アビス【凡作】キャメロンでも失敗作を撮る(ネタバレあり・感想・解説)

(1989年 アメリカ)
好感を抱けない登場人物達、目的のよく分からないエイリアン、事態を悪化させるだけの愚かな軍人達と、なかなかにフラストレーションの溜まる作品でした。加えて、深海という代わり映えのしない景色の中で140分という長めの上映時間にも厳しいものがあり、キャメロン作品中ではワースト作(途中で解雇された『殺人魚フライングキラー』を除く)だと言えます。

©Twentieth Century Fox

あらすじ

沈没した原子力潜水艦の救助活動に出たネイビーシールズと深海油田作業員達も後発事故によって海底に閉じ込められ、ミイラ取りがミイラになったところで深海エイリアンに遭遇するSFアクション。

キャメロン唯一の赤字映画

2019年に『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)に抜かれるまでの10年に渡って『アバター』(2008)と『タイタニック』(1997)で世界歴代興収の1位と2位を独占し、世界最強のヒットメーカーの座に君臨しているキャメロンですが、そんな彼が興行的に唯一失敗したのが本作でした。

製作費は当時としては空前の7000万ドル。これは『エイリアン2』の4倍弱、『ターミネーター』の11倍というとんでもない金額であり、回収のためには前2作どころではない興行成績が要求されるハードルの高い企画だったのですが、蓋を開けると全世界で9000万ドルしか稼げず、映画館の取り分や広告宣伝費を考えると大赤字の作品となったのでした。

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本作がどれほどのコケ加減だったかというと、ヒットチャートで一度も1位を獲ることができず(これほどの大作なら、公開初週くらいは1位を獲れるんですが)、3分の1以下の予算で製作されたコメディ『バックマン家の人々』にすら完敗したほどです。

感想

画面は単調だが密室劇でもないという中途半端さ

作品の9割方はディープコアと呼ばれる深海掘削基地が舞台なので画面の変化が乏しく、かといって深海での息苦しい密室劇という方向性が指向されているわけでもなく、何だか中途半端な映画だなぁという印象でした。この単調な画面で140分という長尺にはちょっと厳しいものがありました。

バカがバカなことをして進んでいく話

バカな奴が足を引っ張ったり、余計なことをしたりして事態を余計に悪化させ、そのことによって進んでいく話というものが私は苦手なのですが、本作はまさにそのパターンでした。

ネイビーシールズが石油掘り達の警告を無視して原潜の核弾頭回収に行き、案の定、事故を起こして基地が破損するわ、死人は出るわ、海上との連絡がとれなくなるわでえらいことになります。この発端部分からしてフラストレーション全開。

その後、マイケル・ビーン扮するネイビーシールズの隊長・コフィ大尉が潜水症と過度のストレスでメンタルをやられ、さらには海上との連絡手段を失ったことで「俺が対処しなきゃ」という傍迷惑な責任感を暴走させて、脅威と見做した深海エイリアンを核攻撃することにします。

これでさらに事態はこじれていくのですが、あまりにバカなコフィ大尉は元より、明らかにおかしくなっている上官を止めもしない部下達、相手は異常者だと分かってるのに怒鳴って言うことを聞かせようとする石油掘り達、誤解を招くようなタイミングで接近遭遇してくる深海エイリアンと、その場に居る全員が事態を悪化させる方向でしか動いていない点に更なるフラストレーションを感じました。

魅力のないドラマ部分

SFアクションが作品の縦糸だとすると、離婚寸前の夫婦が自己犠牲によって再度結ばれる話が横糸だったのですが、肝心のドラマ部分にも魅力がありませんでした。

共感できない登場人物たち

エド・ハリス扮するバッドは、仲間からの信頼厚い石油掘りのリーダー。メアリー・エリザベス・マストラントニオ扮するリンジーは、現場から「いじわるばばぁ」と陰口を叩かれるエンジニア。

ブルーカラーのバッドとホワイトカラーのリンジーがお互いの得意分野を活かしながら危機を乗り切り、その過程で相手がいかに貴重な存在であったかを再認識するという話にすればよかったものを、基本的に活躍してるのはバッドだけなんですよね。リンジーの頭脳や知識が貢献する展開が皆無だったことは、二人の関係性を不完全なものにしています。

また、どこまで行ってもリンジーがイヤな女で、早口でまくし立てられて尻に敷かれるバッドが気の毒でしかなかったので、二人の関係がうまくいって欲しいと願う気にさせられませんでした。中盤にて、コフィがリンジーの口にガムテープを貼る場面があるのですが、あの場面は「そんなひどいことを」ではなく「よくやった」という感じだったし。深海エイリアンはなぜかリンジーを気に入るのですが、なぜそんな奴に好意を抱いたんだと、エイリアンの感性までを疑ってしまいました。

キャメロン夫婦が投影されている?

この二人には、ジェームズ・キャメロンと、その奥さんで本作のプロデューサーでもあるゲイル・アン・ハードが投影されているように感じました。

キャメロンは大学中退後にトラック運転手をするなど職を転々とし、ようやく映画界に入っても当初はロジャー・コーマン率いるニュー・ワールド・ピクチャーズの雑用係でしかありませんでした。対してハードはスタンフォード大学卒業後にロジャー・コーマンのエグゼクティブ・アシスタントとしてニュー・ワールド・ピクチャーズに就職。二人が出会ったのはこのニュー・ワールド時代でした。なお、二人は1989年に離婚しています。

キャメロン自身が投影されたキャラクターなのでバッドは人柄が良く行動力もあって、本編中では大活躍する好人物。対して離婚間際の奥さんが投影されたリンジーは、ロクに活躍もしないのに大声で喚き散らしてばかりいる好感度の低い人物になってしまったように思います。

キャメロンらしからぬ詰めの甘さ

深海での潜水で生きていられる主人公

深海を核攻撃することに決めたコフィ大尉はドアをロックして潜水艇の発着場に立て籠もり、バッドはこれを阻止するために基地の外を泳いで発着場に侵入するのですが、人間が深海のような高圧環境を生身で泳ぐんですよね。そんなことをすると肺が破裂するはずなんですが。

序盤で潜水症の説明をしていたり、クライマックスの大浮上で「減圧していないのに生きてるわ」というセリフがあったりで、深海の環境については念入りな説明があったにも関わらず、なぜこんなにルーズな見せ場を作ってしまったんでしょうか。

エイリアンが深海版『未知との遭遇』でしかない

登場するエイリアンがまんま『未知との遭遇』で、既視感バリバリ。まず登場するのは光を発するカラフルな浮遊体で、フワフワと滞空していたと思ったら、急にスピードを全開にしてその場を去っていくという動きまで同じ。また、クライマックスに登場する巨大なマザーシップのデザインや見せ方も似通っており、作品のキモの部分であるエイリアンに気合が入っていなかった点は残念でした。

エイリアンが結局何をしたかったのかがよく分からない

核弾頭が放たれる事態にまで突入したものの、そもそもエイリアンが何をしたかったのかがよく分からないので、まったく腹に落ちない話になっています。だいたい、お前らが原潜を沈めなければこんなことにならなかったじゃないかと。

また、どうでもいい時には姿を現すのに、潜水艇が動かなくなってバッドとリンジーが危機に陥った場面や、核弾頭が海溝に放たれたような肝心な場面で力を貸してくれるようなことはなく、気が利かない奴らだった点も引っかかりました。

エイリアンの目的については『完全版』で明らかになるのですが、果たしてそれが納得できるものだったかは、下記をご覧ください。

完全版(1993年)について

完全版こそがオリジナル

劇場公開版はエイリアンの動機が不明だったり、核弾頭を巡るアクションとエイリアン関係のSFがうまく馴染んでいなかったりといった問題がありました。

その原因は、公開版の上映時間が長くなりすぎて尺を詰めることを求められたキャメロンが話自体を変えるという荒業に出て、無理やり本編を圧縮したためです。よって、公開版こそが不完全版であり、4年後にリリースされた本バージョンによって、ようやく本来の話が分かるようになったというわけです。

なお、公開版の製作にあたってキャメロンがフォックスから映画を取り上げられ、不本意な形に編集されたということはなく、両者の関係は終始良好だったとのことです。3時間近くになってしまった尺が問題であることは双方の共通認識であったものの、これ以上切れるような場所もなく、話を変えるしかないという決断はキャメロン自身が下したようです。

ただしキャメロンはこの決断を後悔しており、上映時間150分程度で本来のテーマを残すという道もあったはずだと後年振り返っています。

公開版との相違点

  • オープニングにニーチェの一節「あなたがアビスを覗くと、アビスはあなたを見返す」のテロップ表示
  • 沈没地点にまで掘削基地を移動させる際に、ラジオから聞こえるカントリーソングをクルー全員で口ずさむ
  • バッドとリンジーが再会した際に、リンジーの新しい彼氏についてバッドが嫌味を言う
  • コフィ大尉が全員に向かって任務を説明する場面で、バッドがコフィを牽制する
  • 公開版ではテレビ中継は一度しかないが、完全版では三度ある。追加された中継ではNATOがソ連を牽制する動きを伝えており、軍事的緊張が世界に広がっていることが分かる。
  • 事故後の掘削基地で、リモートの潜水艇のカメラ越しに犠牲者の遺体を発見する。
  • ムーンプールを修理中のバッドとワンナイトが、リンジーとの関係について話す。
  • エイリアンについての討論で、あれはソ連の偵察機であるとコフィが主張する。
  • 海溝へのダイブでバッドが変調を来した際に、二人で過ごした停電の夜の話をリンジーがバッドに話す。
  • エイリアンが世界中の海岸線に向けて大津波を発生させるスペクタクル
  • 核戦争による破滅に向かう人類を止めるためにエイリアンが介入したことが判明する

大きな違いはエイリアンの動機が明確になったことと、それに伴う大津波のスペクタクルが陽の目を見たことであり、特に大津波は全編を通しても最大のクライマックスともいえるほどのインパクトと視覚的な面白みがあり、これを見られただけでも完全版には価値があったと言えます。

これはこれでエイリアンの動機が腑に落ちない

この完全版の初見時には公開版のモヤモヤがようやく解消された思いがしたのですが、再見するとこれはこれで変な話ではあるんですよね。

冷戦を止めるとか言っているものの、そもそも本件の直接的な発端はエイリアンが原潜との接近遭遇事故を起こしてしまったことであり、クライマックスの津波の寸止めも含めて、マッチポンプが過ぎる奴らじゃないのという気がしました。かねてから人類の状況をモニタリングしていたのであれば、原潜が沈むことがどれほど深刻なことかは分かっていてもいいものなんですが。

その点で言うと、人類が深海エイリアンの存在を認識していないのと同様に、深海エイリアンも人類のことをよく知らず、たまたま起こってしまった原潜との接近遭遇事故で両者が出会うこととなって、バッドとリンジーの関係性を見て「人類も良い奴らじゃん」となった公開版の方が話の筋は通っているような気もしてきました。

本作の画角について(余談)

いろんな画角が存在しているようです

私は1998年にリリースされた公開版DVDと、2001年にリリースされた完全版DVDの両方を持っているのですが、公開版がビスタサイズ(1.78:1)に対して、完全版がシネスコサイズ(2.35:1)となっており、同一作品なのに複数の画角が存在しているようなので、この点についても書いておきます。

スーパー35方式について

標準的なテレビの画角が1.78:1で落ち着いた現在では大した問題ではないのですが、かつてのテレビは1.33:1のスタンダードサイズが主流であり、かつ、黒いマスクが入ってテレビ画面が小さくなるノートリミング版が敬遠される傾向にありました。

そのため、映画をビデオ化する際にはサイドをトリミングしていたのですが、シネスコサイズの映画の場合、左右の情報が43%も落とされるという過激な処理がなされていたので、もう見ていられない状況が発生していました。昔、『エレファントマン』をテレビで見た際に、左右にいるはずの人物がトリミングされ、真っ白な壁が映っているだけという壮絶な会話シーンがありました。

そこで登場したのがスーパー35方式でした。これはスタンダードサイズで撮影し、劇場公開する際には上下の画面をトリミングしてシネスコにするが、ビデオ化の際には元のスタンダードを使うという方法であり、これだとビデオ化しても左右の情報が欠落しないというメリットがありました。

この方式を最初に採用したのは『トップガン』で、『トップガン』のソフトにはシネスコとビスタの中間の奇妙な画角のものがあるのはそのためです。また30代後半以上の方であれば記憶にあると思うのですが、『タイタニック』ビデオ化の際に「キャメロンがビデオ用に編集し直し、公開版では見えなかった部分も見える」と謳われていたのも、スーパー35だったためです。

本作もスーパー35方式です

そして、本作もスーパー35方式で撮影されています。よってソフトによってビスタだったりシネスコだったりするのですが、劇場版はシネスコなので、シネスコこそがキャメロンが意図した本来のバージョンという認識でOKです。ただしビスタにはシネスコ版には映っていない上下の情報が含まれているので、これはこれで貴重だとも言えますが。

というか、公開版も完全版も20年ほど前のソフトしか存在しておらず、現在の目で見ると画質が本当に厳しいです。キャメロンの大御所化と共に再評価の機運もあるのだから、早く高画質のBlu-rayを出せばいいのに。

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