【凡作】オーメン_悪魔以上に冷徹な親父(ネタバレあり・感想・解説)

サスペンス・ホラー
サスペンス・ホラー

(1976年 アメリカ)
ホラーの古典だが、個人的にはあまりいただけなかった。ショックシーンの数は少ないし、退屈な場面は長いし、養子縁組の手続きも経ずに赤の他人の子供をもらってくる主人公の行動がおかしいしと、妙な点ばかりが目についた。

作品解説

『エクソシスト』の二番煎じ

本作に原作はなく、オリジナル脚本が元になっている。小説版が全米公開前にベストセラーとなったが、そちらはノベライズ。

後の『レディホーク』(1985年)や『グーニーズ』(1985年)でもリチャード・ドナー監督と組むこととなるプロデューサーのハーヴィー・バーンハードは、『エクソシスト』(1973年)の大ヒットを受けて「子供が得体のしれない化け物になる」という物語を考えだし、これが本作の基本的な着想となった。

バーンハードは知り合いの脚本家デヴィッド・セルツァーに執筆を依頼。当時のセルツァーは破産状態で、家も車も銀行に差し押さえられて首の回らない状態だったことから、金のためにこの仕事を引き受けた。

脚本はワーナーに持ち込まれたが、ワーナーでは『エクソシスト2』(1977年)の製作が決まったことから、本作の企画は進まなくなってしまった。

その後に脚本を引き取ったのはフォックス社長 アラン・ラッド・Jr.。

フォックスでも進捗は決して順調ではなかったが、「安い製作費で稼げそうだ」ということでラッド・Jr.はこの企画を守り続けた。

監督には、主にテレビ界で仕事をしていたリチャード・ドナーが就任。

セルツァーの脚本には羊の蹄を持つ悪魔などが登場したが、ドナーの指示でそれら超常現象的な描写はすべて削除された。

チャールトン・ヘストン、ロイ・シャイダー、ディック・ヴァン・ダイク、ウィリアム・ホールデンらに主演をオファーしたがことごとく断られ、『荒野のガンマン無宿』(1974年)以来、2年ほど出演作のなかったグレゴリー・ペックが主演に決まった。

ペックは本作のオファー直前に長男を拳銃自殺で亡くしており、最終的に親が子供を殺そうとする映画のシナリオを送ることをプロデューサー達は躊躇していた。そのため、役を引き受けるという返事があったことには心底驚いた。

興行的大成功

本作は280万ドルという低予算ながら全米で6092万ドルを稼ぎ、年間興行成績第6位という大ヒットとなった。

本作でフォックスが得た収益は『スターウォーズ』(1977年)の投資へと回され、そちらはそちらで空前絶後の大ヒットとなったのだから、社長のアラン・ラッド・Jr.としては笑いが止まらなかっただろう。

また大ヒット作の類を撮ったことのなかったリチャード・ドナーは本作でAクラスの監督の仲間入りを果たし、次回作『スーパーマン』(1978年)でヒットメーカーとしての地位を不動のものとするのだった。

そして製作費を抑えるため出演料を少なめにし、代わりに興行成績からの歩合を受け取る契約としていたグレゴリー・ペックは、キャリア史上最高額のギャラを受け取ることになった。

感想

子供の頃に地上波放送で見たのだが、あまり面白いとは思わなかった。

それ以来、特に気にするでもなく見直してもこなかったのだが、ディズニープラスに『オーメン』シリーズが上がっているのを見て、今一度見返してみようと思い立った。

しかし、なぜか『1』だけが上がっていないではないか。さすがに『2』から見てみようという発想にはならない。

そして気になったのでセル版Blu-rayを調べてみると、Amazonなどでは新品の取り扱いが終わっている。

唯一、ヨドバシオンラインでは新品が廉価版価格で売られていたので、廃盤の恐怖を感じた私は、これを買うことにした。

ディズニーはディスクメディアに消極的だと言われており、買収後のフォックス作品も危険だという噂が漏れ聞こえている中での、この状況である。買えるうちに買っておかないと、今後どうなるかはわからない。

こうして数十年ぶりの鑑賞となったが、感想は以前と変わらずだった。

ローマに赴任中のアメリカ人外交官ロバート・ソーン(グレゴリー・ペック)は、死産した実子に代わって、お産中に母親を亡くしたというよその赤ん坊を引き取ってくる。

養子縁組の手続きをするでもなく、死んだわが子の代わりに「こちらをどうぞ」みたいな感じで赤ん坊のトレードが行われる。この時点で「おかしな話だなぁ」と感じた。

そんな流れなので、死亡した実子の葬儀などが行われるでもなく、あの子は一体どうやって葬られたんだろうと思っていたが、中盤以降に、ソーン自身もよく知らない墓地にひっそりと埋葬されていたことがわかる。

どんな冷淡な親父だよと、悪魔以上にこの主人公の品性を疑ってしまった。

そんなわけなので、この物語にはあまり感情移入ができなかった。発端部分にあまりにも説得力がなさすぎるのだ。

兎にも角にも名門ソーン家の跡取り息子となった赤ん坊はダミアン(ハーヴェイ・スペンサー・ウィリアムズ)と名付けられ、王子様の如く育てられる。

なんだが皆さんご存じの通り、ダミアンは悪魔の子。ソーンの周囲では次々と不可解な死亡事故が起こる。

…のだが、あらためて鑑賞するとダミアン自身は何もやっていない。本人に自分は悪魔だという認識があるのかすら定かではない。

なので、最終的にソーンがダミアンを殺そうとする展開では、「ダミアンかわいそうだな」と思ってしまった。

刃物を持ち決死の形相の親父から「お前を殺さねばならん」とか言われるって、結構なトラウマ体験だと思う。

一方、本編中のショックシーンはなかなか面白い。

誕生日パーティーの最中、「見て見て~」と言って招待客らの注目を集めたところで飛び降りて首吊り状態になる若い乳母。落ちてきた避雷針で串刺し状態になる神父さん。

極めつけは報道カメラマンの首チョンパで、トラックの荷台から吹っ飛んできたガラス板が人間の首を吹っ飛ばす。あまりにうまく撮れたためか、別々のアングルから都合3度もリピートされるという念の入れようで、創意工夫に富む死にざまこそが本作のハイライトであることがわかる。

なのだが、こうした死にざまは数秒の華であり、これらを除くと退屈な会話劇がダラダラと続く映画という印象。

もっとタイトに詰めてくれたらよかったと思う。

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