(2002年 アメリカ)
ドラゴン、文明崩壊後の世界、クリスチャン・ベールと、男子の好きなものがぎっしり詰まった作品のはずが、驚くほど盛り上がらずに終わった企画倒れ映画。好きなものをいくつ積み重ねても、面白さが数倍になるわけではないということがよく分かる。
感想
企画倒れにも程がある
ドラゴンの炎で荒廃したマッドマックス2みたいな世界で、世界一信頼できる男クリスチャン・ベールが立ち上がる映画。このコンセプトは百点満点だろう。
全米公開前の雑誌記事で本作を見かけた私は、「こんなん誰でも見たいやつですやん!」と興奮した記憶がある。
しかしどういうわけだか知らないが待てど暮らせど日本公開の目途が立たず、全米公開から10カ月も待たされてようやっと日本公開となった。
当時の私は喜び勇んで映画館に向かったのだが、見終わった時には「なぜこんなに面白くないんだろう」と頭を抱えた。
確かにクリスチャン・ベールは主演だ、でっかいドラゴンも出てくる、世界観はマッドマックス2だ。一応、モノはちゃんと揃っているのに、それでも面白くない。
この時の失望があまりに大きかったためか、その後は本作を見返すことがなかったのだが、なぜかうちにセル版DVDだけはあるので(恒例、謎の映画コレクション)、この度20年ぶりに再見した。
その感想だが、20年前と変わらず映画は面白くなかった。
全体の印象は『スカイキャプテン ワールド・オブ・トゥモロー』(2004年)に近い。
摩天楼を襲う謎の巨大ロボット軍団に対抗すべく、巨大空中空母や水陸両用戦闘機が出てくるというおもちゃ箱をひっくり返したような作品で、あちらも監督の”好き”だけで作られていた。
ただし面白いのは見てくれだけで、好きなものを何個も組み合わせたところで、映画としての楽しさが数倍になるわけでもないという残念なことになっていた。
本作も同じく。
みんなが好きなものは確かにぎっしり詰まっている。ただしストーリーはイマイチだしキャラクターは平凡、手に汗握るような展開もなく、素材は良いのに調理方法を間違えてしまったような映画になっている。
ロブ・ボウマン監督には同情すべき点もある。
アイルランドのウィックロー山地で撮影を行ったのだが、ちょうどそのタイミングで40年ぶりに口蹄疫が流行し、予定されていたシーンの多くが撮影できなかったのだ。
当初ビジョンを実現できなかったのだから、すべてを監督の手落ちとは言えないだろう。
ただしそうした不運を差し引いてもなお、本作に光る部分がないのは確かではあるが。
そのドラゴン、人類滅ぼせます?
映画はロンドンの地下鉄工事現場でドラゴンが復活するところから始まる。
ここから軍隊とドラゴンの総力戦が始まるのかと思いきや、大戦争の推移はクリスチャン・ベールのモノローグによって処理される。
軍隊では歯が立たず、核兵器を使ってもダメで、万策尽きた人類は滅亡寸前…こんな素敵な部分が映像で見られなかったのは残念で仕方がない。
舞台は一気に12年後へと移り、主人公クイン(クリスチャン・ベール)は生き残った人々と共に砦の地下に洞窟を掘って隠れ住んでいる。
飢えに苦しみ、一か八かでこの砦を出たいという住民と、それに反対するクインとの間で小競り合いが起こったりもするのだが、両者とも筋肉隆々で血色が良いので、全く説得力がない。
クリスチャン・ベールは世界観に合わせて減量するつもりでいたのだが、脚本には殴り合いの場面があって、さすがに痩せた人では元気に喧嘩なんてできるわけがないという判断から思いとどまった。
ともかく、そんな夢も希望もない砦に軍隊がやってくる。
彼らの部隊名はケンタッキー義勇軍と言い、ドラゴンを倒しながらはるばる英国までやってきたとのこと。
にわかには信じがたい話だが、リーダーのヴァンザン(マシュー・マコノヒー)は、俺らはドラゴンを倒す方法を持っていると自信満々に答える。そのメソッドとはこんな感じ↓
- ドラゴンは薄明りだと目が効かなくなるので、その時間帯を狙う
- 地上班が三角測量でドラゴンの位置を正確に把握する
- 空中班が決死のスカイダイビングでドラゴンを罠におびき寄せる
- 地上班が銛で仕留める
実際、ヴァンザンの部隊はこの方法でドラゴンを仕留めて見せるんだけど、「ヴァンザンすげぇ!」という興奮よりも、「核兵器でも倒せなかったドラゴンがこんな方法で倒せるの?」という違和感の方が大きかった。
で、ヴァンザンはたった一匹しかいない雄を殺せばドラゴンの血脈を断てるはずだという自説を披露し、その雄ドラゴンがいると思われるロンドンを目指して、わざわざケンタッキーからやってきたのだと言う。
クライマックスは雄ドラゴンとの戦いなんだけど、普通のドラゴンの何倍もの巨体を持つラスボスすら、ヴァンザンとクインは弓と斧で倒してしまう。
これらの武装は中世のドラゴンスレイヤーのイメージを投影したものなのだろうが、我々が見たいのは現代兵器vsドラゴンのやけくそのような死闘であって、生身の人間が原始的な武器を使って勝利するという展開は、本作の企画に求められたものではないと思う。
そうした作り手側と観客側との認識の相違が歯痒かったし、弓矢で対抗可能なドラゴンでは、人類の軍隊を滅ぼしたという前提条件が危うくなってしまう。
ドラゴンに強敵感がなく設定負けしていることが、本企画最大の欠点だろう。