【良作】パニッシャー(1989年)_暴力の連鎖を描いた秀作(ネタバレあり・感想・解説)

クライムアクション
クライムアクション

(1989年 オーストラリア)
一般的には評判の悪いドルフ・ラングレン版パニッシャーだが、終わりなき暴力の連鎖の不毛さを描いた、実は奥深い映画。「みせてやる、オレの必殺猟法。」という勇ましい宣伝コピーから連想される内容ではない点には留意が必要。

作品解説

パニッシャー実写化は鬼門

21世紀にはアメコミ実写化企画が次々と公開されて興行的大成功を遂げたが、すべてのヒーローが報われたわけではない。

キャラそのものの知名度とは裏腹に決定打を出せないヒーローもいて、その代表格がパニッシャーである。

パニッシャーは1974年に「アメージング・スパイダーマン」のヴィランとして登場して人気を博し、1986年には単独誌が出版されるまでに成長。ダークヒーローとしてはもっとも有名な部類に入るのだが、実写化企画は難航し続けている。

2004年には、その2年前に『スパイダーマン』(2002年)を大ヒットさせたソニーがトーマス・ジェーン主演で『パニッシャー』(2004年)を製作。大スター ジョン・トラボルタをヴィランに据えるという気合の入りようだったが、興行的にも批評的にも振るわなかった。

2008年には、ライオンズ・ゲートがR指定上等の姿勢で『パニッシャー:ウォー・ゾーン』(2008年)を製作。

当初は2004年版の続編企画だったが、脚本の出来の悪さを理由に主演のトーマス・ジェーンに拒否され、レイ・スティーブンソン主演のリブート企画に変更される。

興行的にも批評的にも振るわず、マーベル関係の実写化企画としては『ハワード・ザ・ダック/暗黒魔王の陰謀』(1987年)以来の低い興行成績で爆死した。

それから8年後の2016年には、Netflix製作のドラマ『デアデビル』シーズン2に客演し、そのハードコアな個性が好評を博して、2017年より単独スピンオフが製作された。

Netflix版パニッシャーは好評でシーズン2も製作。ようやく安定軌道上に乗ったかと思いきや、2018年11月にまさかのマーベルとNetflixの契約終了によって、シリーズは打ち切られた。

2024年には、ディズニー製作の『デアデビル:ボーンアゲイン』に客演予定だとされているが、またしても2番手からの再スタートという辺りが不憫になってくる。

この通り、何かに呪われてるんじゃないかというほど実写化に恵まれないパニッシャーだが、ケチのつき始めといえるのが、最初の実写化企画の本作である。

時は70年代~80年代、ライバルDCがワーナーとの資本関係をフルに活かして『スーパーマン』(1978年)や『バットマン』(1989年)といった大作を製作し、記録的大ヒットに導いていたのとは対照的に、マーベルは適切なパートナーを探せずにいた。

マーベル・コミック社自体の財務基盤も弱く、本業でもしばしば倒産の危機にあったことから、後先考えず子飼いのヒーローたちの権利を大安売り。

結果、ニューワールド・ピクチャーズやキャノン・フィルムズ(日本の光学機器メーカーとは無関係)といったB級専門スタジオに実写化権を握られてしまう。

本作もニューワールド・ピクチャーズ製作であり、同じくダークヒーローであるDCの『バットマン』(1989年)にぶつけにいったものだと推測されるが、製作費3500万ドルかけたバットマンに対し、本作は900万ドルで作られているという辺りが泣かせる。

興行成績に至っては、バットマンの4億1千万ドルに対して、本作は3千万ドル。黒字だったとはいえ、ライバルに13倍以上の大差を付けられるとは切なすぎた。

批評的にも振るわず、アメコミヒーローものであるにもかかわらず続編が製作されることはなかった。

感想

昔、ゴールデン洋画劇場で見た映画

子供の頃にゴールデン洋画劇場で放送されたのを見たが、当時はパニッシャーというキャラなど知る由もなく、解説の高島忠夫もコミック原作であるということに言及していなかったので(この辺の記憶は曖昧)、あくまでドルフ・ラングレン主演のアクション映画として見た。

余談ではあるが、翌週のゴールデン洋画劇場では本作と同じくマーク・ゴールドブラット監督の『ゾンビ・コップ』(1988年)が放送されている。

映画監督としては大成しなかったゴールドブラットだが(本職は編集マン)、遠い異国の地で、たった2本しかない自身の監督作品が連続放送されていることなど知る由もなかっただろう。

もしもこの事実を知っていれば「もっと映画監督を続けてみよう」という前向きな気持ちになったかもしれない。だから何だと言われると、特に何でもないのだが。

閑話休題

事前情報のなさ加減がまずかったのか、何だかおかしな味わいのアクション映画だと感じるのみで、決して面白くはなかった。

爆破と筋肉にまみれた80年代アクションとは明らかに異質な復讐と闇の物語は子供にはヘビー過ぎたし、敵となるヤクザもキャラ作りすぎで、どう受け止めていいのか分からなかった。

何よりドルがドルらしくない。いつものドルならもっと景気よく暴れ回るはずなのに、なぜこんなにもスッキリしないのだろうかと悶々とした。

そんなわけで私のファーストコンタクトの印象は良くなかったのだが、後にパニッシャーとは何ぞやを知ってからは、「そう悪い出来でもなかったような…」という気もしてきた。

大学時代に中古レーザーディスクを買って再見したところ、「やっぱり悪くない。てかドル作品の中でも相当良い部類だ」と見直した。勢いあまって古本屋でパンフレットも買った。

10年使ったLDプレーヤーが壊れた後には中古VHSを購入。DVDの出ていない、考えようによってはレアソフトともいえる状態だったのに、たった50円で叩き売りされる扱いが悲しくなった。

このビデオソフトだが、巻末に「パニッシャークイズ」なるものが入っている辺りに時代を感じる。

パニッシャーのビデオソフトを再生している奴に対して「このビデオのタイトルは?」と尋ねるような頓馬なクイズだけど、確かに当時ってこの手のほとんど無意味なクイズキャンペーンをよく見かけた。

絶対に正解を出せるクイズにしておくことで、運営側が答え合わせをする手間を省いているのだと思う。

そして明らかにB級扱いを受けていた本作の景品がハーレーダビッドソンという辺りの奮発具合も、実にバブリー。販促費のかけ方が物凄い。

「当時の日本って豊かだったんだなぁ」ということを再認識させられた。

劇中でドルに立ちはだかるのも日本ヤクザだし、なんだかんだで強い国だったのだ。

…本作のことを思い出していると、話があっちやこっちに飛んで行って落ち着かない。なんだかんだで思い出深い映画だということなのだろう。

その後2018年には、DVDをすっ飛ばしてBlu-ray化がなされた。

マーベルコミックが絡んでいるので権利関係はいろいろ大変だったと思うが、そのリリースを可能にしてくださったハピネットさんには感謝しかない。

何と豪華2枚組で、日本公開版に加えて、米国公開版、ディレクターズカット版の3バージョンが収録された「ありもんは全部入れました」仕様。

もはや『ブレードランナー』(1982年)級の扱いだが、ドル主演作でそこまで些細なバージョン違いに拘りたい奴なんてこの世に僅かしかいないはずで、数少ないであろう想定顧客の内の一人である私は、有難く購入させていただいた。

このBlu-rayだが、案の定、現在では入手困難品となっており、中古市場ではプレ値が付いている。

こういうニッチな商品は買えるうちに買っておかないと二度と入手できなくなったりするので、思い切りが大事。

「こんなもん誰が欲しがるんだ」と思うような映画の場合、心の内ビビっと感じるものがあれば即買っておくに越したことはない。

非情さと人間性の間で苦しむヒーロー

前置きは長くなったが、ここから本編の感想。

冒頭、公判中のマフィア幹部が何者かに襲撃され、多くのテレビカメラの前でその邸宅が爆破される。

市警のジェイク刑事(ルイス・ゴセット・Jr.)はこの事件を追っているが、心の奥底では、5年前に妻子を殺されて姿を消した元相棒フランク・キャッスル(ドルフ・ラングレン)の仕業ではないかと思っている。

この冒頭で驚かされるのが、パニッシャーのオリジンが丸々割愛されているということだ。

「そんなこと、みなさんご存じでしょ」という豪快な割り切りだが、『インクレディブル・ハルク』(2008年)に先駆けること19年、『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年)に先駆けること28年、時代を先どったアプローチには、現在の目で見るからこそ驚かされる。

なおBlu-ray収録のディレクターズ・カット版には、刑事時代のフランクのエピソードがしっかり入っている。もともとオリジン部分も撮影されていたのだが、インパクトを強めるために最終版からはカットされたようだ。

この辺りの思い切りは、本業が編集マンであるマーク・ゴールドブラット監督ならではのものだろう。

フランク=パニッシャーは妻子の復讐を胸に秘め、街のダニ掃除にのみ生き甲斐を見出している。

フルチンで正座して「神よ、私は人を殺してもよろしいでしょうか?」とお伺いを立てるという文字通り珍妙な場面も挿入されるが、まぁそれだけ悩み苦しんでいるということ。

今日も今日とてマフィアの闇カジノを襲撃するパニッシャー。景気よくマシンガンをぶっ放して完膚なきまでに店内を破壊しつくす様が勇ましい。

『レッド・スコピオン』(1988年)でも感じたが、ガタイのいいドルがマシンガンを無心に撃ちまくる様には風情があって実に良い。最高だ。

そんなパニッシャーによる働きの甲斐あって街のマフィアは勢力を弱めるが、この機会に乗じて日本のヤクザが進出してくる。

地元のマフィアに打撃を与えた結果、よりヤバイ敵が出現するという展開は『ダークナイト』(2008年)を19年も先取ったと言える。凄いぞ、ドル。

ヤクザはマフィア幹部の子供達を誘拐するに至り、マフィアへの復讐心と、罪のない子供達への同情心の間で、フランクは己の立ち位置を問われることになる。

冷酷な復讐者パニッシャーと、良き家庭人だったフランク・キャッスルの個性が衝突するという興味深い展開を迎えるわけで、よくこんな話を思いついたもんだと感心した。

本作は『ベスト・キッド』(1984年)や『96時間』(2008年)の脚本家ロバート・マイケル・ケイメンが製作を務め、後に『タイタンズを忘れない』(2000年)を手掛けるボアズ・イェキンが脚本を書いている。

腕の良い脚本家が関わることで、物語にはなかなか興味深い仕掛けが加えられたのだ。

クライマックスも、マフィアの子供を助けることには成功するが、その目の前で子供の父親を殺害せざるを得ない局面を迎え、パニッシャー自身の手で新たな復讐者を生み出してしまうという、『キル・ビル』(2003年)を先どった終わり方で余韻を残す。

実にハードボイルドであり、暴力的でありながら暴力肯定でもない落としどころが実に奥深い。

これまでのパニッシャー映像化作品の中では、もっともコンパクトでありながら、もっとも良くできた作品ではなかろうか。

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