【良作】パラダイム_心に残るドス黒さ(ネタバレなし・感想・解説)

サスペンス・ホラー
サスペンス・ホラー

(1987年 アメリカ)
意表を突く設定が連続するホラー。カーペンターお得意の黙示録的世界観に、これまたお得意の籠城戦を組み合わせており、斬新な設定とは裏腹に本編は実に安定していて、ずっと怖いです。着想・構成・演出のすべてがうまくいった良作だと言えます。

感想

街角の黙示録

ジョン・カーペンター(以下、JC)の特徴として、壮大な背景を持った物語を、非常に小さな舞台で描くことに長けているという点があります。

『遊星からの物体X』(1982年)は狭い南極基地を舞台としつつも、もし”物体”が人類社会と接触すれば3年ですべての生物は同化されるという地球的危機を描いた作品だったし、『ゼイリブ』(1988年)は日雇い労働者が人類社会はすでに異星人によって侵略済みであることに気付くという話でした。

その点で言うと、黙示録を扱った本作はJC史上最大規模の背景を持つ作品であると言えます。

原題の”Prince of Darkness”とは「闇の王子」という意味であり、これはサタンを表しています。そして劇中では緑色の液体という形で、その姿が表現されています。

王子というからにはその父である王がいるわけで、それは一体誰なのかというと、キリスト教世界で神と呼ばれている存在こそが、サタンの父親であるという超絶設定が飛び出します。劇中では、鏡の向こうに存在する大きな手という形で表現されています。

「でもでも、神の子はイエスじゃないの?」という意見もあるでしょうが、実はイエスは異星人であり、サタンの危険性を人類に警告しに来たという、これまた超絶解釈が飛び出します。

で、緑色の液体として封じ込められていたサタンが現代に復活し、神をこの世界に引き入れて黙示録を起こそうとしており、神父と科学者と大学院生たちがそれを食い止めようとするという、何とも壮大なお話となっているわけです。

ただし舞台は半分廃墟の教会であり、実に地味な舞台で人類の存亡を巡る戦いが繰り広げられるわけです。これぞJCって感じですね。

科学ミーツ信仰

本作が特異なのは、一般的には対立関係に置かれる信仰と科学を協力関係に置き、神父と科学者が共に事に当たるということです。それにも合理的な設定が与えられています。

劇中では素粒子とか反素粒子という言葉が多用されており、文系の私は半分くらい何を言ってんだか分からなかったのですが、要約すると神とかサタンは一般に思われているような超常的な存在ではなく、物理法則の中に存在するものとして定義されています。

ただしイエスが訪れた時代の人類にはその話を理解できる知識がなく、何を言われているんだか分からなかった人々がイエスを処刑してしまったという苦い過去がありました。

そこでイエスの弟子たちは、その時点の人類社会でも理解できるよう神とか悪魔を超常的な存在として定義してキリスト教を普及させ、真のイエスの教えは緑の液体を地下で見守り続けているオリジナル宗派が引き継いだという図式となっています。

なぜそのオリジナル宗派がパレスチナやローマではなく、建国200年程度のアメリカ国内にいるのかは謎なのですが、とりあえずそういうことらしいです。

で、科学技術がようやく神とかサタンを正しく認識できるレベルに到達したので、科学者や大学院生がこの教会に集められたという次第。

この設定に私はなかなか燃えましたね。それにしても、JCはよくぞこんな話を思いついたものです。

JC得意の籠城戦

もうひとつ鮮やかだったのが舞台の作り方。

寂れた教会が舞台であることは前述した通りなのですが、その背後には高層ビル群が立ち並ぶというJC好みのロケーションをとることで、サタン封じ込めに失敗すれば人類社会が危ないという構図をビジュアル的に表現しています。

そして、サタンに操られたホームレス達が教会を取り囲んだことで学生たちは脱出できなくなり、孤立無援の状態で危機に対処しなければならなくなります。

籠城戦もまたJCの得意技ですが、本作でも実に鮮やかにその舞台が整えられていき、もはや伝統芸能の域に達しています。

心に残るドス黒さ

本編はずっと怖いです。

直接的なショックシーンはさほど多くないのですが、全体にどんよりとした雰囲気が漂っていて、こんな場所からは一刻も早く立ち去りたいという不快感が全編を貫いています。

空気感はハリウッドのホラー映画というよりも、いや~な余韻が残るイタリアン・ホラーに近く、このドス黒さはかなり心に残ります。

JCは終末思想に取り付かれた物語を扱わせると、実に良い仕事をしますね。

実のところ、サタンに憑りつかれた人々はさほど強くないし、大学院生側も大した活躍をしないので、見方によっては盛り上がりに欠けるホラーと言えなくもありません。ただし全体の雰囲気作りが良いこともあって、うまいレベルに戦力が抑制されているなと、私は好意的な印象を持ちました。

ラストの伏線回収も実にお見事であり、見終わった後にも「あの後、どうなったんだろう」といろいろ想像を巡らせるタイプの作品となっています。

昔は日曜洋画劇場でやってましたな

かなり昔にDVDを買い、それをBlu-rayで買い直すほど好きな作品なのですが、初めて見たのは小学生の時で、日曜洋画劇場でした。

ちょうど映画を見始めた時期で、父親に誘われて鑑賞したのですが、こういうホラーが普通に放送される時代も時代なら、小学生の息子を誘う親も親。良い時代でしたね。

その時には話の半分も理解できなかったものの、それでも物語全体のドス黒さや、主人公達の絶望感は充分に伝わってきたし、現在の目で見た感想と当時の感想がさほど変わらないので、やっぱJCの映画ってよく出来てるんだなぁと感心した次第です。

着想も構成も演出も良い。JC監督作の中でも、かなり上位の作品と言えるのではないでしょうか。

スポンサーリンク
公認会計士のわんぱく洋画劇場