【傑作】ブレーキ・ダウン_おすぎと私が愛した映画(ネタバレあり・感想・解説)

サスペンス・ホラー
サスペンス・ホラー

(1997年 アメリカ)
アクションスリラーの中では一番かもしれないほど好きな映画。世間一般からはほぼ忘れ去られている作品だが、圧巻の構成力と素晴らしい演技力に支えられた傑出した映画だと思う。

感想

おすぎと私が愛した映画

高校時代に金曜ロードショーで見てあまりの面白さにぶったまげた映画なんだけど、月曜の学校で話すと「最高!」と言ってるのは私だけで、自分の映画鑑賞眼は狂ってるのだろうかとちょっとだけ不安になった。

後日、ぼんやりと眺めていた笑っていいとも!のクリスマスSPで、おすぎが視聴者プレゼントとして『L.A.コンフィデンシャル』(1997年)と本作のDVDを提示して「どっちも面白い!」と激賞したので、ちょっと安心した。

映画評論家としてのおすぎを信用したことは1秒たりともないが、この時ばかりはおすぎをとても身近に感じた。

そんな本作であるがソフト化には恵まれておらず、DVD黎明期にソフトが出たっきりで、リマスター版などがリリースされたことはない。日本国内ではBlu-ray未発売。

この度ネットフリックスにあがったので、「ようやっとフルハイビジョンで見られる!」と興奮したものの、いざ見てみると輪郭がガタガタで、雑なアップコンバートをしたもののように見受ける。

とまぁ扱いがなかなか酷く、本作を有難がっているのは世界中でおすぎと私だけではないかと不安になってくるが、ここからは完全主観で本作の魅力を語りたいと思う。

ヒッチコック×悪魔のいけにえ×ターミネーター

主人公は東部から西部への引っ越しついでに、マイカーでのアメリカ横断旅行を楽しむ平凡な夫婦。

砂漠のど真ん中で車が故障して立ち往生していたところに親切なトラック運転手が通りかかり、レッカーを呼ぶ電話をかけられるよう、奥さんを先のダイナーにまで送ってくれるという。

好意に甘える夫婦だが、いざ旦那が合流場所のダイナーに行くと奥さんの姿がない。その場にいる誰に聞いても「そんな人は見ていない」と言う。

本作は『バルカン超特急』(1938年)や『サイコ』(1960年)などヒッチコックが得意とした”人がいなくなる”系サスペンスなのである。

さらにそこに、田舎の閉鎖性に対する漠然とした不安や恐怖という『悪魔のいけにえ』(1974年)風味をトッピング。

焦っている主人公に誰も手を差し伸べないどころか、いけ好かない都会の野郎が不幸な目に遭っていい気味だぜというイヤ~な感じも漂ってくる。

その土地全体から拒絶されているかのような不快感は、そのうち、全員がグルじゃないかという猜疑心へとつながっていく。この八方塞がり感がサスペンスを容赦なく盛り上げる。

なんだけど、30分経過時点であっさりとネタを割り、物語は主人公と犯人グループとの追いつ追われつのアクションへと突入する。この転調にも良い意味で驚かされた。

後の『ターミネーター3』(2003年)で、はたらく車総動員の大カーチェイスをモノにすることになるジョナサン・モストウ監督は、ここでも素晴らしいアクション演出の腕前を見せる。カーチェイスはスピード感に満ちており、サスペンスの雰囲気を壊さない程度の派手さもある。

本作は、2022年にTimeOutが発表した「史上最高のアクション映画ベスト101」で82位にランクインしており、その迫力は折り紙付きだ。

また前半のイヤ~な閉塞感の反動で、形勢逆転した主人公が犯人を追い込む場面には圧倒的なカタルシスが宿っている。犯人たちが吠え面かくと、見ているこちらまでスカッとするのだ。

これほどまでに構成要素の多い作品を、わずか90分程度に収めてみせた構成力にも舌を巻く。全編ハイスピードで展開していく物語には、無駄な場面が一切ない。

この異次元のスピード感にも恐れ入った。

陽の当たらない名優たち

主人公ジェフを演じるのはカート・ラッセル。

最終的にデヴィッド・フィンチャー監督×マイケル・ダグラス主演で製作された『ゲーム』(1997年)は、もともとジョナサン・モストウの企画だったのだが、その時の主演候補がラッセルだった。

『ゲーム』の企画は他人の手に渡ったが、それでもラッセルと仕事をしたいと思っていたモストウは本作への出演を依頼して、晴れてコンビが実現した。

カート・ラッセルは実に器用な俳優で、『エスケープ・フロム・LA』(1996年)で伝説のアウトローを演じた直後に、本作のジェフのような小市民役を違和感なく演じてみせる。

そして次回作の『ソルジャー』(1998年)では人情に目覚めた殺人マシーン役を演じることになるのだが、ここまで演技の幅の広い俳優も珍しいのではなかろうか。

批評家からの評価を受けづらい作品にばかり出ているので賞の類には無縁だが、かなりの名優だと思う。

そんなラッセルと対峙することになるトラック運転手レッド役はJ・T・ウォルシュ。

カート・ラッセルとは『テキーラ・サンライズ』(1988年)、『バックドラフト』(1991年)『エグゼクティブ・デシジョン』(1996年)で三度も共演しており、本作に推薦したのもラッセルだった。

ふてぶてしい顔立ちのウォルシュは90年代ハリウッドで重宝された悪役俳優だったが、いかにも犯罪者という見た目でもないため、特に本作前半部分では、善人だか悪人だかよく分からん男がよくハマっていた。

中盤以降、本性を現したレッドは本当にムカつくんだが、家に帰ると良い親父だったりもするという多面性も、ウォルシュは見事に演じている。

彼もまたラッセルと同じく賞とは無縁の俳優だったが、その演技力はオスカー俳優に引けを取らないと思う。

こうしたうまい俳優たちの演技が本作を支えており、作品をただハラハラするだけのアクションスリラーとは一線を画すものにしている。

スポンサーリンク
公認会計士のB級洋画劇場