【凡作】スコーピオン_エルヴィス戦隊プレスリー(ネタバレあり・感想・解説)

クライムアクション
クライムアクション

(2001年 アメリカ)
表面上は馬鹿映画っぽいのに馬鹿映画ではないし、シリアスな愛憎劇を匂わせつつも尻切れトンボで終わらせるという、何とも掴みどころのない映画。面白くはないのだが、かといって絶望的につまらないわけでもないので、暇つぶしにはなる。

作品解説

エルヴィスとカート・ラッセル

ラスベガスのホテルで開かれるエルヴィスそっくりさん大会に紛れるカジノ強盗団を描いた本作だが、主演のカート・ラッセルとエルヴィス・プレスリーには浅からぬ関係がある。

ああ見えて子役出身のラッセルは、デビュー作『ヤング・ヤング・パレード』(1963年)でエルヴィスと共演している。

その後、ラッセルは野球選手に転向してマイナーリーグでプレーしていたのだが、肩の故障が原因で俳優業に戻ってくる。

そこで主演したのが伝記映画『ザ・シンガー』(1979年)で、ここでラッセルはエルヴィスその人に扮している。

なお『ザ・シンガー』はジョン・カーペンター監督との初タッグ作でもあり、以降、カーペンターとのコンビで多くの作品を製作することとなる。

そして『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994年)では、エルヴィスの声をノークレジットで演じた。

全米大コケ&ラジー賞大量ノミネート

ケヴィン・コスナー、カート・ラッセルを始めとした豪華出演陣を見ればわかる通り、本作はそれなりに金のかかった作品である。

製作費は6200万ドルと言われているのだが、それに対して全米での興行成績は惨憺たるもので、僅か1872万ドルに留まった。

作品レビューも悪く、その年のラジー賞では最低作品賞を含む5部門にノミネートされた。幸いなことに一部門も受賞はしなかったが、かといって褒める批評家もいなかった。

感想

エルヴィス戦隊プレスリー

最近、バズ・ラーマン監督の『エルヴィス』(2022年)を映画館で見たのだが、なぜかそこで思い出したのが本作だった。

日本公開当時、5色のエルヴィスが並んだスチール写真は破壊力抜群で、これを見た瞬間にとんでもないバカ映画が来たものだと思ったが、よく見るとケヴィン・コスナー、カート・ラッセル、クリスチャン・スレーターだったので、二度驚いた。

そんな思い出の映画。

エルヴィス戦隊プレスリーがエルヴィスそっくりさん大会に紛れてカジノ強盗を働くことが骨子なんだが、何度見ても彼らがエルヴィスに扮していることの意義が感じられず、一般客に紛れた方がよかったんじゃないかと思う。

かといってエルヴィス戦隊が笑いをとろうとするでもなく、盛りの過ぎたスター俳優達が集団でおかしな扮装をしているにも拘らず、全員が真顔でツッコミも入らないというよく分からん空気が漂っている。

本来はコミカルな場面もあったのだが、スベリ倒したので全部カットされたのかなとも邪推してしまう。それほどまでに空気感がおかしい。

強盗では黄エルヴィス(ボキーム・ウッドバイン)が射殺され、命からがらモーテルに逃げ延びた後に、仲間割れで青エルヴィス(クリスチャン・スレーター)と赤エルヴィス(デヴィッド・アークエット)も殺される。

生き残った白エルヴィス(カート・ラッセル)が金を持ち逃げしたものだから、凶悪な黒エルヴィス(ケヴィン・コスナー)に追われることとなる。

なんだが、白エルヴィスは行きずりの女(コートニー・コックス)とその子供を連れて逃げる羽目になるものだから、こっちはこっちでいろいろ大変。

その上さらにFBI捜査官(ケヴィン・ポラック)も追いかけて来るものだから、事態はどんどん拗れていく。

そんなあらすじを振り返ってみると、一癖も二癖もあるキャラクター達が織りなすタランティーノ風のクライムコメディが志向されていたのだろうと思うのだが、これが全然盛り上がらない。

キャラクター描写がうまくいっておらず、興味を持ってみられるキャラクター、愛着を感じるキャラクターが皆無なのである。

有名俳優を何人も使ってこれじゃいかんだろと思う。

本作を監督したのはMTV出身のデミアン・リヒテンスタインで、なるほど銃撃戦などにはセンスを感じるのだが、コミカルな描写やキャラクターの扱いは全然ダメで、本作以降に長編映画を撮っていないことにも合点がいく。

90年代後半から2000年代前半にかけてはMTV出身監督がわんさかデビューしたが、みんながみんなトニー・スコットやマイケル・ベイのようになれるわけではないということだ。

相変わらず芸達者なカート・ラッセル

カート・ラッセル扮する白エルヴィスは、おつとめを終えたばかりの犯罪者なんだが、血は通っているし一定の倫理感は持ち合わせている。この手の映画にありがちな気の良い悪党なんだが、ラッセルは抜群の安定感でこれを演じている。

彼の演技はあまり顧みられることがないが、ここまで多彩な役柄を自然に演じられる俳優って貴重ではなかろうか。

「俺の芸域の広さを見ろ!」と言わんばかりにパフォーマンスを見せつけるカメレオン俳優よりも、ナチュラルにいろんな役柄を演じられるラッセルの方が凄いんじゃないかと思う。

一方ケヴィン・コスナー扮する黒エルヴィスは、仲間でも平気で殺す冷血漢。エルヴィス御大にだけは深い愛着を示しているが、他のすべての人間は彼にとってコマに過ぎない。

DNA鑑定によるとエルヴィス本人との血縁を否定できないとの結果が出たのだが、かといってその結果を鵜呑みにしているわけではなく、本心ではそうではないと思いつつも、生育環境がつらすぎてエルヴィス父親説にしがみついているんだろうなと思わせる。

そんなわけで脚本レベルでは結構作りこまれているキャラのように見受けるのだが、当時のコスナーのスター演技がハナにつき、カリスマっぽく演じようとし過ぎているので、かえってダサくなっている。

ラッセルのようにナチュラルに演じればいいのに、「新境地開拓!」みたいなことに拘り過ぎたのかもしれない。

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