【駄作】ジョーズ3_今度は3D映画(ネタバレなし・感想・解説)

クリーチャー・メカ
クリーチャー・メカ

(1983年 アメリカ)
やめときゃいいのにまた作ってしまったシリーズ第3弾。テーマパークが巨大鮫に蹂躙されるという大規模スペクタクルを志向していたものの、演出力や技術力がまったく及ばず、不完全なものを見せられたような気分になります。シリーズで最低作は本作です。

©Universal Pictures

あらすじ

マーティン・ブロディの長男マイケル・ブロディ(デニス・クエイド)は新規オープンを控える海洋テーマパーク「シー・ワールド」のエンジニアとして働いている。ある日、海とパークを仕切るゲートの修理に出たスタッフが戻ってこなかったことから近辺を捜索したところ、3mの子供のホオジロザメを発見した。

危険除去の必要性と、飼育してテーマパークの目玉にしたいという思惑から、マイケル達は子供のホオジロザメを捕獲するが、オープン後のテーマパークに体長10mを超す母鮫が現れる。

スタッフ・キャスト

プロダクションデザイナー・ジョー・アルヴスの監督デビュー作

『ジョーズ』(1975年)、『ジョーズ2』(1978年)でプロダクションデザインを担当したジョー・アルヴスが本作の監督。シリーズ以外でもスピルバーグとの関係が深く、『続・激突!カージャック』(1974年)と『未知との遭遇』(1977年)にも参加しています。

シリーズへの理解の深さや、技術への親和性の高さから本作での監督起用に繋がったと思われるのですが、興行的にも批評的にも惨敗を喫したため、以降は一度も監督を引き受けていません。

SF作家リチャード・マシスンが脚本に参加

例によって本作にも複数人の脚本家が参加しているのですが、その中の一人がなんとリチャード・マシスン。なかなか贅沢ですね。

1926年ニュージャージー出身。著作『吸血鬼』(1954年)は後に『地球最後の男』(1964年)として映画化され、それがロメロのゾンビ映画へと繋がっていったし、『トワイライト・ゾーン』や『刑事コルチャック』などのテレビドラマの脚本も手掛けています。

スピルバーグの出世作『激突!』(1972年)、ヤノット・シュワルツ監督(『ジョーズ2』)の佳作『ある日どこかで』(1980年)の両方で原作と脚本を担当しており、ジョーズ関連の人脈もすでに持っていました。

自身の執筆した脚本を他の脚本家にいじられた上に、監督の腕も未熟だったと、本作についてはいろいろ不満をお持ちのようなのですが。

作品概要

パロディ映画になるかもしれなかった3作目

『1』『2』のプロデューサーであるリチャード・D・ザナックとデヴィッド・ブラウンは、『ジョーズ3』をパロディ映画にするという構想を思い付き、自らは製作総指揮として現場の一線から退き、『アニマル・ハウス』(1978年)を大ヒットさせたマッティ・シモンズを新プロデューサーに据えて現場を仕切らせることにしました。

内容は、『ジョーズ3』の製作チームがホオジロザメに襲われるが、そのサメはエイリアンだったという、あらすじだけ書くとまったく意味の分からないメタ映画でした。

脚本はジョン・ヒューズとトッド・キャロルで、監督はジョー・ダンテ。

ジョー・ダンテと言えば『ジョーズ』(1975年)の亜流作品である『ピラニア』(1978年)の監督であり、『ピラニア』(1978年)は著作権侵害でユニバーサルから訴えられかけた映画です。

そんな因縁を持つジョー・ダンテを本家本元の『ジョーズ』に起用しようというのだから、これがいかにふざけた企画だったかが分かります。

新プロデューサー・アラン・ランスバーグ登場

しかしこんな企画が通るはずもなく撃沈。

裏を返せば、ザナックとブラウンはこんなイロモノ路線しか思い浮かばないほど『ジョーズ3』の企画で煮詰まっていたということであり、取るべき策を失った二人は『ジョーズ』の権利を売り払います。

購入したのはテレビ界で60年代前半から活動するベテランプロデューサーのアラン・ランズバーグであり、自身のプロダクションで製作したため、本作はユニバーサルが直接製作しない初の『ジョーズ』となりました。

シリーズ唯一の3D映画

テレビ界出身のランスバーグはテレビと映画の媒体差にこだわっていた。

…のかどうかは知りませんが、映画館ならではの醍醐味を出すために3D映画として本作を製作しました。

“JAWS 3-D”の文字が景気よく飛び出す冒頭から「3D映画で~す!」というアピールが凄く、噛みちぎられた腕が水中を漂う場面や、サメがガラスに向けて泳いでくる場面など、3D映像を味わっていただきたい感全開の場面は本編中にいくつも見て取れます。

現在発売中のBlu-rayにはオマケとして3D版本編が丸々入っているので、ご興味のある方はチェックしてみてください。

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なお飛び出すタイトル文字は劇場版とVHS版とで異なっており、劇場版が”JAWS 3-D”に対して、VHS版は”JAWS Ⅲ”です。現在、Netflixで配信されているのは劇場版、Amazonプライムで配信されているのはVHS版なので、動画配信で両バージョンを見比べることができます。

飛び出すタイトル。左が劇場版で、右がVHS版
©Universal Pictures

(参考URL)https://www.imdb.com/title/tt0085750/trivia?ref_=tt_trv_trv

感想

若いキャストへの世代交代

『ジョーズ』(1975年)、『ジョーズ2』(1978年)は共にマーティン・ブロディ署長(ロイ・シャイダー)を主人公にした大人の男の物語でしたが、本作ではブロディの息子マイケルを主人公にした若者映画に変更しています。

『ジョーズ2』の時点ですでに二番煎じ感が出ており、同一の路線を三度走ることはほぼ不可能だったので、世代交代させるという判断は合理的でした。

キャスティングもなかなか。

主人公マイケル・ブロディ役には当時大注目されていたデニス・クエイド。爽やかなイケメンで走ったり跳んだりと軽い身のこなしを披露し、シリーズの若返りの象徴的存在となっています。

その恋人で海洋生物学者のキャスリン・モーガン役にはベス・アームストロング。他にこれといった代表作のない女優さんではあるのですが、こと本作では丁度良い塩梅のヒロインとなっています。美人なんだけど美人すぎるわけでもなく、海洋学者という設定に実にマッチしています。

他に、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年)などで80年代にはアイドル的人気のあったリー・トンプソンのデビュー作でもあるのですが、こちらも初々しさ全開でした。

群像劇としての完成度の低さ

そんな若い俳優陣の脇を固めるのは『愛と青春の旅立ち』(1982年)でアカデミー助演男優賞を受賞したルイス・ゴセット・ジュニア。主演のデニス・クエイドとは後のSFドラマ『第5惑星』(1985年)でも共演します。

第5惑星【良作】社会派SFの佳作

ルイス・ゴセット・ジュニアが演じるのはテーマパークの経営者カルヴィン。彼は若い現場スタッフ達の上司にあたり、経済事情からサメ問題を大きくしたくないという思いを持ちつつも、隠しきれなくなって以降は危険除去の陣頭指揮を執るという清濁併吞の人物像となっています。

さらにベテランドキュメンタリー作家のフィリップ(サイモン・マッコーキンデール)も絡んできて、本作は層の厚い群像劇を志向していたことが分かります。

登場人物集合
©Universal Pictures

しかし登場人物の役割やドラマがまったく整理されていないので、とりあえず増やしておいたキャラクター達が有効に機能しておらず、本格的なサメパニックが始まってからは、動いているのがマイケルとキャスリンだけという何とも寂しい状態となっています。

前半にはそこそこ重要そうな立ち位置で登場したマイケルの弟のショーン(ジョン・パッチ)なんて、いつの間にか姿を消してるし。

合成の粗さが気になる

肝心のサメですが、口から吸い込んだ水をエラから吐き出して推進するというシリーズ史上最高スペックのロボットを導入しているので、実に良い動きをしています。

ただし、合成が異常に雑という別問題が発生しているのですが。

これをご覧ください。画面から見事に浮いたサメ。

©Universal Pictures

3Dの飛び出す映像を前提として、被写体を際立たせるために普通なら誤魔化すマットラインをあえて残しているのかもしれませんが、通常の2D媒体で見ると結構厳しいものがあります。

このような視覚効果の質の低さや、前述した通りのキャラクターの交通整理の悪さから、本作の見せ場には特に感じるものがなく、シリーズ中もっとも手に汗握らないアクション映画となっています。

『ジュラシック・ワールド』(2015年)のプロトタイプ

そんな感じでドラマ、アクション共に低レベルで、決して出来の良い映画ではないのですが、開園後のテーマパークで起こるモンスターパニックという大きな志だけは評価してあげたいと思います。

演出や技術レベルが追い付かず、やろうとしていたことの1/10もできなかったのかもしれませんが、本作の志は実に32年後に公開される『ジュラシック・ワールド』(2015年)でようやく実を結びます。

延び延びと暴れ回るモンスターに、為す術もなく食われる観光客。本作もこれがやりたかったんでしょう。

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