【良作】シーバース/人喰い生物の島_クローネンバーグ衝撃のデビュー作(ネタバレあり・感想・解説)

クリーチャー・メカ
クリーチャー・メカ

(1975年 カナダ)
ヒットはしたが、そのエログロな作風に抗議が殺到したデヴィッド・クローネンバーグの商業デビュー作。肉体と精神の変容というテーマや、妙に合理的な背景など、その後のクローネンバーグ作品の構成要素がデビュー作の時点でほぼ網羅されているのが凄い。

感想

昔はこういうのも地上波で放送していた

子供の頃に、日曜昼の地上波放送で見た映画。

寄生虫により色情魔に変わった人々を描く感染パニックで、その設定どおりエログロ満載の作品なのだが、こういうのが真昼間から余裕で放送されていたのが昔のテレビ局の凄いところ。

そしてこういうのを普通に家族で見るうちの実家もぶっ飛んでいた。今から振り返ると貴重な視聴体験だったと思うが、自分の子供に同じことはさせないだろうな。

一度しか見ていないし、当時はデヴィッド・クローネンバーグなんて監督を知る由もなく、タイトルすら認識せずに見ていたのだが、全体に漂うただならぬ空気感や、個別場面のインパクトにはかなりのものがあって、大人になるまで鮮明に記憶に残り続けていた。

Blu-rayのジャケットを見た瞬間に、「あ、子供の頃に見たあの映画だわ」とピンと来たのだから、やはりクローネンバーグってすごい監督なんだと思う。

地上波吹替や監督による音声解説も収録されたBlu-rayが2,241円のお値打ち価格で売られていたので、躊躇わず購入させていただいた。

デヴィッド・クローネンバーグの商業デビュー作

本作を製作したのは、ソフトコアポルノを製作していた会社シネピックスで、当時は実験映画を数本撮った程度だったデヴィッド・クローネンバーグは、脚本家としてこの企画に参加。

最初のタイトルは『吸血寄生虫の乱交』だったが、脚本を書いているうちにクローネンバーグは自分で監督したくなり、紆余曲折を経てこの内容に落ち着いた。

とにかく少ない製作費で作られたらしく(2020年代の貨幣価値で100万ドルもかかっていない)、劇判を新規に作曲する余裕もないので、クローネンバーグの友人で本作のプロデューサーも務めたアイヴァン・ライトマンが、それらしい既成曲をつけていった。

プロの俳優は少数しか雇えず、ロケ地でオーディションをして演技経験のない人でも採用。またクローネンバーグをはじめとしたスタッフたちもエキストラとして出演し、何から何まで手作り感覚の作品となった。

そんな苦労が実ってか、カナダでは大ヒットを記録。たった19万ドルの製作費で500万ドルを稼いだのだから上々の結果だったが、あまりにエログロのすぎる内容に世の良識派は激怒した。

しかも製作費の一部は国からの助成金だったことから「なんちゅー映画に大事な税金を使っとるんだ」と紛糾し、議会で取り上げられるまでの騒動に発展。

本作の商業的成功にも関わらず、次回作『ラビッド』(1977年)を製作する際には資金集めに難航し、クローネンバーグのキャリアは2年ほど遅れたという。酷い話だ。

エロエロ寄生虫が生み出すパラダイス

舞台となるのはモントリオール郊外の孤島に建つ高級マンション。

都市部へのアクセスの利便性と、大都会の喧騒からは隔絶された平穏な環境を両立した物件であり、豊かな老若男女達が生活している。

このマンションの物件紹介が流れるという、おおよそホラー映画らしからぬオープニングからクローネンバーグのセンス全開。一気に心を掴まれた。

物件を訪れる若いカップルと警備員の平穏なやりとりと、禿げ親父が制服姿の美少女を絞め殺すというただならぬクロスカットにより、緊張感は一気に高まる。

この美少女は臓器の代わりを果たすという寄生虫の移植手術を受けていたのだが、実はこの寄生虫には宿主を操る能力があり、寄生された人は色情魔になるらしい。

宿主の性行為によって寄生虫は人から人へと感染して生存域を広げていくわけだが、カマキリを溺死させるハリガネムシなど自然界にも宿主を操る寄生虫はいるので、それなりに説得力のある設定だ。

後の『ザ・ブルード/怒りのメタファー』(1979年)『ザ・フライ』(1986年)でも顕著だったが、奇抜な現象に対してそれなりに説得力のある説明を付加するという点において、クローネンバーグは傑出している。

クローネンバーグはカナダの最高学府トロント大学で生化学・生物学を学び、後に文学部に転籍したという学歴を持っているが、科学的にそれらしく感じる蘊蓄を含めるという辺りが、この人の持ち味ではなかろうか。

制服美少女がエロエロとあれば、実はこのマンションの男性諸氏の多くはすでにその手に落ちており、感染者はそこかしこに潜伏していた。

気が付いた時には、すでに陣地に上がりこまれた後だったという後半の転調も感染パニックとしては実に正しい。

なお、制服美少女を演じたキャシー・グラハムは本作が唯一の映画出演らしく、素人同然の人物だったと推測されるが(彼女の起用経緯はクローネンバーグも覚えていない)、そんな人がヌードまで披露するのだから凄い現場である。

そして住民たちがどんどん色情魔に変わっていくという、地獄とも楽園とも受け取れる展開が面白い。

敢闘賞は洗濯場で寄生虫に襲われたおばさんで、次の場面ではベタベタの厚化粧で「お兄さん、どない?」と迫ってくるものの、さすがに誰からも相手にされないさまが悲しくもおかしかった。

ちなみにこのおばさんも街のオーディション組で、演技経験のまったくない素人だったらしい。

理性的な医師ロジャーは最後まで粘るのだが、それでも数の暴力には勝てず、最終的には全員感染。

感染した住民たちがモントリオール市街地に繰り出し、その被害の状況を伝えるラジオ放送をバックにブツっと終わるという投げやり加減も70年代的で、鑑賞後にも尾を引く。

『ジョーズ』(1975年)『エイリアン』(1979年)のようなスリル満点のホラーというわけではないが、おどろおどろしい雰囲気が楽しめる良作だった。

なお、クローネンバーグは本作の寄生虫の設定が『エイリアン』(1979年)にパクられたと固く信じており、Blu-rayのコメンタリーでもその話を熱く語っておられるので、ぜひともその訴えに耳を傾けて欲しい。

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