメイクアップは秀逸で、一見すると意思疎通ができない相手に見えるものの、目が馴染んでくると愛着を覚えるという、実に絶妙なバランスを保っています。このメイクアップのために、ルイス・ゴセット・ジュニアは毎日特殊メイクに4時間もかけたようですが。

主演は『ジョーズ3』のお二人

本作の主演はデニス・クエイドとルイス・ゴセット・ジュニア。

デニス・クエイドは80年代にはやたら押されていたという印象のある俳優で、『ライトスタッフ』(1983年)や『インナースペース』(1987年)などに出演していました。1991年にメグ・ライアンと結婚したもののクエイドはアルコールとドラッグで身を持ち崩し、90年代を通してスター女優の妻の足を引っ張るダメ夫として見られていました。

しかしスティーヴン・ソダーバーグ監督の『トラフィック』(2000年)でダーティーな弁護士役をやった辺りから持ち直し始め(奇しくも2000年頃を境にメグのキャリアは下降した)、『エデンより彼方に』(2002年)ではNY批評家協会賞助演男優賞を受賞しました。

ルイス・ゴセット・ジュニアは元プロバスケット選手で短期間ながらニューヨーク・ニックスにも在籍した経験があるのですが、1961年より演技の道へと入りました。1977年に社会現象を巻き起こしたテレビドラマ『ルーツ』の主要登場人物の一人として注目を集め、1982年の『愛と青春の旅立ち』でアカデミー助演男優賞受賞と、本作に至るまでの何年かは上昇気流の中にありました。

そんな二人は、1983年の『ジョーズ3』でも共演しています。今でこそアレな映画として見られている『ジョーズ3』ですが、当時は大ヒットした『ジョーズ』(1975年)、『ジョーズ2』(1978年)に次ぐユニバーサルの大期待作でした。加えて、二人はロイ・シャイダーの抜けた穴を埋めるキャストとしての期待も背負っており、当時のクエイドとゴセット・ジュニアへの期待がいかに高いものだったかが分かります。

登場人物

  • ダビッジ(デニス・クエイド):地球軍のパイロット。激しい性格の持ち主で、冒頭のドッグファイトにて僚機を撃墜されたことに腹を立てたことからジェリバが操縦するドラコン機を深追いし、辺境の惑星フィラインⅣに墜落した。ジェリバとの共同生活開始後にも、諍いはたいていダビッジ側から始まる。
  • ジェリバ(ルイス・ゴセット・ジュニア):ドラコン軍のパイロット。ダビッジの操縦する戦闘機に追われてフィラインⅣに墜落した。性格は比較的温厚で、意思疎通をする以前、まだ敵味方状態の時点でダビッジを拘束したが、殺さず生かしておくという判断をした。ドラコン星人は雌雄同体であるため、ダビッジとの共同生活の最中に妊娠し、息子(というか同一の遺伝子を持つ同一人物?)のザミスを出産した。
  • ザミス(バンパー・ロビンソン):ジェリバの息子。実の親であるジェリバは出産の最中に死亡したことから、種族の異なるダビッジに育てられた。
  • スタッブス(ブライオン・ジェームズ):「鉱山荒らし」と呼ばれる、フィラインⅣで荒っぽい鉱山経営を行っている地球人。捕虜として捕まえたドラコン星人を奴隷の如く死ぬまでこき使っており、これを見たダビッジはザミスに対して、決して鉱山には近寄らないようにと指導した。

感想

この世には、作り物でなければ真実を描けないというパラドックスがあります。このためにSFはただの絵空事ではなく、現実世界の映し鏡として使われることがよくあります。

その顕著な例がポール・バーホーベン監督の『スターシップ・トゥルーパーズ』(1997年)であり、もし現実の戦争をモチーフにしてしまうと当事国の国民感情や歴史観などによって作品の真意が伝わらなく可能性があることから、昆虫エイリアンと人類の戦争というSF設定をとることで、国家がいかに国民を扇動して開戦にまで持ち込むのかという現実的なテーマを分かりやすく描いています。

本作も同じくです。21世紀末に人類が外宇宙に進出すると、1000年前から宇宙で活動してきたトカゲ型のドラコン星人がすでにおり、覇権を巡って戦争に至ったという背景があって、この図式からは帝国主義の先行組(イギリス・フランス)と後発組(ドイツ・オーストリア)が衝突した第一次世界大戦をちょっと思い出しました。

主人公は地球人のパイロット・ダビッジとドラコン星人のパイロット・ジェリバ。生存のためには協力し合わねばならない状況であるものの、政治的背景を巡ってよく喧嘩もします。

「覇権を手放さないドラコン人が悪い」「お前ら地球人は宇宙のトラブルメーカーだ」と言い争うのですが、国家も政府もないこの未開の地で食うにも困っているような状態で、自己の生存の一部を預けている相手に対してその話する?と、観客にとってイデオロギー対立が心底無意味に見えるように作られています。

ジェリバは教典を常に手放さず、暇さえあればそれを読んでいます。「何度も何度も読んで飽きないものなのか?」「一体何が書いてあるんだ?」とダビッジが尋ねると、「他者に不当な扱いを受けても、愛をもって接すること」とジェリバは答えます。

これってキリスト教の教えとまるっきり同じなんですよね。同じ教えを持っている者同士が正義を笠に着て争い合っているという無意味さ。加えて、ジェリバの教典がコーランっぽくもあるので、これは明確にイスラム教世界とキリスト教世界の対立を描いたものであることが分かりました。

後半ではダビッジはジェリバの息子のザミスを育てることになり、いよいよ地球人とドラコン人の間のボーダーは取り払われていきます。ダビッジはもはや親でしかなく、ザミスを守るためなら相手が地球人であろうが戦いを挑んでいきます。国家が扇動する戦争も、個のレベルだと無意味であることがここで示されます。

まとめ

冒頭のドッグファイトシーンなど一部に安っぽい部分もあるものの、作品の本質から考えると些末な部分なので、さほどのマイナスにはなっていません。作品の意図をきちんと伝えたペーターゼンの堅実な演出や、特異なシチュエーションながら見事な演技で作品を支えたクエイドとゴセット・ジュニアのパフォーマンスなど、映画としての足腰がしっかりとした作品だと感じました。