【良作】ロボコップ(1987年)_問答無用の名作!…と同時にとても変な映画

クリーチャー・メカ
クリーチャー・メカ

(1987年 アメリカ)
近未来のデトロイト。民営化された警察を経営するオムニ社は、大規模再開発計画を円滑に進めるためにも街の治安回復が重要課題となり、その切り札としてロボコップ計画を立案する。

© Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.

問答無用の名作すぎて今更レビューすることも憚られるのですが、最近「吹替の帝王」を購入して再見したところ、「こんな変な映画だったっけ?」という点が気になったので、その違和感を中心として作品の良かった点も含めつつレビューしたいと思います。まずは良かった点から。

テクノロジーの扱い方が素晴らしい

私はかねがね、テクノロジーを扱った映画は失敗の過程を入れることでぐっとリアリティが増すと考えています。1986年の『ザ・フライ』ではヒヒを使った生物実験が失敗するという過程を序盤に入れているし、『アイアンマン』ではMk2に上空での氷結問題やボディが重すぎるという問題が発覚した後に、見慣れているMk3が出来上がったという開発プロセスを見せています。

本作では治安維持の自動化プロジェクトとしてまずはAIを用いることを考えてED-209が作られたものの、AIでは細かい状況判断を下すことができずにプロトタイプがオムニ社の若手社員を死なせてしまいます。「やはり人間の脳に判断させる必要がある」ということで生身の警官をコアパーツとして使用するロボコップ計画に移行するのですが、この失敗過程がロボコップという一見すると荒唐無稽な存在にリアリティを与えています。

なお、ED-209計画の主たる狙いは軍事分野での利用であったことから街での治安維持目的を逸脱するほどの重武装となっているという設定もよくできており、細かい部分にまで気の利いた説明が入るなぁと感心させられました。

展開の速さと情報整理の巧みさ

本作の構成要素はかなり複雑です。まず大きなストーリーラインとしてロボコップに改造されたマーフィが自我を取り戻しつつ敵と戦う物語があり、次にオムニ社という巨大コングロマリット内でのベテランvs若手の権力闘争があります。2つのドラマが別々に走っているわけです。

また、マーフィはオムニ社副社長ジョーンズ、ジョーンズの汚れ仕事を引き受けるクラレンス、競合プロジェクトの産物であるED-209という3種類の敵と戦うこととなるのですが、こちらも通常の娯楽作と比較すると多いと言えます。これだけの構成要素を捌いたのは翌年に『ダイ・ハード』の編集も担当したフランク・J・ユリオステであり、彼は本作でアカデミー編集賞にもノミネートされているのですが、これだけ複雑な物語を一切の淀みなく流し、当時の娯楽作の平均的な上映時間に収めてみせた腕前は驚異的だったと言えます。

名作だけど何か変

以上の通り素晴らしい作品であることは間違いないのですが、何だかおかしな点・普通の監督だったらそうしないだろという点がやたら目立つことも、本作の特徴となっています。

回想でしか登場しないマーフィの家族

生前のマーフィはマイホームパパであったことが伺えるセリフがいくつかあり、またロボコップが自分はマーフィであることを確信したのもかつてのマイホームに戻ってからであり、マーフィの物語において家族はかなり重要な構成要素であるはず。にもかかわらず回想以外で家族が出てくることはなく、また今どこで何をしているのかも不明。マーフィも家族を追いかけようとはしないために、マーフィのドラマがまったくオチていません。

生死不明のルイス

工場での戦闘でルイスはクラレンスに撃たれます。深手を負っている彼女に対して「大丈夫、生き返るよ。俺のように」と死にかけている人間にとっては何の慰めにもならない言葉をマーフィがかけると場面はオムニ社に切り替わり、最後までルイスの再登場はありません。生きているのか死んでいるのかも分からない状態で本編から投げ出されるヒロインというものを、私は初めて見ました。

なお、未使用映像ではルイスの生存を伝えるニュース映像が存在しており、彼女がどうなったのかを示す情報は元々あったのですが、完成版からは削除されたようです。

やたら手の込んだエミールの最後

クラレンス一味の一人エミールは、工場での戦闘中に誤って廃液に突っ込みますが、そのまま死なずベトベトのドロドロ状態となってしばらく戦場を彷徨い、最終的にクラレンスの運転する車にはねられて死亡。非常にインパクトのある死に方だし、特殊メイクなどもかなり手が込んでいたのですが、肝心の本編にはまったく無関係。どうしてこんな無駄な場面を撮ったのだろうかと不思議で仕方ありませんでした。

アッサリ倒されるED-209

一目で分かる悪役顔に、オムニ社の若手社員を蜂の巣にする登場場面からヒール感全開。中盤ではロボコップを完膚なきまでに打ちのめして最強のライバルとしての存在感を示し、いよいよクライマックスで雌雄を決する大決戦でも始まるのかと思いきや、ロボコップがクラレンス一味から奪ったコブラ砲をズドンと一発で大破。こんな引き際あります?

ほぼ無傷のままのオムニ社

本作の表面的な悪役はオムニ社副社長ジョーンズであり、彼はクライマックスで痛快な死に方をして観客の留飲を下げるのですが、よくよく考えてみれば彼はオムニ社という巨大コングロマリットの駒のひとつに過ぎないんですよね。

会長からの指示に従って機械による治安維持プロジェクトに着手し、社内における権力闘争の過程で自前のプロジェクトと競合していたロボコップ計画を敵視していただけの人物であり、そもそもオムニ社という組織そのものが病理だと言えるのですが、最終的にオムニ社は無傷のまま残るし、プロジェクトの指示を出した会長も何らの反省もなしに、ロボコップに向かって「良い射撃の腕前だねぇ」と言ってるだけ。要はトカゲのしっぽ切りがあっただけで、根本的な問題は何も解決していません。

なお、評判の悪いリブート版は上記に挙げた疑問点へのアンサーが多く含まれており、1987年版と2014年版をセットで鑑賞し、その差異について考えると、両作品への理解が大変深まりました。

≪ロボコップ≫
【良作】ロボコップ(1987年)_問答無用の名作!…と同時にとても変な映画
【駄作】ロボコップ2_毒気のサジ加減を間違えている
【凡作】ロボコップ3_オムニ社がうっかり過ぎる
【良作】ロボコップ(2014年)_大胆にアップデートされた21世紀版ロボコップ

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